2012/12/31

ACCESS VBA 覚書

ACCESS2000以後で、VBAコードをテキストで保存する方法

Microsoft Visual Basic for Applications Extensibility 5.3を参照設定

Sub ExportVBACodes()

    Dim VBACode As VBIDE.VBComponent

    For Each VBACode In Application.VBE.ActiveVBProject.VBComponents
        VBACode.Export (CurrentProject.Path & "\" & VBACode.Name & ".txt")
    Next VBACode

End Sub

イミディエイトウィンドウで、ExportVBACodesと打つ。That's it.
参考URL: こちらこちらこちら

こちらはVBScriptで、ドラッグアンドドロップでエクスポートできます。→リンク

vbacというツールはACCESS2007以後で動くツールで、エクスポートだけでなくインポートも出来る模様
リンク

SaveAsTextとLoadFromTextという隠しコマンドがあるようです。→リンク

リンク

ReportMLというXML方式がサポートされるのはACCESS2002以後

アクセスのコード管理には、ACCESS Developer ExtensionsとVisual Source Safeを使う方法がありましたが、ユーザーが思い思いにカスタマイズしているようなソフトウェアでそれをコントロールするのは容易ではありません。

みな同じ事を考えているようで、
こちらこちらに言及があります。
そしてこちら



MDBファイルのデコンパイル

MDBファイルが肥大化して、最適化しても小さくならないときにはデコンパイルを試すと良い。
こちら



ACCESSオブジェクトのプロパティ群は4層

ACCESSのオブジェクトのプロパティは、
 フォームそのもののプロパティ
 セクションのプロパティ
 コントロールのプロパティ
 条件付書式
の4層で考慮すれば、ほぼすべてを再現できます。
タブの扱いに癖がありますが、これはコントロール順のとおりに配置した後、
プロパティは降順で設定することできれいに解決します。



有用なTips
 http://www.lebans.com/formatbycriteria.htm
 http://www.tsware.jp/tips/tips_598.htm
 http://bougyuusonnin.seesaa.net/article/143188543.html



2012/12/23

アクセスのフォームやレポートを自在にカスタマイズする


マイクロソフトアクセスのフォームやレポートのコントロール群(ボタン、テキストボックス、タブ)などを細かく一つ一つ設定したり、背景色を変更するのは大変です。
それらを一気に変更できないかと思い、この2年ぐらい(の中の2ヶ月ぐらい)ぼちぼちプログラムを作っていました。もっとも大変なのはタブコントロールです。タブコントロールを作成する時には必ず子コントロールとしてページが二つ作成されてしまいます。これらをどう処理するかを悩みました。他にはひとつのコントロールのプロパティを変更すると他のコントロールに干渉する場合があり、それをどう避けるか。リードオンリープロパティの処理をどうするか。プロパティの中身がバイナリの場合どうするか。

まだ完全ではありませんが、このほど動くようになりましたのでご報告いたします。

<想定しているユーザー>
1)かなり大きなアクセスのプログラムを使用して業務を行なっているユーザー
2)コントロールのプロパティにかなり変更を加えているが、メジャーバージョンアップなどをするときに、そのプロパティの引継ぎが大変だと感じている人
3)アクセスプログラムのカスタマイズを業務としている人

<概要>
二つの部分に分かれています
1)追加したオブジェクト(テーブル・クエリ・レポート・フォーム・モジュール)を調査し、それを引き継ぐ部分
2)追加・削除・変更したコントロールを調査、そのプロパティを保存し、それを引き継ぐ部分

<動作要件>
素性のよいコンピューター。ACCESS2000以上。

<著作権について>
株式会社ダイナミクスのコードを流用した部分があるため、使用する場合には株式会社ダイナミクスの許可を得て欲しい。

<サポート>
内容をよく理解できている方からの質問は喜んでお受けします。

<命名>
電子カルテダイナミクスを壊しちゃう事があるので「Dynamite(ダイナマイト)」と命名していたところ、吉原先生から「Dynamate(ダイナメイト)」の方がフレンドリーでええんとちゃうん?という事で、そう変更されました。

<ダイナメイト(Dynamate)の使い方>

① カスタマイズしたクライアントを選択しましょう。[探す…]ボタンを押しましょう。

② まっさらクライアントを選択しましょう。下の[探す…]ボタンを押しましょう。
[↑まずは比較↓]ボタンを押してみましょう。左下のサブフォームに、カスタマイズにより追加されたオブジェクト(テーブルやクエリ、フォームやレポートなど)が読み込まれるはずです。
必要な物を[読込して保存]しておきましょう。
④ このテーブルに手動でクエリ名を追加したりすることもできます。カスタマイズの際に、クエリ名は変更しないことが多いからです。オブジェクトの差分について良く理解している方はこの説明ですぐにわかるはずです。わからない方にはこのソフトの理解は無理です。諦めて下さい。
⑤ 右下のサブフォームには、コントロール(タブやボタン)をカスタマイズしているフォームやレポートの名前を入れます。インポートするものについてはチェックボックスに印を入れましょう。レポートについてはまだ出来ていません。どなたかサンプルを下さい。
[インポートして分析]ボタンを押してみましょう。しばらく時間がかかりますが、右の領域に指定したオブジェクト(フォームやレポート)のプロパティについてかなり詳細に分析を行います。(すべてではありません)


① ここで、[差分を分析]ボタンを押してみましょう。次の画面に移動します。

オブジェクトの調査画面というのが出てきます。ここでさらにカスタマイズしたければ、各フォームやレポートを確認して下さい。このまま解析する場合には[①カスタマイズ/インポートしたFormとReportの情報収集]というボタンを押しましょう。もう一度カスタマイズしてやり直す時には、[カスタマイズ/インポートしたFormとReportの消去:]というボタンをダブルクリックしてからまた[①~]ボタン
を押しましょう。
② 右のボタン群を押してみて下さい。
③ するとクエリが表示されます。追加されたり変更されるコントロールの概要がわかります。

④ OnClickイベントが、[EventProcedure]となっているコントロールには注意が必要です。追加されたオブジェクトはこのままでは動作しません。必ず、関数呼び出しをする必要があります。(場所を移動するだけ、と言ったカスタマイズの場合には[Event procedure]のままでもちろん構いません。関数は通常、標準モジュールの中にPublic Function hogehoge()… End Functionとして定義します。画面内にあるSET_DG_1C(1) というのはこの関数です。標準モジュール内に作ったユーザーの独自関数は、その標準モジュールをインポート/エクスポートすることによって動作します。ACCESS2007移行、Develper Extensionsは標準機能ですが、ACCESS2000形式のファイルでは動作しませんので、Visual Source Safeを使ったコードのやり取りは出来ません。したがって、独自関数を収めた標準モジュールを自分で作って下さい。
⑤ 終了したら[閉じる]ボタンを押して下さい。


① 細かく指定したい場合には、次の画面で行いましょう。

[カスタマイズの準備]ボタンを押しましょう。これにより4つのテーブルが作成されます。T_BUTTON_ADD T_BUTTON_DELETE T_BUTTON_PROPERTY T_BUTTON_PROPERTY_ADD です。

③ それぞれのテーブルの意味は、分かる人にはわかると思うのですが、これが削除/作成されるコントロールのデータと、変更されるプロパティのデータの最終型となります。ここでさらに細かく手動でプロパティを変更することができますし、最初からこのテーブルを作成して、無からデザインされたフォームを作ることも可能です。
④ 他人にカスタマイズしたものを譲りたい場合にはここまで作業しておけばOKです。(動作確認は念入りにしてください)
⑤ 多くのエラーは、きちんと動作確認をしていなクライアントで作業を行う事により生じます。また追加していたテーブルへのリンクはエラーのもとになる場合があります。
⑥ 準備ができたら[カスタマイズ]ボタンを押してしばらく待ちましょう。メモリが足りないと、右のメッセージが表示されますが、「はい」と答えて進みましょう。

⑦ そして[エクスポート]ボタンを押しましょう。


① エクスポートするオブジェクトをここで最終的に選びましょう。

[差替えオブジェクトの更新]ボタンを押しましょう。
[Export]チェックボックスをオンにしましょう。
④ すべて準備ができたら[差替ダイナへ]ボタンを押して次に進みま
しょう。
⑤ この部分には株式会社ダイナミクスの差替ダイナを使わせていただきました。ありがとうございました。使い方は同じです。

⑥ うまくいったらおめでとうございます。エラーが起きたらログを見ましょう。

以上のプログラムについて、使用をしてみたい方は当方までご連絡をお願い申しあげます。基本的には株式会社ダイナミクスのアクティブユーザー、積極的にメーリングリストに参加されているサポート業者さんをまずは優先いたします。皆様に役立つツールになりますように。

2012/12/19

医療と儀式

医療は茶道のように儀式的で有る方が、患者は安心するかもしれない。



数年前学生実習で来院したM6(医学部六年)の学生が院長の行なっている上部内視鏡検査を見て、「まるで宗教儀式のようだ」と形容し、とても腑に落ちたのです。

確かにどのような患者を相手にした検査であっても、足の運び、内視鏡の持ち方、ルブリケート(潤滑剤)を塗る作法から、スイッチを押す動作まですべて、全く同じリズムで行われるさまは、儀式と言って差し支えないかもしれません。
ある日は、7例ほどあったすべての検査が1分の狂いもなく同じ時間で終了しており感心したものです。(ちょっとあり得ないです)

09:13
09:37
10:01
10:25
10:49
11:13
11:37

データベースにはこのような記録が残っていました。

一流の定義が、質が高い事のみならず均質である事だ(私は常々これを言っています)とすれば、「様式」は大変に重要な事かもしれません。

さて、私は自らを一流とは称していません。なぜならば、質が高いことを目指すが決して均質ではないからです。理由は何か。私の最大の特徴は「変化に強い」「例外に強い」であるのですが、反面自由すぎる事が欠点です。毎回何か違うことをしてしまう。特に検査においては様式美には程遠いもので、毎日反省ばかりです。スポーツにおいてもある程度のレベルに到達すると、癖を無くし、無駄を省いてタイムを伸ばすという事を良く行います。私もそうなりたいと思いますが、まだ自らの行動を儀式化出来ていない。

均一な検査は患者に安心をもたらすでしょう。達人の検査ほどワン・パターンで簡単そうに見えるのは当然かもしれません。

自由と様式は相反する価値では決してないと思います。茶道を学んだ事がないのでわからないのですが、突き詰めていけば、いつかは高みに到達することが出来るのでしょうか。



これを集団で行うことができた時に、その医療機関は一流だと言われるのでしょう。
注射一本、採血の方法のような細かい方法まで、医療従事者間で意思統一が行われ、均一な医療が提供された時、患者は戸惑いがなくなり安心するのでしょう。

2012/12/16

不必要な受診について

from Google Analytics
インターネットのサイトの管理をするときには色々な項目があります。
訪れる人の年齢、性別、使用しているOS、どこのサイトから来たか、リターン率、平均滞在時間、直帰率、新規訪問の割合などがわかります。

医療を良くするにはこういう手法を使うべきだった、と思います。何十年も前からデータはあったのですから。

直帰率が高いのも問題だし、リターン率が異常に高いのも問題だと思いますが、医療データには「診断」や「死亡」などの情報がひも付けされているのが大きく異なりまして、解析を専門にする方にはブルーオーシャンが広がっているような世界だろうと思います。

「この患者さんはかかりつけの医院にもう一度行けば問題は解決しただろうな」と感じることは多いです。不必要な受診を考えた時、「ある医療機関に受診して、納得出来ないからとすぐに別の医療機関へ」という図式が、「直帰率」と似ていたものでこういう事を考えました。

当ブログの直帰率は大変に高いようですが、ごく一部、過去の記事から面白そうなものを見つける能力に長けた方がおられて感心いたします。決して無駄な事は書いていないと思いますので日々の生活にお役立ていただければ幸いです。左の検索窓にふだん疑問に思っていたことを入力しますと、解決する場合もございます。

2012/12/04

胃底腺ポリープへの先入観と実際

胃底腺ポリープは男性:女性が1:3とされていた。しかしそれは過去の話らしい。
1989年の報告で、胃底腺ポリープの出現頻度は1.9%、男女比は1対3.3と女性に多く、半数は単発例である、とあります。この論文は多く引用されていますが、良性疾患であるゆえに注目されず、頻度に関する報告が少ないのが現状です。下2つはいずれも会議録で、背景に偏りはあるものの概ね30-40%の出現率である、とされています。
 今回は、胃底腺ポリープの頻度についての当院の現状をご報告しますが、背景粘膜を同時に記述することの重要性や頻度に影響するバイアスについても考察いたします。
当院院長は東京大学医学部附属病院分院時代から日本で最も長きにわたり内視鏡をしている一人です。その検査の特徴ですが、①意識化鎮静を使う、②データが電子化されている、③背景粘膜の評価に木村・竹本分類を使う、④HPの有無は見ればわかる、⑤徹底的に洗浄して検査する(ウォータープリーズ)、などです。
胃底腺ポリープのような良性疾患の頻度に影響するバイアスにはどのようなものがあるでしょう。まず①術者の意識、背景がC-1だからと行って安心せずに丹念に見ること。②後ほど述べますが使用機器の差。③撮影枚数。④洗浄をするかどうか。⑤色素を使って観察するかどうか。患者側のバイアスとしては、地域差、年齢、⑤PPI使用量、後ほど述べますが⑥セルフセレクションバイアスなどが考えられます。
 全患者での頻度を、薄い折れ線で男女別に示しました。2000年当時男性が5.3%、女性が13.5%と、確かに女性が2.5倍ほどになっています。しかし2012年では16.3%、23.4%と1.4倍に過ぎません。2000年以前から胃底腺ポリープの背景粘膜には萎縮がないと論文に報告があります。そこで木村分類で萎縮なしに相当するC-0、C-1での出現頻度を濃い色で示しました。
(注:私と父がC-0、C-1と記述することは、ピロリ菌陰性であるという事とほぼ同義です。つまりピロリ菌陰性の場合の出現頻度と考えてください)
すると2000年時点で15.1%、33.5%と2.2倍の差があるのですが、2012年時点では48.3%、57.1%と、わずか1.2倍の差でしかないのです。もはや女性に多いとは言えなくなってしまった。この変化をどう説明したら良いのでしょう。
 ここに当院での使用機器を重ねあわせてみましょう。すると240シリーズのスコープを使い始めた時、そして260シリーズのスコープを使い始めた時に出現頻度が上昇することがわかります。
 年齢や撮影枚数はどうでしょう。年齢はそれほど変動がありません。撮影枚数は2003年にフィルム(20枚の制限があった)をやめてから右上がりですので関係するかもしれません。
 初めて内視鏡を受けた人と、当院で受けるのが二回目以上の人を比較するとどうでしょう。確かに再診の患者では胃底腺ポリープがやや多いのですが、それでもやはり男女の頻度の差が少なくなってきたという傾向は変わりません。
 色素の使用はどうでしょう。これは残念ながら差はでません。
  PPI使用との関連はあるのでしょうか。「維持療法の必要のある難治性逆流性食道炎」でPPIを投与されている症例を見てみますと、なるほど胃底腺ポリープが多くなっているのがわかります。まだ症例が少ないために全体に影響するほどではない。ただ男性の比率がさらに女性に迫っているのは興味深いと思います。
セルフセレクションバイアスとは、患者が自らの意志で来てしまうバイアスのことです。我々は、背景粘膜がC-0やC-1であれば、HPがいれば別ですが、基本的にフォローは必要なく胃底腺ポリープはむしろ安心して欲しい所見ですと繰り返し説明します。しかしポリープ、と言われている患者はリピーターが倍になる、というデータが出ています。これは先程の、再診患者で胃底腺ポリープが多くなるという事実の原因となります。
以上をまとめるとこうなります。
男性の比率が増えた理由はFGPの出現頻度全体が上昇したことが最も大きな理由で、半数に見つかる現在では男女差はそれほど大きくはない。男性の胃底腺ポリープは小さくて女性よりは従来見つけづらかったのではないか。あるいはそれは背景の襞、粘液、色調などの影響だったかもしれません。しかし機器の進歩やその他の工夫でその差が縮まったと考えれば矛盾しません。一方、PPIは全体に影響をおよぼすほどではないが注目すべきであり、またセルフセレクションバイアスも注目すべきだと思います。

さて、男女比が変化したと言いましたが、男女差が常に10%と捉えることもできます。エストロジェン感受性のあるポリープは大きく、見つかり易かったのではないか、と思うのです。この仮説を証明するにはエストロジェンレセプターの証明をすればいいのです。
いずれにせよ、現代では胃底腺ポリープは女性に多い、と言えなくなってしまったことは事実です。従来の先入観は変えねばならないかもしれないのです。

別の話になりますが、私は従来から医師のクオリティ・コントロールの重要性についてしばしば言及してきました。日本において世界に最も遅れている分野です。
胃底腺ポリープの診断とその頻度は背景粘膜の記述とともに術者の熟練度、到達度、安定度を見る良い指標です。一般的に、良性疾患は軽視されますが実は全く逆で、検査のクオリティ・コントロールをするには最適です。胃底腺ポリープの出現頻度を、診断した医師ごとに解析することによって、その医師の質を正しく判定できる可能性があるのです。胃底腺ポリープはもっと注目されるべき所見なのです。

また粘膜をきちんと洗い、胃底腺ポリープまでもきちんと診断しようという努力は、胃癌の見落としを少なくすることにつながると考えます。
先入観を捨て、きちんと胃底腺ポリープを診断することが大切だという事を今一度強調して終了いたします。


2012/10/31

「〜年齢」は悪趣味な誇大表現に過ぎない

「血管年齢」(血管年齢101歳、という結果を平気で患者に渡すデリカシーの無さ。100歳まで生きている人は動脈硬化の少ない群だろうに矛盾だらけ)「骨年齢」(骨年齢って本当はこどもの骨をみて成長の指標に使う言葉なので骨粗鬆症に使うのは完全に誤用だと思う)「呼吸年齢」(まさか、と思うだろうが最近こういう言葉を使っている人間ドックを見て呆れた)などの表現があるようです。


その表現が好きな彼らは横軸に年齢をとります。このグラフでは0−100歳としました。

少し濃い赤い線は10歳ごとに0.05ずつ変化する線で、薄い線は0.03ずつ変化します。年齢ごとの測定値がその線の真上にのると言うのです。ポイントはこの直線がかなり寝ている、という事です。実際には微妙な差であっても結構年齢にすると大きな差になる、という部分が重要です。

さて、例えば何かの測定値が平均から0.03ずれています、というと全くインパクトがありません。そこで0.03ずれるってことは(薄い色の線で考えると)…う〜んと10歳ずれてるってことじゃん?と解釈し「〜年齢」と称して、10歳ずれていますと表現するのです。

でも、これはそもそもの検査の誤差が全くないと仮定していまして、ましてや、理論値なる直線の信頼度が1.0(つまり100%)であると決めつけたとんでもない表現です。
0.03を10に出来るんだから、一種の増幅に過ぎません。単なる患者さんを驚かすための誇大表現です。

こうした表現は馬鹿馬鹿しいと思って相手にしていなかったのですが、ショックを受けている患者さんがかわいそうなので、わかるように解説したつもりですが、どうでしょう。

(2012・11・3追記)幾人かの卓越した臨床医の意見を伺うことが出来ました。彼らの「年齢」という言葉の患者さんに対する使い方は実にナイーブで繊細だとわかりました。
会話や説明の中で、気遣いや方便などを内包させる事が出来る大切な表現を無神経に踏みにじられた気がして、私は悔しいのだろうと思います。

2012/10/21

カフェインの話

カフェインの融点は238度ということになっている。(→リンク)昇華がどの程度あるかということについて、詳しいデータは簡単には得られなかったが、昇華点は178度である。

一杯のドリップコーヒーのカフェインの量をインターネットで調べると120mlのドリップコーヒーで100mg程度とする意見が多い。コーヒーの焙煎(180度?こういうのもなかなか調べると出てこないが、この温度での昇華がどのくらいあるのか)の深さや抽出のスピードにより色々なのだろう。それよりカフェインが多いとされている玉露(120mgとか書いてある)がどうして目が覚めないのかというと、ポリフェノールにカフェインが吸着されており身体に吸収される量が少ないからだ、という意見を読んだことがある。言われてみればそうかもしれない。(茶からカフェインを取り除こうとするとポリフェノールも取り除かれてしまうという難しさがあるようだ)

これらの仮説を確かめようにも、いずれも原著論文を見つけるのが相当に難しい、というのが問題だ。あまりにネットに情報が氾濫すると、何が本当の情報なのかを見つけることが極めて難しくなる。素人が書きとめただけのソースの提示もなにもないエントリーだらけで、そのSEOをかいくぐって正しい情報を集めるためには相変わらず、 site:go.jp だの、 site:ac.jp だのを付加せねばならぬ。(それでも不十分だ)Google Scholarで検索するとGoogle Booksもいっしょに検索してくれるのだが主婦の友社などから出ている本の中が垣間見えたりして、それがWeb上での色々な数字と一致していたりするから、例えば茶とかコーヒー関連の財団法人なりが発表したデータを使っているのではないか、と推測できる程度ではある。

たとえばほうじ茶。茶葉を高温で焙じる(ほうじる)という行為や言葉は、「焙煎」(ばいせん)という行為や言葉よりもとてもやわらかくて大好きだ。プロはそういうことはしないだろうけれど、フライパンで焙じる場合に、フライパンの表面温度はちょうど200−250度ぐらいだと思う。その温度ならば昇華しまくり状態になるはずで、うまいことカフェイン抜きのお茶を作ることが出来そうである。

ところがネットで調べるとほうじ茶と緑茶のカフェイン量が同じだったりするものがある。(例の主婦の友つながり)「え〜〜〜それはない」という気持ちである。
そこで、お詳しい方は「日本食品標準成分表2010」を見ろよ、という事になるのであろう。そこで

csvファイル
を探し当ててダウンロードして見たところが、カフェインがないではないか。
食品安全委員会のファクトシートを見ましてもあまり詳しいデータはありません。
HPLCを持っていれば自分で測定ができます。ほしいな。(300万円強でしょうか…

ところで40過ぎの我々から見れば前時代的エナジードリンクなるものが、結構新たな富を世界中で生産しているようです。また、その富をスポーツ振興に上手に使っておられるようだから、しばらくはブームは去りそうにない気がします。(ドーピングの監視薬物に当たるカフェインを含有するドリンクがそのスポーツの大スポンサーになっていることには世の中の複雑さを感じます)

カナダでの180mg規制は当然の動きのように思います。日本人はADH2欠損の人が多いのでアルコールには弱い人だらけ。でもカフェインで調子が悪くなる人は西洋人ほどは多くはない(西洋人のカフェイン代謝は遅いことが1985年以前から論文で示されている。"caffeine x metabolism"で検索してみてください。この理由がNアセチルトランスフェラーゼの多形性によるものか、CYP1A2の多形性によるものかまではわかりませんでした)から表面化しにくい問題かも知れません。日本ってなんでも10年遅れで(エナジードリンクでは世界に40年先んじたのにね)欧米に追従するのでカフェイン好きの人が増えるかもしれない。「エナジードリンクやべえ」みたいな風潮はかっこ悪いってことは取り敢えずロングテールで伝えていくようにしたいと思います。

結局カフェインに関しては食品ごとの詳細なデータはとうとうまとめて手に入れる事ができませんでした。
人間が大好きな昼の嗜好品が茶・コーヒーに帰結する、というのはカフェインと無縁ではないのでしょう。
煎茶などの原料になる茶の木(Camellia sinensis)はツバキ目ツバキ科の常緑樹。
コーヒーの原料になるコーヒーの木(Coffea属)はアカネ目アカネ科の常緑樹。
クロンキスト体系やAPG植物分類体系を見てもそれほど近くないこのふたつの植物が恐らく偶然同じアルカロイドを作り出して繁栄を誇っているというのは興味深いです。必然であるのならその理由を知りたいです。

喘息に用いる場合の(最近はあまり使いませんが)テオフィリンの一日常用量は300mgです。カフェインの成人での上限400mgとはだいたい一致するところで、妙に腑に落ちる数字ではあります。

2012/10/07

スマートフォンで健康管理をする方に

コンピューターやスマートフォンであなたの健康を管理することはあなたに計り知れないメリットをもたらします。

我々医師は、患者さんのプライバシーに深く関わる職業ですけれど、それを別の目的で利用する事は倫理的に制限されていると考えます。他業種から見れば、そこにある宝の山はよだれが出るほど欲しいのではないかと思います。差し上げません。

私は糖尿病なんだよ、とか胃癌なんだよ、と公言することは患者さんにメリットをもたらす場合も多々ありますが、逆にそれが不利に働く場合もあります。従って、そのような情報は可能な限りご自分のコントロール下に置いておいて欲しい。健康保険証やお薬手帳、医療機関の領収証、人間ドックの結果などは大切に扱って欲しいのです。

スマートフォンで健康を管理するひとつめのメリットは、例えばそのスマートフォンを紛失した場合にデータにロックをかけることは可能で、紙データよりも安全になりうるということです。データのロックを解除することは可能かもしれませんが、その時にかかるコストが高すぎるので、犯罪を犯してまで読み取るメリットが少なくなります。

したがって、スマートフォンで医療データを管理する場合には、データの守り方についてしっかりしたリテラシーを持っていただきたいと思います。そうすれば安全なのです。

先ほど書きましたように、保険証、領収証などがすべて電子化されることがみなさんの安全を本当の意味で担保すると考えます。(生体認証がセットになる)それは世界が破滅していなければ10年後の話です。認知症の問題もありますから、医療分野での本人確認は生体認証が必須です。

そういう時代に備えてみなさんは自分の健康管理をコンピューターを使って始めておく必要があるだろうと考えます。今までそうした管理が長続きしなかった理由はその情報があまり価値のないものだったからに相違ありません。
しかしながら、医療データは医師が介在して管理することによって極めて価値の高いものに化けます。

当院ではみなさんの健康に関するデータを電子情報として蓄えていますが、それらをどのように整理してみなさんにお渡しするべきかをこの10年ずっと考えておりました。
が、みなさんにそのスキルがない以上、いくら実現しても絵に描いた餅でしかありませんでした。

しかしようやくスマートフォンというインフラが整いつつありますので、みなさんには心の準備だけははじめておいていただきたいと、思います。
色々な健康管理ソフトがありますが、テキストでデータをエキスポート出来るかを基準にお選びいただければ、あとで統合は可能です。
それが出来ないソフトの提供者があるとすれば、金儲けしか考えていないと断言ができますので近寄らないことが無難です。

2012/09/09

上部内視鏡・基礎の基礎

上部内視鏡(かつて胃カメラと呼ばれた検査)では食道・胃・十二指腸を中心に観察を行います。
医師は検査技術と同時に観察技術を習得せねばなりません。
意外と簡単に思われているようで、カジュアルな検査になっている内視鏡です。確かに簡単ではありますが基礎の基礎が間違っているとどうしようもない、というのが事実。

では何が基礎の基礎なのか。院長10万件、たぶん私は1-2万件の内視鏡経験がありますが、結論は出ています。
当院には医学部6年生が実習されますが、それを彼らに1週間で教えます。それは、
1)萎縮の木村・竹本分類
2)ヘリコバクター・ピロリの有無が肉眼所見でわかること
です。
しかもそれらは1週間の実習でかなり身につく。
100%に近づけるのは難しくても、いわゆるヘリコバクター・ピロリの診断に用いる呼気テストなどの感度・特異度(90%以上)に達することは簡単です。

例えば逆流性食道炎と診断されても、
「萎縮は?」「ヘリコバクター・ピロリはいるの?」
これにより、治療も患者指導も変わります。

胃癌を見逃さないためにもこれらの所見は必須です。
こうした所見の読み方は上級者のもの、と思われるのは困るのです。
当院に実習した学生さんだってきちんとわかるようになります。簡単なのです。

序文
http://blog.ukawaiin.com/2010/07/blog-post_17.html
萎縮とはなにか
http://blog.ukawaiin.com/2008/12/blog-post_29.html
すでに萎縮についてわかっている人向けにピットフォールを述べた記事
http://blog.ukawaiin.com/2010/10/blog-post_20.html
萎縮に関して先入観を持たぬように書いた記事
http://blog.ukawaiin.com/2010/01/blog-post_07.html
胃癌を見逃さない目はどこから来るのか?という話
http://blog.ukawaiin.com/2010/10/blog-post_07.html
高度な萎縮にPPIが他院で出されていてちょっと悲しくなり書いた記事
http://blog.ukawaiin.com/2011/08/blog-post_11.html
骨粗鬆症にも関係あるのに…プンプン
http://blog.ukawaiin.com/2009/03/blog-post.html
ぶっちゃけABC検診のほうがましだと思うことすらある
http://blog.ukawaiin.com/2012/07/abc.html
http://blog.ukawaiin.com/2012/05/blog-post.html







2012/08/12

医療のレプリケーション

医療サービスを堅牢なものにするために、今のままではいけないという議論がありますが、それを阻害するのはユーザーである患者自身が医療のレプリケーションを望まないという事実ではないかと感じています。

http://blogs.msdn.com/b/windowsazurej/archive/2012/08/06/fault-tolerance-in-windows-azure-sql-database.aspx

昨今、ファーストサーバ株式会社が自社サービスを人為的なミスの見過ごしによりすべて消去して話題になりましたが、こういう大事故を防ぐためにはどうすべきかをMicrosoft社が示したのが上の文章で、これは他のあらゆるビジネスにも当てはまる印象を持ちます。

医療に当てはめることも出来ると考えられます。医療のフォールトレランス(fault tolerance: 障害が起きても医療を持続できる能力)は大切ですが実現するためにはたくさんの問題点があるのでしょう。Microsoftが選び出した最も重要な2点は以下のとおりです。

1)ハードウェア障害とソフトウェア障害は避けられない
2)運用スタッフがミスをすることが障害につながる

「運用スタッフが」と限定している部分は重要であり、これは「医者が」「ナースが」といった個々のミスとは違うことを意識する必要があります。医療のフォールトレランスは運用スタッフのスキルに依存する、という事は我々も良く経験するところであります。

Microsoft社の構築しているような大規模なクラウドシステムになりますと、ハードウェア障害やソフトウェア障害の起きる頻度も毎週、というレベルになるそうです。そこでハードウェアの冗長性を確保するためには個々のハードディスクをRAID化したり電源を二重化するといった各コンポーネントの冗長化に資金を投じるよりもコンピューターを複数台用意するほうが良いと結論づけています。

さらに彼らはサーバーそのものを堅牢化して耐障害性を極限まで高めるよりも「データベースをまず保護する」事を最優先の事項と決定しています。そのために基盤となるテクノロジーが、

1)データベースレプリケーション
2)障害検出とフェイルオーバー

であり、これらがデータベースを自動的に障害から回復させて被害を軽減し、入力されたデータが失われることを防いでいます。
まずデータベースは完全に別個のハードウェアにコピーを格納します。データはふたつのハードウェアに同時に書き込まれ、検証されますがそれが不一致であった場合には、さらに新しいハードウェアにすぐさまコピーが作られ仕事が続行されます。
詳しいテクノロジについてはリンク先に書いてあるため省きます。



医療においては患者はフォールトレランスを要求します。しかし、「この医者がいい」とか「この病院がいい」と言った感情は、矛盾すると思います。それは上述したように、冗長性を保って耐障害性を保つにしても、ハードウェア、ソフトウェア障害は避けようが無い問題で、つまり明日私が死ぬとか、私の脳が働かないという可能性は常にあるので、医者を指定したり病院を指定することは、冗長性を否定することと等しいからです。

医療の標準化と、医療のブランド化は相反する問題です。みなさんはどちらを優先して欲しいのでしょうか。Microsoftはなるべくすべてを自動化するアプローチをしています。医療においても同様に自動化出来る部分は自動化すべきと私は考えています。

当院自身、院長の名声に頼ることによって、宣伝費用などのコストが圧倒的に省かれています。ブランド化の恩恵を受けているために、利益の出ないことをしていても食べてはいけるという矛盾をはらんでいます。それではいけないという認識のもとに、様々な取り組みをしており、時々患者さんは面食らうかも知れませんが、どうぞご理解ください。







2012/08/01

視力5.0の世界とは

from Wikipedia.org
視力は視角を分であらわしたものの逆数である。
5mの距離からランドルト環の1.45mmの切れ目を認識できる場合、

1 / ( tan ( 1.45mm / 5000mm ) x 3600 ) = 0.957

と計算できるので視力は1であるのだそうです。

アップルの新しいMacBook ProのRetinaディスプレイは、220ppiです。
つまり1ピクセルが約0.12mmです。
それを40cmの距離から見たときには、

1 / ( tan ( 0.12mm / 400mm ) x 3600 ) = 0.926

すなわち、視力が0.9以下の人はRetinaディスプレイの1ピクセルが40cmの距離で認識できないのですから、誇大広告でないことがわかりました。私にとってはRetinaディスプレイじゃないけれど。



ところで、

「視力5.0の部族」などという紹介をTVで見たことがありませんか?あれってあり得るのでしょうか。

1 / ( tan ( 0.28 / 5000 ) x 3600 ) = 4.96

ですので、5mの距離から1.4mmの大きさのランドルト環の0.28mmの切れ目を認識できるという事になります。

眼球の直径は24mmですので、網膜上で

0.28 / 5000 x 24 = 0.00134

1.3ミクロンの解像度があるということです。

網膜の面積は900mm2ぐらいあるとして、その中に1億の細胞があるそうですから、

1 / sqrt(100 000 000 / 900) = 0.003
細胞の距離は、正方形が満たされていると考えたいい加減な計算で3ミクロン
ハニカム構造ですと、3.04ミクロンですからそんなものでしょう。
(実際視細胞は2-3ミクロンの大きさとされています)



つまりここからわかるのは、

視力5.0あるということは、物理的な解像度を超えている……ん?どこかで聞いたことがあるような……

あり得るのでしょうか。


網膜上の細胞間のだいたいの距離3ミクロンから逆算すると、

(0.003 / 24) * 5000 = 0.625

1 / (tan(0.625 / 5000) * 3600) = 2.22

となります。理論上の最高の視力は大体2ぐらい、という事なのでしょう。



ではなぜ、オースマンサンコンさんは視力が6だと言うのでしょうか。

2km離れたところからライオンの数を数えられると視力が6なのでしょうか?計算してみましょう。

1 / (tan( 2m / 2000m) x 3600) = 0.28

あれ?視力が0.28あれば2km先のライオンは認識できてしまう……少なくとも慣れればわかるはず。

2km離れたところのライオンを認識するのは視力は関係なさそうではあります。



でも視力が6.0というのはあり得るようです。 かつて日本テレビで本当に視力6.0ある事を証明した番組があったようです。(デッドリンクになっているので消しました)


物理的な解像度を超えて認識できる……脳内補完……はっ!


最初、この文章を書き始めたときには細胞の大きさから逆算して視力5.0はあり得ないだろうという論理を展開して終了する予定でした。しかし、実際に認識できる人がいる以上考えをあらためざるを得ませんでした。スーパーCCDハニカムは補完することにより解像度を超える認識が出来ますが、人間の目も黄斑部は3種類の錐体細胞、杆体細胞が複雑に配置され、より細かな画像をも認識できるのではないか、と考えをあらためました。

例えばオリンパスの顕微鏡では光スイング方式(DiRactorTM)という方法で、水平/垂直方向のCCD傾斜角を微小に振ることによって4度撮像、解像度を約4倍にアップさせる手法を採用しています。(特許は米国 Pixera Corporation(President&CEO:井手 祐二)が所有)

これ以外には、動きから画像を補完(フレーム間処理)し、解像度を上げる技術があります。
人間の脳がこれらの機能を持っているだなんて、想像するだけでわくわくしませんか?

2012/07/16

NASHの本態が見えてきた?

NASHそしてIRHIO
という記事と、
NASHに関する一考察
という記事を書きました。

脂肪細胞から分泌されるサイトカインとインスリン抵抗性、そして鉄代謝に関して考察しました。サイトカインとしては特にTNF-αに注目していました。が、あくまでもNASHの周辺に光を当てて見ていたに過ぎません。

横浜市立大学からの新しい報告によって、中心部に明かりが見えて来ました。

この報告にそっくりの報道は、こちらになります。(改行を入れたり、ちょっと書き出しに変化をつけるお仕事です)

本当はわかりやすく(IBDや鉄代謝も絡めて)書こうと思ったのですが、こういうのを見たら萎えてしまってヤル気が出ません。出たら書くことにいたします。

書くとしたらこんな話題を入れるつもりです。
レプチンの正しい理解。(ハードルが高い)
レプチンは視床下部にも働くホルモンであり、レプチンを全身で阻害する影響を考えると議論が難しくなるのだが、肝臓で完全に代謝されてしまうタイプのお薬でも、その手前にある細網内皮系の細胞には効くので、(全身的な影響もなくかえって好都合)創薬については、意外とスムーズに行くかもしれない。
それだけでなく、細網内皮系の炎症を抑制するアプローチは、NASH以外の肝炎やIBDでの合併症の予防にも光明である。
インスリン抵抗性とレプチン抵抗性。
腸内細菌叢の話。(特に小腸の腸内細菌叢は今までほとんど研究がないので、今もっとも不思議に思い、興味を持っているのでそれを調べてみたかった)


http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/hep.20280/full
http://journals.lww.com/jcge/Fulltext/2004/11000/The_Role_of_Leptin_in_NAFLD__Contender_or.2.aspx
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12143049
http://www.springerlink.com/content/gq6452m1m574r2jx/
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11448591
 鉄欠乏の幼児の食欲低下はレプチンを介さない
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21184788
 動物モデルでアディポネクチンとVit.D(3)レベルはNASHのマーカーになるかも

2012/07/08

鳥肌胃炎にも二種類ある?


鳥肌胃炎は胃のリンパ濾胞が増殖してブツブツと隆起し、鶏皮の表面と良く似た外観を呈する状態です。(参考リンク

春間賢先生が若い方の胃癌の背景には鳥肌胃炎が多い事を見出した時にも、自分の感覚では20代以下のH. pylori 感染胃では多かれ少なかれ必ずリンパ濾胞は見えていたため、癌の背景として存在するのは矛盾しないだろう、とさほど違和感は持ちませんでした。
ところが「鳥肌胃炎では胃癌が多い」という議論になったときに、違和感を持ちました。
ならば20代以下の若い人が内視鏡を受けるとHP感染があれば必ずのようにリンパ濾胞の増殖があるのだから、医者がその人達を脅かしてしまうのではないか?と。
果たして鳥肌胃炎は本当に胃癌が多いのか?と。

自分がリンパ濾胞の増殖を見ているのは世の中では鳥肌胃炎とは言わないのだろうかという疑問もありました。
鳥肌胃炎を背景にした胃癌(sig)を見つけたことはありますが、自分の感覚では若い人の大部分は鳥肌なのだから、もっと沢山の若年者の胃癌がなくちゃならない。
一方二十代の胃癌でも背景が萎縮性胃炎である場合もあるのです。果たしてどちらが多いのだろうか。
鳥肌胃炎とは一体何だ。

第18回日本ヘリコバクターピロリ学会学術集会において、
信州大学医学部 奥原先生(赤松泰次先生が共同演者)が
小児、若年者、壮年者にわけて検討したところ、
同じ鳥肌胃炎でも体部胃炎の強さが違い、
小児、若年者では胃炎(単核球、好中球浸潤スコア)が低い事を
発表しておられました。

同じ鳥肌胃炎という外観を呈していても、組織を見るとその質が異なる可能性を示されていたことに興味をひかれました。

体部胃炎の強い鳥肌胃炎こそが胃癌のハイリスク群であるならば、体部への単核球浸潤はもともと胃癌のハイリスクとされていますし頷ける話です。

同じ信州大学の横澤先生(赤松先生がやはり共同演者)は
高校生の検診でHP抗体を測定し、陽性であった全員に上部内視鏡を施行したところ
7割が鳥肌胃炎だったという報告をされていた。

若いHP陽性患者では多かれ少なかれリンパ濾胞が目立つ、という自分が持っていた印象が正しいとわかったことと、そうなれば予測の上ではもっと胃癌が増えるはずなのに実際にはそうならない統計上の乖離について、持っていた疑問が晴れるヒントが見つかったようで収穫でした。

疑問をもつことは誰でもできますが、それを解決する研究をデザインし実行する先生方には本当に頭が下がる思いです。
これはさらに広がりのある研究になると思います。

鳥肌胃炎の除菌成功率は自験例、報告を見ても比較的低く、さらに除菌後にも濾胞が消えていくまで数年かかる症例もあり、注意深い観察が必要です。
「鳥肌胃炎だから癌になるかもしれない」と脅かされて除菌をしたものの失敗、「やりようがない」と言われ傷ついて来院する患者さんもおられます。

実際にはやりようはあること、(三次除菌など)
必ずしも鳥肌胃炎だからと心配しなくても良い、
ですから患者さんは過剰に心配しなくても良いと思います。

一方少数ながらHP感染が証明できない鳥肌胃炎も存在すると思われます。
Helicobacter heilmannii などの感染が関与しているかも知れません。
これについても注意深く検証する必要があると感じています。

まとめ:鳥肌胃炎には二種類あるという考え方は、これまでの報告の矛盾をきれいに説明してくれ、また患者の不要な不安を解消してくれる概念である。赤松先生をはじめとする信州大学の先生方に敬意を表し、今後の研究に期待したい。

2012/07/03

ABC検診

ABC検診(胃がんリスク検診)は胃がん高リスク群を絞り込む優れた方法で、東邦大学名誉教授三木一正先生により開発されました。→リンク

ABC検診と検索してみると、きちんと書いてあるところがなく、上記リンクにもありますが、引用して書いておきます。

ABC検診では、ペプシノーゲンI(PG-1)、ペプシノーゲンII(PG-2)、抗ヘリコバクター・ピロリ抗体(抗Hp抗体)を測定します。原価は1690円程度です。保険収載はされておらず、保険で調べることは出来ません。ネットで調べると4000円程度の料金のところが多いようですが、これはこうした検査をしますと通常は判断料というのを加算することになっていて、それが1500円から2000円ぐらい。それに採血料が600円などと考えますと妥当かなとは思います。

・PG法はPG-1≦70かつ1/2比≦3を陽性(+)のカットオフ値
・抗Hp抗体はE-プレート‘栄研’H.ピロリの場合には10を陽性(+)のカットオフ値

例えばこのほうに、1/2比は3より大きく、抗Hp抗体は陽性であるという場合には、1/2比(-)かつHp(+)となるのでB群、と判定されます。


この分類にはピットフォールがあるので、なるべく専門医に判定してもらったほうが良いですが、一応それを書きますと、
・ピロリ菌除菌歴
・消化性潰瘍の治療中
・プロトンポンプ阻害薬の内服
・胃切除後
・腎機能障害
・免疫能低下
・ステロイド・免疫抑制剤投与
では正しく判定されない事があるので問診時にチェックが必要です。
特にピロリ菌除菌後は検査値によらず胃がん有リスクのE群(eradication群)とするということ。
注意:除菌歴がはっきりしないが、明らかに自然除菌されたな、という内視鏡所見がある場合は偽A群(下記参照)に入る場合があり、リスクはE群に相当します。

ピットフォールですが、
・血清Hp抗体価が、3U/ml以上10U/ml未満の場合はピロリ感染のある場合があり、B群なのにA群とされる場合がある。
また、PG値については、以下の場合はAではなく胃がんリスクあり、の場合があります。
・PG-2≧12ng/ml や1/2比<4.5、高齢者の多い集団ではPG-1≦30ng/ml
・1/2比<4.0
・1/2比≒3.0あるいはPG-2>15
など

要するに内視鏡で萎縮があるかどうかをなんとかPGで判定しようという試みなのです。

したがって、ABC検診は専門医により判定されるべきであり、上記のような群を偽A群といいますが、偽Aが疑われる場合は内視鏡を受けたほうが良いです。

鵜川医院では胃の萎縮を木村・竹本分類を用いて1997年よりレポートに記述し、尚且つ自然除菌後、あるいは他院除菌後であっても形態学を用いてピロリ菌の有無をほぼ正確に判定できるため、今後の胃がんリスクを正確に予測し、「不必要な検査をしない=ピロリ菌もいない、萎縮もない患者さんのフォロー間隔は長くする」事を徹底してきました。これにより高い胃癌発見率を保つことが可能になっています。萎縮を見たり、ピロリ菌の有無を肉眼的に判定するには良い内視鏡及び熟練を要するわけですが、ABC検診を用いれば簡単にリスクを予測することが出来るのです。我々が不要になるならば大歓迎です。

バリウム検診で胃底腺ポリープを指摘され来院する患者(胃癌リスクがほぼゼロ)を診るたびにため息をついていた当方としては、ABC検診が普及して欲しい。価格は前述のごとく最安値で1690円(昔より何分の一になっているのでびっくりしました)と、後々増えるだろう内視鏡検査の値段を考慮しても、バリウム検診より優位に立てる値段であり、普及の障害はあまりないように思います。

第18回ヘリコバクター・ピロリ学会学術集会で目についた報告を以下、ご紹介します。

1)加古川東市民病院 寺尾秀一先生
従来、もっともハイリスクとされていたD群(ペプシノーゲン陽性、HP抗体陰性)の中には相当の数、HP陽性者が含まれる事を示しています。HP抗体が産生されない免疫応答の異常の原因は免疫寛容なのか、抗原性の差なのか明らかにされていませんが、重要な視点であろうと思います。除菌をすれば発がんリスクが下がるからです。他には自己免疫性胃炎(A型胃炎)が含まれていることを示しています。一部C-0でありながらペプシノーゲン陽性になる方が含まれ、この群については翌年以後サーベイランスが必要ない可能性があります。また除菌群が含まれることにも注意が必要です。従来のD群を検査する時にはこれらを肉眼的に判断して適切にフォローすることが重要であることが示されました。慣れていない先生方は、これらを確実に診断できる医師にアドバイスをもらうようにして欲しいと思います。
2)近藤秀則先生、増山仁徳先生など
B群の中に、相当数、ハイリスク患者が紛れ込むのではないか、という発表。そこで近藤先生はB群をさらにB-1、B-2(P-II>30)に分け、B-2群に癌が多いのではないか、としています。広島大学保田智之先生の発表ではA群内のHP抗体偽陰性例に注意を要するとの事でした。HP抗体のカットオフ値をもっと下げたほうが良いのではないか、という発表も見られました。他の胃癌マーカーとしてはIgG1/IgG2比、血清trefoil factor 3の発表がありました。

2012/06/27

深く理解するほど、メタ化が難しいという矛盾

ある製品を人にオススメした経験がある方は多いだろうと思います。某社のコンピューターはすごいよ、とか。このサプリメントは良いよ、とか。ただし「個人の意見としては」という限定付きで。
節度をもっている方がほとんどです。


時々盲目的に特定の商品や生活習慣を人に強く勧める(半ば押し付ける)人がいます。それによって利益を得ている関係者ならそうする目的はわかりやすいのですが、利害のない方がこれをしますと、信ぴょう性が高くなりそうです。一方で、利害がないのに盲目的にお勧めするという行為そのものが胡散臭いために、警戒心を呼び起こさせます。
私は内視鏡検査については利害関係者です。少数の検査では赤字になってしまいます。かなりの数の検査数を維持することによって、私は収入を得ることが可能です。したがって、利害関係者である私が患者さんに、「内視鏡を受けて下さい」と申し上げた時に露骨に嫌な顔をする方がいることも不思議ではありません。


一方で利害関係者ではない(内視鏡医でない)お医者さんが「内視鏡を受けなさい」と言った場合には、本当は必要がない検査なのに患者さんは受ける気満々という困った事態も起きてしまいます。これはこれで医療リソースの無駄遣いとなります。
本来はこうした「利害関係のフィルター」の影響を患者さんが受けることは患者さんに利益があるとは言えません。そのため、医者はそういう利害を超えている存在である、という位置づけを人間社会ではされています。日本以外の国では特にそうです。故意に医者を貶めるような報道が繰り返されるのは日本以外では見たことがありません。アメリカ合衆国では医者は高給取りで、訴訟も多いのですが、それでも聖職として尊重され尊敬されている印象を私は現地で受けたのです。


そんな我が国でも利害を超えた聖職であるという建前はある程度浸透しているようです。医者の意見を尊重して下さる方々は多い、しかしそう考えていない方もいらっしゃいますから、「内視鏡を受けて下さい」がセールストークと思われてもしょうがないのです。これはとてもわかりやすい反応です。実際にセールストークで不必要な検査を勧められた経験があったのかもしれませんし。そこで圧力や権威を用いずに患者さんをどうやって説得するかはまた別の話です。

これらのフィルターを乗り越え、医者の利害に関係なく、患者さんが(金銭的ではない)利益を享受する最も有効な方法は自らが正しい知識を得ることである、というまた別の建前を用意せねばならなくなり苦しいです。それは本当は無理なのに。というのも患者さんが得る医療知識は必ずメタ化(わかりやすく抽象化)された知識だからです。メタ化された知識は、ある確率で起きる例外を意図的に除外していたり、少しの嘘を内包する場合が多いのです。医者ですらメタ化された知識を学ぶ人がほとんどなのは、学習に時間がかかるからです。なるべく私はメタ化されていない生理学や解剖学、生化学などから病態を捉え、正しく理解をしようと務めているのですが、結局はそれをメタ化して皆さんに伝えねばなりません。困ったことに、みなさんに伝えるメタ化された知識は(自分の中で)95%以上は正しいものの、5%以下の確率で間違っている、という事を許容せねばならない。物事は深く勉強し理解しようと努力するほど小さな矛盾や例外(ノイズのようなもの)が生じることがあり、これを圧縮時にそのまま保存することは容易ではないのです。浅く理解してわかったつもりになり、大雑把にメタ化する方がストレスがないのです。

順番が前後したのですがメタ化というのは情報の圧縮なのだ、と考えることが出来ます。TIFFやZIPなどのファイル形式に見られるように可逆圧縮が可能であればそのほうがいい。オリジナルの知識に戻すことが可能であれば、生じる矛盾を最小限に出来るからです。しかし、可逆圧縮での圧縮率には限界があります。現実にはもっと圧縮率の高い不可逆圧縮のほうがより少ない脳の容量に収まりますし、人に伝えるのにも便利です。ですから不可逆圧縮が多用されています。(名言、などと呼ばれるものはほとんどがそれです)しかしオリジナルの知識に戻そうとする場合少しの嘘がまじります。その事を理解している人との会話ほど楽なものはありません。

まとめます。


医療に関しては、感覚として95%以上確信していることを患者さんに伝えていますが、そこには少しの嘘が混じりうる事。その理由はみなさんに伝える情報はメタ化されて圧縮されているからだということ。不利益が生じそうになった時にそれを回避して現状に復帰していくためには患者さん自身の知性や行動力が不可欠であってそれがとても難しいために医療の限界の一つになっているということ。それでも何とか最良の方法を見つけようと努力しております。(そのアプローチの一つがITです)

P.S. 人工知能を実装する場合に、メタ化された知性をどう扱うのかについて、とても興味を持っています。

2012/05/30

超音波検査(エコー)について


エコー:
 正常像の理解
  アーティファクトの理解:
    ミラーイメージ
    サイドローブ
    多重反射
 音波の性質
 波としての性質:周波数が高いほど、解像度は高いが、減衰しやすく近くしか見えない。
  心臓:1.5MHz~3MHz
  肝臓:3.75MHz~5MHz
  甲状腺:7.5MHz~
  超音波内視鏡:7.5MHz~20MHz
  密度の変化で反射する=白く表現される。密度が均一で反射がない=黒く表現される。
  例:脂肪滴・・密度変化++・・それが多数・・脂肪肝は全体が白っぽい
   癌の周囲・・浮腫・・水っぽい・・密度変化小・・癌の周囲が黒っぽく見える
 音波は屈折する:音波に並行するような面の評価は苦手・工夫すれば評価可能

腹部エコー
 急性腹症の場合に
  エアー
  腹水
  血栓:カラーフローを見る
  を見逃さないつもりで見る。
 医師が検査する場合触診も兼ねる

空間分解能が高い
侵襲が少ない
リアルタイム画像による機能の評価
迅速性
経済性

きわめて主観的な検査:ゴールドスタンダードたり得ない

どのようにしたら客観的な評価が可能か
 3D、4Dエコーは客観的評価を可能にするか

2012/05/07

ペプシノーゲン陽性

Kunio Ukawa 2008
検診でペプシノーゲン検査が引っかかりました、と受診される患者さんが増えてきました。

ペプシノーゲン検査は三木一正先生が開発された検査です。(→リンク参照



さて、これに頼らずとも当院で内視鏡を受けている患者さんにおいてはより正確に胃がんのリスクを算定することが可能です。

積極的にピロリ菌除菌をしていない母集団における胃がんのリスクについては萎縮性胃炎について述べたエントリーに既出です。(→リンク参照)グラフ内の数字が癌の発見%です。木村分類を用いて萎縮を評価することと、ピロリ菌の有無を肉眼で判断することが出来る当院では過去のデータに従って胃がんのリスクを評価できます。それに従って内視鏡のフォロー間隔を決めます。これに加えて食道がんのリスクも加味します。



さて、以前に当院への受診歴があり、ペプシノーゲン検査で引っかかったと受診されたある患者さんに、以下の様な説明をしました。

あなたの胃の粘膜は前回の検査で胃粘膜萎縮(木村分類)がO-1であった。ピロリ菌はいると推測されました。

これはABC検診ではピロリ菌陽性、ペプシノーゲンI/II比陽性に相当します。すなわちC群です。(→リンク参照)胃がんの発見率は0.2%であり、2年に一度の内視鏡検査が推奨される群です。

我々のデータでは0.97%に癌が見つかっていますが、検診ではないのでより高くなる方向へバイアスが加わっています。そのようなバイアスがかかっても1%には届いていないので必ず毎年受けねばならないかというとそうではありません。ただし当院のデータでは未分化癌も0.53%見つかっています。未分化癌は少し進行が速いので2年あけてしまって手遅れにしたくはない。したがって1年以上、2年未満の間隔で内視鏡検査を受けるべきである、と患者さんを誘導しています。要するにあまりABC検診と変わりはありません。



今後の方針について2つの方法をお示しします。

2013年以後は、「基本的にはまず除菌」です。
ただし、アレルギー、肝腎機能障害、あるいは信条などにより除菌をしない場合も当然あるでしょう。


1) 内視鏡を定期的に受ける。


ABC検診では2年に1度を推奨していますし、当院では1~2年に1度を推奨しています。個々の状況に合わせて検査をお受けになれば良いです。個々の状況とはすなわち家族歴、ピロリ菌以外のリスク(アルコール・喫煙・塩分の摂取量)、経済状態、時間の余裕などです。

2) 内視鏡を定期的に受けるとともに、チャンスがあればピロリ菌の除菌を行う。


たまたま腰痛で非ステロイド性鎮痛解熱薬(NSAIDS)を長期に服用されているようですが、今後も飲み続けなければならないのならば、除菌はNSAIDS潰瘍の頻度を1/2に下げるので除菌するメリットがあります。
内視鏡をしたときに潰瘍があったり、MALTリンパ腫などの腫瘍が見つかればこちらから除菌をお勧めします。
保険が適応されます。
2013年以後は、ピロリ菌感染に対して全例保険は適応されます。家族歴に胃がんがなく、アルコール・喫煙などの危険因子がない場合、がんのリスクは若干低く、予防目的での除菌のメリットは限定されるかもしれませんが、そうした条件を個人個人にお話して、決めています。基本的には除菌をします。除菌成功後は少しフォロー間隔を開けています。(2-3年)
 



胃を見ると同時に当然観察することになる食道がんについて

食道がんでは、特に胃と食道の接合部の癌(腺癌が多い)では家族歴が重要です。ただし、それ以外の扁平上皮癌では原因のほとんどは酒とタバコです。あとは熱い食べ物を避ける事が大切です。内視鏡の高解像度化、および色素、NBIを使用してきちんと観察する事で早期がんが容易に発見できるようになりました。慣れている医師ならば胃をみるときにきちんと食道がんも早期に発見できるので、心配ありません。

2012/04/28

Mac OS X Lionの逆スクロールに慣れる方法

Mac OS X Lion にしたときに、一番びっくりするのがトラックパッドのスクロールの方向がSnow Leopard とは逆だったという事で、半年以上慣れませんでした。

でも、もともと iOS で、写真を見る時にトラックパッドを操作する方向と同じなのは知っていました。

UIを統一しただろうことは理解できます。Appleらしい。


ある日、「Webページも画像と同じ『映像』に過ぎない」と思った瞬間に慣れました。以後特に戸惑う事はありません。

私よりも沢山考えている人々はこちら→リンク

直感的に文字を画像として認識させ深くは理解させないようにする、という目論見はないと思いますが、スクロール量を多くさせ、より多くの広告表示を可能としたり、あまり細かく考えさせずに影響力を行使したいといった思惑があったりするのでしょうか。

2012/04/26

バックドア

バックドア(コンピューターの世界では不正に仕掛けられた侵入口、というような意味)、という言い方は適当では無いかもしれないのですが、「逃げ道」を用意することを常に心がけます。

通常はインフォームドコンセントの文書などで医者の逃げ道を沢山用意するのが普通なのですがここでの意味は逆で、患者さんの逃げ道を用意する、という意味です。

胃潰瘍でピロリ菌の除菌療法をする場合に、
「たとえ失敗しても、大丈夫なのです。なぜならば〜」と説明しておくこともひとつのバックドアの設置です。(例:二次除菌、三次除菌などバックアップの方法があること。除菌を失敗していてもサーベイランスをきちんと行えば問題のないこと。維持療法などを組み合わせる事により疾患のリスクも最小限に出来ること、など)

もしも患者さんが「〜しなければならない」という知識をテレビなどから得ていたとすれば、それを「ぶっ壊す」(乱暴な言葉で失礼)のは重要な仕事です。何しろ医学には"絶対"はないのです。「除菌はしなければならない」とか「逆流性食道炎の薬は一生でしょ?」などの間違ったメタ知識は取り敢えず「ぶっ壊す」のがバックドア作りの基本であります。

一度築いた家を直しながら増築するよりは、更地から家を建てる方が楽ではあるように、なんの知識にも染まっていない若い方の初診を診るのは大好きです。
残念ながらそうでない場合のほうがはるかに多い(どうしてみなさんテレビなんか見るかなあ)ので、取り敢えず患者さんの知識にバックドアを仕掛ける、という事が最初の外来での仕事になります。

そうすれば治療が理想通りに運ばないときであっても患者さんが心理的に追い詰められずにすむだろうと考えているのです。

しばしばそれを邪魔するのが「友人」の存在であります。「医者にかかれば?」というのは友人ではない、と私は個人的には思っています。本当の友人とは「私が連れていくからいっしょに行こう」と行ってくれる人の事です。これについては以前書きました。

2012/04/15

成功するやり方と、失敗しないやり方

何にでも成功する方法と、失敗する方法があります。
失敗する方法をとことん学んでいこうという学問があります。失敗学と言うそうです。

コンピューターの使い方、特にインターネットの危険性を学ぶには、
まずウイルスの作成方法を学ぶと良い、という類の議論があります。

一方でみなさんは成功者がどのようにキャリアを積み重ねてきたかという話も大好きでしょう。自己啓発本は売れていますもの。

でも、どの方法が成功してどれが失敗するかというのは、線引きが難しいと思います。

例えば大腸内視鏡ですけれど、
S状結腸という場所を通過していく時、上手な先生ですとプッシュ(押しこむ)を上手に使ってアルファループという状態を作ります。
ところが下手な先生は同じようにプッシュをしているのに、患者さんがひどく痛がります。
私はプッシュはしないで、細かい動作を繰り返して入れていくのですが少し時間がかかっていると思います。名人と呼ばれる先生方よりも少し平均時間はかかっているのではないかと思います。
でも初心者のやり方と、名人クラスのやり方が似ている、というのは何やら示唆的です。
中くらいの先生方には、プッシュは使いこなせないのかもしれません。

内視鏡のテクニックひとつだけを見ても、学ぶということは大変に難しいことのように思います。
いつからか私は、ロボットならばどうプログラミングして内視鏡をするか、という事を考えるようになりました。
ある方法に良いとか悪いなどの区分けはなるべくせずに、条件分岐をしようとしたのです。
(条件付けが難しくIf文とかCase文では書くことが困難なのです。期待値を計算して最適解となるような条件を選択する、という感じ)

つまり自分がロボットだと想定して、この場合はこう、この場合はこう、と条件をつけてそれに従って操作をすることにしたのです。
こういう事を繰り返していますと、まずは条件づけを作らねばならないために様々な試行錯誤を繰り返すことになります。そのため検査の密度が濃くなり自分にとっては良い事が多いのです。内視鏡の検査をしたときに、私の検査は情報量が多くなるのはこのためです。ところが例外事項がかなり積み上がるのです。いわゆる「ピットフォール」というものです。ロボットは例外が起きた時にエラーを吐き出して止まれば良いのでしょうが、人間の身体が相手ですので簡単に検査をやめるわけにもいきませんし、実際には頑張って上手く行く場合も多い。この「頑張って上手く行く」さえプログラムできれば、人間が要らなくなるわけでして、今は「どのように頑張ったのか、その根拠として利用した知識は何か」を意識して検査をすることにしています。

不毛です。バリエーションがありすぎて、これを教えることは出来るのでしょうか?

きっと先人も同じ努力をしたのだろう。その結果としての名人の手技なのだなあと、思います。

2012/04/04

elobixibat(A3309)に関するメモ

日本発のニュースって本当に(記者が理解してないから)わけわかんないので、こちらで調べる必要がある。

スウェーデン アルビレオ(AlbireoPharma)社の発表:リンク先
昨日のニュースリリース:リンク先
(味の素製薬が「エロビキシバット(Elobixibat)」導入)

elobixibat(A3309)について

回腸の胆汁酸トランスポーター(ileal bile acid transporter (IBAT or ASBT)を阻害する作用がある。これにより、大腸内での胆汁酸濃度が上昇する。胆汁酸は一種の油脂なので大腸内では便秘を抑制する方向に働くとのこと。

思い出す薬では高脂血症用薬のezetimibe(商品名ゼチーア)がある。これは副作用が下痢。小腸のNPC1L1を阻害してコレステロールの吸収を抑制する。

あと思い出すのがビタミンB5で、これも脂質低下作用と腸管刺激作用がある。

WikipediaからVitamin B5

Wikipediaからcholic acid











ビタミンB5も胆汁酸の吸収抑制で効果を発揮しているならば興味深いのだが。

胆汁酸の吸収を抑制すると何が起きるのか。
一次胆汁酸、二次胆汁酸。

肝毒性のある胆汁酸、発がん性のある胆汁酸もあると考えられるため、胆汁酸の吸収を抑制する場合には腸内細菌の正常化を同時に行う必要があるのではないか。そうでないと肝障害や、発がんの危険性が上がるのではないか。
太った人にはより効くかも知れないが、痩せた人(アジア人)の場合には胆汁酸の吸収を抑制することによって栄養障害を来す可能性がないかどうか。またコレステロール代謝に及ぼす影響を考慮する必要があろう。

2012/04/03

デジタルな人

肉は食べないとか、野菜は食べるとか、
そういう価値判断しか出来ない人に、

「1とか0で判断するのはやめましょうよ。デジタルな考え方ですよ。あなたはデジタルネイティブ」

などとその人にはわからないジョークを飛ばしますが、
デジタルネイティブがそうじゃない事を祈ります。

「お腹が弱い」を自称する方に多いのですが、
「あれはだめ、これはだめ、あれはいい、これはいい」でしか判断しない。

アレルギーはないのだから、「少し食べる」というような選択肢がないのか。
(お酒を飲む方も、「少しだけ飲む」という選択肢がないか方が多いようだけど)
いつか書いた()ように、「リスクをヘッジしたいなら、なんでも食べよ」が正解です。

2012/03/12

黄色で見る

友人とFacebookでやり取りする機会がありました。たまたま
「内視鏡の写真をインクジェットプリンタで印刷すると黄色から先に無くなっていく」という発言を私がして、思い出した話です。

オリンパスの内視鏡写真は暖色系で、それはファイバースコープ時代には短波長である青や緑はファイバー内で減衰しやすいから、減衰しにくい長波長が強調された画像に我々内視鏡医が慣れており、それに合わせて調整されたものである、という噂を聞いたことがあります。
これに対してFTSの内視鏡写真は寒色系で、それはCCDに入ったそのままの信号でありむしろ本来の色に近いのだとも聞きます。
寒色系であろうが暖色系であろうが我々内視鏡医の眼は、相対的にしか色を捉えないのでホワイトバランスが多少狂おうが関係ないのかも知れません。

その中で、インクジェットで早く無くなってしまう黄色の位置づけは?と思ったのです。
赤や青、は良く色調としては話題になるものの黄色はあまり話題に上ることは少ないけれども、全く無視されるのもかわいそうです。実は私自身は診断時に非常に黄色に頼っていることが多いと思います。
例えばピロリ菌感染粘膜はやや黄色味を帯びることが多い。貧血の患者では発赤が見えないので、代わりにやや黄色味を帯びた病変を探していることがあります。

以下に示したのは一例で、貧血があり、高度の萎縮粘膜を背景とした、腺腫を疑う病変です。
これは画面右上の黄色味をみて、「あれ?」と気づくわけです。

胃体下部という部分の小弯側に違和感を感じつつ検査をしています。
違和感を感じた部分にマゼンダでマークをつけました。
縁は1cmぐらいの幅でやや黄色味のかった褪色で、
中心部はやや発赤調です。
NBIでみるとある程度表面の血管が豊富なのか、やや茶色味がかった領域として
よりはっきり認めることができます。こういう病変は腺腫であることが多い。
そして中央部は、少しだけ異型が強く高分化腺癌である場合もあります。
予後は良いのだろうと考えます。

人間は光の三原色で、対象物を見ています。赤・緑・青です。
黄色というのは赤と緑が混じった色で、恐らく赤を見る、の亜型なのだろうと思います。
内視鏡の所見を読むトレーニングをするときには、発赤、褪色、というのは大変に重要ですが、その次に「淡い黄色み」というのも気にしておくと良いでしょう。

2012/02/09

CEA高値

みなさん読むの面倒くさいでしょうから、3行で、とは言わないけども結論を書きます。
1)CEAは腺細胞の増殖で上昇する可能性がある。
2)腺細胞は胃・小腸・大腸・肺・甲状腺・膵臓・肝臓・乳腺・卵巣・子宮・膀胱・前立腺などにあると考えられるから。
3)細胞の増殖は腫瘍でも生じるが炎症でも起きる。
4)2)で示した臓器の炎症でCEAが上昇することが理論的には考えられる。
5)そんなに大腸がんを血液で調べたいなら、 SEPT9 遺伝子のメチル化でも測定しておけ。

CEA:癌胎児性抗原

お母さんの中で胎児が成長する時期に産生されている糖タンパクの一種で、接着因子として機能しているという。もともとタンパクとしては大腸癌から1965年にGoldとFreedmanにより分離され、彼らは胎児の大腸にその物質が発現しているのを発見しCaricinoembryonic antigen(CEA)と名付けました
身体の中では腺細胞(液体を分泌するような能力をもつ細胞)に発現しているGPIアンカー型受容体のひとつ。

古典的な腫瘍マーカーの一種です。腫瘍マーカーというのは癌の治療の経過、あるいは癌の広がり具合を予測するために役立ちます。各種がんの腫瘍マーカーの使用法についてはガイドラインに示されていて、癌の進展と共に上昇する腫瘍マーカーは有効、でも腫瘍マーカーが上昇すればすべて癌なのか、というとそれは真ではないので診断には使用すべきでないとされています。最近ではPSA検査が本当に患者さんに利益になっているのか、という事が話題になりました

しかし日本の検診や人間ドックで「癌がわかります」という売り文句で腫瘍マーカーが測定されている事には問題があります。検診者に腫瘍マーカーの意義を正しく説明せぬまま、このような事態が続くことを私は望みません。むろん、現在も早期癌を見出すための努力の1つとして、癌特異的なペプチドや抗体が開発されている事を否定するものではありませんが、現時点ではそれらは有効には機能していない。

ちなみに当院では癌の疑いで腫瘍マーカーは測定はしませんが、すでに腫瘍があってその広がりや予後の見当をつけたいときには測定をする事があります。

CEAが高い、と受診される方がおられるたびに私はため息をつきます。

心配している患者さんの気持ちが理解出来るからですし、それから医療のリソースを無駄に使う可能性が高い2つの理由からです。腫瘍マーカー高値の場合に精査を自前でできない検診施設は腫瘍マーカーを測るべきではないと思いませんか。

さて、CEAが5ng/ml(日本における正常値らしい)をはるかに超えるならばともかく、5をわずかに超えた程度の時に癌と関係があるかどうかを見極めるのは難しいと思います。

例を挙げると喫煙者では上昇します。タバコは常に肺の腺細胞を破壊し、再生が生じている事から結果として血中のCEAが上昇しているのでしょうか。あるいは膵臓や胃腸、尿路の細胞もタバコの成分によって破壊されるからでしょうか。(結果としてタバコはそれらの臓器の癌リスクを増大させています)

あるいは糖尿病患者でも上昇します。一般的に糖尿病の患者では糖タンパクがそもそも多い傾向が認められ、CEAだけでなく糖タンパクは高い傾向にあるようです。あるいは糖尿病では背景に慢性膵炎が認められる場合があるので、これを反映するのでしょうか。(糖尿病はすい臓がんのリスクのひとつです)

要するに、炎症や他の原因でCEAが上昇する場合はあるのです。膵炎、潰瘍性大腸炎やクローン病、肝硬変や慢性閉塞性肺疾患でも上昇することが知られています。(ちなみに”肺癌”の腫瘍マーカーとされるSCCはアトピー性皮膚炎や乾癬、火傷などで上昇している事があります。それぞれのマーカーを理解している臨床医なら簡単にわかります)

先ほど腫瘍マーカーが上がったからといって、それは癌とは限らないと書きました。ではCEAが上昇した時にどのように皆さんは振る舞うべきなのでしょう。

1) これは良いきっかけだ、と考えて所謂「腺癌すべて」(CEAが上昇するのは腺癌)をチェックする。
2) 無視する

の二通りだと私は思います。使用する医療リソースに対する患者の利益の期待値(マイナスにしかなりませんが)が最も高いのは”2)無視する”だろうと思います。ただ、私が行う検査は「偶発的な所見」をかなり多く含むため、ある程度利益が得られます。そのため、1)という方針も無駄というわけではないでしょう。一方、CEAを再測定するという方針は私は取りません。使用するリソースに対する利益の期待値が最も低いと考えているからです。

そして患者さんが1)を望まれた時の基本戦略ですが、
1) エコー:甲状腺と膵臓、骨盤臓器、肝臓、胆嚢などが見える
2) 胸部CT:肺と膵臓が見える
3) 上部内視鏡検査:胃・十二指腸が見える
4) 下部内視鏡検査:大腸が見える
5) 造影CT、骨盤MRI:後述します
6) PET:高くて保険が効かないが、一種の保険にはなる。

1)3)4)は当院で可能、2)は病院にお願いしています。

5)はエコーに自信がないとき。例えば患者が極端な肥満体であるような場合には適応になると思いますし、エコーの技師がいない場合も適応になると思います。値段・侵襲を考えますと当院では5)の選択肢はありません。6)も当院の選択肢にはありません。腺癌に関してはPETの出番はあまりないと思います。そこまでするのならば、5)も組み合わせて良いのでしょう。

良く上部下部内視鏡をして終わり、という医療機関があるようですがそこまで医療リソースを使っておいて、エコーをしないのは疑問です。でも、甲状腺、乳腺、上腹部、下腹部のエコーを同時に行う事が可能であった時、医療機関は経済的に損をする(最大17600円請求できる検査を5300円で行うことになる)ことを患者さんは知っておくべきだし、損をする、そこまで余剰のリソースはないという理由で積極的にエコー検査を行えない医療機関の事情は理解できます。偶発性を求める場合にはエコーは確かに対費用効果の高い検査なのですが、非常に主観的な検査でもあるのでCTを行うケースが増えています。

ちなみにCEAが高く、それが癌である場合には早期という事は少ないので困りものです。

繰り返しになりますが、本来はCEAを測定した医療機関で戦略を立てるべき問題です。ここでは当院の戦略の一例(実際には全員で変化させる)をお示ししたに過ぎません。もっと優れた戦略(安くて効果的な)を立てておられる先生方も多数おられることでしょう。

腫瘍マーカーは有効な検査ではあるものの、その使い方を間違えると患者さんを不安にさせてしまいますので、いつも取り扱いには注意しています。

~~応用の一例~~


CEAが高値と言われて受診した。数年分の検査結果を見た。昨年Hb 13台, MCV 80台と低下している。例えばこれは慢性胃炎の可能性がある。(IBDや消耗、癌や潰瘍でもそうなるかもしれないが”仮説”として話をすすめる)CEAは慢性の大腸炎で上昇するのだから慢性胃炎でも上昇する可能性はある。慢性胃炎はピロリ菌による炎症である。例えば潰瘍があり、ピロリ菌を除菌してCEAが下がれば、胃炎が原因で上昇していたと証明が出来る。

このような仮説は、これを患者さんに披露することによって、癌に対する不安感を誤魔化してしまうという会話上のテクニックの一つです。

(2016/05/29追記)
SEPT9 遺伝子のメチル化 を血液で調べるという別の方法があります。
FDAから認可されたepi proColonというテストです。
こういう情報にはどんどん乗っていかないといけませんね。

2012/01/31

テスターとしての医者

バグのないプログラムがないように、欠点のない治療法はありません。
したがって、新しい治療法を開発するのは良いのですが、それをテストする人がいなければなりません。

マイクロソフトには9800人のテスターがおり、それはプログラマーとほぼ同数だということです。(参照リンク)多くのテストがコンピューターの世界では自動化されていることを考えるとこれは驚くべき人数です。医療の世界ではテストは自動化されていないので膨大な数のテスターがいて初めて欠点を克服できるはずです。実際にはそうなっていないので、欠点が克服できないのです。

テスターに望まれる資質は、問題解決能力、クリエイティビティ、変化への対応力。(むしろ開発者より優秀か?)開発への参加、社会貢献を実感してもらえるようなシステムづくりをしない限りは、このような優秀な人材がわざわざテスターになってくれるわけがありません。そしてマネジメントをする人材は別に用意する必要があるでしょう。

ブラックボックステストというものがあります。探索的テストというのは、事前に治験のデザインを決めずにスタートし、問題点を探しながら即興的にデザインを決めていくというようなものです。テスターの能力が試されます。事前定義テストケースは、従来の治験と同様です。ある決められた条件で行い結果を見るだけのもの。コンピューターの世界ではテストは自動化されていますが、医療ではテストは自動化できるのでしょうか。本来ならばスーパーコンピューターの利用は、医療関係の副作用予測などに使われても良いはずですが、パラメーターなども未知数であり、全ゲノムの解析がやっと終わった現代ではまだまだ研究の入り口にも立っていないかも知れません。しかし将来は必要不可欠な分野になるだろうと思います。また、医療者または患者の利用シーンを想定して、仕様を決めていくというアプローチもあるようです。コンピューターの世界は、テストという意味ではまだ「自らが人体実験の被験者になる」というような事が平気で行われています。(これを「ドッグフーディング」と呼ぶようです。電子カルテダイナミクスでは「ヒトバシラー」と呼びます)

ホワイトボックステストと言うものがあります。頭の良いテスターはコードを見るだけでバグを予測することも出来ます。私が逆流性食道炎に●●(慢性胃炎の薬)を使うな、とか、二次性骨粗鬆症を無視するな、とか言っているのはホワイトボックステストに相当するでしょう。
データカバレッジ分析、コードカバレッジ分析と言うものもあり、テストがうまく行っているかどうかもコンピューターの世界では評価されます。治験が終わってからではなく、途中で臨機応変にフィードバックしていく、という事が行われるのです。

以上、現在の医療にプログラムのテスト手法を応用すると、開発の途中からどんどんテストが始まるためスピーディで、テスターのスキルが必要とされるものの、(もともと医療の世界では優秀なテスターが、あまりに簡単な仕事に飽きてしまいモチベーションが上がらないという事が容易に起きるので好都合)予想外の成果を得ることが出来そうな良いシステムのように思います。グーグル社内では開発者がテストの責任も持つことになっているようで、結果としてはマイクロソフト同様に早い段階でテストを行うということになるようです。

日本の製薬メーカーや医療メーカーに医者が大量に就職していない状況は残念で、自動化が可能な近未来への準備を行う上でも、テスターとしての優秀な医者の活躍の場をもっと広げるべきだと思いました。メーカーさん、接待などしている場合ではありません。

2012/01/28

得た所見から病態を理解する~閉塞性大腸炎

超音波の特性を理解しておくことで、初めて見た所見であっても何が起きているのか推測が出来るというのが超音波検査の良い点ではないかと思います。


下腹部に「癌が触れる」と来院されたこの方の所見はしかし、「虚血性腸炎」にそっくりです。
管が左斜め上から右斜め下に向かって走っているのはわかるでしょう。
それはS状結腸ですけれど、壁が厚くなっています。ほぼ均一に厚くなっています。そして層状の構造は保たれています。内部には白い高輝度の点はありません。(左上にはあります)
炎症で厚くなった粘膜で、内腔はほぼ閉塞した状態であると推測が出来ました。
しかしこれが虚血性腸炎であるならば、激しい下痢と下血があるのが通常です。それが心にひっかかりました。一方このすぐ下には「大腸癌?」と疑わしい、腫れが強く、高輝度の潰瘍を示すような所見がありましたが、これらの所見は併存が可能なのでしょうか。癌の浸潤でS状結腸まで腫れている?腹水もないしまさか!
大腸を内視鏡で見るとすぐに大腸癌は診断出来たのですが、しかしまだ病態が理解出来ません。
1)大腸癌で内腔は塞がって見える
2)しかし腸閉塞の症状はなく、下血もない
3)痛みはある
4)しかし腹膜刺激症状はない
さてどうしたものでしょうか。いざ本当に閉塞したり穿孔してしまえば緊急手術となります。病院の先生方には迷惑はかけられません。
そこで、 http://scholar.google.com にアクセスして
「大腸癌 虚血性大腸炎」
と入力しますとすぐに、
そしてそれらの文献を読むと、
「イレウス症状にはならない」
「穿孔例はなさそうだ」(穿通は報告を見つけました)
とわかりました。細菌感染から敗血症になるのを防ごうと判断し治療を開始しました。
イレウスにはなっていないので、腸内容がスムーズに通り減圧が出来れば、術後の縫合不全の予防にもなるのではないかと思いました。


低残渣食、抗生物質、整腸剤、消化剤、ガスコンで治療をしたところ、痛みは軽快し、腸管内部に空間が出来ているように見えます。(白い高い輝度のある部分は泡があることを示しています)
大腸癌で狭窄し、腸管内圧が高まるとその部分に虚血・浮腫を生じてしまうという仮説があるのですが完全に閉塞したわけではないために、浮腫が新たな狭窄として内圧上昇の原因となり徐々に口側に広がっていき広い範囲での浮腫を生じているのだろうと理解出来ました。

エコーというモダリティには「早いのが取り柄」「内視鏡のように検査中に必ず結論を出さなければならない制限はなく、院内に患者さんがいれば繰り返し写真を撮り直すことが可能」という利点があります。
ただ、この検査は非常に主観的な検査であるというのが欠点でゴールデンスタンダードにはなり得ない。じゃあ、これをゴールデンスタンダードにする方法はないのか、と考えますとそれはロボットによる診断しかないと考えています。

2012/01/08

QC(医療従事者における)

大学院で実験をしているときの話。
様々な測定をするわけですけれど、その測定が正しいかどうかを定期的に検定する作業がありました。正確には自分で行っていたわけではなく、熟練のテクニシャンがして下さるわけです。私はその統計処理の手伝いを少しだけしましたがほとんど横で見ているだけでした。

Quality Control(クオリティ・コントロール/品質管理 略してQC)という作業です。

Attribution Some rights reserved by JD Hancock
4年の大学院を終了して、勉強はしたものの実験の成果を出すことは出来ませんでした。ただ、当時のテーマは内臓脂肪細胞からのサイトカイン放出、例えばTNF-αを基礎とするものでしたがその概念は20年経った今でも色あせるどころかますます輝きを増しており勉強しておいて本当に役立ったと思います。(IRHIOなどといったあまり日本では話題にも上らないテーマをこのブログに書くのもその影響です)

さてQCに話を戻しますが、医者ほどQCが重要な職業もないだろうと思います。ですからいかにして医療の質を向上させて保つか、を真剣に考えねばなりません。
専門医という制度は役に立つかもしれません。
が、それは「一定のレベルに達した(人生のある時点で)」という事を表しているに過ぎません。
それではつまらないではないですか!

大学病院や大きな病院では人と比べる、という事が容易です。
例えばカンファランスなどで議論する。多くの医師や医療従事者、患者から評価を受ける。
そうしたことで相対的な自分の位置はわかりやすいのです。

では医療を個人の医院で行う場合はどうなのか。
自分の実力は評価できるのか。
ということを考えてきました。


  1. 患者の反応で測定する方法。
    • 私の父はいつも20年ぐらい医療を先取りする人なので偉いなと思うのですが、どう患者が反応したかどうかをデータベースに入れていたわけです。上部内視鏡検査のときに鎮静がかかりすぎた場合は0.9、全く反射がない場合は1、のどの挿入時に一回だけゲーと言った場合は1.1、内視鏡の最中にずっとゲーと言っていたが検査に支障はないのが1.2、体動が激しいのが1.3、手が出て内視鏡に支障があったら2、あばれちゃったら3、検査が中止になったら5と言う風に。下部内視鏡検査では痛みを訴えなかったら1、一回だけ「いてっ」と言った場合は1.1、辛そうにしていたら1.2。下部内視鏡検査は辛そうだとすぐにやめてしまうのでそれ以上はありません。
    • 毎年2000を超える内視鏡があるのですが、「果たして自分は良い内視鏡が行えているのか」と自己評価するのです。
  2. ある所見の分布で測定する方法。
    • 胃の粘膜を木村分類で評価するのですけれど、この分布が偏っていないかどうかを自己評価します。もちろん患者数が多いから出来る手法ではあります。
  3. ある所見の検出頻度で評価する方法。
    • 胆嚢ポリープなど一定の確率で出現する所見がちゃんと拾えているかどうかで評価する方法です。上部内視鏡の場合は胃底腺ポリープ(C-1の胃における)の出現頻度が女性で60%を超えているかどうかというのを指標にはしています。大腸においては結腸憩室の頻度が40%に近くなっているかどうかを指標にしています。結局たくさん検査をするから可能になっています。
  4. 長期予後を見る方法。
    • 見落としがなかったかどうかは10年以上長期にわたって患者さんをフォローすることで評価が可能になります。そのためには患者さんを逃してはなりません。そのためには良い医者でなければなりません。ということで、結局高い質をキープしなければ可能にはなりません。電子カルテなので予後を聞き取り調査しやすく、たいへん重宝しています。
  5. 経済性の評価。当院は安いのも取り柄なので。
  6. 患者満足度(リピート率)の評価。決して広告やDMを出さずに来るかどうか。
  7. 今後はスマートフォンなどを使ってリアルタイムにコメディカルや患者がこれらの評価に参加することとする。


これらは今自分で行っているわけですが、電子カルテが勝手に行って医者に限らず医療従事者を評価するようになる。
というのが私の未来像です。
こういうことを10年前からやっていましたので、自分にとっては電子カルテを使わない、というのはありえない話なのです。