ピロリ菌が発見される以前から、ピロリ菌感染の結果として生じる慢性胃炎、胃潰瘍、胃癌についての研究はかなり盛んでした。
木村健先生は、詳細な胃粘膜の観察と組織検査を根拠に「萎縮性胃炎」という概念を「木村・竹本分類」として完成させたと言って良いと思います。
組織学的に胃の腺構造が萎縮していればそれは萎縮した粘膜と呼びますが、厳密には必ずしも見た目と組織が一致はしません。
内視鏡検査は見た目以上の事はわかりませんので、組織学的な「木村・竹本分類」を肉眼的な分類として拡大解釈し1997年より記録を開始しました。すなわち、
C-0、C-1とは萎縮粘膜がない正常な胃粘膜を指します。C-0は主観的に「特にきれいな」粘膜である事を示しています。
C-2はregular arrangement of collecting venules (RAC)が破壊され消失し、やや白色調で血管が透けて見えるような粘膜、すなわち肉眼的な萎縮が胃角〜胃体下部に至るもの。
C-3は肉眼的な萎縮が胃体上部までにとどまるもの。
O-1は肉眼的な萎縮が噴門周囲までにとどまり、大弯の襞はほぼ保たれているもの。
O-3は全体的に大弯の襞が消失し、萎縮が全体にあると考えられるもの。
O-2はそれ以外。
と、肉眼的には分類をしました。1995年頃より試行錯誤し当院院長がほぼマスターした分類を私がそれに一致させました。2名の内視鏡専門医による診断のバラツキはありません。
バラツキを無くす方法にはいくつかありますが、以下2つの方法が主体です。
1)診断医Aが行った検査は、診断医Bが説明する。
これにより、双方の検査を常に監視し合う事ができます。
2)過去の検査結果との擦り合わせを行う。
同じ患者が1〜数年後に検査を受けた場合、萎縮の度合いはほとんど違わないはずです。過去の自分、あるいはお互いの診断と今回の診断が一致するか。一致しなければその理由を学習する事により診断の整合性を高めます。
こうした学習方法は、Quality Control (QC)の一手法として有用です。
数年前より私は、二人主治医制度がQCの手法として最も効率が良い事を主張していますが、それはこうした実績を根拠としています。
QCに本気で取り組んでいる医療機関は少ないかもしれませんし、まず日本の不足したリソースでは無理な話ではあります。当院は恵まれていると言えましょう。
ところでこうして学習し、一致させた萎縮の診断法を用いて20000名強の症例について統計処理をすると当然の結果が導かれます。(上に示した図、単位は%)
すなわち、「萎縮が進むほど、胃癌が発見される率は上昇する」という事です。興味深いのは未分化癌(図ではundiffと書いてあります)も萎縮が進むにつれ増加している事です。
未分化癌はやや白色調である事が多いのです。その理由はリンパ球浸潤が強く、細胞があまり密集していない(高分化癌では腺組織が密集してくるのでやや赤くなることが多い)からです。それを同じく白色調である萎縮粘膜内から探し出すには少々注意が必要です。未分化癌は萎縮していない粘膜に良く発見されるから、「萎縮すると未分化は出てきにくい」という楽観論を唱える先生がいなかったわけではありません。しかしそれは「見つかりにくい」と言い直した方が良さそうです。
個人的には分化と未分化の中間、tub2からporが混在するような癌は本当に色調変化を探すのが難しく最も診断に難渋する相手であると考えています。色むらの不規則性、異常血管などから探し出すわけですが、いつも何か規則性がないのかと自問自答しています。
なぜなら将来は自動診断できなければならないからです。以前私は構造の周波数分析をしていたのですが、色調の周波数分析を加える事でなんとかならないかと考えています。食道癌はすでに自動診断が可能であると考えています。
こんにちは、ある病院では胃の25パーセントが萎縮でO2と言われ、また違う病院ではC2といわれました。上記内容でのO2はそれ以外と書いていますがどのようなものなのでしょうか?この分類は専門家の見た目の判断なのでしょうか?
返信削除胃の25%が萎縮ならばC-2でしょうね。ある病院は間違いだと思います。
返信削除