2009/05/28

定額給付金ドック

定額給付金の目的は、12000円という高いんだか十分なんだかわからない程度のお金を各業界が「よ~いどん」で奪い合う事にあります。
ものすごく知恵を絞ったものが勝利する。

逆に今まで甘やかされていた業界はぴくりとも動かないでしょう。給付金に対する反応の具合で業界のサバイバル能力がわかります。今回の騒動で医療業界が如何に甘いかが良くわかりました。

三浦市立病院のように「定額給付金でドックを受けてみませんか?」セットを販売しているところもありました。元気です。(当直したことありますが、ハードでした・・・)

他にもありましたよ。給付金コースを設定している医院が。私だったら何をするでしょう。以前から主張していますが、「~年齢」とかいう言い方は衒学的で出鱈目、うそっぱちですから、そういうのは測定しません。12000円以内で、検診とは重ならず、かつ役に立つ検査を挙げてみます。私は人間ドックは検診以上に役にたつどころか、良い主治医を探す機会を奪うだけで皆さんが期待するような意味はないと思っています。

さて、健康管理に重要なのは
身長、体重、日々の体温、血圧、尿所見、自覚症状、他覚所見、家族歴、嗜好品
です。これに献血でしてくださる程度の血液検査を加えたのが特定健診です。
絶対値が正常であるかどうか、よりも変化をみるほうが異常は見つけやすい。脳出血を若くして起こす方を遡ってみていくとやはり血圧が高めである、という場合は多いですし。
人間ドックはこれに肺のレントゲン、心電図、胃のバリウム検査、便潜血を加えて、これで4-5万円とると何か言われそうなので肝炎検査、血液型、腫瘍ま~か~なんか加えておく、程度のものです。

では私なら何を測定したいか。そして12000円以内で収めるにはどうしようか、と考えてみました。

■電解質検査(1000円)
重要な割りには行なわれない検査なんですよ。ナトリウム、カリウム、カルシウム、いろいろな情報がつまっています。採血したらすぐさま測定しないとだめなんです。ですから集団検診では無理な「プレミアム検査」の一つです。どうして人間ドックで行われないことが多いのか、おわかりですね?

■TSH(2000円)
甲状腺機能を高脂血症の際に測定しないのは片手落ちだし、いろいろな腫瘍のプロモーターとしての役割も注目されてますね。測定している人間ドックはあります。私はエコーで上甲状腺動脈の血流を見たりもします。(これは高いですよ)

■フェリチン(2000円)
以前に申し上げた、IRHIOという病態、あいかわらず日本では私だけが注目中??とにかく、脂肪肝とは相関しますから、私は大注目。最近、足のムズムズ病ではこれが低い人が多いことも言われてますが、低くない人が足がムズムズするからと鉄剤を飲めば、動脈硬化一直線です。どうして人間ドックで測定しないのかわからない検査のひとつ。超高級ドックがこれを売りにしてるのは見たことがあります。2000円。笑

■ペプシノーゲン検査、抗ヘリコバクターピロリ抗体(2100円:当院値段)
まだ導入していない自治体が多いですから。バリウム検査より良いです。

■シスタチンC(2000円)
CKD(慢性腎臓病)重要ですからね。特定健診で疎かにされているのが腎機能です。

■Lp(a)、RLP-C(8000円)
脂質代謝異常を語るなら、このぐらい見ておかないといけないかなあ。でも、毎月医師に保険診療で測定されている脂質代謝異常の患者さんをお見かけするとなんか辛いです。高いか低いかわかれば、それは目標設定にはなるけれど、毎月こういう高い検査をすることが意味をもつ患者さんは少ない。

■銅、鉄、セレン、亜鉛など金属(それぞれ1000円から5000円ぐらいまで)
なかなか測定する機会もないものでこの際だから・・・ビタミン類だって測定したいですよね。サプリメントを飲んでいる場合、「過剰」が問題です。

■CRP(500円)
これはどうして特定検診に入っていないのか不思議です。毎月外来で測定するならそれは免疫学的検査判断料じゃないだろ、とは思います。個人的にはIL-6はどうなのかと思いますが・・・。

他にも沢山沢山候補はあるでしょうけれど、例えばホルター心電図も良いですよね。
ちなみに当院ではこの類の健診はしていません。電話されても困ります。
あくまで架空のお話ですから、あしからず。

2009/05/25

発熱相談センターでしてくれること

発熱相談センターで相談したときに、新型インフルエンザではなさそうだと推測された場合、あるいは推測された場合でも、「医療機関を受診してください」と言われるそうです。

しかし、医療機関を受診する前にはインフルエンザに限らずあらゆる感染症で電話をしてから受診するべきだと私は考えております。

相談センターの方には一般論として「電話をしてから(医療機関を受診してください)」と説明してほしかったと思います。

では本当にただの発熱で医療機関を受診すべきかという問題はデリケートですので今回は言及しないでおこうと思います。

最近京都大学保険管理センターの「新型インフルエンザに対する緊急情報(第2報)」がきわめて知的であると医師内で評判ですが、その理由のひとつは「熱がある、あるいは熱っぽい場合は自宅で安静にしましょう」という極めて重要かつ基本的な一文が書かれているからにほかなりません。この一文は読む相手が知的でないと通用しません。書く方、読む方、どちらもが知的である場合に限り、「自宅安静」と書いてあっても重症化しそうな場合には「ああ、これは自宅安静ではまずい状況なのでは」という判断が自分で出来、医療機関に相談して受診するなどの正しい判断が出来るだろうと予測できるのです。そうでない場合には、「とりあえず医療機関を受診」という歯にものが詰まったような書き方、言い方しか出来ないのです。

病院に発熱で受診するとき、多くの人の共通した要望は「明日会社に行きたいから」です。風邪薬を飲んでも風邪は治りません。風邪の蔓延を手助けするために医療機関を受診することは残念ながら資本主義における経営の効率化、利潤追求という点でも間違っているのは少し勉強をした人にとっては自明です。風邪は自宅で安静にさせておく事が会社の利益を生むという判断が出来る経営者ばかりなら、しかし、こんなに不況にはなっていませんね。

2009/05/24

膵分離症、Pancreas divisum

デトロイトの叔父、Wayne State UniversityのProf. Choichi Sugawaの元に留学していたとき、印象深かった症例のひとつがPancreas divisum(膵分離症)でした。

膵臓は腹側、背側のふたつの部分から構成されていて、その二つは胎児の頃に合体してそれぞれの膵管は交通があるのが普通です。膵臓の出口は二つあるのですが、たとえそのどちらかが潰れてしまってももう片方から膵液が流れ出るために膵炎になることを防いでいます。ところが先天的にこの二つの膵臓が合体しても膵管が交通せずにバラバラのままの人がいます。これが膵分離症です。

欧米では6%程度、日本人では2%程度とされており、珍しくない状態なのですがもともと交通は非常に細くてERCPでは確認できるもののMRCPでは確認しにくく正確に診断できていないと思います。

副乳頭を生検し、膵炎を起こすのは恐らくdivisumの患者さんだと思います。

例えばこの膵臓分離症の人の副乳頭(副膵管の出口)に炎症などが起き、以後括約筋の異常が起きたと仮定しましょう。するとこの患者さんは周期的に強い腹痛を繰り返すことがあります。膵炎を起こしてくれればわかりやすいのですが、GERDと同様に痛みだけを伴う場合がありやっかいです。というか、日本では完全に無視されている病態だと感じています。

アメリカではクリーブランドクリニックなど、乳頭切除術を積極的に行なう病院があり、かなりの治療成果を挙げています。腹腔鏡的に乳頭切除を行なう方法もあります。世界は進歩しているのに、日本では報告がほとんどありません。一度完全に乗り遅れてしまうと、その分野の研究が日本で進むというのはなかなか難しいです。なぜかというと、いまさら膵分離症を研究してももはや世界とは太刀打ちできないし、日本では教授にもなれませんので医者の興味はそちらに向かないのです。

それでも臨床的には重要な概念のひとつであり、原因不明とされている腹痛の数%は膵臓分離症に伴う痛みである可能性があります。女性に多く、若いころから発症する事が多い病態です。

日本ではERCP後膵炎のリスクのひとつにすら挙がってこない膵臓分離症ですし、MRCPを撮ってみてもあまり所見がはっきりしませんので、なかなか診断が困難な上、治療は乳頭切除という大胆なものですから、敷居が高いのも無理はありません。

しかし診断に難渋している腹痛の患者さんがおられたら、一度コスパノンをお試しいただきたいのです。
胆管膵管系の痛み(尿管も)にはブスコパン、チアトンに比較してコスパノンが圧倒的に効果が高いのは有名だし、日本で「胆道ジスキネジア」としてコスパノンを長期投与されている患者さんの中に上述の病態が隠れているという印象を持っています。
周期的な強い上腹部痛、時にはトリプシンなどが上昇する、あるいは血清アミラーゼが上昇あるいは低下している、膵胆管系に一見して異常が見当たらない場合、胆管、膵管の括約筋機能異常が原因となって生じる痛みではないかと疑ってみる必要があると思うのです。また、通常の上部内視鏡では副乳頭が目立たないかを確認してほしいのです。

小児の膵炎が増えていると聞きますが、これはまた別の話かもしれません。(ただ、「遺伝性」とされる膵炎の中にはこうした形態異常は当然含まれるでしょう)MRCPの解像度がさらに上昇したり、食事前後で機能評価ができるようになったりするとまた別の展開があるのかもしれません。

2009/05/15

アメリカの開業事情から世相を占う

Medscapeを読んでいると、アメリカの開業医のコストカットの極意みたいな記事があった。

コストカットの第一は「電話代」
当院は電話代はそんなにかからないのだけれど、回線をなるべく切り詰めてお得なプランを選択しなさいなどと書いてある。さらには電話代の誤請求が多いとも。
電話代はたかが数千円だと思うけれどそれがトップに来てしまうということはアメリカの開業医はさぞ電話しまくりなのだろうなあ。確かに彼らはセルフォンでずっと話をしているよ、うん。

第二に「無駄なコストを切り詰めよ」
アメリカではすでに電話帳への広告はその価値がないなどとGoogleが盛んに主張しているらしい。当院では幸い広告コストはゼロなのだけれど、広告などの医療外コストはアメリカでは大きいのかもしれない。

第三に「労働時間を減らしなさい」
さすがにアメリカは雇用者の責任なんて関係ない。作業時間を短くするか、それに異を唱えるフルタイムワーカーが居たら辞めていただいてパートタイマーを二人雇いましょうなどと書いてある。そういう考え方が今回の不況の根だと思うけどなあ。

第四に「職員の健康保険を見直しなさい」
ご存じのように、クライスラー、GMがぺちゃんこになった原因は手厚い健康保険。職員の健康保険を安いものに切り替えたり、職員の家族はカバーしないように変更したりしてコストカットしなさいと書いてある。
全く鬼ですね。確かにクライスラー、GMは無駄なくらい福利厚生が充実していたけれどね。

第五に「医師のサラリーキャップ」
大リーグと同じで、医師のサラリーに上限をもうけるというもの。また、スタッフの給料は昇給はなしにして、ボーナスで実質昇給するように払うと良いと。年々、意味もなく昇給するのは確かにおかしいのでこれは良いのかな。

第六に「消耗品は賢く買え」
ま、当たり前なんですが。日本じゃ請求書だの、納品書だの、要求する上に、支払は2カ月後などという慣習を守っている病院が沢山ありそうですね。それじゃあ出入り業者から定価で買わざるを得ず、コストカットは無理ですね。アメリカでも同じような事情がありそうです。

第七に「患者さんとのコミュニケーションをWebベースに替えよ」
要するにダイレクトメールや電話をやめて、Webやメールにしろって事ですね。確かに若い患者さんの場合にはそれで十分ですね。このブログを読んでくれている患者さんもいるようですし。当院はもともとこのコストはゼロなので・・・。インターネットも、自分が個人的に払ってるので経費としては計上してません。計上すべきかもしれないけど・・・。

第八に「家賃を見直せ」
これはやってる人は見たことあります。この不況ですからやむを得ない動きかもしれませんね。
でも、動かせない設備などあるでしょうから、攻防が大変そうだなあ。

第九に「ひとりレイオフしなさい」
うわ~、とうとう。とにかく、お客さんが来ないんだからレイオフしなさいと。アメリカってきついですね。
「ご利用は計画的に」なんて言うコピーがありますけど、これじゃあ何も計画的になんて出来ませんね。

最期に「従業員に相談し、アイディアを求めなさい」
これが最初にあるべきじゃないでしょうかね。でも、そこがアメリカなのかも。
まずレイオフ、残ったもので何とかするという・・・。






ここで面白いなと思ったのが、

1) 集客の努力をせずに、現状のままでコストカットが基本。

2) 医師のスキル、リクルートについては全く不問。

非常に不況らしく現実的な提案だと思ったわけです。日本のコンサルよりははるかにましかな。

2009/05/01

発熱相談センター

秦野保健所より以下のアナウンスが出ています。

新型インフルエンザに対する対応(発熱相談センターを設置しました)

アメリカ・カナダ・メキシコ及び新型インフルエンザ流行地から帰国した人、帰国した人と接触した人などで、発熱などの症状を有する方はまず発熱相談センターに電話してください。
渡航歴のない患者さんの発生に伴って、監視が強化されます。
インフルエンザ症状のある場合の問い合わせ番号は変わりませんが、24時間体制となりました。
ただ、これは随時変わると思われますから、テレビとかラジオではなくてインターネットでの情報収集をお勧めします。テレビはソースのはっきりしない情報を垂れ流しているのが気になりました。

秦野保健福祉事務所
· 相談時間 
8:30~17:00 (17:00以降は下記 神奈川県保健福祉総務課へお願いします。)
· 電話番号
0463-82-1428
※5月18日追記:9:00を8:30に変更


神奈川県保健福祉総務課
· 相談時間
17:00~翌8:30
24時間対応
· 電話番号
045-633-3777
※5月18日追記:9:00-21:00だったのを変更
※5月21日追記:17:00-8:30だったのを変更
045-210-7442
※電話が増設されました。

また、海外渡航歴がなくても発熱者は医院には入らず電話でご連絡をお願いします。車での待機をお願いする場合があります。