2021/01/24

プラセボ効果とノセボ効果

プラセボ効果とかプラシーボ効果、という言葉を聞いたことがあるでしょう。

プラセボ(Placebo)は18世紀に初めて記載がある言葉で、1811年には「患者を喜ばせる薬」としての記載があるそうです。騙しではなく、プラセボ効果も重要な価値なのだ、と再定義したのは1955年の論文であり、以後一般的な概念となっています。→リンク

現代におけるプラセボ効果は、患者の気持ちが前向きであるときに偽薬でも症状の改善が見られる事、が大まかな定義です。例えば新薬の治験に参加する人々は当然気持ちが前向きであるから、偽薬に対してもそれなりに反応して改善を示します。もちろん統計学的にそれを凌駕する治療効果を出さないと薬としては認められません。

一方患者さんが後ろ向きである場合には、効く薬であっても効かなくなるだろう、そういう言葉はきっと定義されているだろうと思っていましたが、最近まで知りませんでした。2020年11月にBBCの報道でそれを見つけるまでは。


元の論文(レター)はNew England Journal of Medicineに掲載されています。→リンク

恥ずかしい事に、2020年2月には同じNew England Journal of Medicineに、「PlaceboとNocebo」という総説(レビュー)が掲載されていたのを自分は見逃しておりました。

ノセボ(Nocebo)効果、と言います。

ノセボ効果は、飲みたくない薬を飲まされたときに、偽薬であっても症状が悪化あるいは副作用を訴える事で、十分な理解と同意なく治療が開始されたときに生じやすい。スタチンによる筋肉痛はノセボ効果が結構あって偽薬でも筋肉痛を訴える事が上に示した論文にかかれています。

スタチンによるノセボ効果は明らかに報道が影響していると思います。現代人は正確ではない報道によって不利益を被りますが、その一つの例です。ワクチン、ステロイド外用……情報の氾濫は大きな混乱を生んでしまいます。

さて、すでに概念として存在する、プラセボ /ノセボという言葉ですが、ラベル付けする事はそもそも意味がないんだという議論もあります。治療をするときには心を尽くして患者さんに説明し理解してもらい、患者さんからどういう反応があったとしても先入観なく淡々と評価する事を繰り返すべき、という主張です。

私自身は患者さんたちとSNSでつながる事で、この問題を解決しようとしています。自分は「これは公正だ」と思う情報を発信し続けますし、患者さんからも迅速にフィードバックをもらう事によって、患者さんの不利益を最小限に出来ないだろうか、という社会実験です。今のところこれは上手くいっているように見えます。