患者さんが「喘息の吸入薬を使うと夜足がつるので困っています。実は吸入を忘れた日が楽だったので気づいたのです」と仰るので、「ああ、それは長時間型β刺激剤(LABA)に伴うものなのですが、あなたの場合にはそれは減量できそうだから処方してくださった先生に相談してみてくださいね、それまでは芍薬甘草湯を夜一度飲んでみてください」とお渡ししたのですが、気管支を拡張するはずのβ刺激剤で、しかも吸入薬で、足がつるのは不思議だな思っていたところ、ひょんな事からこの論文にぶつかりました。
Nocturnal Leg Cramps and Prescription Use That Precedes Them
A Sequence Symmetry Analysis
Scott R. Garrison, MD; Colin R. Dormuth, ScD; Richard L. Morrow, MA; Greg A. Carney, BSc; Karim M. Khan, MD, PhD
Arch Intern Med. 2012;172(2):120-126. doi:10.1001/archinternmed.2011.1029.
足がつる副作用が生じるお薬としては、利尿剤、スタチン、LABAがよく知られています。そしてカナダの医師はその予防としてキニーネを処方するのだそうです。キニーネはマラリアの薬として良く知られています。胃腸、視神経、血液、腎臓の障害のほか心毒性という副作用があるため使用は限定されています。それが足がつるのを予防することに使われるとは驚きです。日本では芍薬甘草湯が特効薬です。これも薬理を知らない先生による濫用により副作用(偽アルドステロン症)の対応をしなければならないことがあり注意は必要ですがはるかに安全です。スタチンによる足の痙攣に対してはコエンザイムQ10も効果があるはずです。
この論文はカナダの先生がキニーネをマラリアではなくもっぱら足の痙攣に使う事を利用して、その処方を追跡し、特定の薬剤が足の痙攣と関係がないかどうかを見ていますが、この手法は日本においても使えそうです。すなわち芍薬甘草湯を処方されている患者を追跡すれば、原因となる薬剤を特定できる可能性はあるのです。利尿剤、スタチン、LABA以外にもあるかもしれないからです。
コクランにもキニーネに関しては載っています。
https://www.cochrane.org/ja/CD005044/NEUROMUSC_jin-jing-luan-nidui-surukininequinine
芍薬甘草湯はまだ世界的ではないのか?
著者らも驚いているのは、カリウム保持性利尿薬のほうがループ利尿薬よりも足の痙攣が多そうだという結果が出ている事です。カリウムが高い低いそれぞれ別の機序なのではないか、と論じていますが、それとは別に後述するマグネシウムとの関連もありそうな気がします。LABAは末梢神経のβ2アドレナリン受容体を刺激することにより筋肉を興奮させるのではないかと考察しています。そうした副作用がある場合には、キニーネを用いるよりはLABAをLAMA(長時間作用型抗コリン薬)に変更する手もあると著者は述べています。
ちなみにドーピングにも使われるアナボリックステロイドにも足がつる副作用があります。
またビタミンD製剤による足の痙攣は低マグネシウム血症による可能性があるそうです。ビタミンD製剤がマグネシウムの排泄に働くからとされていますが、低マグネシウム血症といえばプロトンポンプ阻害薬(PPI)の副作用としても有名なので、留意しておいた方が良さそうです。他に頭痛が生じる場合もあるそうです。
低マグネシウムが生じる原因としてはPPIの他にダイエット、アルコール依存、慢性的なストレス状態、悪化した糖尿病、嘔吐・下痢、食事中のフィチン酸、シュウ酸、浸透圧利尿剤、シスプラチン、シクロスポリン、アンフェタミン、バーター症候群、ギッテルマン症候群があります。
こうした物質どうしの複雑な関係性を理解することは難しく、コンピューターによるシミュレーションが必要なほどです。したがって良く出鱈目な業者や医者がやるように特定の知識からアプローチし、「このサプリメントを飲め、これはだめだ」的な論旨を展開していく人がいるとしたら、それは詐欺やトンデモ医療を誘発するので注意が必要です。
まずは疫学や、患者さん一人一人の症状から逆行して考えていくのが正しいアプローチだろうと思います。
ちなみに当院の患者さんが「足がつる薬を下さい」と仰ったら、それは「足がつるので、つらないようにする薬を下さい」という意味です。大抵は草むしりのしすぎだったりします。