2019/08/28

骨盤内癒着の話

骨盤内癒着とは
他の病院で大腸内視鏡検査が痛かった、入らなかった、という場合にS状結腸が骨盤と癒着している事が多く、特に中年以後の女性、あるいは高齢の男性で経験します。
この場合の癒着とは、S状結腸の漿膜(外側の膜)が骨盤のどこか(卵巣などの他臓器や骨盤の壁)に接着していることを意味しますが、女性の場合には排卵をするからその時に漿液や血液が出るからでしょうし、男性の場合には憩室炎が原因であることが多いように思います。手術を受けた事によって生じる癒着もあります。癒着は卵巣から排卵する女性ではどうしても起こるし、若い頃よりは年をとってからのほうが影響が多いのである程度やむを得ないことだと思います。大腸内視鏡検査を50歳で受けたほうが良い理由の沢山あるうちの一つは年齢が上がるほどこういう困難が増すからです。

蛇行した川と自由に形を変えられないS状結腸とは似ています。
癒着があるときの便通異常
癒着をしていると腸が伸びなくなってしまい、屈曲が強い状態なのでバナナのようなうんちが作れなくなります。どうしてもコロコロして硬いか、逆にとても柔らかくなるか、どちらかになってしまう。ただし骨盤内の癒着は、腸閉塞になることはまずない(狭すぎて絞扼性イレウスにはなりにくいのです)ので、心配しすぎない事が大切。

治療方針
治療方針としては、細くて柔らかい状態に便通をコントロールする事で、極端な下痢になることを防ぎます。また、ガスが症状を悪化させるので、それを減らすように生活指導や投薬を行います。

ガスを減らすには?
①良く咀嚼しましょう
ガスの多くは炭水化物が分解されたものなので(一部は飲み込んだ空気です)、よく噛むと唾液のアミラーゼが出て食べ物と混ざるので炭水化物が分解されやすいです。
②繊維質はとりすぎ注意、水溶性繊維はOK
繊維質は消化を邪魔して血糖は上げにくいし良いものだけれども、ガスに関しては増やしてしまうから、なるべく水溶性の繊維が良い。(水溶性繊維の簡単な見分け方=煮てみてどろどろになる、例えば豆、フルーツのように煮崩れる食材がそれ。野菜の多くは残念ながらガスは増える)
③お薬を出すときがある
水溶性繊維を模したのがポリカルボフィルカルシウムという薬です。(他にも色々ありますが)ポリカルボフィルカルシウムは吸水性の高分子で、水溶性の食物繊維のように体内で振る舞います。その他消化剤やガスコンを追加することがあります。
④腸内細菌を整えます
腸内細菌のうちメタン産生菌が多くなるとガスが増えてしまい、辛いので、ビフィズス菌や乳酸菌、酪酸菌を増やして相対的にそれらのメタン産生菌をへらす事が大切。
ビールは腸内細菌を増やすからいい反面ガスが増えたり、下剤っぽくなる場合があるから、自分にとっては良いのか?という事を考えて飲むと良いです。アルコールは便通が柔らかくなることを前提に飲むと良い。
⑤運動をしましょう
運動はとても良くて、楽しんでできるものを探すと良いです。どんな運動も効果があると思います。
⑥低FODMAP食を試してみる
みなさんがお腹に良い、と思っている食べ物の多くは「高FODMAP」と言って、ガスの産生が多くなる食べ物ですから、その逆をやってみる、という事です。

80点を目標にする
医師と良くコミニュケーションして、自分にとっての80点を目指して治療をしていきましょう。ずっと通う必要がある場合もありますから、ご容赦下さい。

免責事項
骨盤内癒着による便通異常はあまり教科書や論文やインターネット上にはない、あるいは消化器内科の先生に話しても「あ、そう?」程度で終わってしまう疾患概念ですが、沢山の患者さんを診た(たかだか1万ぐらいですが)結果、確かにこういう人々がいる、と思っております。20-30歳代女性の下腹部痛の中にも癒着ではないけれども卵巣など女性器と関連した自覚症状、便通異常が見られる場合が多く、その場合には上記の指導を参考にして下さい。ただしこれは私個人の経験によるものであり、患者さんに偏りがある事を十分にご考慮いただけますと幸いです。

2019/08/18

カフェインとコレステロール

コレステロールが高い若い人々を多く見るようになったが、実際に上昇トレンドなのか、採血をする機会が増えたせいで目立つのかはわからない。日本赤十字社はデータを持っているはずだが公開しておらず、彼ららしいと思う。(正常値の決定に利用などはされているようだ)データのオープン化は社会貢献のひとつだと思うし、ナショナルデータベース云々よりも以前に議論されなかったのは不思議だ。(貴重な食後のデータも含まれるのに)

カフェイン摂取量など生活習慣の変化と関連している可能性は当然ある。カフェイン摂取者でコレステロールが上昇するとの観察研究はとても多いのだ。
仮にカフェインが原因であるならば機序はなにか。ゆっくり調べたことはなかったのだが、二次性高脂血症には利尿剤が原因となるものがあるのは有名である。例えばサイアザイドやループ利尿薬はコレステロールが上昇する。カフェインは利尿剤の一種なのであるから、どこかで機序がかぶってもおかしくはなかろうと患者さんには説明している。(機序に関して書かれた論文を探しているのだがまだ見つけられない)

コーヒーはノンカフェインであってもコレステロールを上昇させると言われている。だからといってそれが有害だとは思わないが。コーヒーの油、ジテルペン内にはカフェストールという物質が含まれ、これがコレステロールを上げるというのだ。例えばコーヒーを金属フィルターを使って濾した場合には油が浮いているのが見える。一方ドリップコーヒーの場合にはほとんど吸着されてしまいカフェストールは含まないとされている。エスプレッソには若干含まれる。だったら猿田彦珈琲で金属フィルターで濾過したコーヒーは?

一方コーヒーにはポリフェノール(クロロゲン酸)は豊富であるし、抗酸化作用もあるとされるから、相殺される?ぶっちゃけどうでも良い話である。
コーヒー1杯あたりのカフェイン量は60mg程度である事は覚えておいて良い常識である。常識と書いたが一体何ccだ?(平均すると140cc程度のようだ)高温で抽出するエスプレッソは、少しカフェインが飛ぶので少なめになる。多量にカフェインを含むはずなのに玉露では覚醒作用が弱い気がするのはタンニン(ポリフェノールの一種)のせいだとされるが、タンニンとポリフェノールの違いはカフェインとの結合率のようである。


茶カテキンの構造


コーヒーのクロロゲン酸はタンニンとしての活性がほとんどない

さて、若年者でコレステロールが高い人にインタビューを繰り返していると、エナジードリンクへの嗜好が有意に高そうだと気付いて妙に納得してしまった。(一方で脂肪肝など肝障害においてはストロング系アルコール飲料を飲んでいる人が特にやばい印象がある)
エナジードリンクにはカフェインの悪い作用を打ち消してくれそうな成分が何もない。

カフェインでコレステロールが上昇する機序はわからないと書いたが、インスリン感受性の低下、胆汁酸の分泌抑制などが考えられており、エストロゲンには保護的作用があるらしく、男性でより上昇することは現状を良く説明するように思われる。

こうした現代の脂質プロファイルの変化については、一層注意を払っていきたいと思う。