2014/06/25

一般診療における「紛れ込み」について

いろいろな検査や治療、薬には常に有害事象が起きる事があります。
ワクチンのあとに調子が悪くなった、と訴える患者さんの中にはワクチンとは関係のない事象があって、これを「紛れ込み」(ニセの有害事象)と称したりします。しばしばこれらを利用して、反ワクチンの材料に使われてしまうことに心を痛めています。
医師と患者との信頼関係が問われます。

我々の行う一般診療にも常に「紛れ込み」が存在します。

検査のあとに調子が悪かった、という事例を詳細に調査をすると全く関連のない熱中症であったりという例があります。

それがニセの有害事象であっても本当の有害事象であっても我々の対処方法は同じです。患者さんの健康が現状に復帰できるよう、全力で努力をする。

一般診療における有害事象について、私が関わるのは以下の4通りです。

1)他院での診療での紛れ込み
2)他院での診療での真の有害事象
3)自院の診療での紛れ込み
4)自院の診療での真の有害事象

やることは同じであるのに、心理的なストレスはあまりにも違います。
1)、2)では私はストレスをあまり感じません。そして他院の先生にストレスをかけまいという余裕すら発揮します。
一方、3)、4)においては極めて大きなストレスを感じます。淡々と現状復帰に努力すれば良いのにも関わらずです。例えばピロリ菌除菌時の薬疹です。

紛れ込みが起きやすい人というのはどうしてもいます。高齢者は我々が予期しないような行動を起こすことがありますし、そもそも病気になりやすいのです。真の有害事象を減らすことは出来ませんが、紛れ込み事故を防ぐことはもしかしたら可能かもしれない。それには患者のバックグラウンドを精査したり、ICTを用いてライフログを分析するといった対処方法が考えられます。

医療におけるICTの活用は、例えばQCに使用するなどいろいろなアイディアがあるのですが、紛れ込み事故を防ぐ事も出来るのではないか、と考えています。ライフログは有用につかえば大変に素晴らしい可能性を秘めていますが、詐欺にも簡単に使えてしまうという諸刃の剣です。CCCをはじめとした各社が躍起になって集めている個人情報ですが、どうか悪用されることなく有用に使われて欲しいと心から思います。

私はこれらの個人情報の取り扱いについて、開業医なり基幹病院なりをひとつの単位として「カプセル化」「オブジェクト化」することを考えています。良く、オブジェクト思考では中身を隠蔽してしまうという事をやります。開業医を一つの単位としてそこに1000人の患者さんを集めて、「この薬飲んでる人何人いる?」「13人」「その人達の平均年齢と標準偏差は?」「45歳±3.2歳」などと言うふうに、個人情報を関数化するわけです。こうすれば個人情報はヒポクラテスの誓いにがんじがらめになっている医師の良識に守られる、ということになります。この方法は企業にとっては頭に来る方法かもしれませんが、ライフログを悪用されないためにはなかなか良い方法だと思うのですけれどもね。

2014/06/19

健康管理プラットフォーム競争

アップル:ヘルスキット
サムスン:SAMI:クラウド
グーグル:グーグルフィット:ブレスレット型

これらに共通するのは、「統合」というキーワード。

血圧
体重
体温
呼吸
脈波
心電図
筋電図
脳波
SaO2
CO2
インピーダンス
運動量(加速度)
食事(栄養)
アルコール
喫煙
投薬
サプリメント
睡眠
怪我
病気
Webアクセス履歴
+α(プロファイリングからわかる色々な事:異常行動を含めて)

応用例:ホーム転落事故、突然死をスマートフォンで防止する、など。

これらのデータをどう統合していくか、まずはサンプルとしてデータがないと研究も進まない。世界的には数百兆円市場であるから、注目に値する。日本以外の国の医療は比較的大雑把なのでコンピューターにしっかり記録されている情報は投薬、手術、処置程度だ。軽微な病気でもフリーアクセスで受診出来る日本のような国は世界には例がなく、やる気があれば世界をリードできるインフラが整っているのが日本だ。そして最もこれらのデータの応用に関して実践的な知識を持っているのは手前味噌だけれど電子カルテダイナミクスのユーザーだ。
もしも本気で応用に取り組みたいメーカーがおられたら、電子カルテダイナミクスを使用中の医師にコンサルテーションを頼むと良い。無尽蔵のアイディアを持っているはずだ。

2014/06/13

曲解について

メタ知識で生きている人とそうじゃない人を見分けるにはこんな会話をすれば良い。

「先生便秘なんですが」

「便秘にはランニング」

「ああ、運動ですね」

「違います。ランニング」

「歩くのじゃダメですか?」

「いいえ、ランニング」

「へー」

なぜランニングなのか、という事について考える人かどうか。もちろんすぐに「どうしてですか?」と聞く人もやはりメタ知識で生きている人ですが。

「先生便秘なんですが」

「定期的にこのお薬を使ってみたらどうでしょう」

「使えません。他の方法ないですか?」

「んーじゃあ、あなたのやり方でいいや」

「先生、やっぱり便秘です」

「でもお薬使えないんでしょう?」

「先生私の方法で良いって言ったじゃないですか」

これはネゴシエーションが出来ない人です。よくある会話ですが、ボタンの掛け違いをどこでやってしまっているのかを本人に気づかせるには会話を全部録音するしかないのかもしれません。日本語の言語構造が難しいと思う理由は、揚げ足の取り合いをしているうちに意味が変わりやすいから。曲解の起きやすい言語ではないか、と思います。

2014/06/10

貧血と浮腫

簡単に説明するという事は大切なんですが、簡単にしたはずの説明も、その人がちゃんと家事ができないと理解が出来なかったりする。簡単な説明というのは生活に直結させて行うことが多いからです。

「今浮腫んでいるのは貧血のせいですよ」

「ああそうなんですか」

で終わっちゃう人が多いです。これは物事の仕組みをあまり考えようとしない人だし、浮腫があると全部貧血だと思う場合があります。こういう反応は私は望んではいない。

「今浮腫んでいるのは貧血のせいですよ」

「?」

となる人は筋があって、どうしてか考えている人です。そういう人にはこんな喩え話をする。

「血液が通っている血管って、メッシュなんです。布みたいな。濃いシチューと薄いシチューがあって、布で濾してみるとどっちが簡単に水が滲み出てきます?」

「薄いシチュー」

「そう、サラサラしている方が水が外に出てくる。同様に貧血のほうが血管から水が滲み出てくるから浮腫みやすいとうい原理」

「サラサラとドロドロだとサラサラが良いように思いますけれどね」

「程度問題ですよね」

みたいな話題は料理を知らない人にしても通じないのです。ちょっと凝った料理を作ったことがあれば雰囲気は掴みやすいはずなのですが。

同様に腸内細菌叢の話も、パンだとかの発酵を知らない人に説明してもまるで理解は出来ない。

自分の子供に限らず、子供は手伝いをすべきだと思いますが、衣食住にかかわる事柄は人類の大事な共通言語の一つだと考えます。言葉だけが共通でもしょうがない。生きるための知恵が共有されていると医療のような場では極めて有用です。

家のお手伝いには共通言語を育むという効用がありますのでそれが出来る子が強いというのは当然の事のように思います。

(この記事を書く背景には「デザイン言語」という授業を大学で聞いた経験があります)

2014/06/06

電子お薬手帳(本論)

序論が長いのですが、長すぎるため本論のみ公開します。

アメリカ合衆国の電子処方箋には以下の特徴があります。
  1. 腎障害の情報が入る(クレアチニン値)
  2. すべてのお薬をその場で用意できる薬局がインターネットで選択できる(待たされない)
  3. 安価な薬の中からさらに選択が出来る(これがザ・ジェネリックですよ、と薬局の都合で押し付けられることは避けられる)
  4. リフィルが出来る
  5. 市販後調査が出来る
どうですか。なんだか敗北感がしませんか?
もともとアメリカは処方箋が医師の手書きだったので、「読めない」という疑義照会が多かったそう。それが「読める!」というので日本よりも先に電子処方箋の普及が始まっているようです。

それに対して、日本の電子お薬手帳の仕様はこれです。

  • 患者氏名・性別・生年月日
  • 調剤年月日
  • 調剤医療機関名称・都道府県・医科歯科の別・医療機関コード・医師氏名
  • 処方医療機関名称・都道府県・医科歯科の別・医療機関コード・医師氏名・診療科
  • 処方番号・薬品名称・用量・単位名・薬品コード識別・薬品コード
  •  補足情報
  •  用法レコード
  • 備考レコード

笑っちゃいますか?落胆しますか?
  1. 処方ミス(腎障害は良く見落とされる)を防ぐ仕組みはあるのか?
  2. 電子的だからこそ役立つ仕組みがあるのか?
  3. 患者さんの利益になるのか?
  4. それが公益に貢献するのか?
何も満たしていません。
日本の場合、QR処方箋という仕組みの下位互換で作っているのが丸見えなんですね。
全然役立つ「お薬手帳」ではないのです。

少なくとも仕様書に絶対的に欠けているものは、
1)処方・調剤した医師・薬剤師への連絡手段がない=電話番号などが入らない
2)ロット番号などの情報がない=トレーサビリティがない

です。上記仕様ではお薬手帳として何の役にも立たないのです。
彼らの言い訳としては「データを小さくしたいから」というものを用意しているでしょうが、そんな言い訳は断じて認めません。コード化(もともと用意されています)すればもっともっとデータは小さく出来るのですから。
仕様策定のメンバーに自分を入れて欲しかったと思います。
そこで我々は、備考レコードにこれらの情報を入れることにしています。
どの電子お薬手帳アプリでも、ちゃんと仕様通りに作っていれば読み込んでくれるはずです。

お薬の情報は極めてプライベートな情報ですので、広告などはもってのほかだと思います。
私自身はお薬情報を使用した広告、CCC(カルチュアコンビニエンスなんちゃら)などによる情報収集には極力反対していく立場ですが、副作用の追跡には役立つ仕組みなので、普及させたいなという思いはあります。

第一歩として、
の2つのアプリケーションが用意されました。私が使っている電子カルテのメーカー、ダイナミクスから無料で提供されています。(もちろん広告も出ません)吉原先生に感謝。

私が使っている電子カルテからは、テキストファイルやQRコードでデータをお渡しします。

私のメールアドレスと電話番号は入るようになっています。

仕様は同じなので誰が作って頂いてもよろしいと思いますが、絶対に必要な機能、例えば患者さんの電子お薬手帳から、初診でかかる病院の電子カルテへ情報を受け渡す、(MFC経由でもQRコード経由でも良いのですが)というような仕組みを提案していくつもりです。皆さんが大きな利益を得られるような仕組みにするのが当面の目標です。

みなさまのご意見を大歓迎いたします。