2008/12/29

萎縮とは何か

ピロリ菌が発見される以前から、ピロリ菌感染の結果として生じる慢性胃炎、胃潰瘍、胃癌についての研究はかなり盛んでした。
木村健先生は、詳細な胃粘膜の観察と組織検査を根拠に「萎縮性胃炎」という概念を「木村・竹本分類」として完成させたと言って良いと思います。
組織学的に胃の腺構造が萎縮していればそれは萎縮した粘膜と呼びますが、厳密には必ずしも見た目と組織が一致はしません。
内視鏡検査は見た目以上の事はわかりませんので、組織学的な「木村・竹本分類」を肉眼的な分類として拡大解釈し1997年より記録を開始しました。すなわち、

C-0、C-1とは萎縮粘膜がない正常な胃粘膜を指します。C-0は主観的に「特にきれいな」粘膜である事を示しています。
C-2はregular arrangement of collecting venules (RAC)が破壊され消失し、やや白色調で血管が透けて見えるような粘膜、すなわち肉眼的な萎縮が胃角〜胃体下部に至るもの。
C-3は肉眼的な萎縮が胃体上部までにとどまるもの。
O-1は肉眼的な萎縮が噴門周囲までにとどまり、大弯の襞はほぼ保たれているもの。
O-3は全体的に大弯の襞が消失し、萎縮が全体にあると考えられるもの。
O-2はそれ以外。

と、肉眼的には分類をしました。1995年頃より試行錯誤し当院院長がほぼマスターした分類を私がそれに一致させました。2名の内視鏡専門医による診断のバラツキはありません。
バラツキを無くす方法にはいくつかありますが、以下2つの方法が主体です。

1)診断医Aが行った検査は、診断医Bが説明する。
これにより、双方の検査を常に監視し合う事ができます。
2)過去の検査結果との擦り合わせを行う。
同じ患者が1〜数年後に検査を受けた場合、萎縮の度合いはほとんど違わないはずです。過去の自分、あるいはお互いの診断と今回の診断が一致するか。一致しなければその理由を学習する事により診断の整合性を高めます。

こうした学習方法は、Quality Control (QC)の一手法として有用です。
数年前より私は、二人主治医制度がQCの手法として最も効率が良い事を主張していますが、それはこうした実績を根拠としています。

QCに本気で取り組んでいる医療機関は少ないかもしれませんし、まず日本の不足したリソースでは無理な話ではあります。当院は恵まれていると言えましょう。



ところでこうして学習し、一致させた萎縮の診断法を用いて20000名強の症例について統計処理をすると当然の結果が導かれます。(上に示した図、単位は%)

すなわち、「萎縮が進むほど、胃癌が発見される率は上昇する」という事です。興味深いのは未分化癌(図ではundiffと書いてあります)も萎縮が進むにつれ増加している事です。

未分化癌はやや白色調である事が多いのです。その理由はリンパ球浸潤が強く、細胞があまり密集していない(高分化癌では腺組織が密集してくるのでやや赤くなることが多い)からです。それを同じく白色調である萎縮粘膜内から探し出すには少々注意が必要です。未分化癌は萎縮していない粘膜に良く発見されるから、「萎縮すると未分化は出てきにくい」という楽観論を唱える先生がいなかったわけではありません。しかしそれは「見つかりにくい」と言い直した方が良さそうです。

個人的には分化と未分化の中間、tub2からporが混在するような癌は本当に色調変化を探すのが難しく最も診断に難渋する相手であると考えています。色むらの不規則性、異常血管などから探し出すわけですが、いつも何か規則性がないのかと自問自答しています。

なぜなら将来は自動診断できなければならないからです。以前私は構造の周波数分析をしていたのですが、色調の周波数分析を加える事でなんとかならないかと考えています。食道癌はすでに自動診断が可能であると考えています。

2008/12/22

K-PACS >> CONQUEST の面白い挙動

他院からのDICOM画像を、DICOM HEADERを参照したりあるいはCD-ROMをスキャンしたりしてK-PACSで表示させると、それらの画像はK-PACSのローカルデータベース(キャッシュ)に保存される。

そのローカルデータベースは期限を切らなければずっと保管されるので当院のように症例数が少ない場合にはそのまま使用しておけばそれで良いのである。

しかしそれをやはり保管しておこうと思ってそのままDICOMサーバーであるCONQUESTにTRANSFERしても失敗してしまう。

しかし実際には成功する。なぜか。

正しい手順では、K-PACSで画像を管理する目的で患者IDを当院IDに手動でMODIFYを行う。するとすべてのローカルデータベース(キャッシュ)が書き換えられる。

そのあとで、CONQUESTにTRANSFERすると不思議な事に成功するのである。

面白い挙動だが、患者IDのMODIFYを思い出させてくれる、私にとっては便利な仕様だし、またある人にとってはどうしてもうまくいかないと投げ出す原因ともなるだろう。

今回のエントリーで半角英文字で書いた部分はK-PACSで押すボタンの名前です。ご参考までに。

2008/12/18

バレット上皮

(2013/11/1に内容をアップデートしました。さらに食道腺癌が増えているのです)

バレット食道:1900年代からECJに円柱上皮があるとの報告有。1950年初頭にBarrett先生がECJの潰瘍を報告、すぐに追試が出てBarrett潰瘍と呼ばれたが一旦Barrett先生はその論文は取り下げる。しかし1957年ごろにやはり円柱上皮があると報告している。それが追試され周知されたのは1970年ごろである。日本で最初の1例報告がやはり1970年代で、1990年代から非常にポピュラーになっている。

バレット上皮からどのくらいの発癌があるかというのが問題です。
欧米での有病率ですが、イギリスの統計によれば10万人に対して13.6人が食道癌になり、その5割以上が腺癌であるとのことです。10万に対して7人ぐらい、と考えれば良いでしょう。男性:女性は3:1です。
日本では10万人に対して16.1人。男性:女性は5:1(扁平上皮癌は腺癌よりもさらに男女差が大きい:酒タバコのせいです)このうち腺癌はかつては1%程度。現在は5%程度ということです。つまり10万人に対して0.8人ぐらい。まだ欧米の10分の1ぐらいです。

これは全人口に対しての比率ですから、母集団を絞り込んでこの比率をどう上げていくかが大切です。65歳以上ではリスクは跳ね上がりまして、3倍程度になります。それで10万に対して2.4人になりました。これをせめて10ぐらいにもっていかないとスクリーニングの意味がなくなってしまいます。ちなみに乳房は99.5です。胃もそのぐらいです。

ちなみに交通事故死は10万人に対して4.8人(2010年)ぐらいだと思うので、これ以下のインシデンスしかない病気を積極的に心配することに意味があるのか、という議論はあると思うのです。

年間2000人の患者さんを見ている当院では、しかも女性が非常に多いので食道癌がきわめて少なく、年間数名見つけられるかどうかという確率です。(この記事を書いて以後、NBIが活躍してくれてその数倍のペースで見つけてはいます)扁平上皮癌はまだ良いのです。ADH2欠損や、食道パピローマ(このリスクは日本では明らかでは無いけれど、子宮頚癌のHPV16, HPV18への関与を考えればsexual habitの変化した現代ではHPV16, HPV18によるパピローマが咽頭食道癌のリスクである可能性が十分にあるために、咽頭食道のパピローマは記載し、できればHPVの型を診断しておく必要があると考えています)を目安に出来ますし、NBIという武器を手にしてからは全員にヨード撒布をしないで済むのですから。しかし腺癌は難しい。最近では目が慣れてきて腸上皮化生の生じているバレット上皮が少しわかるようになってきました。その部分の生検をするのですが、まだバレット上皮由来の腺癌を診断したことはありません。(この記事を書いて以後、食道腺癌を2名診断したのですが、アルコールを極めて多く飲む方なので患者背景が普通ではない)

このようなチャレンジはしかし不毛のチャレンジかも知れません。
1000人に1人以下というリスクでは、診断にかかるコストが2000万円を超えることになってしまいます。
なんとしてもリスクによって患者さんを絞り込む必要があるのです。逆流の関与だけでは十分とは言えません。(アルコール摂取量が多い人々(3合以上)はその対象としての候補になりますがメタ解析ではそこまで沢山飲む人々を区別してはいないのが残念です)

そこでバレット食道です。これは腺癌の明らかなというより直接のリスクです。
バレット食道の有病率ですが、日本ではLSBEが0.4%、SSBEが40%(5mm)、12.6%(10mm)だそうです。残念なことに特にSSBEが多すぎる。
Sikkema、Desaiのメタ解析により、多めに見積もって1000人中5.6人が発がんすると言います。さらに詳しくみるとLSBEの発がん率はLSBEで0.33%/年、SSBEで0.19%/年だそうですが、これを日本に当てはめられるでしょうか。まだ10万人のうち0.8人ですから、SSBEの比率から考慮すれば計算が合わないわけですが、高齢者の8割が若いころにはピロリ菌感染があって若いころにバレット食道が進まなかった、というような仮説をとると日本では幼少期から老年までピロリ菌がいなかったという人口が欧米の数分の1になるため、10倍を一気に相殺は出来ないかもしれないけれども2、3倍というところまで行くのかも知れない。ちなみに日本でははじめて行った内視鏡でLSBEに癌を併発したものは15.2%、SSBEに癌は0.91%であった、という事です。日本では亀背にともなうLSBEがとても多いという事。

バレットがいつ出来るかについては、Cameronの1992年の論文で「出来るときは一気に出来る。その後は伸びない」という説があるのですが、日本では徐々に進行するという報告があります。いずれにせよ若い方の内視鏡は特にSSBEについて詳細に記録することは重要に思います。それがない内視鏡は無意味という気すらします。

やはり遺伝は関与するらしいという報告が欧米ではあるようです。遺伝でリスクを絞り込む、というはひとつの方法です。もう一つのトピックとしてはラジオ波焼灼療法があります。
(バレット腺癌の問題は、ラジオ波焼灼療法により消滅してしまった・・・と2011年にはヨーロッパで最大のトピックになったのです。発生母地となるバレット粘膜をラジオ波という電波の一種で一気に焼いてしまう手法です。日本ではまだ行われていません。ヨーロッパでのバレット腺癌は、LSBE(long segment Barrett esophagus:3cm以上あるバレット粘膜)を母地とすることが多いため、LSBEを見つけたら焼いてしまえば大半の癌が予防できる、という発想です)…ただしアメリカでの成績が悪いらしく、まだ評価は割れているそうです。

以上をまとめますと、日本では、今のところ逆流性食道炎からバレット上皮、そして発癌するという事例が稀なので、癌になるから全員に対して逆流性食道炎の治療を、という事を言うドクターがいらっしゃるとすれば、それは勇み足です。SSBE(short segment Barrett esophagus:3cm以下の長さのバレット粘膜)を見つけたら、患者さんの自覚症状と良く相談しつつ、日本の医療費を圧迫しないようにどのようにフォローしようか、今まさに考え中、というところです。

まずは正しい診断ですが、これが難しいという事。κ係数(kappa statistic=診断の一致率)は0.4を満たすという事が全くないようです。萎縮と同じですね。
まずECJは棚状血管、胃の襞の上端を目安にする。場合によって扁平上皮島を目安にする。
記述はC&M分類を使うのが標準ということ。
 
棚状血管については De Carvalho CAF: Sur l’angio-architecture veineuse de la zone de transition œsophago-gastrique et son interprétation fonctionnelle. Acta Anat 1966;64:125–162. が最初の論文とのこと。以後加藤洋先生などによる報告がありますが、これはバレット上皮を語るときには非常に基本になります。

早期発見にはIIb型の異形を見つけることが大切で、それにはまず棚状血管を透見出来ない粘膜を探すこと。炎症があると鑑別が難しいからバレットのフォローの場合先に2週間以上PPIを使っておくこと。NBIなどのIEE(Image-enhanced Endoscopy)は重要で、血管密度は炎症と関連しCOX-2の発現と相関するからそれを目安にすると良い事。クリスタルバイオレット染色で腺管構造が丸く閉じているclose typeは正常粘膜であるが、閉じていないopen typeは異形を示すので鑑別がとてもしやすいこと。クリスタルバイオレットがない場合には濃いインジゴカルミンを使う事。などの工夫があります。もちろん深吸気は必須です。
酢酸は少し蛋白質が変性するためirregularに見えるので慣れるまでは非推奨とのこと。
12時~3時方向に多いが、これは平滑筋が薄いのでその部分が逆流しやすいのではないかと。
(マロリーワイスが多いのもこの方向です。同意)

発がんにはcreeping theory, stem cell theoryなどがあること。レタスなどに多い硝酸塩は唾液中に分泌されこれがアスコルビン酸と反応するとNOとなりこれが円柱上皮化を来たす説。キャンピロバクターなどの細菌説などがあるそうです。COX-2は確実に悪くて(特に表層発現すると悪い)、アスピリンやスタチンによる抑制はエビデンスがあるということ。胆汁はどう関与するのか。胆石のある人に多いという報告があるけれど、胆石がある人の胆汁は疏水比(水に溶けにくい胆汁酸の多さ)が高いという事。疏水比が高いほど細胞障害性が強くて発がんに関与するのではないか。一方pH3以下でないと胆汁は悪さをしないので胃酸との共同作業であるだろうということ。(胆石がある人は胆汁の逆流も多い、という事も関係があるかもしれません。また細菌説と関係しますが二次胆汁酸が悪さをする可能性もあると思いました。膵液については分子量が大きく研究が極めて困難という事。ただ、胃全摘後にバレットが進行する例もあるので、膵液の役割も無視は出来ないだろう)これらの発がんはUCのcolitic cancerと似た部分がある。危険因子が大腸ポリープと似ているので調べてみると確かにバレット食道と大腸ポリープとの併存例が多いという事。

一方再扁平上皮化という事もおこり、生検をすると30%がそうなると。特にPPIを飲んでいるような炎症の抑えられた人では良く生じるという事です。

確実な発がんのリスク因子としては高齢、男性、食道裂孔ヘルニア(日本)、タバコ、肥満(特に内臓脂肪型肥満)、ピロリ菌陰性、LSBE、GERD+逆流性食道炎などがあるそうです。内臓脂肪型肥満はありとあらゆる癌を増やすので当然か。アルコールはメタ解析で否定されているそうです。

フォロー間隔はこれらの人々では年1回、それ以外は数年に1度程度が良いかもしれない。LSBEは半年に一度、しかもキャップつけて、という事になります。

スタチンはコレステロールを下げますが、これ自体で救われるのは年間2000人に1人しかいないとしても、それ以外のことで役立つかもしれない(インフルエンザの脂肪死亡率を下げるとか、癌を抑制するとか)ので、OTCになったら飲みたい人は飲んでいて良いのではないかとか思います。ふた昔前の日本の防御因子系胃薬は、何の役にも経っていなかったかもしれないけれど、実はその抗酸化作用で長寿に貢献した可能性もあるのですよね。

以上、ネタの半分以上は天野祐二先生のお話や論文からの引用です。天野先生は確実に日本のバレット食道のオピニオンリーダーなので先生の論文を追って行けば大丈夫のように思います。

話は変わりますが、欧米人は自分の名前を病名に使いたがりますがこれには困ることがあります。
例えばBarrettをGoogleで調べようとしますと、個人としてのBarrettさんがいっぱいひっかかってくるわけです。
よく、カルテは日本語で書けなどと言う人が多くなってきましたが、固有名詞には人名や地名など色々あるわけです。日本語で書くことでそれらが混乱すればデータマイニングどころではない。

病名に人名がつきますと、例えば食道癌の事を佐藤病などと呼んでいるようなものなのでデータマイニングどころではありません。

ところが日本語には解決方法がある。日本語は生まれながらにして、マルチリンガルな言語です。橋本病も、カルテに書く場合にはHashimotoと書けば解決するのです。日本語最高。そして、こうしたHashimotoというような記述を見つけて、「日本語で書きましょう」などと指導する人がいるのは最悪です。

カルテをマルチリンガルに書くのはデータマイニングのためでもある。



また話があさっての方向に行きました。

2008/12/17

Functional Dyspepsia と、 PPI

ROME II で定義された Functional dyspepsia を満たす患者さんはほとんどいません。
まず、12カ月のうち12週という定義ですが、そんな症状をいちいち記録している人がおりません。しかし丁寧に問診をして期間を決定する事は可能です。実際には Functional dyspepsiaと診断する事が重要なのではなく患者さんの苦しみをとる方が重要なのにいきなりこの定義を最初に持ってくるのは間違いだと思います。仮に100歩ゆずってこの条件を満たしたとして次の器質的疾患の部分で壁にあたってしまいます。
すなわち私が内視鏡をするときには舌、歯並びあたりから観察を始めますが、のどのリンパ節、咽頭の粘膜、喉頭、そして食道入口部の固さやら、glycogenic acanthosisの様子、食道の蛇行の仕方やら蠕動の具合、入ったときの水分の存在、粘液とその正常、ああここまで書いて疲れてしまいましたが、仮に何も症状を聞かないで内視鏡をしたとしても、細かく細かく所見を見る事で問題点がわかり、おのずと症状が当たってしまう事がかなりあるのです。こうして機能が内視鏡所見に反映してくる場合には、それは器質的疾患ではないと私には断言できなくなってしまい、例えば萎縮がない人には酸分泌抑制薬を使ってみたりするなど、戦略を立てる事が充分可能であることから、それらはFunctional dyspepsiaではないという事になってしまいます。
次の問題は過敏性腸症候群と完全に切り離してしまった事です。上腹部愁訴を持つうち多くの人で便通にも異常があります。胃に限定してfunctionの障害がある事自体が珍しいのです。

これでは臨床家が困ってしまうのは当然かもしれません。

そこでROME IIIなわけですが、便通の異常があっても良い事になりました。これは当然なのですが、消化管機能異常が、もうわけがわからないくらい細分化されていってしまっています。参考URL

本当にわけがわからない状態なのですが、この ROME III の中に"digestion"という言葉が一切出てこない事に注意してください。

消化管の機能はなんですか?

digestion(消化)なんです。当然です。ROME IIIが話し合われたのは、2006年にLos Angelesで行われたdigestive disease week (DDW)ですが、消化管の大きな問題を話し合うときに「消化」について一切検討されずにどんどん話があさっての方向へ向かっているのを見ますと、とても心配になってしまうのです。

PPIの話がどこかに行ってしまいましたね。

データマイニングの必要条件

ダイナミクスは電子カルテ機能もついたレセコンです。
左右に分割され、それぞれ所見と処置を書くカルテ2号用紙がそのまま見えるのがありがたい。
多くの電子カルテもそうなっていますが、もともと2号用紙の右側を保険診療に忠実に記録していた私にとってはダイナミクスの正確な記述は非常に役に立っています。



ダイナミクスは天才的な発想から作られたレセコンですが、その理由のひとつはこの2号用紙が「21文字のテキストの集合体である」という事です。255文字までのテキストとしても良いのかもしれませんが、21文字とした事で一気にレセコンに必要なプログラミングスキルが下がったとも言える大変な発想なのです。

これって公開しても良かったのでしょうか。まあ、良いでしょう。

この「21文字しばり」がダイナミクスを臨床研究コンピューターにしてくれるのです。

ダイナミクスを臨床研究に使用するには、

「キーワードは21文字以下で」
「行にまたがるようなキーワードの書き方をしない」
「重複するキーワードを避ける」

以上を守るだけで必要条件が揃います。

例えば「アスピリン」をキーワードとしたい場合、行にまたがって「・・・アスピ」「リン・・・」という書き方を避けるように気をつけておけば良いのです。

当院では上部内視鏡を行うときに木村・竹本分類を使用します。この分類のすばらしいところは、「C-0, C-1, C-2, O-1, O-2, O-3」と、短くて、重複がなくて、すべての胃に対して一意の診断がつく(術後胃と重篤な胃病変など特別な場合をのぞく)ために、所見のインデックスとして活用が可能だという事です。

例えばこれがO2であったとするならば、それは酸素のO2とあとで混同される可能性があるのです。

これ以外に、「自分勝手に使用する略語はすべて小文字」という法則を使用しています。

「SSB」はShort Segment Barretの事で、3cmに満たないバレット上皮を指しますし、「FGP」はfundic gland polyp、胃底腺ポリープの事です。これらは多くの論文で使用される事がある略語です。
しかしそれらだけではキーワードとしては不足なのです。
自分で所見を書くときに例えば「C-1, hh, fp」と書けば、hh は hiatus hernia (食道裂孔ヘルニア)の事ですし、fp は fundic gland polyp の事です。そして小文字で書く事によりそれは当院のローカルルールである事を示しています。ちなみに当院でpolypと書けば、それは hyperplastic polyp を示しています。さらにこうした使い方もあります。腹部超音波で肝嚢胞があったとします。院長が所見を書けばhepatic cystとなりますが、私が書けばliver cystとなります。書き方により術者まで特定が出来るのです。

カルテは見読性がなければならないのは当然の事ですが、それもこうしたインデックスがしっかりと定義されているかどうかが鍵となります。冗長にだらだらと日本語を書けばデータマイニングの必要条件を満たしません。SOAPなどを学ぶ際には、このようなカルテの書き方を学ぶべきなのです。

2号用紙の右側にはインデックス化された日本語がしっかりと書かれています。それらは医事データです。今まで内視鏡の時に色素撒布をしたかどうかは正確に調査する事は難しかったのですが、医事データがあればそれは簡単です。医事データはデータマイニングの必要条件をしっかり満たしています。2号用紙の右側に記入できるのは医事データだけではありません。ダイナミクスでは受診検査コード100000台はコメントとして2号用紙の右欄に残す事が可能です。これを活用しない手はありません。さまざまなコメントは受診検査コード100000台に検診項目として登録しておくとあとあと便利なのです。

2008/12/15

印象深い先生は、いつも同じである

第84回日本消化器内視鏡学会関東地方会でアンカークリップについて話をされた当時久里浜アルコール症センターの水上健先生が強烈に印象に残っていた。
感激してご本人とお話をすると「私が考えたんじゃありませんから」と謙遜なさっていたが、アンカークリップ法こそは普及するべき治療テクニックの一つだと考えている。

そして今回第87回日本消化器内視鏡学会関東地方会でもまた印象深い発表をなさった先生がいた。Sigmoid volvulus(S状結腸捻転症)を整復する場合には浸水法で行った方が当然安全で確実であるということはわかっていたが残念ながら頭で理解していても実行の機会がなかった私である。アンカークリップの時にも明快な理論的な背景の説明をわかりやすいスライドを駆使して行ってらしたが今回も同様で非常にわかりやすいプレゼンテーションだったと思う。所属は横浜市立市民病院内視鏡センターに移られていたけれど、印象深い発表だったので過去の記録を検索し、あのアンカークリップを発表した水上先生と同一人物だという事を確認した。


学会で印象深い先生というのはそれほど多いというわけではないけれど、それらの先生方の発表を聞くのが楽しみのすべてだと言っても良いだろう。


(追記)
その後「ねじれ腸」の概念でメジャーデビューなさったのはみなさんご存知の通りです。

萎縮粘膜には分化型の胃癌ばかりと考えるのは間違い

院長である父が木村・竹本の分類を所見に記入するようになって11年。
22000名ほどの症例について検討した。

印象としては萎縮が進んでいても、porやらsigやらは普通に見つかるので、「萎縮してるから分化型が多いし・・・」という楽観論に対して違和感を持っていたのは事実だ。

検討の結果、萎縮があっても一定の比率で未分化癌は見つかり、その比率は0.5%程度と結構高い。
萎縮した粘膜を背景とするだけでなく、高齢のため大抵は貧血であってなおさら背景は白いので、リンパ球浸潤のため褪色調に見える未分化癌はますます見つけづらい。異常血管、あるいは萎縮の中の血管透見不良などを目安として、最低限広い病変を見落とさないという事を肝に銘じておく必要がありそうである。

一方、分化型癌は萎縮がO-3ともなると1.5%以上見つかるのも事実である。
全体を眺めると、C-2とC-3の間には大きな差があり、O-2とO-3の間にも大きな差がある。C-3, O-1, O-2はキャラクターが似ている事は特筆すべきである。
今まではClosed type atrophyとOpen type atrophyでリスクの比を見たりしていたけれど、今後は、C-2まで、C-3~O-2まで、O-3と三段階に比較すると分かりやすくて良いかもしれない。

当然除菌した場合の予後もこの3群で明確に異なるはずであり、今後20年以上かけて当院ではフォローを行うこととなろう。



それとは別の危険因子として、食道癌同様にADH2欠損+アルコールは非常に大きいと考えている。

2008/12/13

ペパーミントオイルと芍薬甘草湯

ペパーミントオイル(北海道で採れるハッカが最高だが現在は希少)は、消化管平滑筋のカルシウムチャンネルをブロックすることで消化管蠕動を抑制する。
食後にペパーミントを食べるとすっきりするのはこの薬理作用によるし、各種呼吸器疾患や風邪などに効くのも気道平滑筋などに作用し気道を広げるからである。

タバコにペパーミントを混ぜるのは、タバコで下痢をしてしまうのを抑制するし、呼吸器疾患がある人の自覚症状を出にくくするので、売り上げ増加には貢献するだろうけれど、人間をだめにするので使用禁止をお願いしたいほどである。素人さんの間でも、「メンソールを吸うようになったら危険なサイン」と言う噂があるそうだが、それは本当だと思う。

オバマ大統領が最初にやろうとした仕事がペパーミントを含むフレーバーたばこの発売禁止である。これはタバコ会社のロビー活動により法案は修正されたけれど、ペパーミント以外のフルーツ風味フレーバーたばこは発売が禁止された。フレーバーをつけることは、嗜好品としてのタバコの自己否定である上に、不当に子供や本来タバコを吸うべきでない人々を中毒に誘導するという意味で許されるべき行動ではない。オバマ大統領はペパーミントタバコの禁止を諦めないと言っていたが、政治家として信頼できる発言だ。

この薬理作用は古くから知られているけれど、再発見して発表したのは昨年お亡くなりになった黒坂判造先生であり、立派な論文にまとめたのは現在癌研病院の比企直樹先生だ。(比企直樹先生の論文を参照)この二人の業績を勉強せずに学会に発表している先生を何人か見たけれど全く感心しない。

さて、ペパーミントと同様の薬理作用を有する製剤がもうひとつあって芍薬甘草湯である。これはこむら返りに良く使用され、漢方薬のみなさんのイメージを覆すほど効き目が劇的である。我々プロはそもそも漢方薬が「ゆっくり効く」などという先入観は持っていない。

芍薬甘草湯については最初が良く分からない。少なくとも私が大学院時代、つまり平成5年ころに横浜市金沢区にある若草病院の先生が内視鏡技師会かなにかで発表していたのが最初のように思われる。やけに鮮烈な印象があった。大腸前処置薬のPEGにこれを加えると良いという発表であった。

当時私が研究でお世話になっていた田中俊一先生は漢方(和漢)に造詣が深く、したがって芍薬甘草湯など当時ほとんど臨床医は知ることがなかっただろうけれどそうした漢方薬を身近に勉強することが出来る環境にあった。芍薬甘草湯が痙攣を止める薬であってそれが平滑筋にも作用することを知ったのである。

その後私は虚血性腸炎の患者や、そうなりそうな高齢者の下痢に対して芍薬甘草湯を注腸することで自覚症状がかなり改善することを見いだした。そして、それを内視鏡時に使用するとペパーミントオイルと同様に蠕動抑制効果があり便利だという事も経験した。

上部内視鏡ではペパーミントオイルは便利だが、下部内視鏡ではペパーミントオイルを使用すると非常に粘性の強い液体が粘膜に付着することに困っていた。しかし芍薬甘草湯にはその問題がなく使用しやすいのである。

第84回日本内視鏡学会関東地方会で炭酸ガス内視鏡の発表をしたときに私のあとに発表した千葉の先生(名前を今失念)が、芍薬甘草湯を大腸内視鏡に利用する話をしていて興味を惹かれた。すばらしいと思ったのがその濃度。芍薬甘草湯エキス顆粒2.5gに対して微温湯500mlである。これは薄いように思うけれど、きちんと実験をして最も効果がある濃度を確かめたのだという。脱帽である。
確かに私が調整していた芍薬甘草湯(2.5g/100ml)より良く効くのである。

内視鏡を行う場合に用意しておくと便利である。むろん臨床にも様々な応用が可能です。




ペパーミントオイルを水に混ぜる際、どうしても濁ってしまうためにカーボポールなどの添加物を混ぜる。カーボポールは良くあるゲル化剤の一種である。黒坂・比企先生オリジナルのペパーミントオイルは透明で恐らくこの手のゲル化剤を使用していると私は考えた。なぜカーボポールを知っていたかというと当時化粧品を作ろうとしていて、その為に色々勉強していたからだ。結局カーボポールなどを買うには最小単位が10kgという事になっていて、家族が使うための化粧品を作るにはあまりにも大事なので頓挫していたわけで、ただその知識が多少役立ったわけである。黒坂先生は快くペパーミントオイルを分けてくださっていたけれど申し訳ないので、完璧ではないが別の添加物を入れ自家調整し使用していた。

その自家調整の方法についても、どこからか伝え聞いた私の方法を学会で発表している先生がいて困惑した。不幸な事にペパーミントの濃度や薬理作用についてきちんと勉強をしないままにあちこちで話すものだから、ペパーミントの評判を下げたと聞いている。残念だ。

現在ではミンクリアが発売されて障害は無くなっている。透明であり、障害のひとつであるシリンジの材質も吟味され、濃度についても安定している。是非使って欲しい。

2008/12/10

指導レベルの判定方法がようやくわかった

特定健診での指導レベルの判定方法がずっとわからなかった。
(本当にソースが見つからなかった・・・)

とあるきっかけで、患者さんに見せていただいてようやく判明しました。なので、覚書。

①血糖に関して
血糖値100以上、ないし5.2%以上でリスクカウント1
②脂質に関して
中性脂肪150以上、ないしHDLが39以下でリスクカウント1
③血圧に関して
収縮期130以上ないし、拡張期85以上でリスクカウント1

以上のリスクが1個以上の場合に喫煙していればリスクカウント1
以上のリスクが0個の場合、喫煙していてもリスクカウント0

以上でリスクカウントを算定する。

内蔵脂肪型肥満の場合
 65歳以上でリスクカウント1以上=動機付け支援
 40-64歳でリスクカウント1=動機付け支援
 40-64歳でリスクカウント2以上=積極的支援

内蔵脂肪型以外の肥満の場合
 65歳以上でリスクカウント1以上=動機付け支援
 40-64歳でリスクカウント1-2=動機付け支援
 40-64歳でリスクカウント3以上=積極的支援

糖尿病、高脂血症、高血圧で内服中の人は情報提供のみ

これで解決。

2008/12/01

MySQLのインストール

MySQLのインストールでつまづいてしまった。
ダウンロードするときに、
MySQL 5.0 Community Server - Generally Available (GA) Release
(その前に5.1でつまづいたので、以前上手く行った5.0に戻してダウンロードした)

Windows Essentials (x86)
を選べば良いのに、
Windows ZIP/Setup.EXE (x86)
を選んでインストールしたら今一つ上手くいかず。
(サービスがスタートしない・・・)

で、Windows Essentialsをインストールしたらあっさり。

MySQL Server Instance Configuration Wizardでは、
Detailed Configurationを選択し、
Developer Machine
Multifunctional Database
InnoDB Tablespace SettingsでDドライブを選択し、
Dicision Support(DSS)/OLAPを選択し、
Enable TCP/IP Networking, Port 3306とし、
Enable Strict Mode
Best Support For Multilingualism(UTF8)
Install As Windows Service
Modify Security Settingsで適当なパスワードを設定し
Executeとした。

で、MySQL Command Line Clientを起動してパスワードを入力する。

そうしたら、

create database conquest;

で、からっぽのデータベースを作る。

Query OK, 1 row affected (0.00sec)

mysql>

などと表示されれば出来上がり。

CONQUESTを立ち上げ、

Make mysql databaseをクリックする。

すると作るデータベース名を聞かれるけれど、それはデフォルトで作っておいたconquestなのでそのままでよく、次にroot passwordを聞かれるのでそれに答える。

Re-start the server(terminate active processes)?

と聞かれるのでYesと答えれば良い。

Change TCPIP parameters to fix mysql problems?

と聞かれたのでYesと答えた。

これで上手く行ったようだ。