2009/11/30

ダイナミクスによる新規開業(1)

ダイナミクスによる新規開業を応援するわけではありませんが、その王道についてメモしておこうと思います。

■まずは正規版ユーザーになる。

暴論と思われるかもしれませんが、正論です。

ダイナミクス製品情報を見ますと、初年度 : 294,000円 (消費税込み)2年目以降 : 136,500円 (消費税込み)信じられないぐらい安いと思った人はダイナミクスに適した人材です。例えば開業一年前に導入したとしても、かかるコストは14万円程度の差。そしてダイナミクスを将来使わなかったとしても、保険に関する知識だけでなくて、電子カルテに関するトレーニング効果、後述するメリットを考えればお釣りが来るほどの値段です。したがってまず正規版ユーザーになるのは良い方法です。

■正規版ユーザーになったらすべきこと。

自分ができないと思ったら、二人三脚の協力者にダイナミクスを預けて育ててもらいます。ダイナミクスはロールプレイイングゲームのようなもので、LEVELもありますし、いろいろなSKILLもあります。誰かが勝手に育ててくれたり、道具や武器をプレゼントしてくれるのが便利です。しかもほとんどが無料です。むろん感謝はPricelessなのでありまして、無礼は許されないと思いますが。

便利なのはダイナミクス研究会のサイトからアクセスできるPukiWikiと、ダイナミクスSNSでしょう。リンクはわざと伏せますから探してみてください。探せる方はダイナミクスが間違いなく使いこなせる人です。

■開業のノウハウを手に入れる。

ダイナミクスを使っている医師は2500名以上。開業のノウハウの蓄積は日本最強と言っても良いコミュニティです。一流の医療コンサルタントをはるかに凌駕する卓越した慧眼の持ち主が多く、そうした人の縁が得られるだけでユーザーになる価値があると言って過言ではないと思います。むろんそれには自分の魅力も重要で、それがダイナミクスの壁と言えば壁なのかもしれません。各地で行われるダイナミクス研究会例会ではそうした開業の体験談が語られることも多く非常に参考になるでしょう。

おおざっぱに書きましたが、ダイナミクスの入手から開業に関する情報収集については以上です。
次回はコンピューターのハードウェアについて書きます。

2009/11/19

Wilson病と片頭痛

2009年5月頃のMedscape Gastroenterologyより

内容は15歳の女の子が片頭痛を訴えて来院したときにたまたま肝機能障害が見いだされた。(GOT, GPT, r-GTPが正常の2-3倍程度)その場合鑑別診断は何か。普通は自己免疫性肝炎を疑うが、α1-アンチトリプシン欠損症とかヘモクロマトーシスとかWilson病もあり得るだろう。今回はWilson病であってATP7B遺伝子の変異が認められたのでキレートであるトリエンティン(Trientine)と亜鉛が奏功した。最近は古典的なWilson病(もっと進んでしまいカイザーフライシャー輪を認めるような)として見つかる前に診断のチャンスがあるという話。

この話自体は、「良い話だな〜」で良いのだけれど、あまり私には役に立たなかった。

何しろオフィスに来院した理由である「頭痛」は「片頭痛」として一瞬で片づけられてしまっているし。(Wilson病や、銅の避妊具を入れた女性で片頭痛を訴えることもあるという論文がある。なぜ銅がトリガーになるかは明らかにしていないが、血中のチラミンが上昇しており何らかの細胞傷害が起きていることを示唆している。それで血小板が消費されセロトニンが放出され欠乏状態に陥るとトリガーの可能性とはなる。銅は炎症に中心的に作用していることがわかっている金属のひとつで、これが炎症を起こしているとすれば細胞傷害のきっかけを作ったのが銅であると言う論理は成り立つかもしれない。キレートによる治療で女の子の片頭痛がどうなったのかは臨床医としてどうしても知っておきたい事のひとつで興味深いことなのに放置されたままである。そしてミステリー好きの人には「解決されなかった伏線」として大いに批判されるだろう。

医学における臨床試験問題は、「解決されない伏線、あるいは患者さんの主訴が多すぎる」のが医学生を悩ませる。そして実際の臨床では案外それらの「解決されないはずの問題点」が実は関係があって解決される実例を良く目にする。事実は小説より奇なりと言うが、実際の臨床の方が、臨床試験問題よりもよほど原因がシンプルですべての問題が一挙に解決できるという実例が多いことがわかれば医学はとても面白いのにと思う。

この症例、恐らくエコーでも肝臓に異常があったと思う。子供の肝臓は通常あまりにもきれいで、わずかの異常でも「おかしい」と思うはずだからだ。肝硬変になる前の、そうした症例の蓄積が非常に重要だ。胃癌になる前の胃はわかる。食道癌になる前の食道もわかる。エコーが玄人仕事で実際の観察と記録とが一意でないという特殊な検査である(内視鏡もそう)としても、やはり症例の蓄積は重要だし、異常を異常として気付くための検査として超音波検査はきわめて有用で、臨床医には「肝障害があったら全部の検査をやっておけ」と説明するよりも、「こういう所見があったら次の検査に進めよ」と教えたほうが有用にも思う。アメリカの臨床の問題を見ていると、あまりにも網羅的にすべての病気を調べすぎる傾向があり、これは医者がどんなにバカでも同じ結果が出ると言う点で非常に優れているのは認めざるを得ない一方で、お金もべらぼうにかかるし、看過出来ないほどの資源の無駄遣い、つまりその医療はアメリカ国内の一部の患者さんしか享受出来ないという悲しい側面もある。

診断においては子供に限らず侵襲の少ない検査から行なおう、資源を使わない検査から行なおうとすべきで、問診、診察を一番に、そこでおかしいと思えば私の次の一手は、尿検査、便の検査と同じくらいの重要度でエコーだ。エコーは一度買ってしまえば電気代がかかるだけで、(もちろんプローブは消耗品だし、ゼリーも使うけど)患者さんにはほとんど害をなさないし、少なくとも血液検査をするよりは私には抵抗感が少ない。しかも私にはきわめて有用だ。有用かどうかはただし、エコーの熟練度によって決まってしまうのが実情で、エコーでなんでもわかると豪語するのは危険だし、客観性に欠けると言う絶対的な欠点があるためにたとえ自分は出来ると思っても普及させようとは思わない。しかし将来はロボットがエコー検査を行なう時代が必ず来て、検査が客観性を持つ時代が来るわけで、その時代に備えて症例の蓄積が重要だから行なっているような側面も私にはある。

このWilson病のケースでは肝障害の診断においてエコーが無視されているほかに、世界的には最も多いだろう飢餓性の肝障害とか寄生虫による肝障害にも全く触れられていない事も気になった。

もちろんアメリカではエコー検査が10万円以上(日本は5300円で、血液検査をするよりも安い)するために、検査として話題にも登らないことは理解出来る。

しかしながら、こういう国内外で違う医療事情を知らずに盲目的にアメリカの教科書を読んで勉強して、そのままを当てはめていく医者が今後増えていくのならばそれはそれで問題だ。

ともあれこの問題が勉強のきっかけになり、やはり非常に良かったと思える。それにアメリカではおかしいなと思えばメイヨークリニックで遺伝子診断してもらえて良いなあとか思った。日本ではまずコマーシャルで遺伝子検査をしてもらえるもの以外は不可能だし、可能だとしたときに料金を誰が負担するかでもめる。アメリカでは支払いをどうするか、保険会社と事前に直接交渉できるだけまし。日本は保険が事前に認めるかどうかの交渉は出来ない。保険で認められている検査ですら、あとで支払い基金が「払いません」と言ったらそれで一巻の終わりだ。ましてや保険が認めていない検査については本来医師の裁量で行なっても良いとなっているはずなのに実際は全部基本的にはだめだ。また、コマーシャルではない検査なら、「混合診療禁止」とかいう変なルールでアウト。混合診療とは本来、診断がついてからの問題なんであって、その診断名について保険診療と自費診療を混ぜてはいけませんというルールだったように思う。でも、診断についてもコマーシャルでないものを使うときに「混合診療禁止」とかいって請求出来ないようなムードになっているのはおかしいなとも思う。

2009/11/16

内臓脂肪

内臓脂肪とは、本当は、門脈系に分泌している脂肪細胞を指します。
といっても全然わからないかもしれませんが、腎臓の周囲の細胞まで内臓脂肪と呼ぶ先生がいますが間違いであると主張したいのです。脂肪細胞といってもTNFを作ったり面白い細胞群です。

さて、内臓脂肪量を推定するのに、どうするか。

私がいた横浜市大第三内科は肥満外来で昔有名で、全員CTで内臓脂肪量を測定していたのですがそれがお臍の高さで断面を見て脂肪量を測定する方法でした。つまり今と同じ。

ところが考えてみてください。そんなにお腹って横とか縦に大きくなりますか?CTは寝て測るんですよ。寝て測ったとき一番最初に影響が出るのは、横隔膜の高さだと私は思うんです。力学的に。

私は男性85cm以上、女性90cm以上という基準は極めて正確に内臓脂肪量を反映している良い数字だと思っています。だって男性は本当に内臓脂肪が多いのです。それエコーで横隔膜の高さ、つまり肝臓の位置を見ていると一目瞭然なのです。

では男性がみんなメタボかというとそんなのが全部吹っ飛ぶぐらい悪いのがタバコですから、まずそちらに眼を向けるべきではないかと思います。

それだけで専門科があるくらいですから、痔とは奥が深い疾患なのでしょう。
私は横浜市大で学生時代を過ごしたものですから、第二外科(土屋外科と呼ばれた大腸外科の名門)での実習で毎回大腸癌を直腸診させてもらえるのはなぜだろうか思っていましたが、それは松島病院(痔の治療で有名な病院です)の先生との結びつきが強かったからなのでしょう。場所も近いですし。

症状があってこのページを見ている方は松島病院のおしりの症状チェックページが良いので、それを見て下さい。→リンク

さて、それ以外の方でちょっとこっちも読もうかという場合はそのままお続け下さい。

私にお尻の事を相談するケースはかなり偏っています。痛みがない出血か、膨らんでいるか、どちらか。

お尻から出血したとき(痛みなし)

患者さんはお尻から出血したときに、特に痛みがない場合ほどびっくりして来院されますので、以下のように診療を進めます。痛みがなくて出血するのは、内痔核とかポリープとか直腸炎とか憩室炎などです。

  1. 排便時に血がついたら、すべて痔なのかというと、直腸粘膜から点状にしみ出るような出血をしている事が多く、案外内痔核からの出血は多くはないという説明。(痔がないです、などというと「じゃあ癌だ」とびびってしまうため、そうならないためのクッションの意味もある)
  2. 「痔」と一口にいっても、裂痔(きれぢ)、内痔核、外痔核、痔瘻などがありますのでそれについての説明。
  3. 検査が必要な場合にはその必要性について。
  4. 痔や他の病気で専門の治療が必要である場合には、適切な医師への紹介。

検査には直腸鏡検査、S状結腸までの内視鏡、全大腸内視鏡、注腸バリウム検査、エコー(異所性子宮内膜症とか、憩室とか、虚血性腸炎とか、クローン病とか、癌を疑った場合)、血液検査などがあり、なるべく必要最小限の検査にとどめています。

画像は内容とは関係がありません

出血し、かつ痛かった時には切れ痔だと思って相談しない場合が多いです。

膨れている

痔瘻はクローン病で重要ですが、普通は内痔核が飛び出してしまったか、外痔核のことが多いです。その他には肛門がん、尖圭コンジローマなどが除外診断です。

痛みを伴う場合、嵌頓痔核といって内痔核が飛び出て戻らない状態や、血栓性外痔核を考えます。診察にはある程度のノウハウが必要に思います。むろん「あ、これは無理だ」と専門家にバトンタッチすることがあります。(専門家は外科の先生で、当院だと伊勢原協同病院にご紹介します)

軽いものでは当院で治療をして、むしろここからが大切ですが再発しないように丁寧に指導をします。Twitterでバズったお尻の拭き方もそうです。


ここまでは前書きで、今日、こんなことを記事に書くのは、
痔(とりあえず全部まとめて痔疾と呼びます)の患者さんにやってほしいことがあるからです。

それは骨盤底筋体操です。
お尻の穴を締める体操の事です。ご存じでしょうか。決して尿漏れ予防体操ってだけの意味しかないわけではありません。

これが痔疾に非常に効果がある。
筋肉を動かせば血流が改善しますし、悪化する前にはじめればどんどん治ってきます。
まだ便秘のツボについても記事にしておりませんが、
とりあえず痔疾への骨盤底筋体操は基本中の基本だと思ったので記事にしました。
あまり指導されていないようだから。

むろん痔疾がない人も、骨盤底筋体操はどんどんした方が良いですよ。
骨盤底筋体操、という形を取らなくてもお尻の穴を締めるだけで良いんです。20分に一度でも60分に一度でも良いですから気づいたら締めてください。
姿勢が良くなります。

あと、くしゃみの前、咳する前、階段をおりるときもお尻は締めてくださいね!これ重要。

人間は尾骨が動かなくなってから(尻尾がなくなってから)、ものすごく骨盤底筋を動かさなくなってしまった、にもかかわらず立位においてはすべての腹部臓器の重量を骨盤底筋で支えねばなりません。これは好ましい事態ではありません。身体を鍛えるのと同じぐらい、骨盤底筋を鍛えましょう。