2017/06/29

数は力、の話

ある病院で「この治療は安全」と言われて受けた治療が思わしくなく、患者さんに相談されたのでこういう試算をして見せました。

1%の人に偶発症が出る治療の場合

10人しかその治療をしたことがないと、
1-(1-0.01)^10=0.0956
という計算が出来るのですが、これは患者の偶発症をすべて把握しようという熱意をもってしてもなお、90%以上の医師はその偶発症を経験出来ないという事を意味しています。

1%の偶発症、というのは薬の場合ではとても多い部類に入るわけで(例:ピロリ除菌のときの薬疹)すが、100症例の経験があっても3割以上は偶発症が経験出来ないと計算できるのです。

通常経験する症例数が多くなればなるほど多くの偶発症を医師は経験するので、「この治療は100%安全だ」という物言いはしません。例えば全く安全だと思われる整腸剤ですら0.1%以下ですが「急に便秘をした」とか「ガスが増えた」という人はいるわけで、「自分にあわないかもしれないと思ったら連絡を」と說明するわけです。症例数が10000、20000では済まない事と、すべての患者からフィードバックをもらおうとしつこく話を聞くからこうした知見は蓄積するわけで、これは誰かに真似できるというものではありません。むしろ私の治療はAI的であると自認する理由です。

したがって、数は力、なのですが必要条件があります。何か偶発症かしら、という事例があったときに注意深く「ほんとうにそうか」「まぎれこみか」を診断していく姿勢があるかどうか。それがない「ザ・名医」はヤブ医者とあまり変わりません。ものすごく混んでいる医者に通っている場合に、「副作用かもしれない」と問い合わせてどう扱われるか、が非常に重要だという事です。

では経験がない時期に私はどうしていたかというと、3つあります。
1)徹底的に理論派
 これ以上ないぐらい知識を詰め込んで経験の代用とする。
 生理学や薬理学や解剖学の知識です。
 そういう基礎的な学問が得意かどうか。
 それは高校時代、中学時代の勉強につながるわけで、
 私は学生時代の勉強を無駄だと思ったことは一度もありませんが、
 それらはまだ見ぬ未来への対応力を養ってくれるからです。
 (学生時代の勉強が無駄だった、という人は過去しか見ない人)
2)父親のデータベースを借用
 幸い父親は名医であるだけでなくデータマニアなので、
 そのデータを見て勉強していました。
3)トップレベルの医師と交流する
 言うまでもないことですが、良い病院で良い教育を受けた事も大きな資産です。

サプリメントの健康被害がなぜ起きるかというと、彼らは偶発症が出たかどうかのフォローをしないからですが、上記のように理論的に予測が可能な健康被害は多いわけですから、飲む前に医師にまず相談するべきだ、と思います。

2017/06/23

患者さんが使うと割りとナイーブに反応する言葉がある。

「昔からそうなんですが」

複数回受診している患者の場合には「今まで話していなかったのはなぜだ?」と感じる。
それは取るに足らないと患者が判断していたのだろうか。
しかし丁寧に聞き取りをしていると、患者の記憶が間違っていて、徐々に症状が変化しているらしいが自身はそう感じておらず一貫してその症状だったと思い込んでいる例も散見される。何れにせよ、この言葉を初診以外で使う人には注意している。

初診でこの言葉を使う人には「表現が大雑把だなあ」という感想を持つ。



「全然効かなかった」

この言葉は自分の症状を正確に把握することが難しい人が発することが多いため、注意している。薬や治療の効果というのは一言では言い表せないものであるのだが、それを簡単に「全然」という修飾語を使って表現する人は、正解から逆に遠ざかっているケースすら多い。もちろん本当に効かないケースはあるもののこちらは具体的なフィードバックを期待している。うまく表現が出来ず困ってもじもじしている人には助け舟を出すので、問題ない。少なくとも一刀両断な表現で断じる事は避けたほうが良いと思う。



「ありとあらゆることを試した」

人間が考えつくアイディアというのは一部に過ぎない。したがってまだ試していない、あるいは考えていないところに答えがあるかもしれない。どういうことを試したか、を聞きたいのに「全部」と答えられてしまうと困る。記憶よりも記録が欲しい、といつも言っているのだけれど、それは消去法で考えていく時に必要だからだ。


論理的に思考して診断を考える時には、患者からの正確な情報収集が不可欠だがその妨げとなりやすい言葉がある。その場合丁寧に言葉を選んで患者の考えを解きほぐしてその真実を明らかにしようと努力するのであるが、比較的高度な作業だと言える。

2017/06/06

人工知能の現状と競争放棄

人工知能の現状と競争政策
http://www.jftc.go.jp/cprc/conference/index.files/170331data02.pdf

というスライドがWebに転がっていました。
政策放棄、に空目したので、面白いなと思いました。

仰っている事は完全に正しい。

データを開放せよ、ないしは自由に「出来る奴」に使わせよ。

ハードウェアを開発せよ。つまりロボットを作れ。
(頭脳の部分はどうせ横並びになるのだ)