2010/02/26

3月15日お休みします

3月15日邦夫医師がお休みします。
かわりに3月16日に診療しますが、その日はたぶん空いています。お勧めです。

<おしらせ>
グルコサミンでアレルギー症状が出る方が多いので、
飲みたくても我慢して、必ず私に相談してください。

2010/02/23

NSAIDSによる胃腸障害で考えておくべきこと

健康ボランティアを対象とした、7日間のアスピリン(低用量)の投与で半数の方の食道に粘膜障害が生じる(しかもGERDと断言)という試験(浜松医大)があったというニュースを読みました。

これ、簡単なストーリーじゃないですか。

単純に考えれば、(臨床家の私の素直な解釈)

NSAIDS(非ステロイドの痛み止め)ではすぐに胸焼けが生じますね?

そういう人たちが数割おりますよ。

その理由は簡単。主にピロリ陰性の人たち、あるいは若い人達に起きますが、

胃酸で前庭部にびらん、浮腫が起きますから。

これはNSAIDSによって、粘膜内プロスタグランジンが低下したためです。

前庭部は動きが激しいから、他に比べると簡単にびらん、浮腫が生じます。

しかも狭いからその影響が出やすい。

まだ7日ぐらいだとすぐには前庭部から分泌するガストリンは減りません。

胃酸は胃体部とか穹窿部から出続けます。

一方浮腫で前庭部は蠕動不良になります。

だから胃酸は逆流します。

食道粘膜が刺激され、胸焼けが起こります。

たった7日では、こういう事が起きています。

ここまでで、「GERDだ!」というのはつまらない。




では7日以上経つとどうなるか。

ここからは私の経験談。

前庭部胃炎のおかげでガストリンが減る。

胃酸分泌が減る。

逆流も減ってきて、勝手に治ります。

案外みなさん大丈夫なのですよ。

むろん潰瘍になる人もおりますが、

全員にPPIですか?

それはどうでしょう。

NSAIDS+抗凝固薬ならばPPI推奨しますが。




以上、私見ですが、

たくさん患者さんを見ていますから、

こういう印象がある。

むろんある患者さんにはPPIを出すんです。それは後述の理由がある場合です。



リウマチの患者さんでNSAIDSによる胃障害が多いのは、血管障害というダブルパンチがあるからでしょう。そうしたリスクがはっきりしている場合、あるいは、ダイナミクスはこんなときも大活躍。

もちろん過去にNSAIDSを飲んで大出血、という患者さん。

むろん喫煙という最大の増悪因子もきちんと記録してあります。やめれば良いのですが。

そうした家族歴を記録してあると、今度は子々孫々にメリットがあります。

NSAIDSによる胃腸障害や、P450の代謝は当然家族歴が関係あるだろうからです。

むろんメンデルの法則に従うんでしょうが、こういう意味で電子カルテは重要です。



<まとめ>

NSAIDSによる胃腸障害を極めて真面目に研究するためには、

年齢別、家族歴別、ピロリの有無、萎縮の程度、ガストリン値(組織中、血清)、p450の考慮など、まずは母集団のセレクションが重要で、しかも長期に行わねば、大して意味がないと考えております。

個人的には、エコーで前庭部みりゃ良いじゃん、という結論なんですがそれを言っちゃあおしまいなので、言わないことにします。

2010/02/21

Reviewの天才

研究各分野の領域で、優れた天才というものがいるのでしょう。

むろん脚光を浴びることでしょう。

ノーベル賞も取れるかも知れません。



しかし世の中には、特に欧米では、

「Reviewの天才」というべきいる人がいるのだなあ、

と思ったきっかけは、

"Immunology Today" という雑誌を読んでからのことでした。

今は"Trends in Immunology"として継続されています。



著名な学者が「まとめ」を掲載するのですが、その内容がすごい。

だいたい200くらいの論文を引用しつつ、まさに「現在のトレンドと将来予測」を明確に示してくれる弩級の内容です。著者によりますが、内容が偏らないのが良いと感じていました。

内容が難しくて、今ではさっぱり理解出来ませんけれど、「ああ、世の中は知識を整理する天才たちがいて初めて成立するのだ」とわかった事は収穫でした。



調和のとれた知性がどういう背景で生み出されるのかは良くわかりませんが、こういう知性が頭角をあらわすことが出来るような日本になったらさぞ強力だろうな、といつも思っているのです。(他力本願な願望ではありますが)

2010/02/18

Never events

Never events:
日本ではまだあまりポピュラーではない、しかし小耳に挟むところによれば「院内での怪我」など、訴訟に絡む可能性もあり、メディケア(健康保険)が医療費を払わないと宣言した28の事故をアメリカでは"Never events"と呼ぶそうです。


異物を体内に残した
空気塞栓
血液型不適合
尿道カテーテル感染
深部静脈血栓/肺塞栓(股関節、膝関節手術後)
外科創部感染
深い褥瘡
処置に伴なう怪我(例:電気ショックによる火傷)
血糖コントロール不良による症状(低血糖など)
外科でのミス(取り違えなど)


上記のように「弁解できない転帰」を指すそうで、異物や取り違えなど確かに弁解しようがありません。しかし一方で完全な予防が難しく一定の確率で生じうる、という大変問題のある事故も含まれます。例えば血糖コントロール不良の場合の創部感染やカテ感染を完全に予防するというのは理論的にも不可能です。
(したがってアメリカではミスや訴訟を見込んで高い医療費が設定される。それは当然の事でしょう。日本にはその悪循環を回避できる人材が少数ながらいると思います。ほんの僅かの希望ですが完全な医療のIT化に望みを託します)

これらをどう押さえ込むか、が医療のかかえる問題です。むろんそれらに個別に対応して様々な工夫が行われて来ました。特に「ミスから学ぶ」という風潮が強い現代では検証がかなり行われています。本来は事故が起きる前に、日本人が得意な「こんなこともあろうかと」という対応を見せたいところですが、そのあたりの情報共有は完璧ではありません。

アメリカのニュースサイト(medscape)によれば一般にはmalpractice(医療ミス)として訴えられた場合に、医療側は

1) 限り有る資源、抑制された医療費が優先されるため、対応には限界がある。
2) 完全な予防は患者さんに非常な苦痛を強いる場合が多いので難しい。(例:転倒防止のための拘束など)

という主張をしつつ、合意点を探ると言う事になるそうです。いったん訴訟になりますと医者はあまり関与しません。訴訟が多いのでそれに参加してしまうと診療が出来ませんから他の患者さん達に非常に不利益です。それこそ命がいくつも失われ次なる訴訟問題につながるからかもしれません。また訴訟は専門家に任せてしまったほうが効率的です。
(再発防止、についてはマネジメントの問題になりますが、訴訟が多いのでよほどの事がない限りは「謝罪」とか「再発防止への取り組み」を原告が要求することはなくて金銭的な保障になっている印象でした。示談が多いです)

つまり実際malpracticeになりますと医師が関わるという事はありません。(日本は現在は違いますが、将来はアメリカ同様になるかもしれません)我々が出来るのは「こんなこともあろうかと」という部分に尽きるのだと、再確認した次第です。

日常診療でnever eventsはないに越したことはありませんが予防出来るものは予防し、生じた事故についても迅速に対処できるようにあらゆる事態に備えること。人工衛星イトカワの開発者のみなさんに負けぬようにしなければと思いを新たにする今日この頃。

2010/02/16

和訳は難しい

例:Taking the Campaign to Primary Care Practices in the United States

案:キャンペーンをプライマリ・ケア・プラクティスにつれていくこと、米国内で。

アメリカにはプライマリ・ケアというのがあります。プライマリ・ケアというのは医療費抑制のために考えられたひとつの方法で、人々すべてがかかりつけ医を持って、何か病気になったときにプライマリ・ケア医が振り分けるというシステムです。これにより、気軽に高度な医療は受けられなくなるので医療費が抑制出来るのです。これは時々不評です。プライマリ・ケア医は収入が相対的に低いという理由で、なり手が少ないので減少傾向にあります。一般的になり手が少ない市場ではその実力について標準偏差が大きくなります。実力がピンからキリなのでそれに対する人々の文句が出やすいと言う特徴があります。また、本当に迅速な対応が必要な場合でも医療に時間がかかってしまうと言う欠点があります。それらの因子を差し引いてもなお、プライマリ・ケアが医療費抑制に果たす役割は大きいだろうと米国医療は考えていると思います。これは一般医療のトリアージのようなものですが、米国は近い将来それを機械化するだろうと思います。同じ方法をとると日本の開業医は壊滅的な打撃を受けると反応する人がいるかもしれません。しかし現在先進国の現状を見ていると予防医療に医師が関わるほど余裕がなくなってきているのが実情です。将来の機械化に向けて今は情報を収集すべき時期、つまりプライマリ・ケアを実践する数十年を機械化のための本格的な研究にあてるつもりなのではないかと私は考えています。

という背景を考えて、この見出しを翻訳します。
practiceは、ここでは医療と翻訳するのが良いだろうと思います。アメリカの医療でprivate practiceと言いますと「開業」を表します。「(医師)個人の医療」だから「開業」です。ただ、アメリカではオフィスは固定じゃないのです。大きな病院内でも患者さんを個人的に診るので、開業という訳語を当てるのは時によりおかしいかもしれません。primary care practiceは、プライマリ・ケア医療という翻訳とします。primary careは、日本のかかりつけ医療とはそもそもの発想が違います。日本では内科以外の開業医も乱立しているのですが、時々患者を異なる科同士で奪いあうことが許されます。そういうシステムではそもそもかかりつけという発想自体機能しません。それからアメリカの場合、医者余りと言うのがかつて深刻だったという背景があります。食うに困った医者がプライマリ・ケアに従事して~というピラミッドが形成しやすかったわけです。今日本では開業医はなんと勤務医よりも収入があると言います。全然ピラミッドじゃありません。それでプライマリ・ケアをせよというと、医療費はどんどん膨らむことになりかねません。したがって、primary careはプライマリ・ケアであり、日本のかかりつけ医療とは、医療内容は同じでも区別せねばならないと考えました。日本ではprimary careに相当する医療の一部を自治体の健康管理課が行ったり保健所が行ったりします。これらが本当に効率的かどうかはさておき、アメリカのプライマリ・ケアの発想とオーバーラップする部分があり、日本の低い医療費に貢献してきたのでしょう。さて次、campainという英語に、適当な日本語訳はあるのでしょうか。これが非常に困ってしまいます。プライマリ・ケアをカタカナにしてしまったので、これをキャンペーンと翻訳するのは頭が悪いと思われかねません。おそらく学者さんがいつも行っている政治的な動きの事をキャンペーンと言っているのだと理解は出来るのですが、うまい日本語が浮かばないのです。take campain toですから、そのキャンペーンをプライマリ・ケアに持っていくとか、それに向けさせるというような意味なのだと思います。これは見出しだからしょうがなく逐語翻訳は諦めることにします。それでも日本語が浮かばない時に、堀口大學ってすごいなあと思うわけです。自分が記者ならどういう見出しにしようかと考えます。the United Statesは合衆国だけれど、これは米国で良いとして、「米国のプライマリ・ケアに向けたキャンペーン」とかいう翻訳しか思い浮かびません。これだけ考えてこんな日本語訳かよ、と自分にがっかりするわけです。

米国のプライマリ・ケア医療にテコ入れ、とか、そういう意味なんだとは思うのですが。専門家よりtakingを提起すると翻訳すれば良いのではとアドバイスをいただきました。「米国のプライマリ・ケア医療強化を提起」とかそういう翻訳ですと内容と合致するし、堅さもちょうど良いでしょうか。





At the conference, proponents of colonoscopy and its virtual counterpart, computed tomography (CT) colonography, promoted these two options, despite the fact that achieving high rates of screening solely with colonoscopy or CT colonography appears unlikely given the current lack of capacity and number of trained providers.

なんて全然英語がわかりません。
これ、なんとなく大腸内視鏡とCTコロノグラフィーを否定したいんだとはわかるのです。
大腸内視鏡は米国内で急速に普及してるのですが、メディケア(高齢者医療)でこうした高額(日本じゃ1万6千円ですが、アメリカでは15万~30万円ぐらいかかる)な検査を気軽にされてはたまったものじゃないのです。むろんメディケアだって病院と交渉して値切ってはいるはずですが。それに高齢者に検査を行うと合併症も多くなります。癌を予防できたとして平均寿命まであとわずかです。対費用効果だけを考えても確かに微妙なのです。日本の大腸内視鏡のように激安ではないからです。患者さんへのメリットという面でも微妙です。むろん彼らは二重盲検による比較試験がないから、という理由で現在は、そして将来も否定をします。ただ背景には普及が不可能な検査をスクリーニングとして認めることに対する危惧があるのは事実でしょう。それを考えて翻訳をしてみます。
At the conference, は「同会議では」と訳しました。theは「同」としました。前の文章を受けているから。proponentsは日本でいうと、「内視鏡派」とか「バリウム派」とか、それを応援する先生方の事だと思います。ここでは「支持者」とか「推薦者」あたりにしようかと。colonoscopy and its virtual counterpartは、どうでしょう。CT colonographyは日本ではバーチャル内視鏡とかバーチャルコロノスコピーとも呼ばれていて、検査の内容としては大腸の内腔を見ると言う意味で同義の検査です。counterpartはよく似たものという意味だから、its virtual counterpartはやっぱりバーチャルコロノスコピーをちょっと華麗に言い表してみたって感じなんでしょうね。じゃあ和訳も華麗に言い表さなくちゃって事になります。でも堀口大學ではないので、「バーチャルな同等手段である」とかいう日本語しか思い浮かびません。
proponents promoted these two options, despite --ということなので、「なんか不利な条件」をものともしないでこの連中はこの検査をぐいぐい宣伝した~っていう意味なのだとはわかります。じゃあその不利な条件ってなんでしょう。
despite the fact that achieving high rates of screening solely with colonoscopy or CT colonography appears unlikely given the current lack of capacity and number of trained providers.
これがよくわかんないので、
the fact that___ appears unlikely given the ___
とする。
だいたいgivenの品詞はなんなのか、高校のときによく勉強すりゃわかったんでしょうが、今じゃ「英文法精解」も絶版になっちゃって売ってないわけです。あと、アメリカ人はlikelyとunlikelyが好きですね。未だにピンと来ない英語です。しょうがないから、the current lack of capacity and number of trained providers.を先に訳すとします。lack of はcapacity とnumberにかかると思います。で、trained providersは専門医とか翻訳したいところですがそれは控えて「訓練された医療提供者」とします。専門医とか他の専門資格は扱いが微妙です。the current lackなんですから、アメリカではこれらの欠如がすでに既知の問題なんでしょう。「キャパシティと訓練された医療提供者の不足」と暫定的にしておきます。
次にgivenなんですが、これ、わかんない。だから取り敢えず訳さない。先に___ appears unlikely ___を考える。appearsは自動詞だからここで先に achieving high rates of screening solely with colonoscopy or CT colonography を翻訳すると、「大腸内視鏡あるいはCTコロノグラフィーそれぞれの検診率が高くなっている事」となります。これは現在のアメリカの現状だと思います。それがappearしてきたと。でそれらはthatに内包されるわけで、それがthe factになるのでしょう。すると文章の構造は、the fact unlikely given ___みたいになる。「大腸内視鏡あるいはCTコロノグラフィーそれぞれの検診率が高くなってきた事実」は、unlikely given 「施設と訓練された医療提供者の不足」って事になります。要するに二つの事実は矛盾するって事はわかります。でも、givenがまだわからない。しょうがないから、ここで私は一瞬気を失う事にして、この訳語が出てきました。考えてもわからないもん。
「同会議では、大腸内視鏡検査と、バーチャルな同等手段であるCTコロノグラフィの支持者は内視鏡あるいはCTコロノグラフィーそれぞれの検診の高受診率の達成が訓練された医療提供者の数や容量の現状での欠如をとうてい説明するものではないと言う事実もかかわらず、両選択肢を推奨した」
まあこれなら日本語として通るかなあと。

これも専門家から助言があって、会議では大腸内視鏡検査と、CTコロノグラフィー(バーチャル内視鏡)の専門家達が、実際には施設の容量や専門家の不足にもかかわらずそれらの受診率の成績がすでに上がっている事実をよそに、さらに積極的にこれら二つのオプションを奨励したという方が流れが良いかも知れないと言うことで、私もそう思いました。(2010/2/19追記しました)

despite the fact ___ unlikely given the lack ___
否定的な意味が二つ重なると流れがとても難しくなってこんがらがるのですが、聞いてなるほどなあと思った次第。


そういう苦労をしながら、NCI Cancer Bulletinは翻訳されています。
英文法精解を高校時代に買っておけば良かったと、本当に後悔しています。

2010/02/12

20歳代、十二指腸潰瘍の基本戦略

20歳代の十二指腸潰瘍について基本的な戦略を述べます。

◆20歳代の特徴について(予測)
ピロリ菌の菌量が多い
薬剤の肝臓での代謝が早い
喫煙者が多い(20歳代での十二指腸潰瘍の重要なリスクファクターがそもそも喫煙)
服薬コンプライアンスが悪い
内視鏡時の反射は強い

◇予測される結果
除菌成功率が低い

■成功率を上昇させる戦略
PPIをどうチョイスするか。オメプラールかタケプロンかパリエットか
クラリスは400mgか800mgか
禁煙は絶対必要
コンプライアンス上昇のためのきちんとした説明と同意

□その他
除菌後の逆流性食道炎は心配しないで良い、むしろ改善する
除菌後の体重上昇は禁煙による影響以外は必要ない
内視鏡検査に関するトラウマを残さないように気をつける

●まとめ
ラベプラゾール20mg+クラリスロマイシン800mg+アモキシシリン1500mgを基本とし、
それにソロン、LG21などを併用することも考慮する
2週間法や、PPI倍量が保険診療で可能になるとなお良い
禁煙指導および、きちんとした服薬を指導する
除菌後は運動、食事などについても指導を行い体重上昇に留意する
成功してライフスタイルを改善させれば、その後の人生を劇的に変化させるパワーのある治療であることに我々自身が気付き、個々にきめ細かく取り組む必要がある

2010/02/10

目標は共有されねばなりません。

私と患者さん、そして患者さんに付き添ってきた人の目標は共有されねばなりません。

何を言ってるのかこの医者は、と思われるかもしれませんが例えばこういうことです。



夕方(もう何も検査は出来ません)に気持ちが悪いと来院した場合。

私の目標:とりあえず今晩、健やかな眠りが訪れますように。

患者さんの目標:今、とりあえず楽になりたい。

という風にあまり齟齬がありません。そこに付き添ってきた人が登場して話をややこしくすることがあります。

付き添いの方の目標:原因はなんなのか。今後はどうなるのか。それが知りたい。

私が付き添いの方の希望とか目的などを面倒でも聞く様にしているのは、こういう齟齬がしばしばあるからです。そしてあとが面倒なのです。しかし重症で見るからに異常が見え隠れしている病態ならまだしも、なんとなくおかしいなという状態で、しかも話を聞いて診察をしただけの状態で、原因は何か、今後どうなるのか、答えるのが如何に困難な事かは私とつきあっていれば理解できるはずなんだけどなあと思います。と思う理由は付き添いの方は大抵当院に初めて来院したわけではないからです。

そういうときには正直に私の本日の目標を話します。今晩超えられることが第一です、と。それで理解できない方は幸いあまりおられませんので、次のステップへ進むことが出来ます。もしも改善しない場合、あるいは改善しても原因検索が必要な場合は検査を行うかもしれませんが、それはそれなりに早い時間に来院することが必要となります。

当院は確かに混みますから、混むのがいやだからと終わりぎりぎりにいらっしゃるお気持ちは理解できるのです。しかし実際問題それではあまりメリットは享受できないという事です。

2010/02/08

帰り際の決まり文句について(HUSを見逃したくなくて)

溶血性尿毒症症候群(HUS)という病気があります。→メルクマニュアル

(H23/5/2追記)病原性大腸菌に起因する症例がしばしば報告されます。
血液が血管の中で溶けてしまうことは恐ろしいという事は私が研修医の頃には常識となっていました。肝硬変という病気では食道静脈瘤という血管の拡張から出血する場合がありますが、この時に出血を止めるために硬化剤を注入する場合があります。(最近は簡単だし安全なのでゴムバンドで止めるEVLという手技が普通ですが、どうしても止められないときには硬化剤を使います)この硬化剤は血管内、血管外に入れるのですが血管内に10ccとか20ccとか注入されますと、硬化剤による溶血が起きます。溶血とは、赤血球の膜が壊れることですが、そうすると血中に放出された赤血球の中身(フリーヘモグロビン)が腎臓をつまらせてしまい、腎不全が起きてしまう。これを予防するためにヘブスブリンという血液製剤を硬化療法の時に注射して予防したものです。HUSで問題になるのは赤血球だけではありません。肝硬変ではもともと少ないので問題にはならなかった血小板の崩壊により血栓が生じて多臓器不全になってしまう。硬化療法のようなわずかな溶血ですら予防措置を講じていたのです。すぐに透析などで治療をしなければ救命出来ません。

それを見逃したくはない。

例えば腹痛と嘔吐とか、腹痛と下痢、発熱、などで患者さんが来院された場合には、脱水の程度を推し量って治療の後、多くの場合ウイルス性の胃腸炎と診断してお帰りいただくのですが、診察を終了する間際に必ず言うことがあります。

血尿、はっきりとした血便、高熱の持続がある場合の指示です。

実際の指示はやや煩雑なのでここには書きません。
大人のウイルス性の胃腸炎は放っておいても良くなる(小児ではロタとかRSウイルスは大変らしいですね)から良いのですが、病原性大腸菌であるとかビブリオなどという細菌性腸炎は重症化してしまうことがあるためその兆候を見逃したくないからです。虫垂炎、憩室炎って言うこともあります。

ゼリー状の血液が出た、ぐらいは良くあることで、心配ないです。ここで言う血便は本当に血液。血液が出た場合でも実際にはほとんどが虚血性大腸炎ですが出血性大腸炎もあり得ます。あるいは高熱が持続したり、尿が茶色っぽいなどというとやはり細菌性じゃないかとか、溶血が起きてるんじゃないかと調べる必要があると考えるのです。

私が経験したO-157の症例はしかし腹痛のみで血便はありませんでしたが、極めて印象的なエコー像を呈していましたので迅速に対処でき良かったです。

経験上、痛みが強い場合には細菌性腸炎や憩室炎、虫垂炎を疑って血液よりもまずエコーで診断します。幸い今まではこの方法で大丈夫であったのですが、しかしいつかは役立つかもしれないので、やはり血尿、血便、高熱の持続については毎度言い続けるのでしょう。





H23年になり、二人印象的な合併症を拝見しました。感冒性腸炎に伴って脱水が生じ、そのまま尿管結石発作が起きてしまった症例。腸炎のあいだ絶食、そして食べ始めた途端に胆石発作という症例です。両方共あり得る合併症ですが、どちらもエコーに助けられました。(2011/2/22追記)