2010/02/08

帰り際の決まり文句について(HUSを見逃したくなくて)

溶血性尿毒症症候群(HUS)という病気があります。→メルクマニュアル

(H23/5/2追記)病原性大腸菌に起因する症例がしばしば報告されます。
血液が血管の中で溶けてしまうことは恐ろしいという事は私が研修医の頃には常識となっていました。肝硬変という病気では食道静脈瘤という血管の拡張から出血する場合がありますが、この時に出血を止めるために硬化剤を注入する場合があります。(最近は簡単だし安全なのでゴムバンドで止めるEVLという手技が普通ですが、どうしても止められないときには硬化剤を使います)この硬化剤は血管内、血管外に入れるのですが血管内に10ccとか20ccとか注入されますと、硬化剤による溶血が起きます。溶血とは、赤血球の膜が壊れることですが、そうすると血中に放出された赤血球の中身(フリーヘモグロビン)が腎臓をつまらせてしまい、腎不全が起きてしまう。これを予防するためにヘブスブリンという血液製剤を硬化療法の時に注射して予防したものです。HUSで問題になるのは赤血球だけではありません。肝硬変ではもともと少ないので問題にはならなかった血小板の崩壊により血栓が生じて多臓器不全になってしまう。硬化療法のようなわずかな溶血ですら予防措置を講じていたのです。すぐに透析などで治療をしなければ救命出来ません。

それを見逃したくはない。

例えば腹痛と嘔吐とか、腹痛と下痢、発熱、などで患者さんが来院された場合には、脱水の程度を推し量って治療の後、多くの場合ウイルス性の胃腸炎と診断してお帰りいただくのですが、診察を終了する間際に必ず言うことがあります。

血尿、はっきりとした血便、高熱の持続がある場合の指示です。

実際の指示はやや煩雑なのでここには書きません。
大人のウイルス性の胃腸炎は放っておいても良くなる(小児ではロタとかRSウイルスは大変らしいですね)から良いのですが、病原性大腸菌であるとかビブリオなどという細菌性腸炎は重症化してしまうことがあるためその兆候を見逃したくないからです。虫垂炎、憩室炎って言うこともあります。

ゼリー状の血液が出た、ぐらいは良くあることで、心配ないです。ここで言う血便は本当に血液。血液が出た場合でも実際にはほとんどが虚血性大腸炎ですが出血性大腸炎もあり得ます。あるいは高熱が持続したり、尿が茶色っぽいなどというとやはり細菌性じゃないかとか、溶血が起きてるんじゃないかと調べる必要があると考えるのです。

私が経験したO-157の症例はしかし腹痛のみで血便はありませんでしたが、極めて印象的なエコー像を呈していましたので迅速に対処でき良かったです。

経験上、痛みが強い場合には細菌性腸炎や憩室炎、虫垂炎を疑って血液よりもまずエコーで診断します。幸い今まではこの方法で大丈夫であったのですが、しかしいつかは役立つかもしれないので、やはり血尿、血便、高熱の持続については毎度言い続けるのでしょう。





H23年になり、二人印象的な合併症を拝見しました。感冒性腸炎に伴って脱水が生じ、そのまま尿管結石発作が起きてしまった症例。腸炎のあいだ絶食、そして食べ始めた途端に胆石発作という症例です。両方共あり得る合併症ですが、どちらもエコーに助けられました。(2011/2/22追記)

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