2009/08/28

抗凝固療法

抗凝固療法がわからない人は当ブログの読者にはおられないと決めつけて話を続けます。

抗凝固療法のひとつとしてアスピリンを使ったりしますが、単独で使うよりも二剤以上の抗凝固薬を併用して使うと非常に合併症(要するに消化管出血)が増加するため、PPIの併用が推奨(というか、必須?)されているわけです。(「EBMに基づく胃潰瘍診療ガイドライン」第2版2007年4月)
当院はアスピリンを処方するときに粘膜保護薬は同時処方していません。粘膜保護薬には消化管出血を予防してくれるという証拠がなく、その実感もないためです。(胃のびらんを抑制できる事と、消化管出血を予防できることは同義ではありません)実際に、NSAIDSで潰瘍になりやすい人は、タバコを吸うなどの危険因子があるか、あるいは胃の防御をプロスタグランディンに依存するような個性があるような人と思っています。ただし、NSAIDSで胸焼けなどの症状を訴える場合はあり、同時に対症的な薬を処方する場合はあります。内視鏡をする機会がたまたまあり、必要性がありそうだと判断した場合にはPPIを処方しています。しかしアスピリンのみでPPIが必要になる人は当院ではまれです。恐らく重篤な血管合併症がある患者さんが少ないからでしょう。

さて、数度経験があるので注意を喚起したいのが、他の病院でNSAIDSが処方されたり、OTC(市販薬)のNSAIDSを服用したりというケースです。アスピリン投与中にこれらの薬を飲む場合には、上に示した二剤併用と全く同じリスクになってしまいます。つまり、PPIを使わないと消化管出血の合併症が多くなります。粘膜保護薬はこういうときには無力だと思います。命にかかわるようなメレナ(胃や十二指腸から出血して黒い便が出ること)は経験がありませんが、ヘモグロビンがガクっと下がるメレナは時折経験があり、聞いてみるとOTCを使ったり、他院で痛み止めをもらったりしているわけです。お薬手帳も持ち歩かねば無意味ですし、持ち歩いていても処方先で気づかねばそれまでです。大抵その時の出血は速やかで、服用後すぐに出血することが多いと思います。内視鏡で見ると浅い潰瘍であることがほとんどです。

したがって、抗凝固薬を服用中には、市販薬の風邪薬や痛み止めはPPIを服用していない限りは使用を避けるように指導します。あるいは他院で痛み止めを投薬されたときには当院でPPIを処方するのでそれまで服用を待つようにお願いしています。しかしこうした予防的な指導というのはなかなか周知するのが難しいというのが現状です。(電子カルテの本来の強みはこうした事がどの病院や薬局でも可能になる点。現状は機能評価に有効な仕組みがなく、使う側のスキルが伸び悩み、その潜在能力が十分に生かされていないだけです)

(2009・8・29 いくつかの「坑」⇒「抗」に訂正しました。ご指摘感謝します)

2009/08/24

便潜血陽性

便潜血検査は、その感度が期待されているスクリーニング検査です。

大腸癌を見つけるための検査です。

偽陽性が多くたって良いのです。偽陰性が困るんです。

便潜血検査が陽性だからといって、大腸癌ではありません。それは偽陽性が多いと言う事です。陽性でも間違ってる事が多いという事です。それで良いんです。

そして便潜血検査が陽性であれば、若干大腸癌である可能性があります。感度は決して高くはありませんが、500円だし患者さんに侵襲がない検査なので許されます。

便潜血検査は感度だけが期待されている検査です。(統計のマジックがあって、癌から見てしまうと、感度特異度ともに高くて、さぞ使える検査という風に解釈ができますが・・・)したがって、便潜血検査で、(+)、(-)となったときに、「癌があるとは思えないから、じゃあもう一度便潜血検査をしてみましょう」便潜血が陽性になったので再検査をしてください」という人は、全く統計というものがわかっていません。もし再検査が陰性になり、それを陰性と判定するのであれば、そもそも便潜血検査を行った事自体が間違いです。最初から陰性にしたいのならば、検査をしなければいいのです。(+)、(-)となった時点ですでに陽性なのですから、それ以上繰り返す事は無意味です。

最初から大腸の精密検査を受けたくない、あるいは検査をしてあるとか、全身状態が悪くてそもそも検査の適応がないのならば便潜血検査はしない、受けない、これが重要です。

では80歳以上の高齢者や、30歳以下の若年者、あるいはワーファリンなど抗凝固療法中の方に便潜血検査を行う事が適当なのでしょうか。これについては偽陽性率、偽陰性率、感度、特異度、多くの統計では除外されている母集団ですから算定不能で、ノーコメントとします。

一方、特異度、感度ともに高く、偽陽性、偽陰性が少ない大腸内視鏡検査後に便潜血検査を行う事も無意味です。大腸内視鏡検査が100%でない事は認めますが、便潜血検査にはそれを覆すほどの説得力はありません。

すべての検査には、必ず偽陽性、偽陰性などの側面があります。それを知らずに検査の予定を立てたり、要らぬ心配をしたりすることはやめた方が良いと思います。

2009/08/21

病変とその背景

これはたぶん副甲状腺だと思うのですが、通常甲状腺と同じエコーの吸収量なので大きくなっても認識できないことが多く、これはたまたま見えたのではないかと思います。症状はありませんでしたが、高感度PTHは上昇していました。CEAなどは調べていません。


内視鏡を教えるときに、貧血には本当に気をつけなさいと言います。
そもそも癌の色調変化は血球の色に由来する場合が多いのです。
老人、あるいは女性では貧血があってそのコントラストの変化が少ないことが非常に多い。
偶然目の中に変化が飛び込んでくるなどという幸運を待つのではなくて、背景粘膜に貧血があったらあらゆるテクニックを駆使して病変検索をしないと容易に見落としてしまうのです。

脂肪肝が背景にある場合、血管腫を見逃すならばまだしも、やや高輝度の早期癌が見えないこともあります。背景がコントラストをつけてくれる場合は良いのですが、逆にコントラストが低下する場合もあって注意が必要なのです。

大腸ではメラノーシスがあるとコントラストは上昇してポリープが見えやすくなります。ただし、メラノーシスというのはアントラキノンという色素による粘膜の着色で、それは下剤でして、それを連用している患者さんは必ずしも大腸検査がしやすいわけではありません。したがって喜んではいられないのです。

色々な病変を見つけるためにはその背景の理解が必要だということです。人間の目というのは相対的にしかものの判断が出来ませんから。

この話は、医学だけでなくあらゆる事象に適用される、社会に共通する法則のようにも思います。

2009/08/02

お休みと混雑状況

当院の休暇は私よりも事務が詳しいので電話で聞いて下さい。

上部内視鏡は10年にわたる「胃底腺ポリープが診断されたらフォローしない作戦」「除菌後徐々にフォロー間隔をあける作戦」が功を奏して検査は数日先に予約が可能です。むろん緊急時(医者から見た緊急という意味)はこの限りではありません。
下部内視鏡はもともとモチベーションが低いので・・・。予約は1-2ヶ月先までいっぱいです。

いつ空いているのかという質問が多いのですが、天気予報と同じで当たりません。


図でお示ししたように、当院では2回以下の受診で済んでしまう患者さんが60%です。
また、毎日受診している患者さんのうち、2回までの受診という人が26%を占めています。1/4は新患に近い患者さんだという事です。
3ヶ月に一度受診する人(年4回以上受診)を「定期的な受診者」と定義すると、「不定期の受診者」つまり3回以下の受診という人々は36%です。

定期的な受診者の率が低いのです。

初診の患者さんを拝見すると話を聞くだけで随分時間がかかりますし、みなさん病気になるタイミングは予約できませんから、いつ混んでいるかどうかの予測ができません。

ということで、いつ来ても混んでいるというわけです。

年間10回以上受診しており、症状容態の安定しているほんの一握り(わずか10%)の患者さんの忍耐力に本当に感謝いたします。