2014/01/28

心窩部を極めよう~エコーの話~

学生実習レジュメ



序論

1) 腹部エコーの価値
 (ア) 即時性
 (イ) 非侵襲
 (ウ) 経済的
2) 欠点
 (ア) 極端に主観的で検査に優劣がある
 (イ) ハンズオンでしかトレーニングが出来ない(習得するのが難しい)

腹部エコーがCTに駆逐されてしまった理由
CTも人が読影する限り主観的ではあるが、その診断根拠であるデータは正確に残るので検証が可能である。また、一枚の写真から無限の人々がトレーニングができ効率が良い。

ではエコーは無価値か?

非侵襲的で即時性がある腹部エコーは緊急時においてもっと沢山の患者さんを救う事が出来るはずで臨床医に必要な技術

注意

腹部エコーは魔法ではないことも事実であり過信は禁物

優れた臨床検査技師によるエコーは患者との距離感が絶妙であり、魔法であるかのような誤解が起きにくい。
しかしエコーを医者が行う場合、直接診断をするという近い距離感から、時にそれが魔法であるかのような患者の誤解を生むことがある。また患者から過剰に期待されることもある。常に冷静でいよう。



本日の主題

心窩部で何を見るのか
 コンベックス 2MHz-4MHz程度

フリーエアー
SMA

胃の周囲のリンパ節
膵臓
肝臓
PV
胆のうの一部
心臓
食道
横隔膜
脂肪


などなど(重要だと思う順番に並べてみました)


疾患へのアプローチ
症状優先でみる
所見優先でみる

症状優先:「おなかがいたい」
結石系
炎症系
 ピロリ、キャンピロ、サルモネラ、O-157、ノロ、憩室炎、クローン、(クラミジアは自分は無理)
腫瘍系
 GIST、pseudokidney sign、胃壁肥厚、リンパ節、実質臓器の腫瘍
アレルギー系
潰瘍系
血管系
イレウス
女性器関係(腹水など)
機能性(動きがみられるのはダイナミックMRI、エコー、透視、RI、しかし情報量が最大なのはエコー)

所見優先:
形態の異常
機能の異常
画面内のすべてが理解できるかどうか


超音波の特性、アーチファクトを知り尽くす(新しい画像処理に特有の癖もある。画像処理を調節しながら学ぼう)

新しい発見がないか常に考える(大抵は報告がある:お勉強重要)

QC(クオリティコントロール):
膵臓の描写、小さな肝嚢胞、血管腫の発見率を自らの検査の質的管理に使用する。




心窩部操作は非常に単純で、プローブは前後左右に数cm、ひねりは90度、少々のあおり操作があるのみで時間は1分に満たないけれど、これを理解すれば腹痛のかなりをカバーすることが可能だ。がんばろう。



「ついで」受診はしないのが賢い

「風邪で来ました」と患者さんが言う。(10年ぶりぐらいの遠方の方で循環器の主治医がいたはずです。当時もいろいろな資料は持って来ず)

「うちには風邪で来る人はいないのですから、本当の理由があるのでしょう?」

「ピロリ菌が胃にいるのか心配で来ました」

「だと思いました。それが本当の理由で、風邪も引いたからいい機会だと思って来たのですね?」

「そうです」

「で、お薬手帳は持ってきていないのですね」

「そうです」

この方主治医の先生にたくさんお薬をもらっているはずなのですが、お薬の名前はわからない。
主治医は予約制だから風邪ではかかりにくいらしい。
しかし診察をしてみると、気管支から雑音がかなり聞こえます。風邪とは言い切れず困りました・・・。
もちろんこの状態で胃の検査は出来ません。込み入ったお薬の出しようもありません。高齢者ではかなり腎機能が低下している方が多いですし、薬の飲み合わせについて内科医は深く考慮しますから単純ではありません。
当院は普段癌患者さんが多いので風邪の方は必ず連絡してね、と言ってるのに来てしまっているのは当院の患者さんではないのだからしょうがないとはいえ。

ちゃんと主治医の先生も指導をしましょうよ、それから急患に対応できないタイプの予約制にするとこうして患者さんは難民になってしまうからかわいそうでしょう、とも思います。



ではこの方はどうしたら良かったのでしょうか。

「予約制」という場合には「急病の場合かかることができるのか」は確認しておきましょう。
どんな場合でもお薬手帳と血液検査結果さえあればなんとかなる場合が多いので持参しましょう。
「ついで」受診はあなたの心配事をおそらく解決してくれない場合が多く、結局通う回数は同じになります。メインの心配事があるのならば、それを医師に相談しに受診しましょう。ついでの理由が出来るまで待つのは賢い選択ではありません。



とはいえ、すべて解決したいだろう気持ちは理解できます。
メモ帳に心配事をすべて書いてあるタイプの方は得する事が多いだろう、とは思います。

2014/01/19

インタビューは尋問ではなくて連想ゲームだという話

自分は問診の事をインタビュー、と呼ぶことが多いです。

テレビで「患者さんになるべくイエス・ノーで答えられる質問をしてあげるのが親切なお医者さん」と主張している先生がおられて、これには私は反対の意見です。(→リンク

時間がない状態で手っ取り早く情報を引き出すにはそうせざるを得ない場合もありますが、それは必ずしも親切ではなくて自分に利があるからという側面を認めるべきです。

そういう聞き方にならぬように例えば、胃の中にびらん(荒れているところ)があるときに、
「こういうびらんはアルコールを飲んだ時、酢を濃い状態で飲んだ時、お薬の一部、硬くてとがったものを食べた時などに生じることがありますよ」
と話しかけたりします。

「私はアルコールなんか飲みません」と強く否定する患者さんがおられるのですが、この人がイエス・ノー形式の質問に慣れすぎているのではなかろうか、と少し悲しくなります。インタビューは尋問ではないので、もっとリラックスしていきましょう。

私が意図しているのは本当は連想ゲームでありまして、「先生、例えばコーヒーは荒れますか?」というような反応は大歓迎なわけです。すると「コーヒーは胃が荒れる、などと言われることがありますがそんなことは全然ありません、実は…」と面白い話に広がっていくし、この会話から患者さんがコーヒーを良く飲んだりする事がわかったり、そのコーヒーを沢山飲むことが本当は大丈夫なんだろうかと思っていることがわかったり、でも実はコーヒーは飲み過ぎなければ良いことが多いんだという説明が出来て安心してもらえたり、インタビューの本来の目的を果たしていると思うのです。

私は問診票というのが苦手というか、自分の医療の幅を制限してしまいそうでなかなか導入には踏み切れないでいます。そんな自分が今QRコード問診票というプログラム書いているんですけれどね。人間とコンピューターの狭間でもがいております。

連想ゲームというのはNHKで放送されていた番組の名前です。

ブログを書く理由が変化してきた話

BloggerというGoogleが買収したサービスを無料で使わせて頂いています。
本来ならばGoogleはここに広告を表示して欲しいのだろうとは理解します。もしも広告が強制になったら有料サーバーに移行したいと思いますが、このBloggerはSEOを何もしなくても検索エンジンの上位に来るように感じておりまして手放すことが出来ません。

ブログを書き始めて8年ほどになり、単なる雑記帳ですが、しかし例えば自分たちの業績については一言ぜひ申し上げたい、というような事もあって力を入れて書くこともあります。例えば二酸化炭素内視鏡に関してです。

現在は毎日1000人ほどの方がご覧になるこのブログは、「胃ポリープ」「CEA」「胆泥」「生理食塩水」などを検索すると、GoogleやYahoo!では上位に表示されています。

恐らくこの理由は、ブログが更新されると数人〜数十人のお医者さんが見て下さるのですがその行動(滞在時間がGoogleにはわかる)がGoogleのエンジンに何らかの影響を与えているものと推察します。比較的新しい固有名詞については必ず数日以内にGoogleではトップに来るので恐らく、

Googleは閲覧者のプロフィールについてはかなり良くわかっている
(AdSenseはメールの内容などは直接は見られないが結果としては見るのと同様の情報の偏りは収集が出来る)
一つの名詞に対してどのプロフィール群の人々が食いつくかをデータ化している
滞在時間は非常に重要で、ある名詞と関連する群の人々が閲覧する時間が30秒を超えていれば重要だと判断されるなどのアルゴリズムがあるはず
直帰するが滞在時間が長い場合にそれは重要な情報だと判断される

というような事が行われているのでしょう。
Bloggerは特にAnalyticsに指定せずとも滞在時間などの情報が得られるため検索エンジンで上位に来るのではないか。

と想像しました。

さて、例えば二酸化炭素内視鏡や胃ポリープについて「これは間違い」「これはただの広告」というようなサイトが自分よりも上位に来てしまった時に自分ができることは何かと考えて、例えばSNSなどで自分の記事を紹介をしてみる。すると私の友人が「なんだろう」と読んで下さって、恐らく彼らのWeb上での行動は間違いなく専門家とGoogleには分類されているはずで、そして60秒ぐらい記事を読んでくださることによって検索ランキングが上がっていくはずです。そして実際そうなります。

間違った医学知識が検索エンジンの上位に来ないようにする地道な活動は医師に任せられている、というように感じるこの数年です。

2014/01/14

胃の出口は直径が3mmしかないという話

胃の出口は3mmしかない。
伸び縮みして一定ではないから本当ではないのですが嘘でもありません。

雑談で「受験する娘さんが胃が痛いと言う」という相談があったとき、何を話すべきなのか。

1)受験前だとなるべく受診は避けたいのだろうな。風邪をもらうリスクもあるし。
2)そもそも受験生の年齢で深刻な病気は考えにくいな。
3)「薬を飲め」的な答えを期待するのだったら自分には相談するまい。知恵が欲しいのだろう。

という質問者の背景を考えて、

1)受験生には、何か本人が納得するような痛みの理由を考えてやりたい。
2)納得して安心して受験に臨んで欲しい。
3)もちろん症状が取れることが前提だ。
4)将来のためになればもっと良い。

と考えた。

そこでお母さんに、
胃は砂時計みたいなもんだから、って説明してあげて下さい」
と言いました。

注:砂時計胃というのはおばあちゃんの胃によく起きる変形なので混同しないで下さい。

・胃の出口は3mmと小さくて、砂時計みたいなものだと想像してくれて間違いはない。
・普通の砂時計と違うのは弾力があって自ら動く力があるという事。でも今回はそれは考えないで良い。
・ストレスのかかったときには通りが悪くなり、そのために痛い。(急性胃炎も同じような事が起きる)食べると胃酸も出てくるしなおさら。

問題
・さあどうしたらちゃんと砂が落ちる?あるいは痛くなくなりそう?食べ物を食べる量を減らさないと仮定して答えて下さい。

答え
1)その穴を大きくする
2)砂を細かくする
3)胃酸を減らしてしまう
4)何も感じなくしてしまう

全部正解だけれど、医者は基本的にこのうちの3)しかやらないですよね。でも今回はそういうことを期待されてるんじゃないということはわかっています。

解説
1)をしてくれるのは例えばミントなんかが有名ね。ミントを使ったお菓子って子供大好きでしょ。チョコミントとかね。デザートにミントっていうのは本当に昔の人の知恵ね、感心します。少しそこら辺の血流が増えると良いので、手のひらで心窩部を温めたり、お風呂に入るのも良い。決してホッカイロを当ててはならない。抗コリン薬っていう薬(たとえばブスコパン)を使う先生も多いんだけれど、受験生でしょ?ぼーっとするから僕なら出さないし、今回はお薬を使わないでっていうことだから考えないことにします。仁丹も同じような働きがあるし、ミントの飴だって良いし。
2)砂を細かくする、つまり食事を3mm以下になるまで噛め、って事です。普段ちゃんと噛んでますか?って事。胃の中には食べ物を溶かす消化液は出てると教科書には書いてあるけれど、実はちゃんと出ておらず、甚だ量が足りないんですね。でも細かく噛んでおけば胃の出口を通ってくれるから問題はない。ほかには何があるか。パイナップルジュース好き?え?飲まない?パイナップルは慣れてない人は避けたほうが良いな。特に受験生だから口の中荒れちゃったりすると困るから飲まないで。つわりの人がそれで切り抜けたことある。え?お母さんはそれをもっと早く聞きたかった?いやいやアドバイスなんて全員変えるし。別に市販ので良いです。パパインっていう酵素が入っているので消化を助けます。(アメリカでだけど)医者も管がつまると使う。あとは大根おろし。え?食べないの?もう高校生なのに?ジアスターゼという消化酵素が入ってるんだけど。困ったねえ。え?試してみる?そうね。天ぷらに大根おろしとかよく考えたと思う。じゃあとにかく良く噛むように言って下さい。
3)胃酸ね。止める薬は出さないとして、胃酸が出過ぎないような工夫は何かあるかっていうと、まあ色々あるけれど食事はきちんとしてほしいから、あれだめ、これだめの指導はしません。でもヨーグルトの乳酸が胃酸を調節って言うでしょ。だからそれは悪くないと思います。お腹全体の調節も大切だから。ヨーグルトでもぬか漬けでも効くんじゃないかとは思う。ぬか漬けは良く噛んで下さい。
4)何も感じなくしてしまう、これは冗談なんだけど冗談じゃないというか、胃の痛みにも生理痛の薬が効くのに気づいてしまって、飲みまくって胃潰瘍が出来てから病院に担ぎ込まれてくる人いますので気をつけましょうという事ですね。感じなくするのは余りよろしくはないです。

今のもろもろのお話からもっと違うこと考えついちゃったらすごく偉いんで教えて下さいと伝えておいて下さい。

そう、言いました。

2014/01/10

診断は簡単なのに説明しても「わかった!」と言ってくれる人が皆無=迷走神経反射

「先生この前トイレでたちく(ry」

早押しクイズかってぐらいすばやく答えがわかっているのですが、
患者さんを悲しませてはいけないので
患者さんが満足するまでその症状を語って頂いています。
だいたいみなさん臨場感あふれた描写をしてくださるので
興味深く拝聴いたします。

それは迷走神経反射なのですが、
一生懸命説明してもなかなか
「わかった!」と言ってくれる人はおらず、
したがって次回の予防も出来ない、ということになってしまいます。

これが原因で心筋梗塞起こす方もおられるので
なんとか上手く説明したいのですけれどね。

セロトニンがドバドバとかいう記事がはてブでブックマーク集めていますと、
「またこれで迷走神経反射が増えるよちくしょう」
とか思うわけです。

セロトニンの理解の前にみなさんは交感神経と副交感神経について
もう一度復習しなくちゃならない。

2014/01/09

ちゃんとポリシーがあって抗生物質を使い分けている先生を尊敬します。

抗生物質に限りませんが、
ちゃんとご自分のポリシーがあれば、
どうしてこの薬を選んだのかその理由が
いくつもいくつもあふれるほど出てくるはずです。

皆さんは薬を選ぶのは簡単とか思っているかもしれませんが、
あなたが神様の視点で我々を見ていたならば、
例えば10名の患者さんを僕らが診た時に、
同じ症状でも同じ処方をしているケースが
殆ど無いことに気づくはずです。

逆に深く考えていない処方のあとを継ぐのは
かなり大変です。
良い医療とは、何か問題が起きた時にも現状復帰しやすいように、
あるいは原因究明しやすいようにヒントを残しておくものです。
なんでもかんでもこの薬、みたいなのは困るのです。

病気で困ったときには
確固としたポリシーをもった医師にかかって欲しいと思います。
お薬を処方されるときになぜこの薬なのか、ということを簡潔に説明してくれるでしょう。
簡潔に、といってもなかなか理解できない場合もあるでしょうが、
まずは効くか効かないかが大切なので
「この先生は大丈夫かな?」という印象を大切にすると良いのではないか。

禁句としては、
「この薬が一番強い」とか
「これは絶対効く」的なセリフでしょうか。
最終的には数種類に絞ってから最良の組み合わせを選ぶので、
「なぜこの薬をベストだと考えたか」という説明をしてくれるはずです。
「この薬は良く効く」的な説明は、その判断にあなたの症状の背景を考慮しておらず、
薬の説明文を鵜呑みにしている可能性を考えます。

医者がうんと暇そうなときに、過去のお薬手帳を振り返って、
「ここはどーいう意図だったんですか」みたいな話は、
なかなか面白いとは思いますけれども。

医者と患者との相性は、「こだわりの有無」なのかも知れません。
「なんでも良いから薬ください」という方と、
確固たるポリシーのある先生とは
合わないな、不幸だな、と思うことはしばしばあります。

2014/01/05

加速度と品

動きの中で、「加速度」をもっとも意識すべきだと思います。
高校で微積分を習うのは大切なことで、ことに微分は必修となっていると思うけれどこれは動きの速度を微分して考えるということを常に考えることが非常に生活に役立つに他ならないから、と考えています。

最初に気付いたのは、バットやラケットをスイングするときに、私が非力にもかかわらず非常に速いトップスピードを出すことが出来たからです。図に示します。


力のある人は初速が速いのはいうまでもないことですが、やや初速が遅くても最後まで加速してやれば最終的なスイングスピードは同等にできる。ことにラケットやクラブなどの道具を使う場合には、手で投げることに比べるとはるかにその力の差を克服しやすいということです。

実際にはこのように加速するのは不可能ですけれど、最後まで加速し続けるという意識は常に持つ。逆に初速は速くする必要がないということ。

このような意識は、運動時に故障を避けるためにも重要です。腱への負荷は加速度が重要だからです。加速度を最小にしつつ、最大の効果が得られるように運動をするのが故障の少ない方法だ、と考えて今まで生きてきました。

これは「止まる」「着地する」動作の時にも重要です。


さきほど同様、実測ではないグラフで恐縮ですけれど、例えばジャンプして着地するときは、マイナス加速度は一定ではなくて徐々に小さくするような意識を持ったほうが良いだろうということです。
低いところから落ちて骨折する子がいますが、これは筋肉をうまく使えなくて衝撃が直接骨に伝わることも一因としてあるだろうと思います。

水のように抵抗が大きな場所では加速度は小さくなるので故障はしにくくなると思います。

こういう加速度の意識は、茶道ですとか、テーブルマナーですとか、普段の生活でも意識するのが良いだろうと考え生活しています。加速度はたてる音の大きさや、動作ふるまいの優雅さとも関連するからです。

「鵜川先生は気配がないね」とよく言われますが、動作音が少ないからだろうと思います。キーボードをたたく音も小さいです。物もめったに壊しません。精密機械や磁器などの取り扱いには加速度はきわめて大切だからです。

さらに呼吸などにも加速度の考え方は取り入れています。喘息などの時には胸腔内を極端に陽圧にすることはかえって起動を狭窄させるので避けておきたいのです。この時胸腔内圧と関連するのが呼気の加速度です。

品がいいなあ、と思う人を見ると必ずその加速度に注目しています。動作だけでなく、話し方などすべてにおいて、加速度の変化がどうなっているのか、を観察するのです。もちろん書く文章にも加速度があります。丁寧なだけでは品が良い、とは言えないと私は思います。

というような観察を30年ほど続けております。

高校の勉強がいかに大切か、ということを書きました。すべての教科が今の生活に生きている、と思っています。

2014/01/03

食道癌に関して患者さんを脅かすのはやめよう

患者さんを癌という言葉を使って脅かすな、というような記事は比較的欧米のジャーナリズムには登場する頻度が高いと感じます。日本と違うのは著者がジャーナリストではなく、大抵その分野ではある程度知られ尊敬されている医師だという事です。敬意を払われている存在、あの方の言うことならば聞いておこう、そういう存在は大切ではないかと思います。あまりこの国にはないコンセプトの生き方だと思います。

医療ジャーナリストは事実を易しく、なるべく誤解なく伝えるのが仕事であって、意見を言うのが仕事ではない、という役割分担ができている印象を持っています。もちろんソースの選択が彼らの意見なので、あえてそれに蛇足のように意見を加える必要がないのかもしれません。

欧米の医師のスタンスと観察していると、
「いろいろ極端な事をいう専門医」がいて、
「患者を脅かしてはいけない」という冷静な反応があり、
そして背景では決着をつけるべく何年も前からRCTが進んでおり底力を感じます。

専門医どうしでの冷静な議論が行われて、粛々と進歩していくのが羨ましくなります。COIもドライに扱われているように感じます。私の英語力が拙いために、妬みや邪魔などのノイズを感じにくいだけなのかもしれませんし、日本よりより反対意見が地下に潜っているだけなのかもしれませんので今後も観察し続けようと思っています。






癌と言う病気には、予測がある程度可能なものがあります。

例えばC型肝炎における肝細胞癌、ピロリ菌による胃癌などが代表ですが、適切なサーベイランス(検診ではなく)を行い9割程度を早期の状態で発見、患者さんのQOLを維持出来て、しかもそれが医療経済的に十分ベネフィットがあるならば、「癌のサーベイランスのために検査をしましょう」というのは妥当だと思います。もちろんそれを言うには、9割を発見出来る実力が必要だし患者さんだけでなく医師にも尊敬されている存在でなければならないことは言うまでもありません。そして残りの1割の人に寄り添っていく誠実さも求められます。

ところで欧米は必ずしも癌のリスクがあるときにも早期で発見することは目指してはいません。なので日本のように「どうして早期で発見してくれなかったのだ」と患者さんから恨まれるということはありません。進行した状態で見つかっても治そう、というのがスタートラインになっています。日本は変に診断技術ばかりが進歩してしまっているために、「早期、早期」と連呼しますが、まるで早期でないと治らないと言わんばかりです。そして逆に早期でない場合に患者さんが落胆してしまう。こうした欧米と日本との温度差は常に感じておりますし、私自身が「早期癌を見つけるのが得意」などと言っている時点で自ら矛盾を作り出しているようにも思っています。早期で発見されなかった時こそ役立つ医師になりたいと常に思っています。

このように癌が治る、治らない、という議論をする状態ではとうていない隙間で、「癌は放っておけ」と意見を表明する人がいるのは一向に構わないのですが、彼らが怠ったとすればそれは同業者から尊敬されるための努力だろうと思います。一部から支持されてもそれは政治に過ぎません。全体からなんとなく信用される存在になることはいかに難しいか、ということを痛感します。





話がそれましたが、食道腺癌はバレット上皮から発生するものが多い、という事実だけが先行してみなさんに認識されてしまったという問題があります。

バレット上皮は内視鏡をすると非常に、非常にありふれた所見(数人に一人)ですので、これだけではリスクを予測するには全く不十分なのです。

男性にしか起きない病気があるとしてその病気に日本で年間500人かかるとする。その病気の早期発見のための検査を男性に対して毎年全員受けなさい、と言えるでしょうか。無駄すぎます。「バレット上皮に気をつけろ」としか言わない医師がいたとしても尊敬されないのは、自分の利や正義のみから発言するからです。まともな研究者であればもう少しリスクを絞りたいと思うでしょう。今までの研究ではなるべく新たなリスクを発見して、その人達を積極的に見ようというスタンスでした。




あたらしい前向き研究
http://cancerpreventionresearch.aacrjournals.org/content/suppl/2013/11/20/1940-6207.CAPR-13-0289.DC1.html
があり興味を引きました。
1988-2009のコホート研究です。
サンプルとしてバレット粘膜からの生検は2cmおきに。コントロールとしてバレットではない部分からの生検を行い、合計で平均3個程度となったそうです。
サンプルとコントロールで染色体を増幅して、その染色体異常の頻度を測定するという方法で研究を行っています。(どれだけの染色体異常が起きたか、は再生修復でどれだけミスが起きたかをよく反映すると思います)
腺癌を生じた人々では多くの染色体異常が生じ、多くはコピーロスでしたが、バレット上皮のどの部位でも同じような異常が生じていたということ。そしてその異常は癌と診断される48ヶ月前には出現し始めていたということ。




その論文を受けて、検査の間隔を48ヶ月まで伸ばすことが可能なのではないか、という議論がありました。リスクの少ない人々を何年まで検査間隔を伸ばすことが出来るのか、という事についてなかなかエビデンスがないのですけれど、こうした証拠というのは役立つと思い興味を引いたのです。

さて問題は、日本では48ヶ月おきの検査で3回の内視鏡をパスすることが出来るとして6万円ぐらいしか医療費が削減出来ないのに、この染色体の検査がそれよりも高価だという事です。

欧米ではおそらく内視鏡のコストは日本の数倍なので、「経済的だ」という話になるのですけれど、日本は極端に医師の手間暇が安く見積もられているために欧米とは同じ議論にならない。当院のように1台の内視鏡で年間2000例を超える症例を検査すれば利益は出ますが、多くの病院では内視鏡で利益は出ません。

これが早期早期と連呼せざるを得ない、日本のしょうがない側面なのかなと思います。




横にそれたので、まとめます。




1)バレット上皮があるというだけで医師が患者さんを脅かすのは誠実ではありません。高脂血症や骨粗しょう症にも似た側面があります。
2)ただし、タバコ、内臓脂肪型肥満のように改善できる食道腺癌リスクがありますので患者さんには意識していただきたい。
3)そのような説明を医師がきちんとしているにも関わらず、しっかりと聞こうとしない患者さんがかなり多くいます。そして「脅かされた」と思っている。それは間違いなので、きちんと医師の言うことを聞いておきましょう。
4)検査をどのくらいの間隔で行うかについては結論が出ていませんが、リスクが低めであると判断したみなさんに我々は3年に1度の検査を今のところ勧めており、この方針はそれほど間違っていなかったかなと考えています。
5)我々一般医家の行うすべての医療がフィードバックできれば、この難しい問題に結論を出せる日がいつか来るかもしれない。頑張らねばならないと決意を新たにしました。




あわせて読みたい
 ラジオ波焼灼は、アメリカとヨーロッパではかなり意見が異なります。
 上記論文は2009年で終了なのでまだラジオ波焼灼の話は出てきていません。

2014/01/02

医師の実力と真摯さは2回め3回めの受診で明らかになる

良いドクターショッピングをしている患者さんがあまりに少ない、と思います。

一度か二度受診して
「良くならない」と他院に受診するの繰り返し。

「あと一回受診していれば適切な治療が受けられたはずのにもったいない」と思うことが多すぎます。(そして自分の仕事が増える落胆もあります)




正しい受診の方法について書いておこうと思います。私のターゲットにしたい方々は絶対に読まないのはわかっていますけれども、私自身を納得させるために書くのです。

診断というのは外れるのが普通だと思って下さい。
必ず第二第三の診断を用意しておくものです。
ほとんどの病気は自然に良くなるため二回目の受診をする必要がない場合が多い。
しかし良くならなかったら同じ医療機関にかかって下さい。

注1:救急にかかるときは二回目がないので、次の営業日の午前中に医療機関を受診しておくように言われます。それが第一回目の受診となり、なかなか治らない場合に備えます。
注2:大病院ではシステムがうまく機能しない場合もあります。診断が遅々として進まないというような。しかしトップレベルと言われる大病院はさすがに込み入った病気の場合でもスピーディに診断が行われるような柔軟なシステムが構築されていて感心します。





「コンビニ受診」という言葉があります。「気軽な受診」という意味として使われます。しかし私はこの言葉に別の意味があると思っています。
「最初から二度と行かないつもりでかかる受診」
結果が決定されているならば医者にかかる必要はないのにかかる。この矛盾をはらんだ受診の仕方は、日本の医療特有ですが、早晩こういう受診は制限される時代がやってくるでしょう。





さて、自分の具合が良くならなかった時こそ、医師の本当の実力や真摯さが見えてきます。
第二の診断、第三の診断についてもう少し彼らが思考する姿を観察してください。
その時にあなたを攻撃してきたり、他の医者に丸投げするような態度をとったり、「治るはずだ」と自分の意見を変えなかったり、そういう医師がいたとしたら、マイナス評価をつければ良いと思います。