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2008/12/18

バレット上皮

(2013/11/1に内容をアップデートしました。さらに食道腺癌が増えているのです)

バレット食道:1900年代からECJに円柱上皮があるとの報告有。1950年初頭にBarrett先生がECJの潰瘍を報告、すぐに追試が出てBarrett潰瘍と呼ばれたが一旦Barrett先生はその論文は取り下げる。しかし1957年ごろにやはり円柱上皮があると報告している。それが追試され周知されたのは1970年ごろである。日本で最初の1例報告がやはり1970年代で、1990年代から非常にポピュラーになっている。

バレット上皮からどのくらいの発癌があるかというのが問題です。
欧米での有病率ですが、イギリスの統計によれば10万人に対して13.6人が食道癌になり、その5割以上が腺癌であるとのことです。10万に対して7人ぐらい、と考えれば良いでしょう。男性:女性は3:1です。
日本では10万人に対して16.1人。男性:女性は5:1(扁平上皮癌は腺癌よりもさらに男女差が大きい:酒タバコのせいです)このうち腺癌はかつては1%程度。現在は5%程度ということです。つまり10万人に対して0.8人ぐらい。まだ欧米の10分の1ぐらいです。

これは全人口に対しての比率ですから、母集団を絞り込んでこの比率をどう上げていくかが大切です。65歳以上ではリスクは跳ね上がりまして、3倍程度になります。それで10万に対して2.4人になりました。これをせめて10ぐらいにもっていかないとスクリーニングの意味がなくなってしまいます。ちなみに乳房は99.5です。胃もそのぐらいです。

ちなみに交通事故死は10万人に対して4.8人(2010年)ぐらいだと思うので、これ以下のインシデンスしかない病気を積極的に心配することに意味があるのか、という議論はあると思うのです。

年間2000人の患者さんを見ている当院では、しかも女性が非常に多いので食道癌がきわめて少なく、年間数名見つけられるかどうかという確率です。(この記事を書いて以後、NBIが活躍してくれてその数倍のペースで見つけてはいます)扁平上皮癌はまだ良いのです。ADH2欠損や、食道パピローマ(このリスクは日本では明らかでは無いけれど、子宮頚癌のHPV16, HPV18への関与を考えればsexual habitの変化した現代ではHPV16, HPV18によるパピローマが咽頭食道癌のリスクである可能性が十分にあるために、咽頭食道のパピローマは記載し、できればHPVの型を診断しておく必要があると考えています)を目安に出来ますし、NBIという武器を手にしてからは全員にヨード撒布をしないで済むのですから。しかし腺癌は難しい。最近では目が慣れてきて腸上皮化生の生じているバレット上皮が少しわかるようになってきました。その部分の生検をするのですが、まだバレット上皮由来の腺癌を診断したことはありません。(この記事を書いて以後、食道腺癌を2名診断したのですが、アルコールを極めて多く飲む方なので患者背景が普通ではない)

このようなチャレンジはしかし不毛のチャレンジかも知れません。
1000人に1人以下というリスクでは、診断にかかるコストが2000万円を超えることになってしまいます。
なんとしてもリスクによって患者さんを絞り込む必要があるのです。逆流の関与だけでは十分とは言えません。(アルコール摂取量が多い人々(3合以上)はその対象としての候補になりますがメタ解析ではそこまで沢山飲む人々を区別してはいないのが残念です)

そこでバレット食道です。これは腺癌の明らかなというより直接のリスクです。
バレット食道の有病率ですが、日本ではLSBEが0.4%、SSBEが40%(5mm)、12.6%(10mm)だそうです。残念なことに特にSSBEが多すぎる。
Sikkema、Desaiのメタ解析により、多めに見積もって1000人中5.6人が発がんすると言います。さらに詳しくみるとLSBEの発がん率はLSBEで0.33%/年、SSBEで0.19%/年だそうですが、これを日本に当てはめられるでしょうか。まだ10万人のうち0.8人ですから、SSBEの比率から考慮すれば計算が合わないわけですが、高齢者の8割が若いころにはピロリ菌感染があって若いころにバレット食道が進まなかった、というような仮説をとると日本では幼少期から老年までピロリ菌がいなかったという人口が欧米の数分の1になるため、10倍を一気に相殺は出来ないかもしれないけれども2、3倍というところまで行くのかも知れない。ちなみに日本でははじめて行った内視鏡でLSBEに癌を併発したものは15.2%、SSBEに癌は0.91%であった、という事です。日本では亀背にともなうLSBEがとても多いという事。

バレットがいつ出来るかについては、Cameronの1992年の論文で「出来るときは一気に出来る。その後は伸びない」という説があるのですが、日本では徐々に進行するという報告があります。いずれにせよ若い方の内視鏡は特にSSBEについて詳細に記録することは重要に思います。それがない内視鏡は無意味という気すらします。

やはり遺伝は関与するらしいという報告が欧米ではあるようです。遺伝でリスクを絞り込む、というはひとつの方法です。もう一つのトピックとしてはラジオ波焼灼療法があります。
(バレット腺癌の問題は、ラジオ波焼灼療法により消滅してしまった・・・と2011年にはヨーロッパで最大のトピックになったのです。発生母地となるバレット粘膜をラジオ波という電波の一種で一気に焼いてしまう手法です。日本ではまだ行われていません。ヨーロッパでのバレット腺癌は、LSBE(long segment Barrett esophagus:3cm以上あるバレット粘膜)を母地とすることが多いため、LSBEを見つけたら焼いてしまえば大半の癌が予防できる、という発想です)…ただしアメリカでの成績が悪いらしく、まだ評価は割れているそうです。

以上をまとめますと、日本では、今のところ逆流性食道炎からバレット上皮、そして発癌するという事例が稀なので、癌になるから全員に対して逆流性食道炎の治療を、という事を言うドクターがいらっしゃるとすれば、それは勇み足です。SSBE(short segment Barrett esophagus:3cm以下の長さのバレット粘膜)を見つけたら、患者さんの自覚症状と良く相談しつつ、日本の医療費を圧迫しないようにどのようにフォローしようか、今まさに考え中、というところです。

まずは正しい診断ですが、これが難しいという事。κ係数(kappa statistic=診断の一致率)は0.4を満たすという事が全くないようです。萎縮と同じですね。
まずECJは棚状血管、胃の襞の上端を目安にする。場合によって扁平上皮島を目安にする。
記述はC&M分類を使うのが標準ということ。
 
棚状血管については De Carvalho CAF: Sur l’angio-architecture veineuse de la zone de transition œsophago-gastrique et son interprétation fonctionnelle. Acta Anat 1966;64:125–162. が最初の論文とのこと。以後加藤洋先生などによる報告がありますが、これはバレット上皮を語るときには非常に基本になります。

早期発見にはIIb型の異形を見つけることが大切で、それにはまず棚状血管を透見出来ない粘膜を探すこと。炎症があると鑑別が難しいからバレットのフォローの場合先に2週間以上PPIを使っておくこと。NBIなどのIEE(Image-enhanced Endoscopy)は重要で、血管密度は炎症と関連しCOX-2の発現と相関するからそれを目安にすると良い事。クリスタルバイオレット染色で腺管構造が丸く閉じているclose typeは正常粘膜であるが、閉じていないopen typeは異形を示すので鑑別がとてもしやすいこと。クリスタルバイオレットがない場合には濃いインジゴカルミンを使う事。などの工夫があります。もちろん深吸気は必須です。
酢酸は少し蛋白質が変性するためirregularに見えるので慣れるまでは非推奨とのこと。
12時~3時方向に多いが、これは平滑筋が薄いのでその部分が逆流しやすいのではないかと。
(マロリーワイスが多いのもこの方向です。同意)

発がんにはcreeping theory, stem cell theoryなどがあること。レタスなどに多い硝酸塩は唾液中に分泌されこれがアスコルビン酸と反応するとNOとなりこれが円柱上皮化を来たす説。キャンピロバクターなどの細菌説などがあるそうです。COX-2は確実に悪くて(特に表層発現すると悪い)、アスピリンやスタチンによる抑制はエビデンスがあるということ。胆汁はどう関与するのか。胆石のある人に多いという報告があるけれど、胆石がある人の胆汁は疏水比(水に溶けにくい胆汁酸の多さ)が高いという事。疏水比が高いほど細胞障害性が強くて発がんに関与するのではないか。一方pH3以下でないと胆汁は悪さをしないので胃酸との共同作業であるだろうということ。(胆石がある人は胆汁の逆流も多い、という事も関係があるかもしれません。また細菌説と関係しますが二次胆汁酸が悪さをする可能性もあると思いました。膵液については分子量が大きく研究が極めて困難という事。ただ、胃全摘後にバレットが進行する例もあるので、膵液の役割も無視は出来ないだろう)これらの発がんはUCのcolitic cancerと似た部分がある。危険因子が大腸ポリープと似ているので調べてみると確かにバレット食道と大腸ポリープとの併存例が多いという事。

一方再扁平上皮化という事もおこり、生検をすると30%がそうなると。特にPPIを飲んでいるような炎症の抑えられた人では良く生じるという事です。

確実な発がんのリスク因子としては高齢、男性、食道裂孔ヘルニア(日本)、タバコ、肥満(特に内臓脂肪型肥満)、ピロリ菌陰性、LSBE、GERD+逆流性食道炎などがあるそうです。内臓脂肪型肥満はありとあらゆる癌を増やすので当然か。アルコールはメタ解析で否定されているそうです。

フォロー間隔はこれらの人々では年1回、それ以外は数年に1度程度が良いかもしれない。LSBEは半年に一度、しかもキャップつけて、という事になります。

スタチンはコレステロールを下げますが、これ自体で救われるのは年間2000人に1人しかいないとしても、それ以外のことで役立つかもしれない(インフルエンザの脂肪死亡率を下げるとか、癌を抑制するとか)ので、OTCになったら飲みたい人は飲んでいて良いのではないかとか思います。ふた昔前の日本の防御因子系胃薬は、何の役にも経っていなかったかもしれないけれど、実はその抗酸化作用で長寿に貢献した可能性もあるのですよね。

以上、ネタの半分以上は天野祐二先生のお話や論文からの引用です。天野先生は確実に日本のバレット食道のオピニオンリーダーなので先生の論文を追って行けば大丈夫のように思います。

話は変わりますが、欧米人は自分の名前を病名に使いたがりますがこれには困ることがあります。
例えばBarrettをGoogleで調べようとしますと、個人としてのBarrettさんがいっぱいひっかかってくるわけです。
よく、カルテは日本語で書けなどと言う人が多くなってきましたが、固有名詞には人名や地名など色々あるわけです。日本語で書くことでそれらが混乱すればデータマイニングどころではない。

病名に人名がつきますと、例えば食道癌の事を佐藤病などと呼んでいるようなものなのでデータマイニングどころではありません。

ところが日本語には解決方法がある。日本語は生まれながらにして、マルチリンガルな言語です。橋本病も、カルテに書く場合にはHashimotoと書けば解決するのです。日本語最高。そして、こうしたHashimotoというような記述を見つけて、「日本語で書きましょう」などと指導する人がいるのは最悪です。

カルテをマルチリンガルに書くのはデータマイニングのためでもある。



また話があさっての方向に行きました。

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