みなさん読むの面倒くさいでしょうから、3行で、とは言わないけども結論を書きます。
1)CEAは腺細胞の増殖で上昇する可能性がある。
2)腺細胞は胃・小腸・大腸・肺・甲状腺・膵臓・肝臓・乳腺・卵巣・子宮・膀胱・前立腺などにあると考えられるから。
3)細胞の増殖は腫瘍でも生じるが炎症でも起きる。
4)2)で示した臓器の炎症でCEAが上昇することが理論的には考えられる。
5)そんなに大腸がんを血液で調べたいなら、 SEPT9 遺伝子のメチル化でも測定しておけ。
CEA:癌胎児性抗原
1)CEAは腺細胞の増殖で上昇する可能性がある。
2)腺細胞は胃・小腸・大腸・肺・甲状腺・膵臓・肝臓・乳腺・卵巣・子宮・膀胱・前立腺などにあると考えられるから。
3)細胞の増殖は腫瘍でも生じるが炎症でも起きる。
4)2)で示した臓器の炎症でCEAが上昇することが理論的には考えられる。
5)そんなに大腸がんを血液で調べたいなら、 SEPT9 遺伝子のメチル化でも測定しておけ。
CEA:癌胎児性抗原
お母さんの中で胎児が成長する時期に産生されている糖タンパクの一種で、接着因子として機能しているという。もともとタンパクとしては大腸癌から1965年にGoldとFreedmanにより分離され、彼らは胎児の大腸にその物質が発現しているのを発見しCaricinoembryonic antigen(CEA)と名付けました。
身体の中では腺細胞(液体を分泌するような能力をもつ細胞)に発現しているGPIアンカー型受容体のひとつ。
古典的な腫瘍マーカーの一種です。腫瘍マーカーというのは癌の治療の経過、あるいは癌の広がり具合を予測するために役立ちます。各種がんの腫瘍マーカーの使用法についてはガイドラインに示されていて、癌の進展と共に上昇する腫瘍マーカーは有効、でも腫瘍マーカーが上昇すればすべて癌なのか、というとそれは真ではないので診断には使用すべきでないとされています。最近ではPSA検査が本当に患者さんに利益になっているのか、という事が話題になりました。
しかし日本の検診や人間ドックで「癌がわかります」という売り文句で腫瘍マーカーが測定されている事には問題があります。検診者に腫瘍マーカーの意義を正しく説明せぬまま、このような事態が続くことを私は望みません。むろん、現在も早期癌を見出すための努力の1つとして、癌特異的なペプチドや抗体が開発されている事を否定するものではありませんが、現時点ではそれらは有効には機能していない。
ちなみに当院では癌の疑いで腫瘍マーカーは測定はしませんが、すでに腫瘍があってその広がりや予後の見当をつけたいときには測定をする事があります。
CEAが高い、と受診される方がおられるたびに私はため息をつきます。
心配している患者さんの気持ちが理解出来るからですし、それから医療のリソースを無駄に使う可能性が高い2つの理由からです。腫瘍マーカー高値の場合に精査を自前でできない検診施設は腫瘍マーカーを測るべきではないと思いませんか。
さて、CEAが5ng/ml(日本における正常値らしい)をはるかに超えるならばともかく、5をわずかに超えた程度の時に癌と関係があるかどうかを見極めるのは難しいと思います。
例を挙げると喫煙者では上昇します。タバコは常に肺の腺細胞を破壊し、再生が生じている事から結果として血中のCEAが上昇しているのでしょうか。あるいは膵臓や胃腸、尿路の細胞もタバコの成分によって破壊されるからでしょうか。(結果としてタバコはそれらの臓器の癌リスクを増大させています)
あるいは糖尿病患者でも上昇します。一般的に糖尿病の患者では糖タンパクがそもそも多い傾向が認められ、CEAだけでなく糖タンパクは高い傾向にあるようです。あるいは糖尿病では背景に慢性膵炎が認められる場合があるので、これを反映するのでしょうか。(糖尿病はすい臓がんのリスクのひとつです)
要するに、炎症や他の原因でCEAが上昇する場合はあるのです。膵炎、潰瘍性大腸炎やクローン病、肝硬変や慢性閉塞性肺疾患でも上昇することが知られています。(ちなみに”肺癌”の腫瘍マーカーとされるSCCはアトピー性皮膚炎や乾癬、火傷などで上昇している事があります。それぞれのマーカーを理解している臨床医なら簡単にわかります)
先ほど腫瘍マーカーが上がったからといって、それは癌とは限らないと書きました。ではCEAが上昇した時にどのように皆さんは振る舞うべきなのでしょう。
1) これは良いきっかけだ、と考えて所謂「腺癌すべて」(CEAが上昇するのは腺癌)をチェックする。
2) 無視する
の二通りだと私は思います。使用する医療リソースに対する患者の利益の期待値(マイナスにしかなりませんが)が最も高いのは”2)無視する”だろうと思います。ただ、私が行う検査は「偶発的な所見」をかなり多く含むため、ある程度利益が得られます。そのため、1)という方針も無駄というわけではないでしょう。一方、CEAを再測定するという方針は私は取りません。使用するリソースに対する利益の期待値が最も低いと考えているからです。
そして患者さんが1)を望まれた時の基本戦略ですが、
1) エコー:甲状腺と膵臓、骨盤臓器、肝臓、胆嚢などが見える
2) 胸部CT:肺と膵臓が見える
3) 上部内視鏡検査:胃・十二指腸が見える
4) 下部内視鏡検査:大腸が見える
5) 造影CT、骨盤MRI:後述します
6) PET:高くて保険が効かないが、一種の保険にはなる。
1)3)4)は当院で可能、2)は病院にお願いしています。
5)はエコーに自信がないとき。例えば患者が極端な肥満体であるような場合には適応になると思いますし、エコーの技師がいない場合も適応になると思います。値段・侵襲を考えますと当院では5)の選択肢はありません。6)も当院の選択肢にはありません。腺癌に関してはPETの出番はあまりないと思います。そこまでするのならば、5)も組み合わせて良いのでしょう。
良く上部下部内視鏡をして終わり、という医療機関があるようですがそこまで医療リソースを使っておいて、エコーをしないのは疑問です。でも、甲状腺、乳腺、上腹部、下腹部のエコーを同時に行う事が可能であった時、医療機関は経済的に損をする(最大17600円請求できる検査を5300円で行うことになる)ことを患者さんは知っておくべきだし、損をする、そこまで余剰のリソースはないという理由で積極的にエコー検査を行えない医療機関の事情は理解できます。偶発性を求める場合にはエコーは確かに対費用効果の高い検査なのですが、非常に主観的な検査でもあるのでCTを行うケースが増えています。
ちなみにCEAが高く、それが癌である場合には早期という事は少ないので困りものです。
繰り返しになりますが、本来はCEAを測定した医療機関で戦略を立てるべき問題です。ここでは当院の戦略の一例(実際には全員で変化させる)をお示ししたに過ぎません。もっと優れた戦略(安くて効果的な)を立てておられる先生方も多数おられることでしょう。
腫瘍マーカーは有効な検査ではあるものの、その使い方を間違えると患者さんを不安にさせてしまいますので、いつも取り扱いには注意しています。
~~応用の一例~~
CEAが高値と言われて受診した。数年分の検査結果を見た。昨年Hb 13台, MCV 80台と低下している。例えばこれは慢性胃炎の可能性がある。(IBDや消耗、癌や潰瘍でもそうなるかもしれないが”仮説”として話をすすめる)CEAは慢性の大腸炎で上昇するのだから慢性胃炎でも上昇する可能性はある。慢性胃炎はピロリ菌による炎症である。例えば潰瘍があり、ピロリ菌を除菌してCEAが下がれば、胃炎が原因で上昇していたと証明が出来る。
このような仮説は、これを患者さんに披露することによって、癌に対する不安感を誤魔化してしまうという会話上のテクニックの一つです。
(2016/05/29追記)
SEPT9 遺伝子のメチル化 を血液で調べるという別の方法があります。
FDAから認可されたepi proColonというテストです。
こういう情報にはどんどん乗っていかないといけませんね。