2012/07/16

NASHの本態が見えてきた?

NASHそしてIRHIO
という記事と、
NASHに関する一考察
という記事を書きました。

脂肪細胞から分泌されるサイトカインとインスリン抵抗性、そして鉄代謝に関して考察しました。サイトカインとしては特にTNF-αに注目していました。が、あくまでもNASHの周辺に光を当てて見ていたに過ぎません。

横浜市立大学からの新しい報告によって、中心部に明かりが見えて来ました。

この報告にそっくりの報道は、こちらになります。(改行を入れたり、ちょっと書き出しに変化をつけるお仕事です)

本当はわかりやすく(IBDや鉄代謝も絡めて)書こうと思ったのですが、こういうのを見たら萎えてしまってヤル気が出ません。出たら書くことにいたします。

書くとしたらこんな話題を入れるつもりです。
レプチンの正しい理解。(ハードルが高い)
レプチンは視床下部にも働くホルモンであり、レプチンを全身で阻害する影響を考えると議論が難しくなるのだが、肝臓で完全に代謝されてしまうタイプのお薬でも、その手前にある細網内皮系の細胞には効くので、(全身的な影響もなくかえって好都合)創薬については、意外とスムーズに行くかもしれない。
それだけでなく、細網内皮系の炎症を抑制するアプローチは、NASH以外の肝炎やIBDでの合併症の予防にも光明である。
インスリン抵抗性とレプチン抵抗性。
腸内細菌叢の話。(特に小腸の腸内細菌叢は今までほとんど研究がないので、今もっとも不思議に思い、興味を持っているのでそれを調べてみたかった)


http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/hep.20280/full
http://journals.lww.com/jcge/Fulltext/2004/11000/The_Role_of_Leptin_in_NAFLD__Contender_or.2.aspx
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12143049
http://www.springerlink.com/content/gq6452m1m574r2jx/
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11448591
 鉄欠乏の幼児の食欲低下はレプチンを介さない
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21184788
 動物モデルでアディポネクチンとVit.D(3)レベルはNASHのマーカーになるかも

2012/07/08

鳥肌胃炎にも二種類ある?


鳥肌胃炎は胃のリンパ濾胞が増殖してブツブツと隆起し、鶏皮の表面と良く似た外観を呈する状態です。(参考リンク

春間賢先生が若い方の胃癌の背景には鳥肌胃炎が多い事を見出した時にも、自分の感覚では20代以下のH. pylori 感染胃では多かれ少なかれ必ずリンパ濾胞は見えていたため、癌の背景として存在するのは矛盾しないだろう、とさほど違和感は持ちませんでした。
ところが「鳥肌胃炎では胃癌が多い」という議論になったときに、違和感を持ちました。
ならば20代以下の若い人が内視鏡を受けるとHP感染があれば必ずのようにリンパ濾胞の増殖があるのだから、医者がその人達を脅かしてしまうのではないか?と。
果たして鳥肌胃炎は本当に胃癌が多いのか?と。

自分がリンパ濾胞の増殖を見ているのは世の中では鳥肌胃炎とは言わないのだろうかという疑問もありました。
鳥肌胃炎を背景にした胃癌(sig)を見つけたことはありますが、自分の感覚では若い人の大部分は鳥肌なのだから、もっと沢山の若年者の胃癌がなくちゃならない。
一方二十代の胃癌でも背景が萎縮性胃炎である場合もあるのです。果たしてどちらが多いのだろうか。
鳥肌胃炎とは一体何だ。

第18回日本ヘリコバクターピロリ学会学術集会において、
信州大学医学部 奥原先生(赤松泰次先生が共同演者)が
小児、若年者、壮年者にわけて検討したところ、
同じ鳥肌胃炎でも体部胃炎の強さが違い、
小児、若年者では胃炎(単核球、好中球浸潤スコア)が低い事を
発表しておられました。

同じ鳥肌胃炎という外観を呈していても、組織を見るとその質が異なる可能性を示されていたことに興味をひかれました。

体部胃炎の強い鳥肌胃炎こそが胃癌のハイリスク群であるならば、体部への単核球浸潤はもともと胃癌のハイリスクとされていますし頷ける話です。

同じ信州大学の横澤先生(赤松先生がやはり共同演者)は
高校生の検診でHP抗体を測定し、陽性であった全員に上部内視鏡を施行したところ
7割が鳥肌胃炎だったという報告をされていた。

若いHP陽性患者では多かれ少なかれリンパ濾胞が目立つ、という自分が持っていた印象が正しいとわかったことと、そうなれば予測の上ではもっと胃癌が増えるはずなのに実際にはそうならない統計上の乖離について、持っていた疑問が晴れるヒントが見つかったようで収穫でした。

疑問をもつことは誰でもできますが、それを解決する研究をデザインし実行する先生方には本当に頭が下がる思いです。
これはさらに広がりのある研究になると思います。

鳥肌胃炎の除菌成功率は自験例、報告を見ても比較的低く、さらに除菌後にも濾胞が消えていくまで数年かかる症例もあり、注意深い観察が必要です。
「鳥肌胃炎だから癌になるかもしれない」と脅かされて除菌をしたものの失敗、「やりようがない」と言われ傷ついて来院する患者さんもおられます。

実際にはやりようはあること、(三次除菌など)
必ずしも鳥肌胃炎だからと心配しなくても良い、
ですから患者さんは過剰に心配しなくても良いと思います。

一方少数ながらHP感染が証明できない鳥肌胃炎も存在すると思われます。
Helicobacter heilmannii などの感染が関与しているかも知れません。
これについても注意深く検証する必要があると感じています。

まとめ:鳥肌胃炎には二種類あるという考え方は、これまでの報告の矛盾をきれいに説明してくれ、また患者の不要な不安を解消してくれる概念である。赤松先生をはじめとする信州大学の先生方に敬意を表し、今後の研究に期待したい。

2012/07/03

ABC検診

ABC検診(胃がんリスク検診)は胃がん高リスク群を絞り込む優れた方法で、東邦大学名誉教授三木一正先生により開発されました。→リンク

ABC検診と検索してみると、きちんと書いてあるところがなく、上記リンクにもありますが、引用して書いておきます。

ABC検診では、ペプシノーゲンI(PG-1)、ペプシノーゲンII(PG-2)、抗ヘリコバクター・ピロリ抗体(抗Hp抗体)を測定します。原価は1690円程度です。保険収載はされておらず、保険で調べることは出来ません。ネットで調べると4000円程度の料金のところが多いようですが、これはこうした検査をしますと通常は判断料というのを加算することになっていて、それが1500円から2000円ぐらい。それに採血料が600円などと考えますと妥当かなとは思います。

・PG法はPG-1≦70かつ1/2比≦3を陽性(+)のカットオフ値
・抗Hp抗体はE-プレート‘栄研’H.ピロリの場合には10を陽性(+)のカットオフ値

例えばこのほうに、1/2比は3より大きく、抗Hp抗体は陽性であるという場合には、1/2比(-)かつHp(+)となるのでB群、と判定されます。


この分類にはピットフォールがあるので、なるべく専門医に判定してもらったほうが良いですが、一応それを書きますと、
・ピロリ菌除菌歴
・消化性潰瘍の治療中
・プロトンポンプ阻害薬の内服
・胃切除後
・腎機能障害
・免疫能低下
・ステロイド・免疫抑制剤投与
では正しく判定されない事があるので問診時にチェックが必要です。
特にピロリ菌除菌後は検査値によらず胃がん有リスクのE群(eradication群)とするということ。
注意:除菌歴がはっきりしないが、明らかに自然除菌されたな、という内視鏡所見がある場合は偽A群(下記参照)に入る場合があり、リスクはE群に相当します。

ピットフォールですが、
・血清Hp抗体価が、3U/ml以上10U/ml未満の場合はピロリ感染のある場合があり、B群なのにA群とされる場合がある。
また、PG値については、以下の場合はAではなく胃がんリスクあり、の場合があります。
・PG-2≧12ng/ml や1/2比<4.5、高齢者の多い集団ではPG-1≦30ng/ml
・1/2比<4.0
・1/2比≒3.0あるいはPG-2>15
など

要するに内視鏡で萎縮があるかどうかをなんとかPGで判定しようという試みなのです。

したがって、ABC検診は専門医により判定されるべきであり、上記のような群を偽A群といいますが、偽Aが疑われる場合は内視鏡を受けたほうが良いです。

鵜川医院では胃の萎縮を木村・竹本分類を用いて1997年よりレポートに記述し、尚且つ自然除菌後、あるいは他院除菌後であっても形態学を用いてピロリ菌の有無をほぼ正確に判定できるため、今後の胃がんリスクを正確に予測し、「不必要な検査をしない=ピロリ菌もいない、萎縮もない患者さんのフォロー間隔は長くする」事を徹底してきました。これにより高い胃癌発見率を保つことが可能になっています。萎縮を見たり、ピロリ菌の有無を肉眼的に判定するには良い内視鏡及び熟練を要するわけですが、ABC検診を用いれば簡単にリスクを予測することが出来るのです。我々が不要になるならば大歓迎です。

バリウム検診で胃底腺ポリープを指摘され来院する患者(胃癌リスクがほぼゼロ)を診るたびにため息をついていた当方としては、ABC検診が普及して欲しい。価格は前述のごとく最安値で1690円(昔より何分の一になっているのでびっくりしました)と、後々増えるだろう内視鏡検査の値段を考慮しても、バリウム検診より優位に立てる値段であり、普及の障害はあまりないように思います。

第18回ヘリコバクター・ピロリ学会学術集会で目についた報告を以下、ご紹介します。

1)加古川東市民病院 寺尾秀一先生
従来、もっともハイリスクとされていたD群(ペプシノーゲン陽性、HP抗体陰性)の中には相当の数、HP陽性者が含まれる事を示しています。HP抗体が産生されない免疫応答の異常の原因は免疫寛容なのか、抗原性の差なのか明らかにされていませんが、重要な視点であろうと思います。除菌をすれば発がんリスクが下がるからです。他には自己免疫性胃炎(A型胃炎)が含まれていることを示しています。一部C-0でありながらペプシノーゲン陽性になる方が含まれ、この群については翌年以後サーベイランスが必要ない可能性があります。また除菌群が含まれることにも注意が必要です。従来のD群を検査する時にはこれらを肉眼的に判断して適切にフォローすることが重要であることが示されました。慣れていない先生方は、これらを確実に診断できる医師にアドバイスをもらうようにして欲しいと思います。
2)近藤秀則先生、増山仁徳先生など
B群の中に、相当数、ハイリスク患者が紛れ込むのではないか、という発表。そこで近藤先生はB群をさらにB-1、B-2(P-II>30)に分け、B-2群に癌が多いのではないか、としています。広島大学保田智之先生の発表ではA群内のHP抗体偽陰性例に注意を要するとの事でした。HP抗体のカットオフ値をもっと下げたほうが良いのではないか、という発表も見られました。他の胃癌マーカーとしてはIgG1/IgG2比、血清trefoil factor 3の発表がありました。