2012/07/03

ABC検診

ABC検診(胃がんリスク検診)は胃がん高リスク群を絞り込む優れた方法で、東邦大学名誉教授三木一正先生により開発されました。→リンク

ABC検診と検索してみると、きちんと書いてあるところがなく、上記リンクにもありますが、引用して書いておきます。

ABC検診では、ペプシノーゲンI(PG-1)、ペプシノーゲンII(PG-2)、抗ヘリコバクター・ピロリ抗体(抗Hp抗体)を測定します。原価は1690円程度です。保険収載はされておらず、保険で調べることは出来ません。ネットで調べると4000円程度の料金のところが多いようですが、これはこうした検査をしますと通常は判断料というのを加算することになっていて、それが1500円から2000円ぐらい。それに採血料が600円などと考えますと妥当かなとは思います。

・PG法はPG-1≦70かつ1/2比≦3を陽性(+)のカットオフ値
・抗Hp抗体はE-プレート‘栄研’H.ピロリの場合には10を陽性(+)のカットオフ値

例えばこのほうに、1/2比は3より大きく、抗Hp抗体は陽性であるという場合には、1/2比(-)かつHp(+)となるのでB群、と判定されます。


この分類にはピットフォールがあるので、なるべく専門医に判定してもらったほうが良いですが、一応それを書きますと、
・ピロリ菌除菌歴
・消化性潰瘍の治療中
・プロトンポンプ阻害薬の内服
・胃切除後
・腎機能障害
・免疫能低下
・ステロイド・免疫抑制剤投与
では正しく判定されない事があるので問診時にチェックが必要です。
特にピロリ菌除菌後は検査値によらず胃がん有リスクのE群(eradication群)とするということ。
注意:除菌歴がはっきりしないが、明らかに自然除菌されたな、という内視鏡所見がある場合は偽A群(下記参照)に入る場合があり、リスクはE群に相当します。

ピットフォールですが、
・血清Hp抗体価が、3U/ml以上10U/ml未満の場合はピロリ感染のある場合があり、B群なのにA群とされる場合がある。
また、PG値については、以下の場合はAではなく胃がんリスクあり、の場合があります。
・PG-2≧12ng/ml や1/2比<4.5、高齢者の多い集団ではPG-1≦30ng/ml
・1/2比<4.0
・1/2比≒3.0あるいはPG-2>15
など

要するに内視鏡で萎縮があるかどうかをなんとかPGで判定しようという試みなのです。

したがって、ABC検診は専門医により判定されるべきであり、上記のような群を偽A群といいますが、偽Aが疑われる場合は内視鏡を受けたほうが良いです。

鵜川医院では胃の萎縮を木村・竹本分類を用いて1997年よりレポートに記述し、尚且つ自然除菌後、あるいは他院除菌後であっても形態学を用いてピロリ菌の有無をほぼ正確に判定できるため、今後の胃がんリスクを正確に予測し、「不必要な検査をしない=ピロリ菌もいない、萎縮もない患者さんのフォロー間隔は長くする」事を徹底してきました。これにより高い胃癌発見率を保つことが可能になっています。萎縮を見たり、ピロリ菌の有無を肉眼的に判定するには良い内視鏡及び熟練を要するわけですが、ABC検診を用いれば簡単にリスクを予測することが出来るのです。我々が不要になるならば大歓迎です。

バリウム検診で胃底腺ポリープを指摘され来院する患者(胃癌リスクがほぼゼロ)を診るたびにため息をついていた当方としては、ABC検診が普及して欲しい。価格は前述のごとく最安値で1690円(昔より何分の一になっているのでびっくりしました)と、後々増えるだろう内視鏡検査の値段を考慮しても、バリウム検診より優位に立てる値段であり、普及の障害はあまりないように思います。

第18回ヘリコバクター・ピロリ学会学術集会で目についた報告を以下、ご紹介します。

1)加古川東市民病院 寺尾秀一先生
従来、もっともハイリスクとされていたD群(ペプシノーゲン陽性、HP抗体陰性)の中には相当の数、HP陽性者が含まれる事を示しています。HP抗体が産生されない免疫応答の異常の原因は免疫寛容なのか、抗原性の差なのか明らかにされていませんが、重要な視点であろうと思います。除菌をすれば発がんリスクが下がるからです。他には自己免疫性胃炎(A型胃炎)が含まれていることを示しています。一部C-0でありながらペプシノーゲン陽性になる方が含まれ、この群については翌年以後サーベイランスが必要ない可能性があります。また除菌群が含まれることにも注意が必要です。従来のD群を検査する時にはこれらを肉眼的に判断して適切にフォローすることが重要であることが示されました。慣れていない先生方は、これらを確実に診断できる医師にアドバイスをもらうようにして欲しいと思います。
2)近藤秀則先生、増山仁徳先生など
B群の中に、相当数、ハイリスク患者が紛れ込むのではないか、という発表。そこで近藤先生はB群をさらにB-1、B-2(P-II>30)に分け、B-2群に癌が多いのではないか、としています。広島大学保田智之先生の発表ではA群内のHP抗体偽陰性例に注意を要するとの事でした。HP抗体のカットオフ値をもっと下げたほうが良いのではないか、という発表も見られました。他の胃癌マーカーとしてはIgG1/IgG2比、血清trefoil factor 3の発表がありました。

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