2012/07/08

鳥肌胃炎にも二種類ある?


鳥肌胃炎は胃のリンパ濾胞が増殖してブツブツと隆起し、鶏皮の表面と良く似た外観を呈する状態です。(参考リンク

春間賢先生が若い方の胃癌の背景には鳥肌胃炎が多い事を見出した時にも、自分の感覚では20代以下のH. pylori 感染胃では多かれ少なかれ必ずリンパ濾胞は見えていたため、癌の背景として存在するのは矛盾しないだろう、とさほど違和感は持ちませんでした。
ところが「鳥肌胃炎では胃癌が多い」という議論になったときに、違和感を持ちました。
ならば20代以下の若い人が内視鏡を受けるとHP感染があれば必ずのようにリンパ濾胞の増殖があるのだから、医者がその人達を脅かしてしまうのではないか?と。
果たして鳥肌胃炎は本当に胃癌が多いのか?と。

自分がリンパ濾胞の増殖を見ているのは世の中では鳥肌胃炎とは言わないのだろうかという疑問もありました。
鳥肌胃炎を背景にした胃癌(sig)を見つけたことはありますが、自分の感覚では若い人の大部分は鳥肌なのだから、もっと沢山の若年者の胃癌がなくちゃならない。
一方二十代の胃癌でも背景が萎縮性胃炎である場合もあるのです。果たしてどちらが多いのだろうか。
鳥肌胃炎とは一体何だ。

第18回日本ヘリコバクターピロリ学会学術集会において、
信州大学医学部 奥原先生(赤松泰次先生が共同演者)が
小児、若年者、壮年者にわけて検討したところ、
同じ鳥肌胃炎でも体部胃炎の強さが違い、
小児、若年者では胃炎(単核球、好中球浸潤スコア)が低い事を
発表しておられました。

同じ鳥肌胃炎という外観を呈していても、組織を見るとその質が異なる可能性を示されていたことに興味をひかれました。

体部胃炎の強い鳥肌胃炎こそが胃癌のハイリスク群であるならば、体部への単核球浸潤はもともと胃癌のハイリスクとされていますし頷ける話です。

同じ信州大学の横澤先生(赤松先生がやはり共同演者)は
高校生の検診でHP抗体を測定し、陽性であった全員に上部内視鏡を施行したところ
7割が鳥肌胃炎だったという報告をされていた。

若いHP陽性患者では多かれ少なかれリンパ濾胞が目立つ、という自分が持っていた印象が正しいとわかったことと、そうなれば予測の上ではもっと胃癌が増えるはずなのに実際にはそうならない統計上の乖離について、持っていた疑問が晴れるヒントが見つかったようで収穫でした。

疑問をもつことは誰でもできますが、それを解決する研究をデザインし実行する先生方には本当に頭が下がる思いです。
これはさらに広がりのある研究になると思います。

鳥肌胃炎の除菌成功率は自験例、報告を見ても比較的低く、さらに除菌後にも濾胞が消えていくまで数年かかる症例もあり、注意深い観察が必要です。
「鳥肌胃炎だから癌になるかもしれない」と脅かされて除菌をしたものの失敗、「やりようがない」と言われ傷ついて来院する患者さんもおられます。

実際にはやりようはあること、(三次除菌など)
必ずしも鳥肌胃炎だからと心配しなくても良い、
ですから患者さんは過剰に心配しなくても良いと思います。

一方少数ながらHP感染が証明できない鳥肌胃炎も存在すると思われます。
Helicobacter heilmannii などの感染が関与しているかも知れません。
これについても注意深く検証する必要があると感じています。

まとめ:鳥肌胃炎には二種類あるという考え方は、これまでの報告の矛盾をきれいに説明してくれ、また患者の不要な不安を解消してくれる概念である。赤松先生をはじめとする信州大学の先生方に敬意を表し、今後の研究に期待したい。

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