2009/06/24

フジノン Advancia

フジノンAdvanciaを使用する機会がありました。
使用スコープは上部がEG-590WR、下部はEC-590WMです。

オリンパススコープとの違いを書きます。
1) グリップはフジノンがやや細めです。
2) EG-590WRはオリンパススコープより5cmほど長いです。
3) アングルの遊び、角度については個体差があるので言及しませんが、すぐ対応出来ないというほどではありません。ほぼ同じ。
4) スコープはパンフォーカスですが、1cm以下に近寄った場合ピントがほとんどあいません。解像度は高いのですが、近くに寄れないのは難点。
5) レンズが大きいのか、送気がレンズの真ん中を通ってしまうためレンズ周辺の曇りを取るためにかなり苦労します。隅から隅までシャープな写真を撮るためにはGIF-Q260H以上の注意深さを必要とします。送水も同様でレンズの真ん中を通るのがわかります。一方拡散しないがために、胃内に生成される霧の分量はオリンパスよりも少ないです。
6) 上部内視鏡においては、吸引口が6時半方向にあります。一方オリンパスは多くのスコープで7時方向です。微妙ですが大きな差です。咽頭、食道を見るときには7時方向が咽頭吸引時に便利で、これはアジャストするのが少々困難でした。
7) 露出はオートでは少々ハレーション気味で、マニュアルでピークとし細かく調節した方が良い画像が得られます。一方、ダイナミックレンジを生かすならばガンマも調節できるべきで、もったいない画像です。ガンマを1.1にしてアンシャープマスクをかけました。
8) 構造強調は単純な計算式を使用しているためか、解像感に欠けます。オリンパスのA強調とほぼ同様です。Photoshopでアンシャープマスクをかける方がきれいです。色彩強調は彩度が上がるだけです。赤味が強くなりますが、それほどインパクトがあるわけではありません。
9) 以前から主張しているようにRAW画像保存から無限のFICE画像を生成して最適解を求められるような現像ソフトが欲しくなります。FICEは見ている以上の情報は得られないので、NBIとは全く違うものと考えた方が良いと思います。FICE時にハレーションがさらに強くなってしまうのは気になります。
10) EC-590WMは十分にやわらかく、挿入性はPCF-Q260AIとあまり変わらないと言えます。二酸化炭素は、EC-590WMの別チャンネルにつなげてみましたが、今回はうまくいきませんでした。PENTAXの場合二酸化炭素は使用できます。
11) 鉗子口のゴムは、フィット感がオリンパスとやや異なりますので最初は慣れが必要です。
12) スイッチのクリック感がありません。また、レリーズボタンのみでは写真を今回撮る事が出来ませんでした。(デモのときには写真が撮れるように設定する方が良いです)
13) 静止画にしたときに動画がPinPで映るのですが、これの場所を移動したりなど、色々したいことが検査中に出てきます。PinPの最適な場所は左上だろうと考えます。オリンパスでは左上が一番画像が歪む場所であり、重要なものは左上には持って来ない癖が術者にはあるだろうからです。

経鼻内視鏡はEG-530NWが発売されます。120度の視野角でも硬性部が短かったので十分でしたが、恐らく要望があったのでしょう。140度の視野角を確保し、2灯式ライトガイドなどPENTAXの良い点を取り入れているようです。送気送水ノズルがレンズよりも若干遠く、私が良く使うレンズ乾燥テクがつかえないのではと懸念されますが、なかなか魅力的なスペックです。

2009/06/22

高齢者には簡単に大腸内視鏡は勧められない





2009年6月16日に出版されたAnnals of Int Medに載った論文です。内容は、65歳~95歳までの高齢者について、保険診療にて外来で行われた5万例強の大腸内視鏡について解析したもの。5万例というのはかなり少なく、というか少なすぎてデータとしては不安なんですが、その中ですら1000例あたり6.9の合併症があったということ。そして、85歳以上では危険率が2倍以上になるということでした。ここで言う合併症とはおそらく大腸穿孔の事で、かなりの大事です。これ以外に、糖尿病、脳卒中、うっ血性心不全も年齢以外の危険因子であったという事です。

症例数は異常に少ないのですが、この結果は重要です。米国のがん予防特別委員会においても75歳以上の患者さんに安易に大腸内視鏡を勧めない様提言しています。

それぞれの健康状態、今までの大腸検査歴、今後見込まれる余命を加味して一人一人丁寧に大腸内視鏡をすべきかどうか、適応を吟味すべきだと思います。

高齢の患者さんに安易に便潜血検査が行われている(市町村から相変わらずDMが送られている様子)事が果たして公衆衛生に寄与しているか(私は寄与していないと思います)どうかも検討されるべき課題だと思います。


2019/07/07追記

https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/article-abstract/2720758

あれから10年経ちました。日本では何もこの10年進歩した気はしませんけれども、海外ではいろいろなアプローチ(患者や患者の家族と話し合う材料)が増えました。

栃木県の総合内科医のブログ
http://tyabu7973.hatenablog.com/entry/2019/05/17/000000_1



2009/06/12

ピロリ菌の除菌治療でなぜ禁煙が成功するのか。

もともとやめる気がさらさらない患者さんは別にして、ピロリ菌除菌をする時に禁煙が成功してしまう患者さんが結構います。30%くらいは成功しているように思いますからなかなか優秀です。

ピロリ菌がいる場合、喫煙していると発癌率が非常に高いことが最近明らかになってきたようですが、それ以前から喫煙者で高率に除菌が失敗することがわかっていますので、当院では除菌治療の際にはタバコを絶対に吸わない約束をしていただいています。

そして多少はアドバイスするものの、そのまま禁煙が成功することが多いのには実は理由があるのではないかと最近考えます。

理由1
禁煙をしたときに、便秘で困る場合があるのだが、ピロリ菌除菌中はむしろ便秘しにくいという事実。

理由2
禁煙をしたときに非常に咳が増えるのだが、ピロリ菌除菌中は抗菌剤のおかげでその症状がおさえられるという事実。

もちろんニコチン欠乏によるイライラとか不眠はあるのかもしれませんが、少なくとも便秘と咳という禁煙に伴う二大身体症状は除菌により抑制されるわけで、これが案外簡単に除菌のハードルを超えていく人が多い隠れた理由であるのかもしれません。もちろん「病気を治さなくては」と言う強い決心が禁煙を成功させた第一の理由だと理解しています。

2009/06/05

楽な内視鏡の理由

AFP Newsに、「飲酒で攻撃的になるのは『低グリコーゲンレベル』も要因」という記事がありました。
内容は、
フィンランドのヘルシンキ大学が、アルコールで問題を抱えている男性と、問題のない男性で、インスリンとグリコーゲンのレベルを測定した。
前者のうち、その後8年間で飲酒後に暴力ざたを起こした人は、インスリンレベルは高く、グリコーゲンレベルは低いことが明らかになった。
研究チームは、以上から、グリコーゲンの生成を促すと同時に低血糖リスクを抑える物質を摂取することが、こうした衝動的な暴力行為に対する有効な治療法であると考えられるとしている。さらに、お酒を飲むときは食べ物も並行して摂取するという習慣も重要だと指摘している。
アルコールは膵臓からのインスリン分泌をうながす物質で、糖尿病患者では時に低血糖を誘発することがあり危険です。この研究では、興奮の結果低血糖になったのか、低血糖が興奮を来したのかは明らかにしていませんので本当に低血糖を予防することが(そもそもできるのか?)問題解決の糸口になるかわかりません。それはともかく、当院での事例もひとつのヒントになるかもしれません。

当院では上部内視鏡で意識下鎮静というのを行います。具体的には硫酸アトロピン、ジアゼパム、ペンタゾシンをそれぞれ少量ずつ静脈内投与します。この量は患者さんにより0~100%の間で増減させます。この方法はごくありふれたものと言えます。(当院の院長はもう40年以上もこの方法で鎮静を行っています)

私は他の病院でも内視鏡検査を行いますけれど、当院の内視鏡が不思議だなと思う点が何点かあります。そのひとつに、患者さんの体動が少ない事があげられます。他の病院で検査をすると、かなり体動で苦労する事がありますが当院ではそれがない。はじめから終わりまで、患者さんはピクリともしません。
同じように他の病院でもやっているのに、何が違うんだろうと思っていました。

しかし、このAFP Newsをヒントにするとこう解釈できます。すなわち、

当院では検査前に必ず甘いジュースを全例に飲んできていただいています。
だから血糖値が下がらず、したがって攻撃的にならないのです。

これはかなり自分的には説得力のある説明です。何しろ他院と当院との違いはこのくらいしかないのです。
当院院長はかなり頭が柔軟な元麻酔科医兼外科医です。アメリカで研修しておりますので、麻酔の知識はあちらで取得したものですが、麻酔前には夜12時まで飲食OK(no drink or food after midnight)と指導されていたようです。また、内視鏡時の飲水については全く問題ない事はわかっていました。ですから、以前より内視鏡当日の飲水は自由としていたのです。それがなぜ甘いジュースになったのか。
それを語ると長いのでやめますが、ジュースの中に必ず入る消泡剤が胃をきれいにするという経験、甘いものを飲んだ人の方が検査後明らかに調子が良さそうなどなどの経験知から次第に甘いジュース推奨に変わってきたわけです。

たしかにジアゼパムを使うと脱抑制になり攻撃的になる人がいても良いはずです。それはペンタゾシンやオピスタンで抑制できると考えられますが、それでも当院での体動の少なさはどうにも説明できず、どうも血糖値が重要なのではないかと思うに至りました。

大腸内視鏡で鎮静剤をあまり使わないのは痛くないからです。でも痛くないのに不機嫌という人は多いのです。それもおそらく低血糖なのでしょう。今度から点滴内にブドウ糖を入れてみようかと考えています。(下剤を飲み終わり大腸がきれいになったら、検査直前にはジュースなどを飲んでも良い事にしていますから、それを推奨しても良いかもしれません)