2011/12/09

ピロリ菌の自然除菌

ピロリ菌は自然に除菌されてしまうことがあるのです。

ピロリ菌のいる粘膜
ピロリ菌のいない粘膜













左右で差があるのがわかるでしょうか?不思議な事に、この方は左の状態から3年後に胃がきれいになってしまった・・・。ピロリ菌がいなくなるとこのような変化は起きます。除菌治療を受ける方は多く、成功すればきれいになるのは当然です。この方は除菌治療は受けてはいない。なぜピロリ菌がいなくなった?残念ながら「わからない」とご本人は仰いました。ヨーグルトのおかげ?ブロッコリー?医療機関でたまたま抗生物質を処方された?こういう不思議な事はしばしば目にします。珍しくはないのです。白血病の治療を受けた方はたいていピロリ菌は除菌されています。白血球が低下したときに抗生物質を投与されるからでしょう。
このような不思議にしばしば出会うのは、検査をしなくてもピロリ菌の有無がわかるからです。
1997年を境に、私どもは肉眼でだいたいわかるようになっています。木村分類を意識するようになり(リンク)、除菌治療を行って経過観察していると、萎縮の中にもバリエーションがあるのがわかり、次第にピロリ菌の有無が肉眼でわかるようになるのです。
木村分類はもちろん重要ですが、現在では私どもは二つのベクトルで胃の粘膜を判定します。
上の症例では下のグラフで☆2003と示した場所から、☆2006に示した場所へ背景粘膜の様子は変化した、という事です。


グラフの説明です。
X軸:胃の萎縮は木村・竹本分類でどの程度か。
Y軸:ピロリ菌がいるのかいないのか。
右上に近づくほどリスクは高い。
(ただし萎縮とは別に、組織検査をしたときの「体部胃炎」が強いほど胃癌リスクは高いのだ、という論文もあります。鳥肌胃炎はリンパ濾胞の増殖した状態で「炎症が強い」という部類に入ります。我々のデータでは母集団に鳥肌胃炎が多いために論文に示されるほどオッズ比は高くなりませんが、「胃炎の強さ」という第三のベクトルも実は考慮しています)

C-0というのはもっともきれいな状態で、ピロリ菌はいません。
C-2~O-3ではほとんどピロリ菌感染はあるのですけれど、ピロリ菌除菌の抗生物質を飲んだ場合はピロリ菌はいなくなりますし、この症例のように不思議といなくなっている場合もある。それを肉眼で判定しようというわけです。この肉眼での判定は少々トレーニングを要すると思います。呼気テスト同様に精度は高いのですけれど、以下の要素に影響を受けます。

1)胃薬を飲んでいる場合、例えばH2RAを飲んでいる場合には、ピロリ菌がいるのにいないのではないか、と判定される場合があります。
2)アルコールや酢など、胃を荒らす因子がある場合にはピロリ菌がいないのにいるのではないかと判定される場合があります。

木村分類とピロリ菌の有無、この二つの因子がその後の胃の運命を決定づける事は間違いありません。
我々の検査が他の医療機関より優れている部分があるとすれば、この背景粘膜をきちんと見ている、という事であろうと思います。これにより感度も特異度も高い検査が出来る。

東大分院外科の竹添和英先生ははるか昔から「背景を見よ」と仰っておられました。その意味を我々が知ったのはたかだか15年前に過ぎません。そしてまだこの考えは十分に普及してはいないかも知れません。(三木一正先生のペプシノーゲン検査+抗ヘリコバクターピロリ抗体(PG+HP)でスクリーニングする方法も発想の根は同じだと思います。ただ除菌後のリスクの変化に対応することはPG+HPでは難しく、我々の出番があろうかと思います)

1 件のコメント:

  1. とてもタメになるお話ばかりで感動しました。医療に関することばかりでない情報にワクワクしました😊これからもどうぞよろしくお願いします。

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