2014/04/29

子供のピロリ菌除菌

子供のピロリ菌除菌を語る立場にはありませんが質問が多いので今のところの自分の立場を述べる。アドバイスがありましたらよろしく。


自分が認識している事実
○5歳までにピロリ菌は感染する。
○感染の機会は無数にある。現代では子供たちの感染率は概ね2割程度であろうが地域差があろう。
○貧血などでピロリ菌感染が問題になる場合があるが少数である。
○子供は除菌治療薬の容量設定が難しい。


そこから導き出される考え
○すべての子供の対してピロリ菌感染防御をするならば一斉に検査・除菌をするのが学問的に正しいのであろうが、以下の理由で行われていないだろう。すなわち、
 →ワクチンに比較すると除菌治療の副反応が多い。
 →除菌をしても再感染する機会があるかもしれない。再感染のチャンスは大人より集団生活の子供の方が多かろう。


いつピロリ菌の検査・除菌をするか
○貧血、成長障害、消化不良、潰瘍などで小児科に受診する子供については従来通りその時点での検査・除菌が良いだろう。
○それ以外の子供については、18歳以後の検査が適切なのだろう。


問題点
○若い方では除菌の失敗例が多いのでそのレスキュー。
○副作用が起きたときの対策がシステム化されていない。


ひとつの希望
○「感染症」について、保険で治療期間まで限定されているのはどうでしょう。海外では2週間法、新しい方法も柔軟に保険が適用されます。感染者が多いのでその費用の大きさにたじろぐ厚生労働省の気持ちも理解できないではありませんし、いい加減に除菌をする医師がいるのも事実です。双方がすり寄るためのシステム作りには、患者側の参加が不可欠であり、そのための思考実験を今から行っておく必要があります。

2014/04/27

「ありとあらゆることを試しました」

患者さんが
「ありとあらゆることを試しました」
という言葉を使っている場合に、いくつかのことを考えます。

1)苦労・ある程度の達成感・あるいは諦め
2)知識の不足・ないしは拒絶
3)苦労を知ってほしい気持ち・ある種の訴え
4)Many = All としてしまう大雑把さ

心情はなんとなく理解は出来るのですが、
そこに不足しているものは何かというと、

1)未来への希望・医学は流動的で進歩するという認識
2)世界の広さの認識
3)具体性

です。
ここで、「◯◯は試しましたか?」という質問はNGです。
患者さんが試したことがないことであっても勝手に脳内変換して「やりましたやりました」と言う場合がほとんどであるというのが第一の理由。
二番目の理由はそのやりとりで患者さんは自発的に落胆するからです。

実際の記録を持ってきていただくと、自分が考えつくことの半分も試していないのが普通なので、「とにかく記録を持ってこいや」というのが正解なのではあります。
今までの自分の苦労を語りたいという気持ちが前面に出るあまり、損をしている典型的なセリフのひとつです。

事実の記録がある事が重要なので、お薬手帳や検査結果、明細領収書(必ずもらってください)などを保存しておくことが大切ではないかと思います。

2014/04/20

「3分診療こそ究極」

タイトルの通りなのですが、

当院にも「3分診療最悪」と仰る患者さんが多くみえますが、

彼らのその感情の理由は、「言いたいことを聞いてもらえない」であります。



外来での行為を分解して見て行きましょう。

1)患者が医者に訴えるフェーズ

2)不正確な情報を正確に直すフェーズ

3)医者が情報を整理するフェーズ

4)医者が患者に話すフェーズ

5)理解できない部分を再確認するフェーズ

6)続くのか、終わるのかを確認するフェーズ



患者は1)だけで半分は満足します。

5)は説明である程度満足する人、「薬」で満足する人がいます。「説明が納得できない」と仰る方が若干名おります。



私は文化人類学でいうフィールドワークのように外来を捉えていて、どういう人が情報過多になるのか、あるいはどういう人からは情報を引き出す必要があるか、それに興味があるから自分で1)2)を行いますが、これは医師以外が担っても良い仕事かなと思います。

所謂「3分診療」として不満を持たれる外来はこの部分が疎かです。患者は不満を持つべきだと思います。この部分を良く褒められますが、「あーあ」と思います。そこは売りではありません。



3)は医師の実力が問われる部分です。でもこの部分は患者は無駄だと感じています。医師の一挙手一投足を興味深く観察する人などほとんどいないからです。私の場合にはキーボードカチャカチャが一種のエンターテイメントになっているようで、それはそれで楽しんで見ている患者さんが少なくないようですが。逆にこの部分で患者さんが不信感を持っている場合があります。頭は良いのにキーボードを打つのが遅い先生が損しています。医療秘書を雇うべきです。


実際に診療に必要な時間は4)と5)です。それは3分で終わらせた方が良い。いや、終わらせるべきだと思います。長くても患者さんは覚えていられないばかりか、間違えたことを覚えて帰ります。印刷して持たせてもほとんど意味はありません。読む人は少ないから。読んだら読んだで枝葉末節にこだわりすぎる人がいて結局大事な事は伝わらないのです。


シンプルにうまく情報をメタ化して伝える事は大切です。1分で伝え、2分で簡単な質疑応答をする。
私はこの部分がだめで、簡単に10分15分話してしまいます。すべてを1回で話そうとするからそもそもだめなのです。1分で話しきれない事は「続く」として外来に繰り返し来てもらうのが本当は良いのです。幸い日本は再診料が安いのですからそれで良いのです。ところが待ち時間が長いことが気になって、一回で終わらせるぞ、と躍起になる。そして自分は完璧だ、と思っていても患者さんには伝わっていない、これを20年も繰り返してきたのです。


「3分診療こそ究極」です。ところが3分って難しいんですね。「はい、正常」で3秒です。残りが177秒もありますね。私は今まで「一回として同じ説明、言葉は使わない」というしばりをつけて外来をしていたんです。これは話術の大リーグ養成ギプスみたいなものでした。同じ話を何度もするおじさんって嫌われるじゃないですか。嫌われたくなかったのです。ところが実際には同じ話を何度もして磨いていくべきだったんだと思いました。

そこで考え方をあらためまして、まずは古典落語のように、いくつかの病気をわかりやすいように説明できるように今練習しているところです。死ぬまでに間に合うのか。メタ化した知識は嫌いだ、と公言してきましたが、別に葛藤はありません。

2014/04/15

「検査しなきゃいけないんですか」

という質問は良い質問だと思う。



ただ、自分は他の人よりも考えるパラメーターが多すぎるタイプなので、ちゃんと話すと100%患者さんは理解が出来ませんので大雑把に書いておこうと思いました。



一人当たりの医療費を最小限に、時間も最小限(待ち時間が長いのも計算に入れてます)に、かつ効果を最大限に、自分のもうけは最小に、患者の損も最小に、藪医者と代替医療に流れるお金は最小にという複雑な計算をして、そこにエッセンスとして、「自分は検査が面倒くさいからなるべくやりたくない」を加えて、最後に「○の時期にこの検査をしたらどうですか?」と言うわけです。他で無駄な医療を受けまくっている患者の場合にはこちらは介入を極力避ける。

検査の質は高くしようというポリシーが根底にあるわけですが、非常に自分は疲れるからむしろ他の病院に行ってくれるとありがたいな、という気分が背景にあります。だって医師のレベルはどこに行っても一緒のはずだし自分がやらねばならないという事はないんですから。考えるパラメーターがいくら多くて複雑でも、出る結論というのはそれほど変わらないってのは身をもって体験していますから、そんなに価値のあるものではないんです。

あとは患者さんがその「検査を受けたいかどうか」の気持ちをトッピングしてくだされば完成。



しかし患者さんの気持ちは良くわかるんですよね。

患者さんの中には、医者が「是非やらせてくれ」と下手に出るか、「絶対にやらなきゃだめだから」と命令されるか、どっちかでないと決定が出来ない人々がいますから。自分は下手に出るのも、高圧的になることも出来ない人間ですが、そこは折れてなんとか説得します。時間がもったいないなと思いつつ、です。

どちらにせよ自分で決定するのに躊躇するのでしょう。その苦手の背景というのは人それぞれなんでしょうけれど、過去に自分が「検査しなさい」「はい、癌がありました」という経験をしている方がいるので申し訳ないなと思います。私自身は「当たる」という経験は、偶然でしかない感覚ではあるのですが、患者さん本人からすると「当てられた」が100%になってしまうから怖いんだろうと思います。そういう人は私が「検査」というと、「また何かあるんだ」と恐れおののいてしまう。そうじゃないのですが。

むしろこちらの事はコンピューター(アキネーターほど当たりませんが)か何かだと思っていただいて受診していただいた方が良いのではないかな、と思います。特に怖がる必要はありません。



で、結論を申し上げれば、「検査しなきゃいけないんですか」という質問は良い質問だけれど、いささか棘がある言い方で、相手によっては怒り出してしまうかもしれない。しかしその質問に対する答え方で医師のその時の気分だとか、哲学だとか、そういうものがわかってしまうという怖い質問だと言えるのです。

2014/04/08

機能性ディスペプシア fuctional dyspepsia 周辺の情報収集

主観的な検査(内視鏡とエコー)を利用して機能を見る、という点で10年20年の蓄積がある当方は、所謂「機能性ディスペプシア」の多様性と病態を多少は良く理解しているつもりでおりますが、だからこそブログには書いたことはありません。理解されるどころかますます混乱させるからです。しかし、議論が最近まとまってきた(つまり自分たちが持っていたアイディアもほぼ海外で認識されるようになってきた)と思うので少しまとめてみようと思いました。


定義:Rome III参照

疫学:西洋社会の20-25%の人々はディスペプシア様症状を訴える。そのうち25%(55歳以上)には何らかの疾患が見つかり、75%には異常がなく機能性ディスペプシアと言われる。海外では55歳未満の場合にはいろいろな検査はあんまりしないのが日本とは違う。

病態の理解:1)運動の異常、2)神経の過敏性、3)感染症、4)精神疾患の存在

検査:検査で器質的疾患を除外する。

治療:古典的にはPPI、H2RA、三環系抗うつ薬、メトクロプラミド

さて……こういう命に関わらない分野で、しかも患者数が莫大に多いわけで、一攫千金を狙いたいのはわかる。花粉症とか高脂血症とか逆流性食道炎のように当てたいことでしょう。便秘もだけれど。ブレイクスルーはありませんが、それでもなお、一発当てようとする企業が後を絶たないのはしょうがない事ですね。しかし今のところは万能薬というのはない。ないのはどういうことかよく考えてみよう。病態の理解が間違っているか、病態が多彩か、どちらかしかないでしょう。

Recognizing Comorbid Functional GI Disorders

消化管機能異常は併存する場合が多いという記事(当たり前なんだけど)
便秘型過敏性腸症候群の人はGERD(25-50%)とFD(30-60%)を併存しやすい。
慢性便秘の人はGERD(30-40%)とFD(40-50%)を併存しやすい。
では逆にGERDの人はどうかというと、10-20%が便秘型過敏性腸症候群、30-40%が慢性便秘を併発している。これ臨床やってる自分からすると当たり前な事なんですが、日本でちゃんとこういう指導している先生が実に少ないと嘆いている部分。いいぞもっとやれ。

Dietary Proteins and Functional Gastrointestinal Disorders

蛋白質と機能性ディスペプシア、という議論。

グルテンと牛乳に関する過敏性、という視点です。腹が張る、腹が張る、という人の中には過敏性が原因という方が少数いるはずです。(欧米では数%ぐらいだそう)しかし小麦、グルテンのようにすでに原因の検索方法が確立されているならともかく、未知の食材に対してアプローチしていくのは大変医療側が支払うコストが高くて放置されているのが現状なのかもしれません。スプルーにまでなっても日本では診断されていないケースがあります。

Can Pancreatic Enzymes Be Used to Treat Indigestion?

膵酵素は治療薬として使えるのか、という議論。

酵素薬の歴史は古く、2005年~2010年にかけてFDAでは再評価がすすみ、認可されたものはアメリカではCreon®, Pancreaze®, Pertzye™, Ultresa™, Viokace™, Zenpep®, and Pancrelipase™ 5000の7種類。

当方もまとめています。至適pHを考えているという点ではまだ私の方にアドバンテージがあるようです。Viokace以外はすべて腸溶錠なんですね。しかもViokaceはPPIと使わないといけないという罠。これらはむしろIBS向きの治療薬ですし、酵素剤はスピードが命なのでこいつら何にもわかってない、という印象があります。フリーズドライ大根おろしでも作って西洋で売ればバカ売れしますよ。その方が効きますからね。


なるほどこの論文があるからモサプリドを使うのか。
胃が痛い人に他院でモサプリドを使うともっと痛くなる人がいるわけです。で、当院の患者が増えて私が過労になり辛いです。内視鏡をすると前庭部びらんがひどいわけです。本郷先生は先に胃にはびらんがないよ、ってのをちゃんと見ているわけですからね?使うなら先にびらんがないのは確認するか、使って増悪するならすぐやめてください。(製薬会社の売り方がまずいと思う)ノロウイルス感染症に出すなんかもっての外で、吐き気止め代わりにモサプリド使わないでくださいと声を大にして言いたい。(びらんが無い方では確かにモサプリドは効きますし、精神疾患のある方でも有効だと思っています)テプレノンは不思議な薬です。免疫を調節する作用があるのか(肺がんの化学療法時の間質性肺炎に予防的に働くとか)一部の患者さんに極めて効くというか、依存的になっている人すらおられて興味を持っています。IgG関連の腸管アレルギーをテプレノンが調節するのであればつじつまが合うのですよね。ディスペプシアの原因の一部にはアレルギーが関与すると言われているのですから、無視してはならない薬剤でしょう。あるいは胃の粘液分泌能に影響を与え、過敏性を調節するとかでしょうか。


ディスペプシアが寿命に影響を与えるか。答えはNo。
QOLは下げる、QOLは下げる、と良く言うのですけれどね。明らかに寿命に影響するQOLの低さというのを臨床では経験しますが、なかなか難しい指標です。


機能性ディスペプシアでの精神科的アプローチ。
誘因として身体的精神的ストレス、犯罪被害がある、うつなど精神病の併存、過敏性の存在、向精神薬は効果が認められている事。
認知行動療法っていうのでしょうか、消化器内科医が自然に行っているカウンセリング的なものはごく一部で、こうしてまとまると、なかなか長大で大変なものですね。精神科すごいわ。



集め出すときりがないわけですが、これがおまんまの種であります。
で、つきつめていくと、最大公約数的な治療では有効なものがない、というのが今までの結論で、そして器質的な疾患がないとされている中にも実はアレルギーや神経伝達物質の異常などが関与するケースがありそうだという事がわかりますね。それをどう評価していくか、背景をどう分類していくか、この煩雑で膨大な仕事は自動化せねばなりませんから、結局みなさんのライフログをどうとるか、が鍵になります。
じゃあ、それをどうする、ということを日夜考えているわけですね。




2014/04/06

消化器内科ニュース2014年3月

○プロトンポンプ阻害薬(PPI)を長期使用すると、低カルシウム血症(骨折の増加)、低マグネシウム血症、C.Difficile感染症の増加、肺炎の増加につながる。

<個人的な意見>その通り。PPIを不必要に「効かせすぎている」場合がかなりあるなあという感想。背景の萎縮、HPの有無、PPIを使用した時のpHなどを総合してフォローできる医療機関は多くはないだろう。イノセントにPPIを処方すべきではない。胃粘膜の様子で「ああ効かせすぎているなあ」というのは胃底腺ポリープの増え方、粘膜のべたつき、白さ、などで自分は判定している。

○大腸内視鏡検査の普及で大腸癌激減(アメリカで年3%減少)

<個人的な意見>便潜血検査での予後の延長は、「たまたま大腸がんじゃなかったけれどポリープはとった」人が将来大腸がんを発症しないからであるようだ。大腸ポリープに関しては乳がん、肺がんで見られるような過剰診断が有害になる、という事象が少ないため、積極的な検査が受け入れられるようになるのではなかろうか。みなさん便潜血検査は真面目に受けるように。

○イギリスではリンチ症候群の患者が適切にフォローされていなかった。

<個人的な意見>リンチ症候群の診断基準は新アムステルダム基準で「3人以上が家族内でHNPCC関連癌の確定診断を得ており、その内のひとりは他のふたりの一度近親者である。連続した2世代で罹患している。ひとり以上の50歳未満でのHNPCC関連癌患者がいる。家族性大腸ポリポーシスは除外されている」というものですが、これで素人の方がわかると思いますか?50歳以下で、大腸がんになった近親者がいる場合は医師に相談してください。間違ってもリンチ症候群を知らない医師にかかってはいけません。

○国際肝炎会議2014開催

<個人的な意見>HIV研究のおかげでRNAウイルスに対する種々の対策が開発され、C型肝炎に関しては特にその恩恵を受けています。スクリーニングに関してもより積極的に行われるべきでしょう。

○小腸腸内細菌異常増殖症(SIBO)とはなにか

<個人的な意見>あんまり良く病態が理解されていないこの病気。私も腹部単純で小腸にガスがある人や、IBSの一部、腹部術後の一部、ガスコンを飲むと調子が悪い人々、脂肪肝のある人々の一部、などがこれに含まれると思っていますが、アメリカでは盛んに抗生物質が投与されているらしく。あとはプロバイオティクスでしょうか。個人的には便移植の適応ではないかなと。

○ネオジム磁石の誤嚥事故が増えている

<個人的な意見>大変危険なので注意喚起したいところ。

○ヨーロッパでUC、クローン病に対するVedolizumabが推奨。

<個人的な意見>TNF-α抗体の次の薬剤。IgGに対する抗体。作ったのは武田薬品です。

○慢性C型肝炎ウイルス感染の治療における新規薬、オーラルヌクレオチドNS5Bポリメラーゼ阻害剤、Sofosbuvirの有効性と安全性

<個人的な意見>インターフェロン不要の薬剤です。かなり期待されているのだとか。

○種々のインターフェロン不要のC型肝炎治療で高い治癒率

<個人的な意見>このあたりのスピード感すごい

○ヨーロッパで低ナトリウム血症治療ガイドラインがアップデート

<個人的な意見>これ読んで下さい。→(リンク) 塩入れるなよ!というような事が書いてあります。

Medscapeから