あんまり啓発本めいたことは書きたくないんですが。過去の自分の日記を読んでいたら面白かったので投稿します。
私が習った解剖学第一の市川厚教授は電子顕微鏡写真を撮る名手であった。マイナス100度以下に冷やした銅のインゴットに組織をポンとぶつけると瞬間冷凍ができる。それを非常に薄くスライスして電子顕微鏡に入れ撮像するというテクニックを開発した。瞬間冷凍された切片で今まさに細胞膜と融合しようとしているリボソームあるいはゴルジ体などの姿を捉え、その機能を明らかにした。その瞬間を市川教授が書いたイラストはGray's Anatomyにも掲載されていた。
解剖といえばマクロばかりが強調されるが、ミクロ、さらに電子顕微鏡写真もかなり登場したのが我が横浜市大の授業であった。さて、市川教授が撮像したかどうか、あるいは解剖学第二教室は脳神経がご専門だったので岸田助教授の授業だったかもしれないが、脳の神経シナプスの電子顕微鏡写真があった。細胞に無数の神経終末が接している写真だ。「脳細胞の神経終末は、抑制系ばっかりなんだよね」と先生が仰った気がする。この言い方だと岸田先生の授業だったかもしれない。
その瞬間に「あ!」と思って、てんかんという病気が理解が出来た。一つの神経細胞が2分岐、3分岐して次の神経細胞に情報を伝えているのだから、その信号には常に抑制をかけないとあっという間に脳がショートして焼け焦げる(これがてんかん)のは自然の摂理だ。脳はよく一部分しか使っていないと言われるのもそう考えると誤解で、常に抑制がかかっていると考えれば良い。当然全部使っている。
ぼーっとしている状態というのは抑制系も休む場合が当然あるので、それがひらめきの正体であると考えれば理解しやすい。何かひらめいたときにfMRIや脳波が動くのは、ひらめいた「後」に抑制系から抑制がはずれた状態、と理解している。必ずしも沢山脳が動くことがひらめきを生むわけじゃない。
と、思ったのが20歳ぐらいの事で、その考えは30年あんまり変わっていないからもしかしたら正しいんじゃないかと思っている。
だから自分は脳の活動を活発に、と考えたことはない。時間を区切ってのブレインストーミングなんかもってのほかだと思っていて、常に「ぼーっとしよう」「ぼーっとしよう」としている。定速で考え続けるのだ。
なにも考えないということではない。最適な経路で考えるために脳を抑制することを常に考えている。自分は頭の回転を調べるようなテストではとても悪い点数を出す。IQを測定しても120はないと思う。成績も正直たいしたことはない。
まあそれでもスローシンキングとでも言うような方法でなるべく常によどみなく考えるようにしている。沢山のものごとをゆっくりゆっくりかき混ぜる、というようなイメージである。短距離走が得意な人がいれば、長距離走が得意な人がいたっていいじゃない。自分の脳味噌の瞬発力はちょっとなーと思った20歳の時に、少しギアを変えたのである。