デトロイトの叔父、Wayne State UniversityのProf. Choichi Sugawaの元に留学していたとき、印象深かった症例のひとつがPancreas divisum(膵分離症)でした。
膵臓は腹側、背側のふたつの部分から構成されていて、その二つは胎児の頃に合体してそれぞれの膵管は交通があるのが普通です。膵臓の出口は二つあるのですが、たとえそのどちらかが潰れてしまってももう片方から膵液が流れ出るために膵炎になることを防いでいます。ところが先天的にこの二つの膵臓が合体しても膵管が交通せずにバラバラのままの人がいます。これが膵分離症です。
欧米では6%程度、日本人では2%程度とされており、珍しくない状態なのですがもともと交通は非常に細くてERCPでは確認できるもののMRCPでは確認しにくく正確に診断できていないと思います。
副乳頭を生検し、膵炎を起こすのは恐らくdivisumの患者さんだと思います。
例えばこの膵臓分離症の人の副乳頭(副膵管の出口)に炎症などが起き、以後括約筋の異常が起きたと仮定しましょう。するとこの患者さんは周期的に強い腹痛を繰り返すことがあります。膵炎を起こしてくれればわかりやすいのですが、GERDと同様に痛みだけを伴う場合がありやっかいです。というか、日本では完全に無視されている病態だと感じています。
アメリカではクリーブランドクリニックなど、乳頭切除術を積極的に行なう病院があり、かなりの治療成果を挙げています。腹腔鏡的に乳頭切除を行なう方法もあります。世界は進歩しているのに、日本では報告がほとんどありません。一度完全に乗り遅れてしまうと、その分野の研究が日本で進むというのはなかなか難しいです。なぜかというと、いまさら膵分離症を研究してももはや世界とは太刀打ちできないし、日本では教授にもなれませんので医者の興味はそちらに向かないのです。
それでも臨床的には重要な概念のひとつであり、原因不明とされている腹痛の数%は膵臓分離症に伴う痛みである可能性があります。女性に多く、若いころから発症する事が多い病態です。
日本ではERCP後膵炎のリスクのひとつにすら挙がってこない膵臓分離症ですし、MRCPを撮ってみてもあまり所見がはっきりしませんので、なかなか診断が困難な上、治療は乳頭切除という大胆なものですから、敷居が高いのも無理はありません。
しかし診断に難渋している腹痛の患者さんがおられたら、一度コスパノンをお試しいただきたいのです。
胆管膵管系の痛み(尿管も)にはブスコパン、チアトンに比較してコスパノンが圧倒的に効果が高いのは有名だし、日本で「胆道ジスキネジア」としてコスパノンを長期投与されている患者さんの中に上述の病態が隠れているという印象を持っています。
周期的な強い上腹部痛、時にはトリプシンなどが上昇する、あるいは血清アミラーゼが上昇あるいは低下している、膵胆管系に一見して異常が見当たらない場合、胆管、膵管の括約筋機能異常が原因となって生じる痛みではないかと疑ってみる必要があると思うのです。また、通常の上部内視鏡では副乳頭が目立たないかを確認してほしいのです。
小児の膵炎が増えていると聞きますが、これはまた別の話かもしれません。(ただ、「遺伝性」とされる膵炎の中にはこうした形態異常は当然含まれるでしょう)MRCPの解像度がさらに上昇したり、食事前後で機能評価ができるようになったりするとまた別の展開があるのかもしれません。
恥ずかしながら,不勉強で
返信削除全く知らんかったです。。
kema先生
返信削除あんまり話題にならない病気だと思います。私も実例を見るまで知りませんでしたが、最近「そうじゃないかな」と思える症例を見つけたため思い出して記事にしました。