超音波の特性を理解しておくことで、初めて見た所見であっても何が起きているのか推測が出来るというのが超音波検査の良い点ではないかと思います。
下腹部に「癌が触れる」と来院されたこの方の所見はしかし、「虚血性腸炎」にそっくりです。
管が左斜め上から右斜め下に向かって走っているのはわかるでしょう。
それはS状結腸ですけれど、壁が厚くなっています。ほぼ均一に厚くなっています。そして層状の構造は保たれています。内部には白い高輝度の点はありません。(左上にはあります)
炎症で厚くなった粘膜で、内腔はほぼ閉塞した状態であると推測が出来ました。
しかしこれが虚血性腸炎であるならば、激しい下痢と下血があるのが通常です。それが心にひっかかりました。一方このすぐ下には「大腸癌?」と疑わしい、腫れが強く、高輝度の潰瘍を示すような所見がありましたが、これらの所見は併存が可能なのでしょうか。癌の浸潤でS状結腸まで腫れている?腹水もないしまさか!
大腸を内視鏡で見るとすぐに大腸癌は診断出来たのですが、しかしまだ病態が理解出来ません。
1)大腸癌で内腔は塞がって見える
2)しかし腸閉塞の症状はなく、下血もない
3)痛みはある
4)しかし腹膜刺激症状はない
さてどうしたものでしょうか。いざ本当に閉塞したり穿孔してしまえば緊急手術となります。病院の先生方には迷惑はかけられません。
そこで、 http://scholar.google.com にアクセスして
「大腸癌 虚血性大腸炎」
と入力しますとすぐに、
そしてそれらの文献を読むと、
「イレウス症状にはならない」
「穿孔例はなさそうだ」(穿通は報告を見つけました)
とわかりました。細菌感染から敗血症になるのを防ごうと判断し治療を開始しました。
イレウスにはなっていないので、腸内容がスムーズに通り減圧が出来れば、術後の縫合不全の予防にもなるのではないかと思いました。
低残渣食、抗生物質、整腸剤、消化剤、ガスコンで治療をしたところ、痛みは軽快し、腸管内部に空間が出来ているように見えます。(白い高い輝度のある部分は泡があることを示しています)
大腸癌で狭窄し、腸管内圧が高まるとその部分に虚血・浮腫を生じてしまうという仮説があるのですが完全に閉塞したわけではないために、浮腫が新たな狭窄として内圧上昇の原因となり徐々に口側に広がっていき広い範囲での浮腫を生じているのだろうと理解出来ました。
エコーというモダリティには「早いのが取り柄」「内視鏡のように検査中に必ず結論を出さなければならない制限はなく、院内に患者さんがいれば繰り返し写真を撮り直すことが可能」という利点があります。
ただ、この検査は非常に主観的な検査であるというのが欠点でゴールデンスタンダードにはなり得ない。じゃあ、これをゴールデンスタンダードにする方法はないのか、と考えますとそれはロボットによる診断しかないと考えています。
0 件のコメント:
コメントを投稿