2017/12/23

スタチンが大腸がんの再発を抑制するのはなぜか?

Associations of Statin Use With Colorectal Cancer Recurrence and Mortality in a Danish Cohort
Timothy L. Lash; Anders H. Riis; Eva B. Ostenfeld; Rune Erichsen; Mogens Vyberg; Thomas P. Ahern; Ole Thorlacius-Ussing
Am J Epidemiol. 2017;186(6):679-687. 

コレステロールを下げる薬のうちスタチン類(HMG-CoA還元酵素阻害剤)は日本で開発されて最も使われている薬ですが、この薬はコレステロールを下げる結果、抗炎症作用を発揮するのでいろいろな副次的な効果が報告されています。大腸がんの再発や死亡率を下げるというメタ解析の論文もその一つです。

私のブログで「黄色腫」について書きましたけれど、白血球はコレステロールリッチですからコレステロールを下げることは白血球の活動をやや抑制する方向に働くと理解しておきますと、この論文の主張も、インフルエンザでのサイトカインストームにも抑制的に働いてスタチンを飲んでいる患者では死亡率が低いなどの理由も、血管内での炎症が強いメタボリック症候群の人の心筋梗塞の一次予防に一定の効果がありそうな事も説明できるというわけです。

非常に簡単に書きましたし、嘘かもしれませんがこう考えておけばいろいろなことが一元的に理解できます。

2017/11/22

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鵜川医院がLINE@認証済みアカウントになりました。
普段、電話を駆使するように推奨していますが、電話がつながりにくいのは事実ですので、LINEを活用して状況報告であるとか、休診の確認などを行ってください。
遠隔診療もすでに行っています。

メールも良かったのですが、最近確認できない事がありました。LINEも完璧ではないですが、もうちょっとましだと思う。

さらに完全な方法を模索してはいきます。

遠隔診療について:
病状の安定した方が毎月受診をせずに、検査のある日以外の診療はスマートフォンで行って、お薬は郵送でお送りする仕組みです。今年から正式に認められているらしい。

2017/11/04

ビッグデータ時代の論文について気をつけるべきこと

メディカルトリビューンという週刊誌みたいなものがあって、内容を羅列するだけで中身の吟味がないメディアなので見出しだけをざっと読むことがある程度ではある。それでも読んでいる人はそこそこいて、影響を受ける人はいるのかもしれない。

今回ご紹介する記事、見出しとしては

「ピロリ除菌後PPI長期使用で胃がんリスク上昇」となっていて、、自分の興味ある所だったので思うことを何点か。おそらく適切にコメントできる人も多くないと思うので。

まず、レセプトの解析でこういうデータが取れる事については評価。僕にやらせるともっと良いです。>偉い人
臨床とコンピューター(にデータを格納するやりかた)の事を根っこから理解している人材はそうはいない。

元になったのは
Long-term proton pump inhibitors and risk of gastric cancer development after treatment for Helicobacter pylori: a population-based study
Ka Shing Cheung
という論文ですね。

http://gut.bmj.com/content/early/2017/09/18/gutjnl-2017-314605

自分はPPI長期使用反対派(長期使用すべき患者とそうでない患者を分けることには興味があるが、少なくとも現在の日本はセンスなく使いすぎ)なのでこういう論文が出たら「ほらみたことか」と煽るべきなんでしょうが、そうもいきません。一側面から捉えたにすぎない論文だから。

まず前提としてこの論文では
“Proton pump inhibitors (PPIs) is associated with worsening of gastric atrophy,”と言っているが、それは証明された事実とは言えません。HP陽性者に長期にPPI使っていた過去もひっくるめての医者の印象だから。

次にHP除菌12ヶ月以内の癌は除いたとありますが、欧米の論文では36ヶ月除外するのが通例でしょう。この12ヶ月と36ヶ月の違いは大きいので、これで倍ぐらいは数字はすぐに変化します。除菌後の潰瘍例を除いたのですが、逆にバイアスを大きくする可能性はあります(胃癌の多くは潰瘍で、しかも除菌後にこそ潰瘍として発見されやすく、PPI不使用の患者の胃癌の多くはこのグループに入って除外された可能性)ので注意が必要です。また胃癌と診断される前6ヶ月のPPI、H2RA使用ものぞいているのですが、これも解せない。症状がある人を全部のぞくと、むしろ除菌後でPPI不使用の患者の胃癌の多くはここに入ってしまうからです。

7.6年の観察期間で0.24%の患者が胃癌になっていますが、これは除菌後の患者としては少ないです。これは上記バイアスでかなりの胃癌を除かれてしまったか、診断能力が低いかで、見逃されてる可能性はあるからなおさら12ヶ月じゃ短い、という主張を補強する数字です。0.5%以上にはなるはずです。ハザード比が2.44で、PPI使用中は5.04とのことですが、もともと胃癌症例が6万中150例とか少ないのでいくらでも変わるだろう。

結論としては、「デザインが悪い」と思う。ビッグデータの利点を活かしていないのです。ビッグデータならパラメーター毎に結論を変えるのは簡単な事を示して、結論を読者に委ねることぐらいは簡単なのに。それこそがビッグデータ時代の論文であるべきなのに、それが出来ていない。私がビッグデータを取り扱うキラキラの医師に感じる不信感の根っこはここにあります。

ただし、理論的には考えられないことじゃないので一応仮説を書いておきます。

1)胃酸を抑えていると、胃癌は溶けない説
胃癌が胃酸で溶けちゃてわかんなくなって一度見えなくなった癌があとになって出て来るなんていう経験は内視鏡医は結構します。なので3年ぐらい遅れて出てくるなんてザラであるんだけど、仮にPPIを使っていると胃癌が溶けないので大きくなるチャンスが増えるかもしれない。
2)PPIを長期で使ってる人はNSAIDs使用者である事も多い。アスピリンは一部の大腸ポリープには抑制的に働きますが、自分が経験するHP陰性胃癌ではNSAIDs長期使用者が少なくなくて、リスクの一つと考えたりするんだけど、そういう影響はなかったか。
3)胃潰瘍を除くとバイアスに逆になる。HP陰性胃潰瘍は高率で胃癌なので、それを除いちゃうのはな~わざとじゃねーの、って感じです。
4)ガストリンの増加は胃癌は増やさないんじゃないか。
5)PPIを平気に全員使っている医師は胃癌の診断には不慣れなんじゃないか。

まだまだ考えられるけどこのぐらいにします。自分の結論としては、

1)PPIをだらだら出すことについて、日本以外の国では「ちゃんと考えようね」という論調になっていて、OTCにもなっているので濫用に警戒感がある。
2)ピロリ除菌後の胃で、Open typeの萎縮がある場合、PPIはtoo muchです。胃を汚くしてしまい、ほんとうに癌が見つけづらいです。今までの数万人の経験でこの患者はPPIが絶対必要というのはわずかに数十名以下で、しかもその半分は本来は食道裂孔ヘルニアの手術の適応なのですが日本の患者さんがそれを希望しないのでそのままになっている症例。PPIを使わなくても体重のコントロールなど生活習慣の指導、消化剤、整腸剤、あるいはPPIを隔日投与、H2RAなど使える薬は沢山ある。ガスモチンは動かしすぎるので症状が悪化したり前庭部に炎症が起きる症例があるから、病的に蠕動が低下する症例への投与にすべきで、エコーで前庭部がすでに肥厚している症例に処方するとかどれだけセンスないんだよ、と思っています。

2017/10/07

記憶の賞味期限

患者さんが症状で困ってなかなか治らないときに、非常に受診がうまい人がいる。

①ぎりぎり記憶に残るぐらいの受診間隔
2週間あけるとまず殆どの患者を忘れるのでそうならない程度。
②もらった薬が切れる前の受診
最低でも「○日間」は経過をみたいと思っている日数以上で、処方日数より短い程度のインターバルで受診すると「あれ?良くないのかな?」という印象を与える。毎日しつこく来る人は別な意味で病的だし、その逆に完全に薬が切れてから「効かなかった」という来院は……親身になろうとしてもなかなか難しいです。
③必ずフィードバックをくれる
良くならないなら良くならないなりに新しい情報を与えてくれる。
④明るい
つとめて理性的に振る舞おうと頑張っている姿は非常に心を打たれますので。
⑤種々の連絡手段
電話で少しでも良いから情報を与えてくれてから受診、メールで相談してからの受診、など、こちらが考える時間を与えてくれる。
⑥自分でも考える
いろいろ自分でも考えて、意見をくれる。
⑦優先順位が間違っていない。
自分の生活に折り合いをつけなければならないときに、妥協する部分を妥協できるかどうか。(例えば仕事が最優先でそれを譲らない、という人はどうなるだろうか、想像してみて下さい)

ご参考まで

2017/09/26

上部内視鏡検査のクオリティ・コントロール(QC)

繰り返し書いている話題ですが

Gutに載った新しい英国の上部内視鏡検査ガイドラインによれば、

Gut. 2017 Aug 18. pii: gutjnl-2017-314109. doi: 10.1136/gutjnl-2017-314109.

1) 年間100例以上の経験を有する医師
2) 徹底的に粘液除去してきれいな写真を残す
3) 通常の検査は7分以上
4) 悪性に見えたら6箇所以上の生検を
5) 最後の内視鏡をしてから3年以内に見つかった進行がんは見逃し例とカウント(便宜上のカウントです)して、そういう症例を10%以内にコントロールする

ざっと読んだだけだから間違えてるかもしれないけれど、そんな感じで世の中でおなしゃす
僕はもう専門医は更新しませんでした
生検の部分は真似できません もっと少ないです

自分が内視鏡ファイリングを作った理由はクオリティ・コントロールのためです。たとえばブレ、レンズ曇り、粘膜の除去不十分、近接しすぎ、暗い、ハレーション、などを減点していって点数化する。そういう事をやろうとしていました。自分は合格していると自信はあります。(相当難しく、合格できればアベレージレベルどころかトップエンドスコピストだと思います)

今の検診レベルを引き上げるためには機械的な採点が大切で、読影会より重要じゃないかと個人的には思っています。

2017/09/25

なぜ腸内細菌叢の変化で太るのか

「マイクロバイオーム」という言葉は知っておくと良いと思う。

なぜ腸内細菌を変えるだけで太ったり痩せたりするのかは以下の仮説で簡単に説明ができます。


  1. 細菌の産生するエンドトキシンが直接肥満に関与するわけではおそらくない。
  2. 細菌のエンドトキシンによって、小腸のIEL(Intraepiterial lymphocytes:粘膜内リンパ球)に炎症が起きるのだが、このリンパ球がTNF-α, IL-1, IL-6などのサイトカインを産生する。このサイトカインは門脈経由で肝臓に達しインスリン抵抗性を誘発する。
  3. このため高インスリン血症が生じ(中略)肥満となる。


ここでいくつか肥満をブーストする事象が発生する。


  1. 小腸の腸間膜に分布する脂肪細胞はその細胞が他の脂肪細胞とは違いTNF-αを産生する能力があり、肥満を加速する。(いわゆる内蔵型肥満やメタボリック症候群の本質はこれです)
  2. これとは別にNASHの話だけれど、横浜市立大学から発表されたが、肥満ではレプチンが上昇するがこの高レプチン血症はCD14がKupfer細胞上に増加し、エンドトキシンに過剰反応し肝炎を引き起こす。


家畜に抗生物質を使用するのは家畜を守るためではなくて太らせる効果があるからで、これは腸内細菌叢の変化を利用しているわけだ。
ちなみに血中CRPがなぜ動脈硬化と関連するか。CRPはIL-6と連動して動くので一種のマーカーとして使えるという事だ。

僕は横浜市立大学大学院でTNF-αを研究させていただいたんだけれど、不肖の弟子だったので全く実績を残せなかった。けれども自分が研究していることは真実であって、論文のための実験ではない、という自信だけはあった。市大の先生方には今も感謝している。

2017/09/20

会話の手法

「胃が痛いんです。この痛さがなんとか取れれば良いと思っている」

例えばこういう言い方をする人がいたりすると頭がいい人だと思う。

「胃が痛い」だとか「薬くれ」などの台詞のほうが頻度が高い。

痛いのが胃なのかどうかは本当はわからないのであるが、「薬をくれ」でもなく「痛みを取ってくれ」でもなく「取れれば良い」という表現は"by whom"が曖昧で、変な時間的な圧力を相手(この場合医者)には与えない。こういう表現ができるインテリジェンスの持ち主ならば「胃」が痛い事にことについても彼らなりの根拠があるだろうと判断するのである。

少し主観を離れたような言い方は、SNS*1かなにかで誰かに(あるいは自分に)向かってつぶやくような視点とでも言えるだろうか。

察してくれ)とか(直接的な要求)などという、本来は会話とは言えない内容の会話をしている事が外来では多く、おそらく実社会で家族や友人同士よりも別の関係性のある人と話す事が多くなってしまった現在ではそれが普通となっている。しかしそれらと明らかに違う(独白的な、客観性のある)視点はSNSでは良く見られ、それが実社会でも見られるようになったように感じている。しかしこれはもしかしたら以前からあったのに気づいていなくて、情報を受け取る自分が変化して自覚するに至ったのかもしれないとも思う。



とはいえ、そういうときSNSで「こういう薬が良いですよ」などとコメントする人がいると、薬をとりあえず出しちゃう医者と同じだなと思って苦笑する。考えてないというか。SNS時代のコミュニケーションがわかってないというか。昔だったらそれも親切の一環だったのでしょうが。

SNSが従来のコミュニケーションと違うのは、その人の過去やプロフィール、あるいは会話法が見えている事が多く、情報が多いために、親友でなくても背景を想像しやすいという事である。もちろん今まで自分はSNSが普及していない時代から、初めて会った相手のそうした背景を言葉の端々から想像していくことを得意としていた。しかし特別なテクニックを用いなくとも相手の背景がわかるようになった今の時代には、今の時代のコミュニケーションがあるのだろう。



*1 SNS……ソーシャル・ネットワーキング・サービス:FacebookやTwitterなどインターネット上で個人と個人とがつながっていくサービスのこと。小さな社会をそこで形成しているが、その伝播範囲が広い(狭くもできるが)事が特徴。

2017/09/18

天才とビッグデータ

医療をビッグデータを学習させたAIで行うと、ノイズを弾くため案外凡庸なAI医師が出来上がる可能性と、ノイズの中にある天才的着想が埋もれてしまう、という2つの懸念を持っている。

天才は身近に何人かいるし、自分も天才とは言わないまでもかなり変わった着想をするが、それが埋もれぬようにするためには、AIに入れるデータは最低でも30年分ぐらいをまとめて、という発想が大切である。長期的に良いパフォーマンスを生み出している医者(これは間違いなく天才)の変化(!)こそが重要である。

院長は自分の患者についてきちんと電子的に保存しようと発想したことが非凡であり、40年分以上のデータがすでにある。(NECのPC-8001が発売されたころから)

自分が医者になった時にすでに20年分ぐらいデータがあって、幸い自分はそういうデータを活用できる人間としては非凡であり、天才本人が気づいていないそのデータの使いかたを着想して応用してきたから、医者になってすぐにそこらのベテラン医師を超える経験を身に着けていたといえる。(その点については自信を持っていた)

その後癌研(大塚→有明)に行って、1年あたり10年分の経験を身につけられる場所があるのだなと知り、病気はハイボリュームセンターで診なければ意味がないと考えるに至った、その経験が共有されないならば。(つまり現状では病気になったらハイボリュームセンターに行くべきだ。完全に共有される時代になればその限りではない)

しかし時代は変化していくだろう。
VRやMRで名医の経験が脳に直接接続され共有可能な時代が来る。これが未来の医学教育となるはずだ。その中で少数の、名医の感覚を理解出来、発想を発展させる、あるいは独特の感性を持つ人間(たぶん少数)が選ばれて次世代の名医になる。(特に優れた人間は、なれるものではなく、選ばれるものである)

天才の発想や経験を記録したり共有してそれが理解できる人を選ぶことが、時代を加速させていくために必要なことだ、と考えている。これは今進行しているビッグデータ云々とは少し違う発想である。







注:世の中で「独自の」とか言ってる人は100%イカサマである。自分の世界しか見えない人は自分の考えが「独自」と思ってしまう。天才は「誰でも見えるでしょ?わかるでしょ?普通じゃん」と思ってしまうものである。逆にそれをフィルターにも使える。自分は特別なことをやっている、と自分で言う医者は避ければ良いだけである。自分の興味は本物の天才の行方だけである。本物の天才がどのように考え発想し、それがどう変化していくのかを見届けたいが、それをどう見出すかを常に考えている。

2017/09/17

言語の理解は重要だが

普段仕事で多数の人と話すのですが、日本語を言語として正しく理解している人としていない人がいて、後者の方々はときに不幸な場合があるかもしれません。


Aという事象や概念がある場合、これを言語化して私は相手に伝えます。言語化というのは非常に高い能力が必要です。東京大学の文系でもトップクラスの人々や、東大模試で国語全国何位、という人々が選ぶ言葉は意味が厳密に規定され、「聞く人が聞けば誤解が少ない」ようにコントロールされています。しかしそれを理解できる人はあまり多くはないようです。幸い私は大学受験時に国語の成績だけは(理系の中では)トップクラスで、ある程度は得意だからわかるのかもしれません。わざと誤解しやすいように歪曲して伝える事も簡単で、それを利用して生業にする職業の人々もいるぐらいです。


さて、言語化されたAという事象。


正しく言葉を理解できる人は「事象Aが正しいかどうか」を考えることに集中できます。しかし正しく言葉を理解できない人々は「Aが正しいかどうか」以前にAを誤解している可能性があります。したがって聞いた情報が正しいかどうかを判断することが難しいのです。これは時に不幸です。とりあえず私を信じれば、医師が決して患者にデメリットがある提案はしない前提ですんなりと事が運ぶけれども、信じられない人は永久に抜け出せないデススパイラルにはまってしまう。


時々医療者が信じられないと受診する人がおられますが、それは2つに分けられ、後者の人々がいる。何かに文句をすぐに言う人にも後者がいる。言語が正しく理解できていないから、誤解の解消もとてもむずかしいのです。相互理解が不十分であっても、そうならぬよう予防しているのが「信用」とか「信頼」なのだと理解しています。人類の歴史上、コミュニケーションに難があるケースが多々有ったと思われ、必然的に生じた概念ではないか、と思います。


信頼を得るために嘘八百の言葉が並んでいるのが今までの世の中です。真実が隠蔽されている、と不安になる気持ちはわからないでもないのです。その背景には言語の理解不足がある。

たぶんビッグデータが活用されるようになると大きな嘘がつけなくなります。その代わり、100%の信頼など幻想だということもますます明らかになるはずです。もちろんコンピューターを騙す手口も開発されるでしょうが、今よりは真実がわかるようになります。
そういう時代になりますと、ますます言語を正しく理解する能力が必要になってくるのです。


がんばって勉強しようね、と若い人にいうのはそういう理由です。

2017/09/02

記録とノイズ

患者さんにはなんでも記録しなさい、と言っている。
なんでも、だ。
これはもしかしたら病気と関連しているかもしれない、などという情報は邪魔で、一切のバイアスを入れずに淡々と記録することだ。
何を食べたか、というような写真は悪くない。

それに対して「なんでも記録する事は患者を神経質にするのでは」という批判が考えられる。

自分もその可能性があると思い長年注意深く検証を続けてきた。
しかし「神経質」とは「特定の情報への執着」であって、情報をまんべんなく収集することではない。非常に偏った情報収集の仕方をすることが「神経質」の本質だ。

まんべんなく収集することはそれに相対する概念で、患者をそれ以上神経質にすることはない。むしろ大量の情報を集めてみると実はそれらが因果関係の特定にはほとんど役に立たないということをわかる材料となる。

因果関係がないならば、情報収集は無駄じゃないかって?そうじゃない。

報道や占い師など、まるで物事にすべて因果があるかのように書くことがあるかもしれないけれど、それは嘘で、事象は偶然に左右されることが多いのだ、という事をまず理解することが重要だし、大量の情報収集はそれを勉強するいい機会だ。待って過ぎ去るのを待つことがもっとも期待値の高い対処法だ、というような事は風邪のときの振る舞いの分析などから明らかになる。ノイズがないときには逆におかしい、と気づくことも可能だろう。

また情報のアノマリーが出現したときには、これは普段とは違う、という事を気付けるきっかけになる、しかも高精度にだ。多くの患者さんの「普通」とか「こんなに痛いのははじめて」という表現は、ひどくいい加減で信用が出来ることは少ないが、とてつもなく豊富な情報を持っている人のそれは、信憑性が増すのは当然の事である。

さて人に共感する能力が高い人はこれらの記録が不要なことがあるかもしれない。ありとあらゆる隣人の経験を自分の経験として感じることが出来る彼らは生まれつき多くの記録を脳に有する事になっていて、しなやかな考え方を持っていることが多い。彼らの判断というものは比較的正しいことが多い。

2017/08/28

ミントの効果に感心した話


唐突に料理の写真を出して申し訳ないと思いますが、伊勢原にあるリストランテ・アルベロベッロを紹介します。

プーリア州は赤枠
伊勢原駅から伊勢原総合運動公園や日向薬師方面に向かう途中、アルベロベッロのトゥルッリ(世界遺産になっているイタリア・プーリア州アルベロベッロにある三角屋根の可愛らしい建物)が左側に唐突に登場します。ポポロ広場という名前がついていて美味しいケーキなどがいただけるのですが、その一角にあるリストランテです。

アルベロベッロのトゥルッリ(世界遺産)

もともと伊勢原という土地は北の果物、南の果物両方が交差する場所である、という事を以前に書きましたけれど、野菜についても同様で様々な種類のものが出来る。農家のみなさんが工夫して色々なお野菜やきのこ類を作っていらっしゃいます。そしてそれらは地産地消されてしまうのでみなさんが召し上がるチャンスはほとんどないのです。東名高速道路の海老名SA(上り)には伊勢原の珍しい野菜が時々売っていますのでご覧になることをお勧めします。鶏卵は有名で、お肉も本当は美味しいのですけれど安定供給が難しいようでなかなか手には入りません。

唐突ですが伊勢原のふるさと納税でのおすすめを書きます。


そういう土地ですので、ときおり足がリストランテ・アルベロベッロへ向かう(予約は必要)のです。その理由は、
1)美味しい地元の野菜が食べられる。
2)湘南小麦が食べられる。
3)その時の美味しいお肉やお魚が食べられる。


湘南小麦については有名なので書く必要はないかもしれませんが、伝説のブーランジェ・故高橋幸夫さんの遺したプロジェクト。
そのストーリーに興味があるかたは検索してみたり→こちらのブログをご覧いただくことをお勧めします。今はその遺志を継いだみなさんが美味しいパンを焼いてらっしゃいます。

さて前置きが長くなりましたが、写真の料理について解説します。(勝手に想像しています)

ショートパスタで、カヴァテッリ(Cavatelli)といいます。これは湘南小麦と水で作られています。カファテッリは小麦の味がしっかりするショートパスタなので非常に湘南小麦と相性がいい、と思います。プーリア州のショートパスタと言えばオレキエッテが有名でソースとよく絡んで好きですが、カヴァテッリ(プーリア州はじめ各地で食べられるらしい)のほうがより小麦の味を楽しめるパスタです。


オリーブオイルもたぶんプーリア州のものです。南部のオリーブオイルは比較的スパイシー(オリーブの香りが強い)とされていますが、それほど癖の強い香りがしないものをいつも選んでおられるように思います。
野菜は伊勢原産のナスです。今年の長雨で出来はどうですか?と農家さんに聞いているのですが、「?全然いつもと変わらないよ?よく出来てる」と仰っていた方が印象的で、その方は日焼けして真っ黒でした。ほんの少し離れただけでも日照時間は違うのだなあという印象。「今年は少し小さいね」と仰った方は日焼けの度合いが例年ほどではなかった気がします。葱などとよく煮込まれていて、ニンニクはたぶん入っていません。
私はアルベロベッロで野菜のスープがあると必ず頼んでしまいますが、野菜の出汁がしっかりとききつつも優しいお味で癒やされます。そのお味。ちなみに、この日のスープは伊勢原産バターナッツ(かぼちゃの一種)でした。
アカザエビは学名を Metanephrops japonicus といい、日本の固有種です。太平洋側に広く分布します。通常旬は冬〜春とされていて、今は産卵前だから禁漁になっているところが多いと思います。冷凍出荷されたものか、たまたま網にかかっちゃって少量だけ売っていたかどちらかだろうと思います。美味しければ同じです。
ところで甘い、記憶にあまりない香りがして、付け合せにミントがのっていたのでその香り?と思ったのですがそういう強烈さもなくて、でも不思議と美味しく感じ、少し量が多かったのですが平らげてしまいました。この日一番注文されたメニューだそうです。

普段食べる量があまり多くない方なので、後半はややきつくなるのですが、この日は最後まで食べられて少し不思議でした。しかし食後にシェフとお話していて「あの甘い香りはミントなんですよ」と種明かししていただいたので納得がいきました。

ミントには不思議な作用があります。それについては過去にペパーミントオイルの話として書いたのですが、簡単に言いますと胃をふくらませる作用があるのです。おそらくデザートにミントが好まれるのは「ミントが作り出す別腹」を期待してだろうと思いますが、それをパスタで実行されたとすれば、その日沢山食べられたことにも納得行くのです。

少し不思議だったのはミントの成分は加熱すると失われると思っていたのに、きちんと薬効があったこと。考えてみれば漢方薬である防風通聖散や加味逍遥散、荊芥連翹湯にも使われますから、グツグツ煮込んでも大丈夫なのだろうと自分を納得させた次第です。残念ながら防風通聖散も加味逍遥散も荊芥連翹湯も山梔子配合(5年以上服用すると腸間膜静脈硬化症という非可逆的な副作用が生じる事があるので基本的には使いません)ですから、消化器内科の私があえて出すことはありません。山梔子配合ではなくハッカが入っている漢方のエキス剤として風邪に使う川きゅう茶調散、慢性の咳に使う滋陰至宝湯がありますが、清上防風湯や柴胡清肝湯など山梔子と薄荷がセットになっているものが多く、驚きました。

プーリア州x伊勢原とが見事にミックスした、良い料理だったと思います。薬効も感じましたので尚更です。

2017/08/14

特にフランスとは関係ない話

人生の一時期、フレンチクルーラーが好きになる、というのは誰にでも起きえる事象だろうか。みなさんはどうでしょうか。私にはそういう時期がありました。
もちろんその原体験はミスタードーナツ(ミスド)です。

昨今コンビニエンスストアがドーナツ業界に参入し、あまりうまく行っていないように思います。そもそもドーナツはハイカロリーなのでブームになりにくく、ドーナツ専門店ですら他のメニューを充実させようとしていたご時世です。なぜコンビニが今更参入?マーケティングしたの?と疑問を持ちつつもしっかりとケースは覗いてみます。

しかしながら組み立てに見事に失敗しちゃったよ、みたいな形も表面の質感もおかしなフレンチクルーラーが其処にはありました。となるとオリジナルが食べたくなるものです。その足でミスドに行き、買って食べてみるとやはり美味しいし、「あれ?これって生ドーナツの原点なんですか?」というまた別の疑問が湧きだした。

その新たな疑問は捨て、
「なぜコンビニのフレンチクルーラーの形は無残だったのか」
について調べる事にしました。

もちろん使うのはGoogle検索。例のごとく、検索すると役に立たないサイトが沢山出てくるので日本語(フレンチクルーラー)での検索はやめる。あらためて(french cruller cutter/shape)などで検索。アメリカのレシピサイトに飛んで、まずは伝統的なツイストの仕方を見ると、星型の金具で生地をツイストさせながら絞り出し最後は手で接着、という方法がとられている。これはこれでむろん良い。US 2041432 A として1933年に出願された特許だ。


ダンキンドーナツがオリジナルレシピであるDD Crullerから撤退した理由である「手作業が必要になる」は、この接着を自動で出来ない機械を買ったからだという事らしい。(参照)(今は違うクルーラーがある)



なるほど手作業では大変だろう。では機械では具体的にどういう仕組みで?という事になる。ミスドの確認は取れなかったが、クリスピークリームのフレンチクルーラーは全自動だという。そこでeBayで検索してみた。フレンチクルーラーを作る機械の部品だよ、というのが売っていた。Belshawという会社だ。どうも調べるとドーナツを作る機械を作っている専門業者のようだ。その会社が作ったビデオがこれ。

( https://www.youtube.com/watch?v=t9ZqOHtV0Ss )

ちゃんとフレンチクルーラーらしき形が出てくるのが驚きだ。

Belshawのパテントを検索すると、US 2921541 AとかUS 3396677 Aあたりがそうなのかなあと言う感じ。細い斜めのスリットから生地を絞り出しつつ回転を加えると確かにあの形になることが理解できる。



実は20年以上前からフレンチクルーラーの作り方は疑問だったので、ひとつ解決出来てよかったように思う。

ではなぜコンビニのフレンチクルーラーは不格好だったのか、という答えだけれどおそらく機械に起因するものではない。生地の配合が良くなくてきちんとまとまらなかったから、という結論になりそうだ。(自作でドーナツを作ろうとすると、きれいな表面にならず毛羽立つ事が多いが、まさにあの状態だろうと想像できる)

2017/08/05

何をしているか、ではなく、何をしていないか、が見たい。

「検診の結果はお持ちになりましたか?」
「ありません、が、すべて正常です」
「その答えでは意味がないです」

日常の光景です。

診断がなかなかつかない、と受診してくる患者では、誤診よりはむしろ前医が「考えなかった」「除外しなかった」病気を考えるし、検診やドックでは「その検診が見なかった部分」に異常があることのほうが検診で引っかかった部分を精査するよりはるかに多く病気を見つけられる。

例を挙げれば人間ドックで胃の異常、と言われて来院された患者さんの結果を拝見すると、むしろ抜けている検査として乳腺、子宮が重要であったりする。

毎年胃の検診を受けているとして癌が見つかる可能性は最大で0.3%程度と見込まれる。検診で異常とされて胃癌が見つかる確率は多く見積もっても1%以下である。
しかし例えば乳腺の検査を全く受けていないとすれば、60歳時点で乳がんが見つかる確率はそれを遥かに超える。(生涯で11人に1人と言われるから)
リスクを考慮しない場合でさえ当院ではコンスタントに0.2%の割合で乳がんは見つかり、大腸がんよりは少ないが胃癌(除菌後は0.1%以下)より遥かに多いので、胃の検査をしてほしいと来院する人全員の乳腺を見ていればそちらのほうが打率が良いという事になる。エコーが得意で良かったと思う。

このように、異常だと言われた部分ではなく、検診やドックの盲点に異常がある確率が高い場合にはそこを精査したほうが疾患が見つかる期待値が高い。むやみやたらに検査をするのではない、非常に医療費を安く効率よく癌を見つけていると自負がある我々の秘密は「患者が持つ脆弱性探し」である。だから人間ドックや検診の結果を持ってくるように言うのだ。

何をしているか、ではなく、何をしていないか、を見たいから。

我々のお節介のせいで突然患者さんの運命が突然変わる可能性があるがゆえに、予め患者がショックを受けぬようにする必要はある。

乳がんや子宮がんの検診がドックや検診に含まれていなかった場合、「どうしてそれらが受けられなかったか?」という理由を聞いたりすると時間がなくて一斉に行われる検診にのみ頼っていることや、途中で転居などがあって、検診の受け方がわからない場合が多いので、「では今年からはきちんとした検診の受け方をお教えしましょうね」などと検査の前に話しておくと良いだろう。

すると偶然癌が見つかった場合に「たまたま今回見つかってしまいましたので方針を変更して、信頼出来る先生をご紹介します」と説明してしまえばなんとなく患者さんは、少なくともその場では後悔する暇がないように思われる。

日本はプライマリ・ケア後進国なのでこのようなやり方は非常に有効である。

2017/07/21

カルシウム拮抗薬と逆流性食道炎

高血圧の治療に使われるカルシウム拮抗薬は、昔から逆流性食道炎を増悪させる、と言われています。
消化管の蠕動(収縮)はカルシウムチャネル経由で起きるので、血管選択性の高いカルシウム拮抗薬とはいえ影響はゼロではなく、消化管運動がゆっくりになり、あるいはLES圧(食道と胃の境目の収縮する筋肉の圧力)が低下して胃酸の逆流が起きやすくなるのは当然予想が出来るのです。

Do calcium antagonists contribute to gastro-oesophageal reflux disease and concomitant noncardiac chest pain?
Jeff Hughes, et. al.
Br J Clin Pharmacol. 2007 Jul; 64(1): 83–89.

Association of medications for lifestyle-related diseases with reflux esophagitis
Daisuke Asaoka, et. al.
Ther Clin Risk Manag. 2016; 12: 1507–1515.

一方で食道痙攣のために逆流性食道炎類似の症状が出ている患者さんにはカルシウム拮抗薬はとても効きます。また私見ですがカルシウム拮抗薬を使っている高齢者は一般にお腹の不定愁訴が少ない印象です。おそらく腸管の痙攣が予防されているのではないかと思います。その他にもカルシウム拮抗薬の利点は沢山あって大変有用な薬です。
とはいえ、逆流性食道炎を増悪させると言われる。オッズ比は2だとか、そういうデータがあるので無視できません。したがって高齢者の内視鏡をするときには、症状の出現と高血圧の薬との関連について良く聞いてほしいのです。

老人が15年ほど前に食道裂孔ヘルニアと言われ、当時からずっとプロトンポンプ阻害薬(PPI)を処方されていたが、今年になって症状が増悪傾向にある、という場合、脊椎の圧迫骨折が起きたのではないかとか、他の因子(悪性腫瘍、電解質異常、薬の副作用、その他)で消化管運動が悪くなったのではないかとか、考えるべきことが多くあります。そもそも食道裂孔ヘルニアがひどい場合、PPIの適応はなく手術が第一選択だ、というのがアメリカでの考え方ですし、私も内心同意します。ただし日本では食道裂孔ヘルニアの治療の症例数がアメリカに比較して少ないし、術式もいくつかあってどれが優れているか、どの患者さんにどの術式が良いのか、という明確なガイドラインはまだありません。将来は外科的な処置がメインになるだろうとは思うのですが、現状ではほとんど内服治療がなされます。その場合にはやむを得ずPPIを長期投与することとなるのですが、Mg、Fe、Ca、腸内細菌叢、内視鏡像などモニターすべき項目は多数あるのにきちんと行われることは少ないです。80を超えた患者さんでは内視鏡を行うことは難しくなりますから、そういう年齢になる前に、将来の予測が十分に立つ程度の情報をきちんと残す事が大切です。


さて、LA grade Cの逆流性食道炎、混合型の食道裂孔ヘルニア、3cmにはわずかに及ばない程度のSSBEがあり、出血も伴っている。FGP like polypは多数あってしかもかなり大きい。粘膜はサラリとしていて胃酸が完全にしっかり止まっているとは言えない。
なんとなくですが、15年のうち、最近まではそこそこコントロールされていたのではないか、それが最近コントロールが悪くなったのではないか、という印象がありました。

そこで薬歴を細かくみていくと、5ヶ月前からカルシウム拮抗薬(アムロジピン2.5mg)がスタートされていた。それまでPPIはランソプラゾール30mgだったのだが、逆流するという理由でエソメプラゾール20mgに変更されていた。しかしその変更は効果がなかった、ということです。

したがって逆流を悪化させたもっとも可能性が高い原因はカルシウム拮抗薬ではないか、と考えてその旨を主治医に連絡しました。どうしてもカルシウム拮抗薬を止めたくない場合にはボノプラザンを使うという策もありますが、差し支えなければ他のお薬にならないか、という手紙を書きました。

逆流性食道炎の増悪には沢山の理由が考えられ、卵巣がんが原因だった、などという驚くような症例もありますから油断出来ませんが、まずは最初は素直に考えて次の一手を打っていただく事が重要かと思います。

2017/07/18

壮大な社会実験は失敗に終わりつつある

ブロックチェーン技術を見た時に、技術音痴でない人は、「価値」に対して「値札」をつけたその「値札」が非常に重たくなったら商品の流通はどうなるのだろうか、と思ったはずです。

すぐに思いついたことは、
1)これはデジタル芸術にはすぐに使える。なぜなら芸術品は何億人の手に次々に渡ることはなく、その値札は軽いままだけであるから。
2)知識、にもすぐに使える。人工知能ではその知識が真正かどうかを確かめる術が必要で、そうでないと「善悪」に似た価値判断が行いにくいからである。そして知識に関しては変容しにくいものであるため、ブロックチェーン技術の親和性は高い。
そのどちらも行われていません。儲からない分野だと思われているのでしょうか。本物よりも偽物の市場のほうが大きいとそうなります。また利権をすでに持っている人々にとっては恐ろしい技術でもあります。著作権管理団体とか大手学術出版社にとってです。
3)その他企業内での技術文書や証券などにも使えるのは言うまでもありません。
これは実益があるので着々と進んでいます。

ところが、おそらくブロックチェーンが一番苦手とする「通貨」で実装がはじまったのが面白かった。1円ぐらいの価値に対してすら、その1円が真性だ、と保証するためのコストはかかります。その保証コストが永久に上がり続ける仕組みがどこで飽和状態になるのか、そしてその飽和状態を人間は知性で乗り越えられるのか。

今のところ人間の知性が乗り越える前に技術的な限界は来てしまったようで、投機が盛んになったために売買額が不要に増え、トランザクションに時間がかかるし、取引所は儲からないしで先行き不透明。

実は処方箋とか、診療情報提供書にもブロックチェーン技術をのせることは可能で、しかも再利用されない文書なので、障壁は低そう。
一方で何の利権も生み出さない(笑)ので実現は遠そう、とか思います。

2017/07/08

未来を見ず、近い過去を見ると不安にならない

良くあるのは、「これが癌(あるいは難しい病気の名前)だとして、私はどうなるんでしょうか」系の言動。
その可能性が高かったらもちろんその場で話し、それが告知の予備段階になる。

それは例外で、通常病気が見つかる確率は1%か、それ以下である。
したがってその説明は時間の無駄になる。
しかしそれを指摘するとますます混乱するのでこう言う。

「今あなたは未来を見ようとして不安になったわけですが、ここで過去を振り返ってみましょう」
「これをやって、これをやって、これをやった。私が思うに、ここまでの手順は完璧、最短手順」
「大切なことだからもう一度言うが、現時点でのベストを尽くしてる。あなたはそう思いますか?」
「そして次の結果が出たら、またベストを尽くせば良いのではありませんか?」

だいたいこれで落ち着くみたいです。

2017/07/05

判断を間違えないための目線

ゲーム理論という概念があります。社会や自然界の主人公は複数いて、その行動における意思決定の影響やお互いの影響を研究する学問です。

難しいことはすっ飛ばしますが、みなさんがこの世の中というゲームを生きている、と仮定します。人生ゲームというボードゲームでも多少は他人の邪魔をしたりは出来ますがかなり違います。現実には邪魔よりは協力のほうが大きな比率を占めていて、そのゲームでなるべく良い状態でプレーするにはどうしたら良いのかを常に考える事がすなわち正しい判断になりやすい、と患者さんには説明しています。

血圧の薬を飲まなければならないときに、「これはずっと一生飲むのですか?」という質問があったりしますが、では一生飲み続けた場合の利益・不利益を考えてみましょう、と計算してみます。

1月に1回の受診があったとして云々
そこで失われる経済的な損失
逆にその受診で偶然命が救われることもあるでしょう
もともと薬を飲むことで期待される健康寿命の伸び
副作用の出現率とその対処にかかる費用や時間
もしもヤブ医者にかかったとしたらこう
うちにかかったとしたらこう

そしてその判断を最適化するには少なくとも1年毎に再評価
あれ?再評価するのであれば、そもそも一生飲む、という前提が崩れますね?

通常、リスクとリターンを考えたときに血圧の治療というのは確実に大きなリターンを得られるわけで、あなたにとって得ですね、ゲームを有利に展開できますね、という結論になることが多いです。

良く私が患者さんに「お薬手帳を必ず持ってきて」とか「受診前に電話して」とか「うちより他の病院のほうが良いので紹介する」というような事をいう理由も同じで、総合的に判断して患者さんが有利にゲームを進めるにはどうしたら良いかを常に考えているからです。

患者さんのわがままやマイルールはゲームにとって有利ではないことがほとんどです。医師はゲームの状況を客観的に見られ、適切に助言できます。決して一人でプレイしているわけではないことを忘れないでほしいと思います。

2017/06/29

数は力、の話

ある病院で「この治療は安全」と言われて受けた治療が思わしくなく、患者さんに相談されたのでこういう試算をして見せました。

1%の人に偶発症が出る治療の場合

10人しかその治療をしたことがないと、
1-(1-0.01)^10=0.0956
という計算が出来るのですが、これは患者の偶発症をすべて把握しようという熱意をもってしてもなお、90%以上の医師はその偶発症を経験出来ないという事を意味しています。

1%の偶発症、というのは薬の場合ではとても多い部類に入るわけで(例:ピロリ除菌のときの薬疹)すが、100症例の経験があっても3割以上は偶発症が経験出来ないと計算できるのです。

通常経験する症例数が多くなればなるほど多くの偶発症を医師は経験するので、「この治療は100%安全だ」という物言いはしません。例えば全く安全だと思われる整腸剤ですら0.1%以下ですが「急に便秘をした」とか「ガスが増えた」という人はいるわけで、「自分にあわないかもしれないと思ったら連絡を」と說明するわけです。症例数が10000、20000では済まない事と、すべての患者からフィードバックをもらおうとしつこく話を聞くからこうした知見は蓄積するわけで、これは誰かに真似できるというものではありません。むしろ私の治療はAI的であると自認する理由です。

したがって、数は力、なのですが必要条件があります。何か偶発症かしら、という事例があったときに注意深く「ほんとうにそうか」「まぎれこみか」を診断していく姿勢があるかどうか。それがない「ザ・名医」はヤブ医者とあまり変わりません。ものすごく混んでいる医者に通っている場合に、「副作用かもしれない」と問い合わせてどう扱われるか、が非常に重要だという事です。

では経験がない時期に私はどうしていたかというと、3つあります。
1)徹底的に理論派
 これ以上ないぐらい知識を詰め込んで経験の代用とする。
 生理学や薬理学や解剖学の知識です。
 そういう基礎的な学問が得意かどうか。
 それは高校時代、中学時代の勉強につながるわけで、
 私は学生時代の勉強を無駄だと思ったことは一度もありませんが、
 それらはまだ見ぬ未来への対応力を養ってくれるからです。
 (学生時代の勉強が無駄だった、という人は過去しか見ない人)
2)父親のデータベースを借用
 幸い父親は名医であるだけでなくデータマニアなので、
 そのデータを見て勉強していました。
3)トップレベルの医師と交流する
 言うまでもないことですが、良い病院で良い教育を受けた事も大きな資産です。

サプリメントの健康被害がなぜ起きるかというと、彼らは偶発症が出たかどうかのフォローをしないからですが、上記のように理論的に予測が可能な健康被害は多いわけですから、飲む前に医師にまず相談するべきだ、と思います。

2017/06/23

患者さんが使うと割りとナイーブに反応する言葉がある。

「昔からそうなんですが」

複数回受診している患者の場合には「今まで話していなかったのはなぜだ?」と感じる。
それは取るに足らないと患者が判断していたのだろうか。
しかし丁寧に聞き取りをしていると、患者の記憶が間違っていて、徐々に症状が変化しているらしいが自身はそう感じておらず一貫してその症状だったと思い込んでいる例も散見される。何れにせよ、この言葉を初診以外で使う人には注意している。

初診でこの言葉を使う人には「表現が大雑把だなあ」という感想を持つ。



「全然効かなかった」

この言葉は自分の症状を正確に把握することが難しい人が発することが多いため、注意している。薬や治療の効果というのは一言では言い表せないものであるのだが、それを簡単に「全然」という修飾語を使って表現する人は、正解から逆に遠ざかっているケースすら多い。もちろん本当に効かないケースはあるもののこちらは具体的なフィードバックを期待している。うまく表現が出来ず困ってもじもじしている人には助け舟を出すので、問題ない。少なくとも一刀両断な表現で断じる事は避けたほうが良いと思う。



「ありとあらゆることを試した」

人間が考えつくアイディアというのは一部に過ぎない。したがってまだ試していない、あるいは考えていないところに答えがあるかもしれない。どういうことを試したか、を聞きたいのに「全部」と答えられてしまうと困る。記憶よりも記録が欲しい、といつも言っているのだけれど、それは消去法で考えていく時に必要だからだ。


論理的に思考して診断を考える時には、患者からの正確な情報収集が不可欠だがその妨げとなりやすい言葉がある。その場合丁寧に言葉を選んで患者の考えを解きほぐしてその真実を明らかにしようと努力するのであるが、比較的高度な作業だと言える。

2017/06/06

人工知能の現状と競争放棄

人工知能の現状と競争政策
http://www.jftc.go.jp/cprc/conference/index.files/170331data02.pdf

というスライドがWebに転がっていました。
政策放棄、に空目したので、面白いなと思いました。

仰っている事は完全に正しい。

データを開放せよ、ないしは自由に「出来る奴」に使わせよ。

ハードウェアを開発せよ。つまりロボットを作れ。
(頭脳の部分はどうせ横並びになるのだ)

2017/05/28

遠隔診療のはじめかた

■保険外併用寮費の報告
 関東信越厚生局のホームページより様式をダウンロード(→リンク
 2通作成し、送付
 1ヶ月以内に1通返送されて来て準備完了
 予約診療料の設定をしない場合は不要

■curon ないしは CLINICS ないしは LINE@ ないしは Skype の準備
 curon(クロン)の問い合わせ先→リンク
 CLINICS の問い合わせ先→リンク
 LINE@の問い合わせ先→リンク
 Skypeの登録→リンク

■LINE@あるいはSkype利用の場合には決済サービスへの申込み
 楽天ペイ→リンク
 coineyペイジ→リンク
 YahooウォレットFastPay→終了
 LINE pay→リンク
 など

■患者との通話端末は脆弱性を持つと考える事
 ネット接続側には患者の医療情報を持たないこと
 遠隔診療をしている医療機関は明らかに攻撃対象になる
 (私がクラッカーならまずクラウド、遠隔診療をしている医療機関を
 攻撃対象とする)
 >USBリンクケーブルを利用して最低限必要な情報をやりとり
 >患者氏名をニックネームで隠蔽
 >ここには書けない仕組みの情報伝達デバイスを用意

■院内に掲示する
 「お薬だけ必要な場合には処方箋を送付・
  薬を送付することが可能です」
 「登録はこちら→QRコード」
 その情報は院外に出さないこと。
 漏れたらコードを変更することも考慮。
 ただし基本的に通話は医師→患者という方向なので、
 普段は着信拒否しておけばよく、
 curonやCLINICSにあるような再診コードなどのシステムは
 必ずしも必要ない。

■送付について
 レターパックプラス・レターパックライト→リンク
 宅急便コンパクト→リンク

■処方箋の期限について
 発行日を含め4日以内に患者が薬局に行くことは困難なので
 期間延長する。

■記録
 スクリーンショットの記録、診療内容の記載

<患者さんへ>
遠隔診療クリニックの選び方
1)予約外診療料はいくらかかるか
 0円か500円か2000円か5000円か
 自分が通院に際してどのくらい時間と交通費を使っているかを
 考慮して、妥当な価格かどうかを考えること。
 遠方の患者が多く混雑する医療機関は
 ある程度高めの値段を設定するはず。
2)curonかCLINICSか、あるいはLINEかSkypeか
 curonは600円~の手数料がさらにかかる。
 スマホとクレジットカードは持っていないといけない
3)院内処方か院外処方か
 院内処方のほうがかなり安いし、
 院外処方は薬局に行かねばならずメリットがほとんどない。
 院内処方を売りにする遠隔診療クリニックは増加する
 はずであるので、それを待つ。
 処方薬に冷蔵品がある場合など、宅配では対応できない場合が
 あります。その場合は必ず院外処方です。
 処方箋薬局の宅配サービスを利用するのも一方です。
4)プラスアルファがあるか
という事で選んでください。

2017/05/20

不要なプロトンポンプ阻害薬(PPI)を使わないアルゴリズム

Deprescribing proton pump inhibitors
Evidence-based clinical practice guideline

Barbara Farrell, Kevin Pottie, Wade Thompson, Taline Boghossian,
Lisa Pizzola, Farah Joy Rashid, Carlos Rojas-Fernandez, Kate Walsh,
Vivian Welch and Paul Moayyedi
Canadian Family Physician May 2017, 63 (5) 354-364;

不要なPPI処方が多いので、やめましょう、という提案です。(繰り返し繰り返し書いていますが)
いつもこういう事言ってると「鵜川医院は薬使わない派ですか?」って聞かれますがむしろ逆。バリッバリの西洋医で「効く薬をガッツリ使う。早期介入命」って答えています。
とりあえず英語のまま掲載します。


2017/04/30

母子感染症(サイトメガロウイルスやトキソプラズマを含めて)

みなさんは口の周りにブツブツが出来て「ヘルペスですね」とお医者さんに言われたり、周りの人に「ヘルペスね」と言われたりしたことはありますか?あなた自身、あるいは周囲の人で「帯状疱疹にかかって痛かった、大変だった」と仰る人を見たりしたことがあるかもしれません。口の周囲のヘルペスも、帯状疱疹も「身体の抵抗力が落ちたからなるのよ」などと言う人を聞いたことがあるのではないでしょうか。たしかにヘルペスはお薬を飲んで一旦改善しても疲れると再発することがありますし、帯状疱疹も何度もかかる人がいます。そもそも帯状疱疹は水痘(みずぼうそう)のウイルスが死なずに生き残っていて再燃することによって起きる病気です。サイトメガロウイルス(CMV)、という聞きなれないウイルスもこうしたヘルペスや帯状疱疹を起こすウイルスと同じヘルペスウイルス科に属するウイルスです。

感染症はなっちゃえば二度とかからないのよ、という話は嘘だ、という事はみなさん理解してほしいと思います。そして初めて感染したときには死んでしまったり永久に後遺症を残すことがあります。したがって感染症はワクチンで予防が出来ればその方が良いのです。ところがヘルペスウイルス科の感染症には有効なワクチンは今のところ水痘(みずぼうそう)しかありません。だからヘルペスウイルス1型2型(HSV-1、HSV-2)、エプスタイン・バール・ウイルス(EBV)、サイトメガロウイルス(CMV)はその感染率の高さも相まってしばしば大きな問題になるのです。

人間はワクチン以外の方法では安全にウイルスや細菌に対する免疫を獲得することは基本的には出来ません。特に問題になるのは妊娠中の女性です。妊娠中に免疫を持っていないウイルスや細菌に感染してしまうと、自分ばかりか胎児にも感染を生じてしまい、死産や早産、赤ちゃんの病気、赤ちゃんに先天的な異常を起こすことがあります。だから妊娠中は気を付けなさいと言われるのです。また周囲の方は妊婦さんにうつさないように気を付ける必要があります。そのような感染症には以下のものがあります。(関連リンク:東京都保健福祉局

厚生労働省のパンフレットによりますと妊婦健診で調べている感染症
 B型肝炎ウイルス
 C型肝炎ウイルス
 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)
 梅毒
 風疹ウイルス(関連リンク:風疹をなくそうの会「hand in hand」
 ヒトT細胞白血病ウイルス-1型(HTLV-1)
 性器クラミジア
 B群溶血性連鎖球菌(GBS)

妊婦健診で調べていないが、母子感染が少なくないと見積もられている感染症は
 ヒトパルボウイルスB19ウイルス感染症:伝染性紅斑、リンゴ病(関連リンク:国立感染症研究所
 サイトメガロウイルス(CMV)(関連リンク:TORCHの会
 トキソプラズマ(関連リンク:TORCHの会
 インフルエンザ
 呼吸器や腸の風邪とされるエンテロウイルス71、コクサッキーウイルスA9、コクサッキーウイルスB3、B4、B6

この他に
 水痘ウイルス
 麻疹ウイルス
 エプスタイン・バール・ウイルス(EBV)
 ヘルペスウイルス(HSV)
 ジカウイルス(関連リンク:国立感染症研究所

などがあります。
それらの感染症はきちんと対策を取ることができますが、一般の内科や産科での指導が行き渡っていない場合もありますから関連リンクを出来れば読んでいただいて、知識としていただければと思います。

うんと端折って書きますと、きちんと手洗いをする、小さな子供との接触に気を付ける、肉はしっかり火を通す(生ハムなどはだめ)、殺菌されていないミルク由来の乳製品に注意、ネコ、ネズミなどの動物との接触に注意、コンドームを使う、打てるワクチンは打つ、検査をしてもらう、なのですが、あなたがおかかりのお医者さんでトキソプラズマやサイトメガロウイルスを検査してもらえない、あるいはどこで検査を受けたら良いのかわからない時には当院に相談してください。

今回の記事は、いわゆるキュレーションサイトの記事の質が低いと考え、自分はどうか、を念頭において書いたものです。(普段書く文章はむしろ少しニッチな内容が多い)内容は他と変わりません。しかし書き方を変えることで少数の人に「ああワクチン大切だな」「いろいろ感染症あるんだな」「それでもわからなかったら信頼できるお医者さんに質問すれば良い」と理解してもらう事を目的としています。

記事を書くにあたり、一旦完全に理解するように努め、古いレビューと最近のレビュー(時代により書き方が異なっている)を読み、押さえておくべき関連リンクをリストアップしました。しかし読者を戸惑わせぬようにするためには最後に「わからなければ私へ質問」という文章を入れざるを得ません。書いてみてわかりましたが、質問を受け付けないキュレーションサイトという存在(多くのマスコミもそうですけれど)には疑問を持たざるを得ませんでした。

2017/04/29

キュレーションメディアの役割はなんだったのか

コンプライアンスに抵触し多くのキュレーションメディアが閉鎖されました。
welqによる粗悪な健康記事に端を発しDeNA関連のキュレーションメディアがすべて閉鎖された報道はお目になった方は多いでしょうけれど、それとは関係ない生活をしておられる方もまた多いでしょう。


インターネット広告を収入源にするビジネスモデルの弊害が直接目に触れた事件として印象的です。粗悪なキュレーション/広告事業はひたすらユーザーにページをめくることを要求するのみです。ユーザーを人間ではなくページをめくる動物だと捉えていると言ってよい。
大手の新聞もやっている事ですが、

 記事を無駄に長くする
 次ページのボタンを押させる
 ソースの意見を捻じ曲げる事を厭わない
 コピー&ペーストを躊躇しない
 広告以外のサイトに直接リンクを張らない


このような特徴を持つ記事が氾濫しています。その原因としてはページの閲覧回数を成果として評価される事、文字当たりの報酬になっていること、スピードが要求される事、ライターの力量がない事、チェックが働かない事、広告以外には絶対に誘導しない意思、などが挙げられます。その背景には、優良なコンテンツがレスポンシブデザインに対応しておらずスマートフォンでは見られない事情があります。(当ブログはレスポンシブデザインですが、アクセスはスマートフォンからのほうが多い)その隙間産業としてキュレーションなるビジネスモデルが生まれたのは当然かもしれません。質は低いのですが。

では逆に、すぐれたキュレーション(ないけど)とはどういうものでしょうか。

 記事は極めて短く、本質を突く(400文字以内)
 直接ソースに飛べる
 ソースのわかりにくい部分を正しく伝える
 完全にライターの頭脳で内容が消化されてから書かれるのでコピペにならない
 ターゲットを完全に意識する*

文字ではないのですが、医療用イラストレーションで有名な医師ネッターさんの仕事が思い出されます。忠実な解剖図ではないのだが、本質を外さず、しかも美麗で、そして何も見ずに書いた、とされています。

優れたライターとして現在評価されているのは発想が豊かな人々であって、それはお笑い芸人とかクリエイターと呼ぶ方が近い。正しい意見は理路整然としすぎていて、あまり人の注目を集めません。メディアはその壁に当たり、収益のためには炎上上等、嘘は必要悪だぐらいに思っている広告代理店の偉い人が多いようですが、彼らの仕事こそAIに置き換えられる可能性を最初に指摘されていたことを忘れてはなりません。

さて医者の仕事は上質なキュレーションの特徴を有しています。小難しい医療を、患者さんひとりひとりにあわせて説明しています。私自身は患者さんすべてに違う言葉で説明をしています。一人の患者さんが理解できるまで3通り5通りの説明の仕方をするのは珍しいことではありません。患者さんそれぞれに響く言葉は違うのです。

優れたコンテンツであっても、例えば小説ならば大ヒットして100万部、日本の人口の1%に満たない人にしか届かないのは人間の多様性を考えるにしょうがないことです。しかし、必ず届いてほしい大切な情報はあるのです。それらを、キュレーションによって100通りの言葉に変化させたらどうでしょう。そうすれば沢山の人々に届くのではないでしょうか。

キュレーションメディアの本来の存在意義はそこにあり、コピペの入る隙はありません。ターゲットを絞りますので炎上させる必要もありません。インターネット広告は水増しなどが横行し、ビジネスモデルの化けの皮が剥がれてきつつあります。その代わりにブロックチェーン技術を利用し「相手にきちんと届いたか」を評価する時代です。読者が少なくても報酬面での問題は大きくないかもしれない。welqはつまづきましたが、有用な情報を、様々な人に、違った表現方法で届ける、そういうメディアが求められている、と思います。

2017/04/03

情報には序列をつけよ

診るのを避けたい、あるいは時間の浪費だ、と思うのだけれど、
患者の中に病態についての質問ではなくて、
「A医師はこういいました、B医師はこういいました、どちらが本当ですか?」という質問をする人がいる。特に混んでいるときは本当にやめてほしい。私の診察と関係ないのだから。

答えは簡単で、主に以下の4通りがある。
1)A医師の言い分もB医師の言い分も論理的に矛盾がなく、その疑問を持つのは間違っている。
2)A、ないしはB医師が正しい。
3)A医師もB医師も間違っている。
4)まだ結論が出ている問題ではない。好ましい方を選べば良い。

AないしはB医師のところに私の名前を入れる人もいてそれは若干礼を失している。過去1ヶ月間どちらの言うことを聞いたのか、例えばA医師の説明通りにした場合には以後A医師にかかるべきである。B医師の説明通りにした場合には以後B医師にかかるのが道理である。B医師にはこう言われたけれどA医師の言うとおりにしてみた。でもなんとなく調子が悪い。つまりB医師の言い分のほうが正しかったらしいけれど、本当に本当にそうなの?と確認する意味で「A医師とB医師とどちらが正しいのでしょう」ともう一度B医師に質問することは愚弄である。

医師に信頼の序列をつけることが患者の選択だと言える。選択したのなら選択したほうにかかるべきである。ドクターショッピングとは次から次へと選択を変更する行為で時には愚かだし、ある程度以上は診療費は自費にすれば良いと思うけれど、一貫しているといえば一貫しているといえる。それを勧めているわけではないが。

そもそもこうして医者の前でのふるまいを間違える人々は、その後フィードバックを繰り返しながら修正するというような本来の医療の姿を見ることなく終わる。残念。

興味深い事も起きる。A医師のところに過去の私、B医師のところに現在の私の名前を入れる人々である。例えば10年前にこう言われた、という話を持ち出してくる。その場合には答えは以下の3つである。
1)A医師の言い分もB医師の言い分も正しく、矛盾はない。(条件が異なる)
2)B医師が正しい。(医療は進歩する)
3)あなたの記憶が間違っている可能性がある。(10年前でもその説明はしなかっただろうと考えられるいくつかの証拠がカルテに残っている)
いずれにせよ、B医師の言い分を選択するのが賢いと言える。

当院には医師が二人いるけれど、他院に比較するとおどろくほどκ比(診療の一致率)は高く、そうした問題が起きにくいが、仮に二人が違う説明をした場合にはどちらの考えを採用するか、の問題は出るだろうとは思われるので、やはり序列をつけるべきである。

医師に何か言われた後にナースや薬剤師に何かを言われたと言って情報を上書きする人々がおられる。そしてナースに確認してみると、そのような事は言っていないと言う。残念ながら記憶違いなのである。カルテに6ヶ月後来院すべき、と書いてあるのに来院しない人々の殆どは情報の序列の付け方に混乱が見られる人々であり、前述の人々と問題の根は同じであるように思う。

情報をすべて公平に扱って正しい答えが導き出せるのは我々のような訓練されたプロであり、みなさんには無理だ。みなさんは誰の情報を優先すべきか、をまず考えれば、医療上の不利益を被りにくい。

2017/03/20

高瀬舟における3つめのテーマについて

青空文庫で森鴎外の小説「高瀬舟」を読むことが出来る。→リンク

時は寛政、つまり1789年〜1801年。明治天皇の曽祖父にあたる光格天皇の御代という舞台設定である。遠島を申し付けられた罪人を京都から大阪まで運ぶ高瀬舟で、同心羽田庄兵衞は弟殺しの罪人という喜助という男の不思議な佇まいに引き寄せられる。肉親殺しの罪人のはずだが、どういうわけか涼やかで晴れやかに見える。不思議さに堪えきれなくなった庄兵衛はとうとう聞く

「喜助。お前何を思つてゐるのか。」

将軍は11代家斉。15歳だった家斉に代わり治世を行ったのが老中首座、白河楽翁候。白河藩主で名君の誉れ高く11代将軍候補であったとも言う8代将軍吉宗の孫松平定信であり、天明の大飢饉で傾いた財政を立て直す目的で、祖父吉宗の享保の改革にならい寛政の改革を行っている。松平定信は碩学(せきがく:ものしりな人)で朱子学(儒学)を重視した人。真面目すぎるが故に尊号一件事件など、明治維新につながる幕府と朝廷との軋轢の原因を作ってしまった人物でもある。

天明とは寛政の前の年号。寛政になる前年1788年には京都で歴史上最大の天明の大火が起きており御所を含めて広い範囲が消失している。主人公である喜助の職場があった西陣(御所の西側)も焼失したはずであり、むろん再建はされたとは思うけれども近くには住む場所はなかったと思う。北山は焼失していなかったはずであるから、兄弟で北山に住み、その辺りから通う、という設定は現実的である。高瀬舟にはそういう時代背景がある事を知っておくと良い。

この話の元は「翁草」にある「流人の話」であるとされているが、このような細かい背景の設定はない。当然これには作者の意図があると考えるべきだ。解説は森鴎外本人が「高瀬舟縁起」として書いている。

高瀬舟には2つのテーマ、「足るを知る」と「安楽死」とがあるとされている。

足るを知るという点について:日英同盟を背景にして1914年にヨーロッパで第一次世界大戦が起きた機会に乗じて日本が中国に攻め入り1915年、21ヵ条の要求をした事に対しての政府批判である、という解釈があるそうだ。さて足るを知る、という概念は当時一般化していたのであろうか。森鴎外がドイツ留学した時期(1884〜1888年)は、ヨーロッパにおいて「際限ない成長と進歩」という価値観への疑問が沸き起こった時期と重なりあう。ニーチェが活躍したのもその時期で、彼の著作を読んだのかなあなどと思うと感慨深いものがある。(生田長江がニーチェの翻訳をする際に鴎外に教えを請うた、とある)従って森鴎外がこの思考に至ったことは自然であると言える。

安楽死について:森鴎外が高瀬舟縁起で言うところのユウタナジイ Euthanasie は安楽死の事で、当時は安楽死という言葉がまだなかったものと考えるけれど、ギリシャでは戦争において相手を苦しませぬために素早く殺すというような意味合いであったという。現代の安楽死という意味では、フランシス・ベーコンが17世紀に記述したのが最初だとされている。ヨーロッパで研鑽を積んだ森鴎外が「流人の話」を読んだ時、彼はユウタナジイを想起し死が多様であることを示そうと思っただろう。安楽死、という概念を知らなかった人々は多かったことが想像されるので、それはそれで意味あることである。

これらが良く言われる高瀬舟の解釈である。しかしそれだけであろうか、と思った。

森鴎外は知識ある人には「寛政の京都」という時代設定だけで喜助の過去に何があったのか、を想起させる人である。これほどの天才であるから、この短い小説の中に「知足」「安楽死」だけでなく「尊属殺人」に関しても何らかの問題提起があったと考えるべきではなかろうか、と思う。というのも、高瀬舟が発表された1916年から遡って8年前、1908年に明治刑法が制定されているのだが、明治刑法には殺人の他に尊属殺人の項が設けられ重い刑罰が科せられる事となったのである。その刑法の思想背景には朱子学があるとされ、森鴎外の言うオオトリテ(オーソリティー:権威)はそれを指すのではないか。(彼自身が脚気論争で権威の罠に嵌り害悪な存在となっていた事はご存知の通りで、大きなブーメランではある)

主人公の喜助の罪は尊属殺に相当する。当時の日本で新しく制定された法律によって尊属殺は問答無用で重罪、とすることに対して疑問を呈したのではないか、批判を込めたのではないかとも思える。朱子学を背景にしていた寛政の世と同じく朱子学を背景にする明治刑法とを結び付けぬわけにはいかないのである。

この尊属殺人に関して違憲判決が出るのは実に1973年であり、一定の結論が出るまでに65年もの時間がかかった。安楽死に関してはまだ日本では十分な議論がなされているとは言いがたい。高瀬舟は青空文庫で読めるようになったが、天才の問題提起の有効期限は死後50年を経てもまだ切れていない。

2017/03/02

続・医者に「精神的なものだ」と言われたら

医師側に要因がないかどうかを考える。

・自分の専門分野について異常がない、という説明は見落としが起こっていることがわからないので無意味。
ー鑑別診断を挙げ、それらをこういう根拠で否定した、という説明が非常に丁寧。
ー医師の質は均質ではない事を意識しておくこと。説明の記録が重要。
 (記憶は全く役に立たない)
・途中で症状経過を整理してくれる医師に出会えると幸せ。
ー状況を混乱させないためには、きちんとした記録が必要であるため。
 (そうした労をいとわない医師を大切に思うこと) 
・診療情報提供書が極めて重要で、中身のある情報のやり取りがあればなお良い。
ードクターショッピングを途中で止めてくれる意志のある先生に出会う事が大切。

今まで見た患者さんの病歴を振り返ると、必ずその中に一人以上親切な先生がおられるのだが患者が素通りしているケースが多いです。診断が滞った時に、その医師の元に戻ったら知恵がいただけるのではないか。

患者側に要因がないかどうかを考える。

医師が精神疾患に伴うものだ、と考えがちなケースは以下の通り。
・多彩な症状を訴え、要領を得ない
・症状が一貫しない、ないしは一貫していないと誤解されるような言い回し
・医師の治療になんら反応しない(全くフィードバックがない、「全然」というような言い回しを使う)
・気分が不安定でコミュニケーションが取りにくい
・偏った考えを持つ(難病不安、精神疾患を絶対に否定)

善意の第三者が必要なケースが多くあります。公平で理知的な家族や友人がいると良い。また、人間の記憶は実に曖昧で、しかも記憶の書き換えすら生じますので、「自分は今困難な状況にいる」と思ったらその時点から日記をつけるべきです。

精神科は終点ではないし、しかも一つではない。

たとえば病状が長引くと精神症状が出てくるスプルーのような病気もありますし、医師に言われた一言で傷ついてPTSDのような症状になっている人、消耗して睡眠障害や気分障害が認められるような人もいます。それがますます症状を複雑にすることがあります。
したがって、精神科に相談することで改善することは多くあります。その症状が精神疾患に伴うものであれ、そうでない場合であれ、精神科を受診することで恩恵を受けることがありますから患者自身がその可能性を否定してはいけません。
良く患者が言う言葉に「薬があわなかった」というものがありますが、それはどんな病気でもあり得ることで、薬に対する反応で病態を医師が把握しようとしてくれますから通院を一回でやめるのはもったいない。別の医師によるアプローチで軽快する場合もあります。

まとめ:気が急いてしょうがない精神状態は状況を悪化させてしまう。

不安や焦りは病気の診断にはノイズになってしまいます。
こういう状況に陥ってしまった方を見ていると、周囲で静かに支えてくれる方が多くはなく、不安を煽る一言を本人に言うような寄り添いの態度に欠ける方々の存在を感じます。インターネットにも不安を増幅させる言葉やネガティブな感情、根拠なく安心させようとする言葉が並んでいます。少なくとも不安を与えるものとは少し距離を取るほうが良いでしょう。

2017/02/23

医者に「精神的なものだ」と言われたら

これはもう哲学の問題ですが、私は脳を含めた人間の機能はすべてシミュレーション出来ると考えている医者なので、「精神的な」という言葉を使って病態を患者に説明することを避けていると思います。鵜川にそう説明を受けたよ、という患者さんがおられたらすみません。説明が難しすぎて理解できない患者が「結局精神的なものですか?」と仰って、それに対して「みたいなものです」と説明したことはあったと思います。

でも世の中ではこの言葉はよく使われるようです。では医者はどういう時に「精神的な」という言葉を使って患者に説明したがるのかを考えてみます。

1)時間短縮のため
多彩な症状の一つ一つを一元的に説明することは天才であってもなかなか難しい事であり、ましてやそれを医学知識のない患者に理解してもらうのは大変です。詳しく説明することは自分の知識不足を露呈してしまう可能性もあり、したがって「精神的なものです」という言葉を使います。いずれは治る、と確信している場合に使ってみたり、医師によっては濫用しているケースもあるように思います。

2)精神疾患に随伴する症状である
例えばうつ病に胸焼けを伴う患者は多く、またうつ病の薬の副作用にも胸焼けがあり、原因だ結果だと決めつけられないため取扱いはデリケートでなければなりませんが、精神疾患に随伴する症状である可能性を考えるときはあります。その解決は患者自身には難しいのではないでしょうか。したがって精神疾患に伴う症状である可能性を説明してその専門家の先生に紹介する事をします。ただし患者がそれに心理的抵抗を示す場合はあり、診療は簡単ではありません。日本における特異なハードルであり、精神科に対する強い偏見は逆に日本の医療の進歩を阻害している印象です。今後取り組むべき課題。

3)その医師の理解を超えている
何が患者におきているのか医師自身が理解ができないが、今までの経験から放っておいても悪化はしないと予測し、多彩な症状を患者が訴える場合にその言葉を使う医師がいると思います。1)と見分けがつきにくいため、患者が戸惑います。

4)その言葉を治療の代わりに使う
世の中には「気のせいだ」と言われるだけで症状が無くなる人が多くいるのは事実なので、その例に習って精神的なものだ、という声をかけて治るかどうか見守っている、という医師はいるような気がします。

5)患者自身の誤解
そういう言葉を使って説明されていないのに、説明が理解できないときに患者が「精神的なもの」と思い込んでいる場合があります。

さて、以上をふまえて、どのように患者は振る舞えば良いのでしょうか。
ここまで書いたら少し疲れましたので、続きはまたあとで書きます。
こんな内容で。

医者が使う「精神的なもの」という言葉が「別れの言葉」のような印象を持たれてしまうと良くない。
患者は「精神的なもの」と言われた時に一人で悩まないための手段を身に着けましょう。その手段にはこんなことがある、という内容。

2017/02/03

私の医療情報収集方法

お薬の情報はここから収集します。

Pmda 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構

薬品名+pmdaで検索しています。?view=みたいな邪魔な文字が出てきたら削除する、というような技が自然に出来るようになったら一人前です。interq.or.jpの情報はノイズです。いちいち「医療従事者か?」と確認が出て来るサイトにはアクセスはしません。

ここの添付文書+インタビューフォームを読むのが基本です。
大規模臨床試験はLancetあたりをフォローすれば良いので、薬品名+Lancetでいけます。


さらに詳しく見たい時にはKEGG MEDICUSです。

KEGGはP450情報、添加物情報が詳しく、唯一無二のデータベースです。貴重。


特許情報はチェックします。薬品名でチェックしておけば良いです。時々製薬会社名でチェックもいれます。

商標登録データベースは、新しいお薬の名前を当てるゲームをするときに使えたりします。

治験の第Ⅲ相試験はデータベースがあるのでざっとチェックします。治験が進んでなくてやばいな、、、みたいな事はわかります。

アメリカのFDAの情報は見ます。日本と異なり厳しい目に晒される国ですので、新しい副作用情報はFDAが早かったりします。また、日本やヨーロッパでは売っているのにFDAの治験を通していない薬剤については「どうしてだろう?」と考えることにしています。基本的にFDAはアメリカの国益を重視する、という視点は持っておくようにしています。

いくら売れるか、は考えます。売れても50億円、という薬だったら有望であっても治験はしてくれないだろうな、と思考したりです。公知申請するにはどうしたら良いだろう、と考えたりもします。


とある新薬の使い心地はどうだろう、という時には医師が書いたブログを検索したりします。いろいろな説明会の内容が書いてあったりします。


こうした情報の収集によって、少しエッジの効いた解釈が出来るようになります。わざとリンクは張りませんでした。