2017/08/05

何をしているか、ではなく、何をしていないか、が見たい。

「検診の結果はお持ちになりましたか?」
「ありません、が、すべて正常です」
「その答えでは意味がないです」

日常の光景です。

診断がなかなかつかない、と受診してくる患者では、誤診よりはむしろ前医が「考えなかった」「除外しなかった」病気を考えるし、検診やドックでは「その検診が見なかった部分」に異常があることのほうが検診で引っかかった部分を精査するよりはるかに多く病気を見つけられる。

例を挙げれば人間ドックで胃の異常、と言われて来院された患者さんの結果を拝見すると、むしろ抜けている検査として乳腺、子宮が重要であったりする。

毎年胃の検診を受けているとして癌が見つかる可能性は最大で0.3%程度と見込まれる。検診で異常とされて胃癌が見つかる確率は多く見積もっても1%以下である。
しかし例えば乳腺の検査を全く受けていないとすれば、60歳時点で乳がんが見つかる確率はそれを遥かに超える。(生涯で11人に1人と言われるから)
リスクを考慮しない場合でさえ当院ではコンスタントに0.2%の割合で乳がんは見つかり、大腸がんよりは少ないが胃癌(除菌後は0.1%以下)より遥かに多いので、胃の検査をしてほしいと来院する人全員の乳腺を見ていればそちらのほうが打率が良いという事になる。エコーが得意で良かったと思う。

このように、異常だと言われた部分ではなく、検診やドックの盲点に異常がある確率が高い場合にはそこを精査したほうが疾患が見つかる期待値が高い。むやみやたらに検査をするのではない、非常に医療費を安く効率よく癌を見つけていると自負がある我々の秘密は「患者が持つ脆弱性探し」である。だから人間ドックや検診の結果を持ってくるように言うのだ。

何をしているか、ではなく、何をしていないか、を見たいから。

我々のお節介のせいで突然患者さんの運命が突然変わる可能性があるがゆえに、予め患者がショックを受けぬようにする必要はある。

乳がんや子宮がんの検診がドックや検診に含まれていなかった場合、「どうしてそれらが受けられなかったか?」という理由を聞いたりすると時間がなくて一斉に行われる検診にのみ頼っていることや、途中で転居などがあって、検診の受け方がわからない場合が多いので、「では今年からはきちんとした検診の受け方をお教えしましょうね」などと検査の前に話しておくと良いだろう。

すると偶然癌が見つかった場合に「たまたま今回見つかってしまいましたので方針を変更して、信頼出来る先生をご紹介します」と説明してしまえばなんとなく患者さんは、少なくともその場では後悔する暇がないように思われる。

日本はプライマリ・ケア後進国なのでこのようなやり方は非常に有効である。

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