2011/02/26

めまいがする、という人に「メガネのせいです。はずしましょう」と言った。そのわけは・・・

スーパーに行くとめまい(回転性らしい)がしやすいという患者さんがおられた。

「そのメガネは遠近両用ですね」

「はい」

「近眼ではなく、もともとは目が良い方ですね」

「はい」

「では遠くは見えますね」

「はい」

「ならば、スーパーではメガネをはずしてください。それでめまいはしません」

と、私は言った。

もともと目がいい人は、実に眼球をよく動かす事を私は知っている。

例えばスーパーの棚、私の場合上から下まで、右から左まで、すべて見る。

メガネをかけても同じ調子で見てしまう。

ただし首を回してだ。今までは首は動かさずに眼だけで見えていたのに・・・。

これが目が回る原因なのだ!

と、患者さんに主張したら「ほ~」と言われました。



これは最近老眼になった私が実際今感じていることで、

今まで実に良く眼球を動かしていたのが老眼鏡で制限され、とても嫌な気持ちだし、

首の上下動が激しくてとても痛い。

料理の鉄人の坂井シェフでおなじみトンボ眼鏡を探しているのだけれど、見つからない!

残念。



閑話休題



レーシックという手術、というかあれは手術?良くわからないが、かなり普及していると聞く。

さて、おそらくレーシックをしても、もともと近眼の人ばかりだからきっと存分に限界まで眼球を動かす事はするまい。

それはとても人生損である。

レーシックの手術をして、しっぱなしのお医者さんがいたならば、そのお医者さんはたぶん想像力が足りない。

手術をしたら、眼球をはじからはじまで動かせるという事が、とても人生を楽しくする。

レーシックをしてもすぐ老眼になってしまう。よく見えるのは10年?20年?

せっかくだから最大270度の視野を楽しんで欲しいと思う。

2011/02/25

胃アニサキス症に関する簡単なまとめ

1978年から当院院長が収集しているデータがすごい(159例を詳細に検討している)ので、論文書きましょうと勧めておりますが。

①胃がしめつけられるように痛くなるのが典型的。他には嘔気、じんましん、寒気など。ヒスタミン遊離にともなう症状です。
②エコーの感度・特異度共に簡単に90%は超えるはずです、計算していないけど。「胃角周辺の胃壁が7mm超」これで診断して下さい。主に粘膜層の肥厚です。胃のどこにアニサキスが食いつこうが浮腫は起こるんです。
③H1ブロッカーとH2ブロッカーの合わせ技で痛みは取れます。確定診断のために内視鏡はなるべくします。「虫体を取れば痛みは取れるから」と説明するのは間違いです。きちんとヒスタミンの症状を取ってあげないと患者さんはかわいそうです。

10.5mmに肥厚しております。この肥厚が、意外と内視鏡では目立たない、というのが味噌です。

あんまり浮腫に見えないと思いますが、浮腫んでるんです。一見して除菌後だとわかります
いや、わかるようにトレーニングして下さいね。

いましたね・・・噴門も意外と多いですね

ちょっとわかりやすくNBIで

反転では取りにくく、しょうがないから上から取りました

実際は小さい虫です

胃壁が7mm以上と書きました。当院ではアニサキス症とほぼ同数、ある病気があります。それはAGMLです。それから見逃してはならない病気があります。癌です。(10%ぐらい)いずれにせよ、内視鏡の適応です。萎縮のないきれいな胃の収縮の瞬間を7mm!と診断するのはちょっと張り切りすぎです。

2011/02/24

NASHに関する一考察

3年前にNASH(Non-alcoholic steatohepatitis 非アルコール性脂肪性肝炎)とIRHIOという概念に関して私は遠慮がちに書いています

でも未だに盛り上がらないのでもう一度書くことにしました。IRHIOについてはかなりまだ注目しており、鉄イオンを中心に持つ酵素類がインスリン抵抗性に関わる炎症には非常に深く関わっていると確信をしています。

Alimentary Pharmacology & Therapeutics. 2010;32(10):1211-1221.

に、あたらしい論文が出ているのですが、これはメタアナリシスによる論文です。

糖尿病を伴うNASHではピオグリタゾン(商品名アクトス)は脂肪化を改善したが炎症、線維化までは改善しなかった。糖尿病を伴わないNASHでは炎症、線維化も改善した。一方メトホルミンでは改善しなかった。

これが結論です。わからない方に書いておくと、NASHでは糖尿病が合併することがあります。病因は同じインスリン抵抗性ですから。

20年前に大学院で勉強していた頃、腸間膜脂肪細胞が産生するサイトカインであるTNFαがインスリン抵抗性の原因である、と信じて研究していました。おそらくこの仮説は(TNFαの部分はもう少し複雑かもしれないけれど)間違っておらず、現在でも光を失いません。腸間膜脂肪細胞で産生されるサイトカインは直接門脈経由で肝臓に到達し効果を発揮します。今、内臓脂肪というと腎臓周囲の脂肪も含めて表示しているようですが、腎臓周囲の脂肪から出たサイトカインはそのまま下大静脈に入り肝臓は通りません。従ってこの脂肪がどう振舞おうと肝臓には影響しないという意味で、内臓脂肪と呼ぶのは間違っているということを重ねて主張しておこうと思います。

今ではこれだけでなく、腸内細菌刺激や炎症に伴いリンパ球が産生するサイトカインもまた、インスリン抵抗性を惹起すると思うようになりました。例えばIBD(炎症性腸疾患)や小腸憩室に伴う脂肪肝はこれにより説明が可能なのです。

インスリン抵抗性と癌とは間接的に関連もするはずですが、これは今は述べません。ただ、インスリンは一種の成長因子であり、インスリン抵抗性に伴う過剰なインスリン産生は、成長ホルモンや女性ホルモンと同様に癌の成長を促しても矛盾はしないのです。免疫系の抑制も生じ、これも癌の生成に関与するはずなのです。

このインスリン抵抗性に関与する因子として、もともと持っている遺伝子、腸間膜脂肪、腸内細菌や炎症、鉄の過剰(および鉄と拮抗的に働く亜鉛やセレンの不足)などが挙げられるでしょう。

インスリン抵抗性を改善させるピオグリタゾンが、メタアナリシスにおいても著明にNASHの炎症を抑制したのは朗報です。グリタゾンはPPAR-γに結合して脂肪細胞へ脂肪酸を蓄積させることによって肝細胞での脂肪酸蓄積を減少させ、インスリン抵抗性を改善させると上記リンクに書いてありました。だから太りやすいのか・・・と納得。しかしNAFLD(いわゆる脂肪肝)とNASHとの鑑別は組織診断によるしかありません。あまりにも患者数が多いため、それが出来ない、どうしたらもう少し非侵襲的な検査で組織検査をするべき人を絞り込めるだろうか、というのが今後の課題です。線維化が起きてからのマーカーは良く研究されているのですが、それでは少し遅すぎる気がします。

もっと勉強したい人は、
あたりを見てください。

話は飛びます。色々考えることはあるのですが省略。
NASHやNAFLDに対する私の基本戦略は、

1)家族歴の把握
2)HOMA-R(インスリン抵抗性の指標:=IRI(早朝空腹時血中インスリン濃度)×FBS(早朝空腹時血糖)× 1/405。 1.6以下で正常、2.5以上で抵抗性あり)やフェリチンなどの把握。鉄制限を含めた食事療法
3)ウイルス性肝炎、自己免疫性肝炎の除外。AST/ALTがかなり高いときには肝生検依頼~専門医へバトンタッチ。
4)運動運動運動(汗で鉄は分泌され血中鉄が下がり、運動でインスリン抵抗性は改善する)
5)定期的なフォロー
6)限定的にピオグリタゾンの少量投与(7.5mgで効果がある場合も)
7)勝手にサプリメントを使わせず、医師が管理する。EPAやビタミンE、亜鉛は許可。他は不許可。

太っているのは問題外です。やせていてもなお、脂肪肝の中に肝臓癌を見つけるのは困難。ましてや太っていては・・・全く太刀打ち出来ません。
ではとにかく痩せればいいのでしょうか。
ところが急激なダイエットは脂肪肝を誘発します。

難しすぎますね。

ダイエットもまた医師(あるいは賢い人)の管理下で行われるべきです。誰が賢いかわからない?いつも悩んでいる人が賢いんです。悩んで悩んで・・・でも、「現状ではベスト」という選択が出来る人が、賢い人です。そういう人が周囲に一人でもいれば頼ると良いでしょう。

2011/02/21

ダーゼン ®自主回収

武田製薬のダーゼン ®(一般名:セラペプダーゼ)が自主回収になりました。

去痰作用があるのは事実なので、今後の展開を考えると興味深いです。

少し想像してみました。

現在、単独で去痰作用のあるOTCはクールワン去痰カプセル(杏林製薬のムコダインのOTC)とストナ去痰カプセル(杏林製薬→サトウ製薬へのOEM)のみです。

そもそも必要もないのに患者さんが風邪で医者を受診するのは、医者がきらいな抗ヒスタミン薬を含んだ合剤がOTCの風邪薬では大勢を占めていて、おかげで緑内障で使えないとか、中枢神経系に作用するから使えないとか、便秘するから使えないとか、ますます痰が出なくて肺炎になるとか、そういう合理的な理由があります。要するに市販の風邪薬がダメダメなんです。

風邪の治療はちゃんと基本に戻って、暖かくして寝るとか、水分をとるとか、去痰剤をメインにするとかすれば、誰でも医者にかからなくて良いはずです。肺炎にさえしなければ、基本的に風邪は治るんですから。

ダーゼンが、かつてのノイキノン ®が辿った道を歩むなら、

注:ノイキノンは、CoエンザイムQ10として現在は健康食品のひとつのように扱われている強心剤。現在、欧米ではスタチン(コレステロールを下げる薬)使用時に生じる筋肉の違和感、痛みなどに対して効果があるとして再評価されています。私も実際にスタチン使用中の方に勧めますが非常に効果があるとのこと。

ダーゼンは健康食品になり、あまり普及しないクールワン去痰カプセルのかわりに風邪や、前立腺炎や副鼻腔炎や打撲などに気軽に使われるようになるかもしれない。

そうしたら、風邪で無駄に医院を受診する患者さんは減るかも知れません。基礎疾患があるからとかいう理由で、風邪でも医院を受診する患者さんにも使えるだろう風邪薬が薬局に行けば買えるのですから。

と、考えれば悪くないかも知れない。

それに、日本の健康食品業界はCoエンザイムQ10同様、ダーゼンにすごい効能効果を付加してくれるかも知れない。

例えば、ダーゼンに美白効果とかね。

ああそうだ、効能が不明なんですね。これは簡単です。

ムコ多糖体を分解する酵素である。通常分泌されたムコ多糖体は膠質浸透圧を持ちます。従って、ムコ多糖類を溶かすと膠質浸透圧が低下して理論的にはその部位の浮腫は軽減は可能。しかし漏出性の浮腫の場合かなりのタンパク質がありますので、それについては難しいかも。逆に甲状腺機能低下症の浮腫には効いたはずです。(すでに過去形)

PPIに関するメモ

①PPIの適応があるのは、原則としてピロリ菌がすでにいない胃だと思っている。
②萎縮がOpenだったら、PPIよりH2RAを選ぶ選択肢だってある。NSAIDS潰瘍の予防にPPIが良いというのはわかっているが、萎縮の有無によって母集団を分けなかったStudyにはがっかり。
③萎縮があるのにPPI使ったら、胃酸を止めすぎるので、カルシウムや鉄吸収が悪くなって骨粗鬆症は進むし、胃内で細菌が繁殖してしまってC.difficileなんか検出されるようになってくる。そんな状態に患者さんをしたくない。
③’最近知ったんだけど、脂肪肝の原因には「小腸憩室」がある。これは小腸内で腸内細菌が異常繁殖し、それによって炎症が生じて放出されたサイトカインが・・・小腸などのリンパ球はちょっと変わっていて、そのサイトカインがインスリン抵抗性を惹起する・・・脂肪肝を誘発するんじゃないかと自分は解釈している。となるとなんだ、PPIで胃酸を完璧に止めちまったら、細菌繁殖が小腸で生じ脂肪肝~ひいては動脈硬化が生じてしまう可能性もあるんじゃないか。直接関係ないけど胃潰瘍、HP陽性で心血管イベントが多いのも貧血や痛みによる刺激だけじゃなくサイトカインがらみもあるのだろうと、自分は思ってる。
④胃酸を止めたときの腸管ホルモンの変化は、研究されていない。ガストリンは上昇するが、ガストリンだってtumorgenicに働く場合があるかもしれない。胃底腺ポリープでβカテニン異常があるものなんかどうなの。
⑤だいたい、胸焼け症状って、胃酸だけじゃないだろう?自分が注目しているのは膵液、あとは食道の痙攣だ。(胆汁は注目していない)PPIが膵液分泌も止めるって?じゃあ、膵液止めると影響はどうなの?
⑥これだけたくさん患者さんを診ていながら、PPI長期投与をしている患者さんがそんなに増えない事実。(割と生活指導とか、病態の理解を重視)ていうか、上記を踏まえて、PPIの適正使用とは、をずっと考えているわけだけれど。
⑦pH測定が面倒くさすぎるのは良くない。機器は高くて壊れやすいし、保険点数は安すぎる。これじゃあ適正使用の前に、とりあえずPPIがじゃんじゃん使われちゃう。
⑧内視鏡を見たときに、きれいなべたつき感(慣れないと判定は無理だろうけど自分はなんとなくわかる)があったらそれはpHが相当高いと思う。そういう場合はPPIは良く効いているから、それで症状が取れないときには別の理由を考えるべき。PPIは増量すべきじゃない。硝子状の膜があったりしたら、それは完全に雑菌が繁殖しているから、PPIは減量すべきじゃないかと判断する場合もある。
⑨一方、物理的に逆流がコントロール出来ないECJのSMT手術後とか、強烈なhiatus herniaで、薬物によるコントロールをしようとするのは③の理由で限界があるのではないか。外科的な、あるいは内視鏡的な治療は今後もっと普及すべきなのじゃないか。
⑩一方、きちんとPPIを飲まないと炎症がひどくて、という食道があるのは事実だ。極めて有用な事が理解できるだけに、今の使われ方が残念なだけかも知れない。一種の嫉妬か。

一例一例丁寧に適応を決め、悩みながら量を決めていく自分のスタイルは全く現代にそぐわないことはわかっているけれど、勘で決めているわけでもない。

2011/02/16

あなたの足がつるのはなぜか

寒いと足がつるのはなぜか

どうして足がつるのか

足がつりやすい人

という三つのエントリーを書きました。



どうせならもう一つ書いておこうと筆をとりました。

どうしてあなたの足がつるのでしょう。



患者さんが足をつったと仰ったときに、

それがお年寄りで、例えばみかん農家で、ちょうど収穫時期だったりしますと私は、

にっこりと笑って、そしてねぎらう口調で、

「足を使いすぎたんでしょうねえ」

と申します。


長谷部選手だって、アジアカップの準決勝で120分走ったあとはつるんです。

がんばった証として、足がつるんです。

がんばった人には、芍薬甘草湯。なんちゃって。

寒いと足がつるのはなぜか



「足がつる」と仰る患者さんに、面倒なときには、「寒いからですよ」というと、

「なるほどね」と納得なさる。

おいおい、そこで納得しちゃいけないんですよ、と思いながらも、納得して下さり有り難い、と思っております。



どうして寒いとつるのでしょうか、と聞くと、「血の流れが悪くなる」と仰る。

本当にテレビの力は恐ろしいですね。発想が単純すぎます。

こんな説明も前にしたことがある。 鵜川医院ブログ: どうして足がつるのか

あるいはこんな記事。鵜川医院ブログ: 足がつりやすい人



でも、こういう発想が出来ないかと、思います。

寒い日に寝ていますと、何度も何度も伸びをすることに気づきませんか?

寒い日にはどうしても体動が少なくなり、身体を丸めて寝ているために、時々身体を伸ばさざるを得ないらしい、と私は思います。



足がつるのは、伸びをするときですね?

一回の伸びよりも、数回伸びを繰り返す方が、足がつるチャンスは大きくなるでしょう。

したがって、寒い日はつりやすくなる、という発想も出来るんじゃないでしょうか。

(だったら例えばふとんを大きくしたら?とかいう発想も出来ますよね。人生が面白くなる)



むろん、私の「寒いからですよ」の一言で

「あ~なるほどな」と言ってくださるのは、外来でのお話の時間を短縮してくださろうとする

みなさんの優しさ

なのでしょう。ありがたい事です。



でも、本当に「血の循環が良くない」だけで納得しているのだとしたら、それは良くない。

そういう単純な考え方をしていますと、

ご友人から「血の巡りが良くなるわよ」とサプリメントを勧められると、

「ああそうか」と買ってしまいかねません。



ただ、「血の巡りが悪いから」というワン・フレーズは、世の中の外来で浪費される時間を、

累計何億時間も節約した可能性はあるので、一概にテレビを責めることは出来ません。

2011/02/13

萎縮とPPI

プロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor: PPI)という薬があります。オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾール、エソメプラゾールと言った薬です。

プロトンというのは水素のイオン(H+)の事で、胃酸(胃酸は塩酸HClなのでH+とCl-から構成される)そのものを示していると言っても良いです。それが分泌されるポンプを阻害する薬ですから、胃酸分泌を直接抑制する薬と解釈してください。それで正解です。

胃で胃酸を分泌する細胞は、胃底腺に分泌する壁細胞というものです。ピロリ菌が感染するなどして炎症が起きる(ほとんどはピロリ菌が原因ですが、他の原因もあるにはある)と胃底腺は徐々に破壊され、「萎縮」という状態になります。萎縮した粘膜からは胃酸はほとんど出ません。この萎縮は木村・竹本分類という方法で非常にうまく表され、当院ではC-0、C-1、C-2、C-3、O-1、O-2、O-3と、7段階に分けています。

C-3以下は胃酸が良く分泌され、O-1以上は胃酸の分泌は落ち始め、O-3になるとほとんど胃酸は出ないと思って下さい。それで間違いはありません。

また、内視鏡ではピロリ菌の有無がわかるのですが、除菌後ですと萎縮がある程度あっても胃酸分泌は復活してきます。除菌後のO-1では除菌前のC-3よりも胃酸分泌は多いかも知れません。ガストリンの量の差なのかも知れません。

以上の話は、アルコールや、H2RA、PPIなどの影響を考慮しておりません。慣れてくると胃を見ただけでこの人はアルコールを飲む、H2RAやPPIを飲んでいるというのがわかるようになる、などというとまた妄想医者の戯言と言われるのでやめます。

PPIという薬が広く使われるようになって一番違和感を感じるのが、萎縮があるのにPPIを処方されている患者さんが多いことです。胃酸分泌が多くないのに、なぜさらに胃酸分泌を抑制するのか。むろん除菌後のO-1でPPIを出すとか、アルコール多飲、タバコ++のO-2患者さんで食道炎がひどくてやむを得ず(本当にやむを得ず)PPIを処方している例は私にも数例あるのですが、通常萎縮がある場合にはPPIは適応はないと考えています。

(NSAID潰瘍の予防目的で、萎縮があるときにPPIを使う場合があるじゃないかというツッコミはさておき=したがって「通常」という言葉を使いました。腎障害(ならばH2RAよりもPPIが使いやすい)、肝障害(があるならばPPIは使いにくい)の程度を含めて、総合的に判断してどういう投薬にするか決定しています)

PPIを使っていて明らかに違和感を感じるのが、内視鏡をしたときにその粘膜が汚くなっていることです。それはPPIが効きすぎています。胃酸を抑制しすぎると、胃内にはピロリ菌以外の細菌まで繁殖してくるのかもしれません。C. difficileが検出されるというのが欧米では論文になっているのですが、それは恐らく萎縮があるのにPPIを使用しているのではないかと想像してしまいます。一方PPIを使っていても粘膜がきれいでサラリとしているときは適正に胃酸がコントロールできていると判断します。

胃酸を抑制しすぎるとカルシウムや鉄は吸収できずに栄養障害の原因となります。
ビスフォスフォネートで胸焼けが出たからPPIなどという処方を拝見すると、骨粗鬆症の治療をしつつ、骨粗鬆症の原因を作ってしまっているなあと、ちょっと複雑な思いを抱きます。

木村分類を内視鏡時に記述する医師は稀ですが、重要なので普及して欲しいと考えています。

木村分類は自分はどうなのだろう?と思ったあなたは検診で測定してもらえるペプシノーゲン値を大切に記録しておいてください。ある程度の相関関係にあります。保険診療ではペプシノーゲン値は測定できません。

2011/02/11

わからないときの思考法

昨日、若い先生に聞かれたので答えたことをメモ

<お題> 腹痛の原因がわからない
~相当の激痛ですでに3ヶ月以上経過 左側腹部だそうだ~

<答え>
1)いちおう他院の結果は尊重する。しかし完全に信用もせずに、振り出しに戻る気構えも必要。
2)どんな病気だろうと考えるアプローチも必要だが、教科書を漁っても答えはでない場合があるので、どんなモダリティをまだ使っていないだろうか、という考え方をすべき。しかも相手が妊娠年齢ならば放射線を使うのは最後にしつつ。
3)試験的な投薬を行っていくというアプローチがある。
4)患者さんに常に寄り添うこと。診る間隔をあけすぎると患者さんが先に音を上げる。わからない腹痛などそれほど多くはないのだから、全力でリソースを使うこと。態度や覚悟は顔にあらわれるから心すべき。
5)色々な人に意見を聞くのは正解。抱え込まないこと。




最初の質問は、「先生、腹痛で珍しい病気って言えばどんなのがありますか」だった。

ポルフィリン症だとかそういう教科書的な答えを最初はしたのだけれど、診断に難渋していそうだったので上のような答えをした。




痛みの原因を挙げだすとキリがない。私は痛みは筋肉、神経、血管などの要素に分解して考えることにしているけれど、パッと病名がわかるとき、それは意外と患者さんが「そういえばこんなことがあった!」と教えてくれた時だったりする。だから寄り添うことがすごく大切だと、思っている。

2011/02/07

お薬手帳でチェックしていること

◆まともなお薬手帳かどうか

禁忌薬の有無
副作用歴
基礎疾患
アレルギー(交叉性などの研究の進歩を見越して薬以外のアレルギーも書いてあるかどうか)
サプリメントの使用歴
注意すべき食品欄(グレープフルーツジュースやワーファリン使用時の注意について、それらがわかりやすい場所に書いてあるかどうか)

書いてなければ聞き取れば良いのですが、書いてある事を見ることは稀だし、そもそも書く欄のないお薬手帳が普及している印象。

重要と思われることは書き足すように気をつけています。

◆処方日と処方医

いつどんな症状になったか推論するのに、聞き出すよりも速くて便利

◆過去にさかのぼる

病状の経過がよくわかる。あたらしいお薬手帳だけ持ってくるのは意味が無い。

◆患者の意識がわかる

持ち歩き方、管理の仕方で患者の意識がよくわかる。初診時に持ってこない人はそれなりの意識だろう、その程度の指導しか受けていないだろうと考えるし、逆に当院の患者さんが他院受診の際にお薬手帳や、もろもろ(血液その他)の資料を持って行ってくださらなければ、私の指導不足なのでお詫び申し上げます。

◆ITリテラシーのある方に

落とすと大変な内容も含まれるので、暗号化された状態で持ち歩くことをお勧めしたい。ドコモのケータイならばCandyというアプリケーションがあり、これは非常に情報漏洩に強い。

2011/02/06

ありそうでない病気 腹部片頭痛

abdominal migraine
腹部片頭痛

という疾患概念があって、
ものすごく網を張ってるにも関わらず、
なかなか居ないのです。

小児科じゃないからか。

セロトニンも、ヒスタミンも、
おなかにとっては
痛み物質の一つです。
キニン類はどういう時に出るのかしらん。

そういえば、かつおぶしにはヒスタミン類似の
ヒスチジンがすごく多くて、
これが健康によいのだ!などとCMしてましたが、
ヒスチジンなんて、サバで腹痛、下痢が起こる原因物質なのに、
よくも健康に良いなどと、
いい加減なことを言うものだなあと、
思ったりします。

早期ダンピングは、
胃の切除後に生じる病態で、
腸管が食事によって拡張するとセロトニンが放出され、
腹痛、動悸、冷や汗などの症状が起きるというもので、
症状自体は似ています。

古い世代の、抗ヒスタミン薬は、
抗セロトニン作用を持ったり、抗コリン作用を持ったり、
いろいろ「抗」しちゃいますけど、
例えばペリアクチンがもつ、抗セロトニン作用で、
早期ダンピングを予防できるってんですが、
患者さんからは、「眠い」と言われて投薬を断念したことがあります。
そりゃそうだ。

新しい世代の、抗ヒスタミン薬は、
そういう「抗」作用がないもんで、
どっか間違うと、
腹痛いとか言い出す人がいます。
ヒスタミン1レセプターを阻害すると、
ヒスタミン2レセプターが刺激されちゃうとか、それで胃酸分泌が亢進するとか、
あるいは、コリン作動的な働きをするとか、
考えられますが。
OTCなんか飲んでも、そういう人がいますね。
そういう時に、H2RA(これも抗ヒスタミン薬ですが、胃薬です)なんか出しておけば、
症状はたぶん消えるんでしょうね。
でしょうね、なんか書いてますけども、そう処方しております。

そうそう、以前、
カルシウム拮抗薬使ってると、
おなかの調子が良いんじゃないかって書いたことなかったでしたっけ。

これは平滑筋の痙攣を予防する的な意味合いがあると思うんですけど、

片頭痛の予防にもカルシウム拮抗薬は使ったりするでしょう?

面白いところに共通点があるものです。





こんな感じで、

網張ってる病気があるわけですが、

そんなに実際あるわけでもないです。

疾患概念としては、あり得るはずなんですが。




そう、

脂肪肝の原因をまとめるつもりだったんですが、

それは今度にします。NAFLDの話です。

IRHIO以外の関連について、考えていました。

この話しても、誰もアハ体験してくれないのが悲しいんですが、

なんでなんでしょう。めっちゃくちゃ面白いのに。

2011/02/02

「総合内科」に危惧する

千葉の総合内科の教授が仰っていたことを伝え聞いて、(あくまで伝聞に過ぎない)

「問診だけで90%わかる」的な内容

危惧したことがある。

1)90%という数字は「後医は名医」を表した数字に過ぎないことをご本人がわかっていない節がある。だいたい別の医療施設で検査してあることが多く、その見立てを参考にする事が多いから。当院がそうである。

2)残りの10%の行く末はどうなるのかに興味がある。結局迷宮入りがあるのではないか。その10%にすべて寄り添っていたら、大きなことは言えないと思う。結構背負うものは大きい。

自分の施設にかかっているバイアスを配慮せずにメディアでキャッチーな物言いをするのは問題があると思ったわけだ。発言の一部が一人歩きする可能性がある。

私が書いているように、情報は断片的に独り歩きする、メタデータとして。せいぜい20文字。

この伝聞を(バイアスを考慮せずに)そのまま信ずる人がいたらどうするか?という話だ。





そもそも問診に必要なのは時間だけである。テクニック?自分は聞くのも話すのも大好きなので特に考えたことはない。

時間をかければ良いが、しかし医療のリソースは絶対的に不足している。当院は患者数を意図的に絞っているからまだ十分に話を聞けるとはいえ、危ういバランスの上に成り立っている。

一般的にもおそらくリソースは不足しているのでトリアージ(ふるいわけ)が必要だ。

例えばひとり5分しか割り当てられないとする。

1000人の患者さんがいて、5分ずつの問診で、70%が満足した。(トリアージ兼治療)

30%は別の病院に行き、また5分の問診を受け、その70%が満足した。

これで91%が満足する。のべ6500分で91%の患者さんが満足できる。

最初から10分の問診、15分の問診をしたらどうなるだろう。

10000分、15000分の時間をかけてやっと90%の患者さんが満足するとしたら、

どちらが良いのだろうか。

自由に好きな医師に受診が出来、初診が安い日本の医療は、

本当の初診がトリアージの役目を果たしていると言え、リソースの配分は実は合理的なのではないかと思っている。打破する方法はいくつかあるが、患者側のリテラシーが上がらない限り無理な方法ばかりが私の頭には思い浮かぶ。






さて、もうひとつ危惧していることがある。

それは、「病名をあてる(わかる)」というような言い方が一人歩きをしている事である。

例えば、胃炎も、過敏性腸症候群も、逆流性食道炎も、咽頭神経症も、病名ではあるが、それはひとつの疾病とは言えない。そのような病気は本当に沢山あって、実はこれから正しい疾病概念が発見されるのを待っている状態だ。

なぜ私が問診を詳しく行うのか、タバコの銘柄や好きな酒の名前まで聞くのか。それはその疾患概念を分解して新しい発見をしたいからである。

「病名をあてる」というような言い方をするとき、私が危惧するのは、「新しい疾患概念、あるいは未知の病気を発見したい」という探究心が抜けているのではないかという事である。はじめに病名ありき、では困るのだ。それでは進歩がない。

総合内科がそういう内科なのならば、医学の発展はそこで止まる。

それではいけない。

わからない、を重要視せねばならないのだ。




私は恥ずかしながら、

いくら問診をしても、

診察で助けられることが10%以上あったりする。

気管切開の痕を見た父が、ジフテリアの既往と、腎萎縮まで言い当てたときには、

正直感動した。

内視鏡など、いくら隠しても、飲んでいればすぐわかる。

「!」という感動は、案外診察に隠れていたりして、私のモチベーションになっているから、

私はそういう意味での総合内科医にはなれそうもない。

交通事故抑制効果

神奈川県の方法はなかなか良いのではないかと思ったのでメモ。

神奈川県は、免許を取る最初と、事故・違反をしたときの免許の更新手続きは二俣川にいかねばならないのですが、その時に写真は試験場で撮ってもらいます。写りは、その時の「運」次第でしょう。

無事故・無違反の場合に地元の警察でも更新できますが、その時には自分で撮っていった写真を提出します。(横浜の方は出来ないかも知れません。すみません)

私はお世辞にも写真写りが良い方ではないから、免許証更新用の写真は写真館に行って撮っていただきます。

元CAの方から聞いたのですが、女子アナウンサーに応募するには顔、上半身、全身の三枚の写真が必要で、全員が某百貨店の写真館で撮るのだそうです。(それは決まりではないのですが、都市伝説があって、その写真館で撮らないと合格しないからなんだそうです。一度応募写真?を拝見した事があるのですが、それはそれはきれいに撮れた写真で思わず納得してしまいました)

私もその都市伝説を信じてその写真館で撮ってもらいたいのですが、遠いので近くの某写真館で済ませてしまいます。

それでも顔写真が青い背景の二俣川運転免許よりも、茶やグレーが背景ですとなんとなく幸福です。とにかく二俣川で撮りたくないものですから、5年後まで絶対に事故も違反もするまいと決心して運転しています。

私と同じような方が他におられる(きっと多いと確信する)とすれば、この神奈川方式は相当事故抑制効果があるのではないかと思います。

他の都道府県もそうでしょうか。

ところで、二俣川で撮っているのに恐ろしく写真写りの良い人がおられますね。正直嫉妬します。