2011/02/13

萎縮とPPI

プロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor: PPI)という薬があります。オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾール、エソメプラゾールと言った薬です。

プロトンというのは水素のイオン(H+)の事で、胃酸(胃酸は塩酸HClなのでH+とCl-から構成される)そのものを示していると言っても良いです。それが分泌されるポンプを阻害する薬ですから、胃酸分泌を直接抑制する薬と解釈してください。それで正解です。

胃で胃酸を分泌する細胞は、胃底腺に分泌する壁細胞というものです。ピロリ菌が感染するなどして炎症が起きる(ほとんどはピロリ菌が原因ですが、他の原因もあるにはある)と胃底腺は徐々に破壊され、「萎縮」という状態になります。萎縮した粘膜からは胃酸はほとんど出ません。この萎縮は木村・竹本分類という方法で非常にうまく表され、当院ではC-0、C-1、C-2、C-3、O-1、O-2、O-3と、7段階に分けています。

C-3以下は胃酸が良く分泌され、O-1以上は胃酸の分泌は落ち始め、O-3になるとほとんど胃酸は出ないと思って下さい。それで間違いはありません。

また、内視鏡ではピロリ菌の有無がわかるのですが、除菌後ですと萎縮がある程度あっても胃酸分泌は復活してきます。除菌後のO-1では除菌前のC-3よりも胃酸分泌は多いかも知れません。ガストリンの量の差なのかも知れません。

以上の話は、アルコールや、H2RA、PPIなどの影響を考慮しておりません。慣れてくると胃を見ただけでこの人はアルコールを飲む、H2RAやPPIを飲んでいるというのがわかるようになる、などというとまた妄想医者の戯言と言われるのでやめます。

PPIという薬が広く使われるようになって一番違和感を感じるのが、萎縮があるのにPPIを処方されている患者さんが多いことです。胃酸分泌が多くないのに、なぜさらに胃酸分泌を抑制するのか。むろん除菌後のO-1でPPIを出すとか、アルコール多飲、タバコ++のO-2患者さんで食道炎がひどくてやむを得ず(本当にやむを得ず)PPIを処方している例は私にも数例あるのですが、通常萎縮がある場合にはPPIは適応はないと考えています。

(NSAID潰瘍の予防目的で、萎縮があるときにPPIを使う場合があるじゃないかというツッコミはさておき=したがって「通常」という言葉を使いました。腎障害(ならばH2RAよりもPPIが使いやすい)、肝障害(があるならばPPIは使いにくい)の程度を含めて、総合的に判断してどういう投薬にするか決定しています)

PPIを使っていて明らかに違和感を感じるのが、内視鏡をしたときにその粘膜が汚くなっていることです。それはPPIが効きすぎています。胃酸を抑制しすぎると、胃内にはピロリ菌以外の細菌まで繁殖してくるのかもしれません。C. difficileが検出されるというのが欧米では論文になっているのですが、それは恐らく萎縮があるのにPPIを使用しているのではないかと想像してしまいます。一方PPIを使っていても粘膜がきれいでサラリとしているときは適正に胃酸がコントロールできていると判断します。

胃酸を抑制しすぎるとカルシウムや鉄は吸収できずに栄養障害の原因となります。
ビスフォスフォネートで胸焼けが出たからPPIなどという処方を拝見すると、骨粗鬆症の治療をしつつ、骨粗鬆症の原因を作ってしまっているなあと、ちょっと複雑な思いを抱きます。

木村分類を内視鏡時に記述する医師は稀ですが、重要なので普及して欲しいと考えています。

木村分類は自分はどうなのだろう?と思ったあなたは検診で測定してもらえるペプシノーゲン値を大切に記録しておいてください。ある程度の相関関係にあります。保険診療ではペプシノーゲン値は測定できません。

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