2011/02/24

NASHに関する一考察

3年前にNASH(Non-alcoholic steatohepatitis 非アルコール性脂肪性肝炎)とIRHIOという概念に関して私は遠慮がちに書いています

でも未だに盛り上がらないのでもう一度書くことにしました。IRHIOについてはかなりまだ注目しており、鉄イオンを中心に持つ酵素類がインスリン抵抗性に関わる炎症には非常に深く関わっていると確信をしています。

Alimentary Pharmacology & Therapeutics. 2010;32(10):1211-1221.

に、あたらしい論文が出ているのですが、これはメタアナリシスによる論文です。

糖尿病を伴うNASHではピオグリタゾン(商品名アクトス)は脂肪化を改善したが炎症、線維化までは改善しなかった。糖尿病を伴わないNASHでは炎症、線維化も改善した。一方メトホルミンでは改善しなかった。

これが結論です。わからない方に書いておくと、NASHでは糖尿病が合併することがあります。病因は同じインスリン抵抗性ですから。

20年前に大学院で勉強していた頃、腸間膜脂肪細胞が産生するサイトカインであるTNFαがインスリン抵抗性の原因である、と信じて研究していました。おそらくこの仮説は(TNFαの部分はもう少し複雑かもしれないけれど)間違っておらず、現在でも光を失いません。腸間膜脂肪細胞で産生されるサイトカインは直接門脈経由で肝臓に到達し効果を発揮します。今、内臓脂肪というと腎臓周囲の脂肪も含めて表示しているようですが、腎臓周囲の脂肪から出たサイトカインはそのまま下大静脈に入り肝臓は通りません。従ってこの脂肪がどう振舞おうと肝臓には影響しないという意味で、内臓脂肪と呼ぶのは間違っているということを重ねて主張しておこうと思います。

今ではこれだけでなく、腸内細菌刺激や炎症に伴いリンパ球が産生するサイトカインもまた、インスリン抵抗性を惹起すると思うようになりました。例えばIBD(炎症性腸疾患)や小腸憩室に伴う脂肪肝はこれにより説明が可能なのです。

インスリン抵抗性と癌とは間接的に関連もするはずですが、これは今は述べません。ただ、インスリンは一種の成長因子であり、インスリン抵抗性に伴う過剰なインスリン産生は、成長ホルモンや女性ホルモンと同様に癌の成長を促しても矛盾はしないのです。免疫系の抑制も生じ、これも癌の生成に関与するはずなのです。

このインスリン抵抗性に関与する因子として、もともと持っている遺伝子、腸間膜脂肪、腸内細菌や炎症、鉄の過剰(および鉄と拮抗的に働く亜鉛やセレンの不足)などが挙げられるでしょう。

インスリン抵抗性を改善させるピオグリタゾンが、メタアナリシスにおいても著明にNASHの炎症を抑制したのは朗報です。グリタゾンはPPAR-γに結合して脂肪細胞へ脂肪酸を蓄積させることによって肝細胞での脂肪酸蓄積を減少させ、インスリン抵抗性を改善させると上記リンクに書いてありました。だから太りやすいのか・・・と納得。しかしNAFLD(いわゆる脂肪肝)とNASHとの鑑別は組織診断によるしかありません。あまりにも患者数が多いため、それが出来ない、どうしたらもう少し非侵襲的な検査で組織検査をするべき人を絞り込めるだろうか、というのが今後の課題です。線維化が起きてからのマーカーは良く研究されているのですが、それでは少し遅すぎる気がします。

もっと勉強したい人は、
あたりを見てください。

話は飛びます。色々考えることはあるのですが省略。
NASHやNAFLDに対する私の基本戦略は、

1)家族歴の把握
2)HOMA-R(インスリン抵抗性の指標:=IRI(早朝空腹時血中インスリン濃度)×FBS(早朝空腹時血糖)× 1/405。 1.6以下で正常、2.5以上で抵抗性あり)やフェリチンなどの把握。鉄制限を含めた食事療法
3)ウイルス性肝炎、自己免疫性肝炎の除外。AST/ALTがかなり高いときには肝生検依頼~専門医へバトンタッチ。
4)運動運動運動(汗で鉄は分泌され血中鉄が下がり、運動でインスリン抵抗性は改善する)
5)定期的なフォロー
6)限定的にピオグリタゾンの少量投与(7.5mgで効果がある場合も)
7)勝手にサプリメントを使わせず、医師が管理する。EPAやビタミンE、亜鉛は許可。他は不許可。

太っているのは問題外です。やせていてもなお、脂肪肝の中に肝臓癌を見つけるのは困難。ましてや太っていては・・・全く太刀打ち出来ません。
ではとにかく痩せればいいのでしょうか。
ところが急激なダイエットは脂肪肝を誘発します。

難しすぎますね。

ダイエットもまた医師(あるいは賢い人)の管理下で行われるべきです。誰が賢いかわからない?いつも悩んでいる人が賢いんです。悩んで悩んで・・・でも、「現状ではベスト」という選択が出来る人が、賢い人です。そういう人が周囲に一人でもいれば頼ると良いでしょう。

3 件のコメント:

  1. ☆ジャヌビアetcのDDP4阻害薬で肝機能(AST,ALT,γ-GTP)
    が改善されますが,どうなんでしょーか?

    ☆但し,脂肪肝は,腹部エコー的には,改善しない。
    (運動しなくなってからの期間=と同じ期間が必要。)

    返信削除
  2. ☆ジャヌビアetcのDDP4阻害薬で肝機能(AST,ALT,γ-GTP)
    が改善されますが,どうなんでしょーか?

    ☆但し,脂肪肝は,腹部エコー的には,改善しない。
    (運動しなくなってからの期間=と同じ期間が必要。)

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  3. DPP4阻害薬では、門脈内の高インスリン状態が抑制されていい方向に働くのではないかと思います。

    それから、アルファグルコシダーゼ阻害薬にたまに見られる肝障害は、サイトカインがらみなのかも、と今日思いました。(細菌繁殖しやすい)

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