2008/04/24

消化器病のトレンド

昨年の消化器病10大ニュースから抜粋
Top 10 Gastroenterology News Stories of 2007

1)ACG(American College of Gastroenterology)が新しいピロリ菌除菌ガイドラインを提唱。
  • 日本で認められているクラリスロマイシン・アモキシシリン・PPI・1週間法よりも2週間法の方が除菌率が良いみたいです。しかしそもそも治療のデザインをするときに、CYPは考慮しないわ、体重は考慮しないわ、喫煙は考慮しないわという状態でやみくもに2週間投与してそれを良しとするのはどうなのか。もともと太っている彼らの場合、除菌がメタボを増やしている事には言及していない。
  • しかしこのガイドラインが発表される以前から日本では2週間法に関して無反応です。日本でも若年者で失敗が多いのに、無反応ってなんだろうか・・・。
2)急性膵炎治療の進歩
  • 従来から日本はCT診断、トリプシンなどによる追跡、タンパク分解酵素阻害剤、血漿交換など、コスト度外視で世界をリードしていた訳です。世界が日本に追いついた。ただし、すぐに内視鏡的にドレナージするなどの治療はあちらの方が進んでいます。
3)成人過敏性腸症候群(IBS)の新しいガイドライン
  • 結局、うつ病スペクトラムの中に入れられてしまうのか・・・?違うと思うんですが・・・。
4)PPI(逆流性食道炎治療薬)が骨粗鬆症を惹起する。
  • JAMAの論文は非常にインパクトがありました。3年の投与で大腿骨頸部骨折がかなり増える様です。胃切除後とまるで同様の栄養吸収になるわけだ。これはショックだった。日本での反響のなさが逆に不気味でしたが、それは萎縮のある人と結局同じだから・・・という意味でしょうか。
  • 幸い以前からPPIはオンデマンド療法でしたが、ますます維持療法をしなくなっています。
5)便秘の治療薬、Zelnormが心血管疾患を増大させるとして発売延期。
  • そもそも下剤は心筋梗塞のリスクを増大させるという側面があるが、便秘をそのままにしておくこともリスクを増大させる。便秘薬の治験はさぞ難しかろうと思う。
6)PPIはバレット癌を抑制出来る。
  • しかし、抑制出来たとしても全くコストベネフィットゼロ。バレット癌はかなり遺伝子とも関連があるらしいし、胃酸だけが原因でないのは明らか。むしろ膵液の逆流などどうなのだ??それはかなりtumorgenicだと思われるが。
7)全米トップ41病院発表。
  • 私も働いた事があるHarper-Hutzel Hospital (Detroit)が入っていて、とてもうれしい。ナイチンゲール誓詞がはじまった伝統ある病院です。私の叔父(Dr. Choichi Sugawa)も教授をしています。
8)AGA(American Gastroenterological Association)が、機能性ディスペプシアのガイドライン発表。
  • 「胃腸が蠕動亢進しても、胸焼けをしたりもたれたりすることがある」という事実を理解出来ない限り、永久にガイドラインは無意味だと思う。
9)逆流性食道炎のガイドライン発表。
  • 逆流性食道炎、機能性ディスペプシア、過敏性腸症候群の三つはこの数年飽きもせず治験が繰り返されている。
10)linaclotide acetateというcGMPを合成する酵素であるグアニル酸シクラーゼのアゴニストが、便秘型過敏性腸症候群に効くという。Phase2のくせにTop10入り。
  • 開発のMicrobia, Inc.は情報が少ないベンチャーだ。現在はIronwood Pharmaceuticalsと名前を変えているが、いわゆる"Drug Hunters"らしい。なぜ便秘薬が北米でこんなに注目されるのだろう。マーケットが大きいのだろうか。

逆流性食道炎、機能性胃症、過敏性腸症候群の3つはあいかわらずのトレンドらしい。
発展途上国にはないタイプの疾病概念で、うつ病スペクトラムの中に入れられつつあって、社会不安をそのままあらわすようなランキングと言えようか。

命に関わる病気で無いだけに、医療者や製薬メーカーの訴訟リスクも非常に低く、かつ儲かる宝の山だと考えられているに違いない。

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