2013/07/31

本当の情報を探すには

いろいろな健康の情報があって、大抵嘘ばっかりですが、
私がどう読むかというのを簡単に書きますと、

ある程度の文章を選択して反転させる。
(コピペ、パクリを検索するためにある程度長く選択すると良い)

反転させたら右クリックして、
Googleで「・・・」を検索(S)を選ぶ。(Chromeの場合)

すると別タブで検索結果が表示されるのでコピペ、パクリ、元ネタなどのヒントがないかどうかをチェックする。これを何度も何度も繰り返す。

大抵は元ネタがあって、ははん、こうやって切り貼りをしているな、と楽しめば良いです。

ゆらぎやすい表現の用語を探す。
例えば「合成添加物」という名称は様々なバリエーションが存在し、それ自体は正式な名称ではないようだ。
これも反転させて検索すれば良いが、よりきっちりやりたいときには、
「site:go.jp」
を加えて検索すればその用語のゆらぎがわかる。
科学的な文章では、用語には必ず定義が存在するけれど、表現にゆらぎのある用語を使っている場合にはその内容も信用されにくくなるのは当然のことだ。
「胃ポリープです」というような曖昧な表現を使う医者を、このブログの読者は信頼しないでしょう?それと同じです。

時間があればキーワードをGoogle Scholarで検索する。

私の方からは以上です。

2013/07/27

医者に関する口コミについて

プロの料理人は100皿作ったら、100皿美味しいものを作るのでしょう。

プロの医師が100人診たとして、「良かったな」と思うのは30人もいれば上等でしょう。あとは後悔だらけです。

幸い人間の病気というのは放っておいてもかなり治ってしまうので7割の失敗は隠蔽されてしまいます。それでも失敗は失敗と言えます。

ほとんどの場合、結果だけで見れば大失敗には終わらないので、当たり障りの無い事をしていれば医者は良い評判を得るでしょう。そのような背景がありますから、医者に関する口コミは、あの占い師は当たる、と同程度の信頼度しかないと思います。根拠のほとんどが偶然に依存しますので。

内視鏡のように単純に「痛いか痛くないか」で患者さんが判断するような検査はなお混乱します。医師の本当の実力は「痛いか痛くないか」というような次元とは別の次元に存在しますので。もちろん苦痛がない検査を提供するのは最低条件だと思います。しかしそれ以上に正しく所見を読めるかどうかが大切なのですが、みなさんにはそれを判断する拠り所はないわけです。

それでも口コミは重要だと思う人が多いかもしれませんので私の意見を述べます。私は口コミ情報には少なくとも投稿者の住所は入れるべきだと思います。口コミを投稿する人の住所が医療機関から遠い場合にはその口コミを信用するべきではない。遠くから受診するというのはかなりのでたらめなバイアスがかかりますから。

2013/07/24

メンソールタバコは禁止してください

http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20130724-OYT1T00476.htm

 【ユマ(米アリゾナ州)=中島達雄】米食品医薬品局(FDA)は23日、メントール入りたばこは通常のたばこより中毒になりやすく、禁煙しにくいとの評価結果をまとめた。
 メントール入りたばこの販売禁止も含めた規制導入を視野に、米国で意見募集を始めた。

ということです。

さすがアメリカ、と思います。
オバマさん、諦めておりません。

http://blog.ukawaiin.com/2010/04/blog-post_14.html


私以前に、「合衆国でメンソールタバコ規制へ」という記事を書きました。

メンソールタバコを吸っている、というだけで患者背景としては重要な情報としているほどです。

日本では一向にその気配がありませんが、私は日本の現状に呆れつつも今後も定期的にこの問題についてはブログに書こうかな、と思います。

メンソールのタバコを吸っているグループは、そもそもタバコを吸うのに耐える呼吸機能、消化機能を持たない人々です。悲劇です。

医療における下請け、孫請け構造

どこの下請けも一緒かもしれませんが、
医療における下請けの場合には下請けのほうが医学レベルは高い事が多いです。
むしろ契約元の事前の評価が不十分なためにしばしば問題を起こす場合がありますが、最初から下請けに任せておけばあまり問題はなかったと言うケースも多いです。

医学が他の領域と違うかもしれないのはマネジメント能力も下請けのほうが優れていることが多いので、患者さんは下請け、孫請けの先生に鞍替えしたほうが得する場合が多いかもしれません。

よく患者さんから、「あの先生が直接診てくださらなかった」との感想をいただきますが、私が言うのは「良かったですね」の一言です。

2013/07/12

ここはテストに出ますよ!

私の横で関係なく行われていた会話なのですが、なるほどと思ったのでメモ。

「私、この範囲出ると思ったのに、テストに出なかった」

「大事なのは教科書でしょ、まずこっちをしっかり勉強でしょ」

「え、だって先生はプリントがテストに出るって言ってたもん」

「そう言わなきゃ、プリントを勉強してくれないでしょ。前回も先生同じパターンだったでしょ」

「あそっかー」

「って、昨日何度も言ったでしょ」



先生の、ここはテストに出ますよ!は確かに+αを勉強させるための一言ですよね。

しばらく学校に通っていないから忘れていました。

+αだけを勉強しちゃう子、ってどの世界にもいますよね。

医者には結構多いんですよ。

2013/07/09

ヨーグルトとぬか漬けと納豆

ビオスリーという整腸剤があって、ラクトミン(乳酸菌)(Streptococcus faecalis) 酪酸菌(Clostridium butyricum) 糖化菌(Bacillus mesentericus)の3つが入っている。酪酸菌はミヤBMにも入っている。糖化菌は納豆菌と似ている。なんだか万能薬な気がするのでこれをメインで使っていますが、整腸剤っていうのは患者さんにより反応が違いますので注意を要します。

ところでヨーグルト全盛ですけれど、個人的にはヨーグルトを沢山食べている人の大腸は洗浄が大変だったりしてあんまり好きではないのです。なんだかベタベタしている。ビオスリー飲んでいるときれいなのだから、乳酸菌が悪いわけではないんでしょう。乳成分が悪さするのかどうか、わかりませんが。あくまで個人的な印象を述べただけですから責めないで下さいね。そういう印象を持つ人は500gとか平気で食べるんですから。そんなに山ほどヨーグルトを食べて大腸が健康になった気でいるのはどうかな、と思っています。牛乳だけを山ほど飲んでいる人はあんまり患者さんでは見たことがないから良くわかりません。自分にあう整腸剤があったらそれを飲んでいる方が良いのでは?などと思ったりはします。

適当にいろいろな細菌が口から入れば良いと思います。過度な発酵が起きないようにするのは咀嚼が最も重要だとは思っています。あとは胃酸も大切で、胃酸である程度殺菌される事は腸内細菌の恒常性を保つには大切なのではなかろうかとも考えています。PPIを飲んでいる患者さんや萎縮が高度な患者さんではしたがって、便通の事をよく聞いていますけれど私の意図はわかっていただけていないと思います。

乳酸菌は微好気性だからぬか漬けなんて、ちょっと染み込んでいるんでしょうかね。だったら胃酸で死なずに腸に届きやすくてなおさら素晴らしいじゃないか。糠に付ける前に野菜を冷凍にして細胞壁破壊しておいたりするとどうなんでしょうか。もっと良いぬか漬けにならないでしょうか。
ぬか漬けには、混ぜる人の手に付いている常在菌が供給されますが、毎日ぬかを混ぜて、塩分を濃くして、微好気状態にしておくと大腸菌とかウェルシュ菌は増えずに抑制されていて、うまいこと乳酸菌が増えてくる。おそらく混ぜる人のうんちの乳酸菌と同じ組成なわけでして、できることならばいいうんちを作っている人のぬか漬けが良いんじゃないかと思ったりします。

という話をしましたら、頭脳明晰で一番尊敬しているある先生が、「ああ、うちの商店街でめっちゃ売れてる八百屋さんのぬか漬けはたぶんそれだわ」と仰っておられました。

便の移植、っていうのはコアラがもともとやってますし、C. difficileの治療のためにやりますが(Nature Medicineって雑誌にも出たみたい)、日本じゃもともとやってたという事で、それと引き換えに高血圧になってしまったってことでしょうか。

ヨーグルトは自作するとどうかっていうと、どんどんコンタミネーションが起きて、素人さんが作っているとやがて大腸菌が増えてしまいます。まだカスピ海ヨーグルトの種菌が売っていなかった頃に、何年も継代した結果とんでもない状態になった自作ヨーグルトを飲んでおられた方がおられてびっくりしたことがあります。全くとろみがないそれはカスピ海ヨーグルトではないよ。大腸の中も偽膜のような物質だらけで大変でした。

納豆は大豆が原料、というのもなかなかのもので、それが食物繊維の供給元にもなる。これも大発明ではないか、と思います。ちょっと理解が難しいのだけれど、通常はネバネバっていうのはメタン産生菌なんかも出します。ネバネバが健康にいいとか嘘ばっかりなので注意したほうが良いです。納豆のネバネバは悪くはないと思うけれど、通常は腸内細菌のネバネバってのは悪玉菌が増えている状態、って解釈できますから。

ヨーグルトをdisっているわけではないですが、なんでも食べ過ぎは良くないわけでして。
もちろんぬか漬けもその塩分量から敬遠されがちで。
結局指導するのはなかなか大変で、「整腸剤出しときますねー」になってしまう。

だいたい清潔なものばかり食べ過ぎて、細菌が供給されていないというような問題もありまして、現代ではいかに腸内細菌の恒常性を保つかというのはなかなか重大な問題であるように思っておりますが、なかなか複雑で、またノーベル賞がもらえるわけでも儲かるわけでもない基礎研究にお金が回らないからそんなに進歩しているわけでもない。(お金がまわりはじめたので、そこそこいい加減な研究がめちゃくちゃでてきた2016年追記)そこにいい加減な連中がつけこみ易い隙が生まれています。

私も腸内細菌ネタは自分の飯の種であることは事実で、そういういい加減な連中の一人かもしれない。

あなたの街の商店街に、おなかのめっちゃ強い八百屋さんがおられて、その方がぬか漬けを作って売ってくれれば良いですね、という話です。

2013/07/08

こういう腹痛・下痢がある

下痢腹痛が主訴の比較的若い女性の大腸内視鏡をしたときに、

1)RSを超えたあたりで軽く骨盤壁と大腸とがくっついているらしく、簡単にアルファループは作らせてはくれないし、そもそも動かない。
2)で、直線的に入れようとするのもなかなか難しい。
3)結局左回転で小さなアルファループを作ってからライトターンショートニングで直線にする、を数回繰り返さないとSDに到達しない。
4)挿入に15分以上かかってしまう。
5)大腸検査は痛くないよ、と言ってしまった手前、焦る私。
6)下剤を飲んだらすぐに透明になっているのに、便が残っていたりする。
7)S状結腸より奥の方は結構大腸が拡張蛇行している。

というようなことを経験することがあります。

骨盤内では大腸が癒着していてもそれがイレウスの原因にはなりにくいので、実生活には問題はありません。癒着はどうして起きたのかと問われるとわからないけれども、腹腔内で出血などがあってそれが糊の役目をしたのでしょうか。

でも癒着がある部分で少し便が通りにくいからこそ、下剤をかけても便が上のほうに残っているのでしょう。普段は普通に通っていても、どういう加減か屈曲が強くなってしまうと通らない。そしてそこを通そうとすると大腸の内圧を上げざるを得ず、勢い余って一気に出てしまうので腹痛・下痢になってしまうのではあるまいか。

痛みが月に一回、排卵と月経の間ぐらいだったりすることがあります。その時期は腸も少し浮腫気味になるのかもねえ、というような話をしてお茶を濁します。(見たわけじゃないが、経験上そういう女性が多い)

自分が専門家だったら腹腔鏡で見てみたいところだけれどそれも能わず、そういう時期には繊維質、特に根菜類は食べないこと、調子の悪い時期にガスコン+ビオスリー、あるいはそれに塩類下剤を加えること、などを指導しています。下痢なのに、下剤を出すわけです。

2013/07/07

「はじめて」を追体験してみよう

むかしむかしの記事が最近またはてブに登場して、もう一度読み直しました。
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0925/high43.htm

「ポップカルチャー」という言葉で彼が表現したのは、
「勉強するよりも作っちゃった方がはやい」という世界。

車輪は再発明せよ、は現代の合言葉のようになっていますけれど、
なかなかそれでは遅々として世の中は進まない、と彼は嘆いているのでしょう。

アラン・ケイは決して気軽に
「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」
The best way to predict the future is to invent it
と言ったわけではなくて、

それが出来る才能の持ち主が才能に溺れることなく、過去を勉強して
車輪の再発明をすることな全く新しい概念を提唱して乗り越えて行け、
と言ったのではないかと今ではわかります。

彼は全世界何十億人の中の数百人に向けてこの言葉を訴えたかったのではないか。

私が医学関連で何かを思いついて「これはナイスアイディアだ」と思った時に、
きちんと勉強しなおすとたいてい1950年代にすでにアイディアは出ていたりする。
文献検索は1960年代後半からしかコンピューターに入っていないことが多いのですが、
苦労して検索すれば先人の輝かしい業績が必ずあるものです。
それは自分の無能さを思い知らされることだから、
勉強することなど馬鹿らしいと思う事は今でも良くあります。

勉強はそうした虚しさを感じさせるけれども、
同時に発見した人の「!」を追体験できる機会でもあります。

勉強には落胆と喜びとがあるように感じています。
自分はしかし選ばれた人間ではないので、本来は喜びだけを感じるべき人間であろうと思います。
がんばって勉強したいと思います。

ところで二酸化炭素内視鏡についてレクチャーしてきました。
(第13回日本実地医科消化器内視鏡研究会・会長 増山仁徳先生、座長 南康平先生)
そして私が目論んだのは、聴衆のみなさんが「二酸化炭素を応用した先人たちのはじめての感動」の追体験が出来れば良いなという事でありました。


もともとマンニトールを使用した腸管洗浄は可燃性ガスを産生してしまい、腸管内でエレクトロサージャリーをする際に爆発する可能性があります。その危険をさけるため窒素や二酸化炭素などの不燃性ガスを硬性内視鏡での手術に用いたのは1950年代と非常に古い話です。1968年にポリペクトミーが発明され、1970年代は盛んにポリペクトミーが行われだした時期のようで、不燃性ガスを使うと安全だという認識が欧米で広がりだしていたようです。最初、二酸化炭素は防爆目的で使われていたのです。


1974年にはシカゴのロジャースらからの最初の報告があって、10例のポリペクトミーを二酸化炭素内視鏡下で行って安全であったと述べていますがこの時に腹満感の軽減もメリットだ、と記述しています。これが見つけうる限りは最初の報告です。


1980年ころ、有名なロンドンのセントマークス病院Dr.Williamsが来日され「二酸化炭素を使った注腸バリウムは安全で楽である」と発表されたのを私の父が聞きました。父は英語が大変得意な人なのでDr.Williamsに「内視鏡ではどうか」と質問をしたそうなのですが、Dr.Williamsは「もちろん楽である」とお答えになったそうです。すなわち、このころDr.Williamsは「二酸化炭素を使った内視鏡は楽だ」という認識を確実にお持ちだったと思います。セントマークス病院に留学された先生は何人か存じ上げておりますが、その頃の歴史についてご存知の方はおられませんでしたし、二酸化炭素内視鏡について言及された記憶もありませんので確実ではありませんが、おそらくDr.Williamsは未来が確実に見えていた方なのだろうと思います。そして父が日本で二酸化炭素内視鏡をスタートしたのは1982年の事でした。
調べてみるともともと防爆目的で二酸化炭素や窒素を使う為の送水タンクはオリンパスのカタログに記載されていたため、半ば拍子抜けした形でボンベを内視鏡装置に装着して内視鏡をはじめたところその効果に驚いて、以後はずっと注腸バリウムや内視鏡ではもっぱら父は二酸化炭素を用いておりました。したがって私が医者になった1990年には二酸化炭素内視鏡しか目にしていない、という事になりました。

ところが実際には爆発的な普及にはいたらなかった。不燃性ガスであるという事がその理由ではないだろうと思います。それはなぜか。


炭酸ガスボンベは法律で緑に塗るように決まっています。私も最近知ったのですが、ミドボン、ミドボン、と呼ばれています。みどりのぼんべだからミドボンなのだそうです。どうも巷では、ビールが大好きな人が自宅でビアガーデンをやろう、などというときにこのミドボンを使う、というような事が昔から行われているようなのです。また工業用にはそれ以上に広く使われておりまして鋳造用、中和用、冷却用などきわめて応用範囲の広いものなので興味のある方は調べてみてください。


医療用炭酸ガスは、その口金がすばやく交換できるように工夫されている点と法定点検が3年に1度と、他の5年に比較すると少し間隔が短い事がありますが中身は工業用と同じで石油の精製をするときの副産物であります。7kg(10L)入り、2.2kg(3L)入りが一般的でありまして、当院では7kgを使用しておりますがポータビリティーを考えると2.2kg入りが便利かもしれません。ただし、リフィルは両方ともほとんど値段が変わらないようなのでお得なのは7kg入り、という事になります。
残りの炭酸ガスの量を推測するには、ボンベの重さをはかるのが一番良いのですが現実的ではありません。そこでボンベ内の圧力を測定します。
炭酸ガスの圧力ですが、気化した炭酸ガスは摂氏20度では56気圧程度になります。
今は圧力にはパスカルという単位が用いられ、1気圧は1013ヘクトパスカルであることはみなさんご存知だと思います。すると減圧弁のゲージには5.67MPaと表示されておりますが室温によって随分違いますので、夏は高く、冬は低いということになります。季節感を感じることが出来、なかなか風流です。だいたい5、と覚えてください。
私どもが使う7kgタイプのボンベには最初3500L相当の二酸化炭素が入っておりますが、上の図を見ていただくとわかるでしょうか、液体が中に残っている限りは圧力は微動だに変化はしません。しかし中の液体が無くなると急に圧力が低下し始めます。そこではじめて「あ、もうすぐだな?」とわかるのです。2.2kgタイプですと圧が下がり始めたときにできるのはせいぜい数人ですので気を付けてください。


父が1982年ごろに二酸化炭素で内視鏡をはじめたと申しましたけれど、1984年には先ほどのDr.Williamsが二酸化炭素は苦痛が少ない、という事にフォーカスしたはじめての論文をお書きになっておられます。(論文を書く、というのは大変な事です)

これが防爆目的から、安全で楽な内視鏡へ、という転換点であります。
全く偶然とは思えないのですが、1984年はEMRの発明の年です。
1968年のポリペクトミーの発明が防爆目的での二酸化炭素使用を後押ししたように、EMRの発明は安全で楽な内視鏡への転換とほぼ同時期に起きました。そして実はESDの発明の時期と、後ほど述べる二酸化炭素送気装置の発明がまたリンクしているのです。

実に、実に、興味深い事です。


1986年に、先ほどのシカゴのロジャース先生とほど近いイリノイ州、ファオサワーディ先生から二酸化炭素内視鏡が、イリノイ州ですら10分の1ぐらいの病院にしか普及していない現況を嘆く報告が出ています。これと同じ号にDr.Williamsのコメントが載っているのですけれどこのような記述があります。
1)二酸化炭素用のボタンが使いにくい
2)送気送水とガスとの切り替えが煩雑だ
3)オリンパスやフジノンの機器の開発はどうなっているのだ
というような内容です。

専用ボタンを使わなければならない、というような思い込みは普及の障害であったという可能性は否定できませんが、しばらく足踏み状態となりました。

一方鵜川医院では専用ボタンを使わずに(二酸化炭素が漏れることは気にせずに)「簡単簡単♪」と気軽に内視鏡のトレーニングを受けている私の姿があったというわけです。


さてよくある質問として何人ぐらいできる?いくらかかる?というものがあります。
7kgボンベ3500Lですから、1分2L使うとして1700分検査ができます。実測すると100名ぐらいで交換なので一人17分ぐらい使っているのでしょうか。2.2kgボンベですとその1/3ぐらいです。値段は7kgボンベのリフィルに3200円支払っているのですが、これは小さいボンベでもほとんど同じなので大きいボンベでは一人30円、小さいものではその3倍ぐらいかかるのでしょう。しかし術後に全く訴えがないために、回復室でのナースの仕事は激減します。この人的コストを考えると安すぎる、というのが実感であります。


またボンベがいくつ必要か?という質問があります。
当院は1台の内視鏡ですが4本。1本2万5千円ぐらいで高くはありません。2本なくなったところで充填していただく、の繰り返しとなっています。
2.2kgのボンベの場合には6本ないし8本用意すれば良いと思います。もちろん1万円しないのでもっと用意しても構わないと思います。入手性の悪い地域は少し多めに用意した方が良いのかもしれません。


さて1986年に「機械がないから普及しないのだ」と言われて約15年、2002年にはじめて商用の二酸化炭素供給装置が登場しています。カナダからの報告で前向き研究が行われました。この年はあちこちから前向き研究が報告されています。これはオリンパスECRと言って、イギリスのオリンパスが作ったようです。かなり大きな機械ですね。2002年にはそのような報告がいくつかあって、有名なクリーブランドクリニックからも論文が発表されています。


日本ではどうか、2003年に渡辺七六先生から、2004年ごろには国立がんセンターより学会での報告がみられます。TOSCAの登場もありました。私がいた癌研も有明病院にうつった2005年、上司の高橋寛先生のご判断で二酸化炭素内視鏡を導入しました。そのころウォータープリーズも作ったのです。やるなら上部も全例やろうということで健診センターは全例二酸化炭素になりました。喜んだのはナースで、「ストマからのガス抜きをしなくても良い!」と興奮気味に報告してくれたことが強く印象に残っています。便利だったのは流量計で、今までは気圧を0.2とか0.3気圧にしていたのですが実際にはスコープで流量が変わってしまうので経験が必要でした。しかし流量計によって2L固定などとするのが楽で便利になりました。また三方活栓を用いるアイディアも癌研のスタッフによるものです。


オリンパスUCRですが、「簡単にすべし」という高いハードルを良く超えてきた、と思います。もともと二酸化炭素専用送ガス送水ボタンにはボタンを押していない時にガスの圧力が上昇してしまうという問題点がありました。これは気体すべてが持つ性質で、それが1986年ごろの欧米の先生方の不満につながったであろうと思います。専用ボタンを使用した時のUCRの挙動は想像なのですが、おそらくこうなっていると思います。(上の図を参照)送気ボタンから手を放すと二酸化炭素の圧力は上がってしまうのですが、それが上がらないように一定に保つように調節をするのだろうと思います。
一方で、普通の送気送水ボタンを使いますと常にガスは漏れ出すわけですが圧力はほぼ一定であり使い心地は良いです。減圧弁を使っている場合には専用送ガス送水ボタンを使うという選択肢はないと考えています。


富士フィルムもオリンパス同様に送気装置を用意していますが、添付文書をみると設計や専用ボタンを使った時の挙動はほぼ同じであろうと想像しています。


Pentaxはどうかと言いますと、もともとY字型の送気チューブが標準添付なのだそうです。従って減圧弁経由でチューブを接続すればすぐに使う事が出来るという事。
Pentaxは南米などでシェアが高いと聞いていますが、案外現実的な判断なのかもしれません。南米での二酸化炭素内視鏡の普及は意識改革のみで良いのかもしれません。


色々な先生とお話しする機会があり、こういう話を伺いました。有名な病院なのですが、二酸化炭素内視鏡が楽であることに感激した院長先生が30Lボンベを2台接続して集中配管としてしまったそうです。そして片方が空になったところで自動的に切り替えるようになっているそうです。なんと先進的な!

さて具体的に当院の方法を申し上げますと、7kgボンベに減圧弁を装着し、それに三方活栓をつけてON/OFFできるようにしています。それを専用送水タンクにつなげています。
上部内視鏡の場合はそのまま、下部内視鏡の場合には最初はOFFにしておいてウォータープリーズを使って挿入し、盲腸に到達したら送気をOFFにし、二酸化炭素をONにして観察を開始します。挿入時は体位変換はほとんどしないのですが、観察時には体位変換を行う事が多いのはおそらく二酸化炭素を節約しようという心理が働いているのかな、と思っています。


二酸化炭素内視鏡は大変有効で、下部内視鏡や治療内視鏡のみならず、一般医家にもっともっと普及してほしい方法ですが、少し気を付けるべきことがあります。
その一つは送気ボタンと送ガス装置が連動していないために、光源の送気はOFFにせねばならないということです。
また20度で56気圧、5.68MPaなのですが、これが下がり始めたときにあと何人、と意識せねばならない事です。
いくら楽だからと言って、際限なく送気すれば患者さんが痛がることはあると思います。
減圧弁を使用している場合にはバルブの閉め忘れには注意していただきたいと思います。

二酸化炭素内視鏡との出会いは人それぞれだろうと思いますが、みなさんの第一歩はいかがでしょう。
私のように、「気が付いたらそこに二酸化炭素があった」というような人間は、過去を勉強することでしかその追体験は出来ません。追体験が出来ないと、二酸化炭素内視鏡が有効であるとか、普及させようというようなモチベーションもわかないのです。

癌研の若い先生方、藤が丘病院の若い先生方は私と全く同じ立場であるはずです。しかしそれが当たり前だと思ってしまう事は良くありません。他の病院で二酸化炭素内視鏡がなかったら、是非導入してもらおう、そういったモチベーションを持っていただくためにこの記事を書きました。