2013/07/09

ヨーグルトとぬか漬けと納豆

ビオスリー®という整腸剤があって、ラクトミン(乳酸菌)(Streptococcus faecalis) 酪酸菌(Clostridium butyricum) 糖化菌(Bacillus mesentericus)の3つより構成されている製品です。酪酸菌はミヤBMにも入っている。糖化菌は納豆菌と似ている。なんだか万能薬な気がするのでこれをメインで使っていますが、整腸剤っていうのは患者さんにより反応が違いますので注意を要しますので、用途によって使い分けます。(当院では使い分けるという意味で、プロバイオティクスを使い分けるのはIBDを良くみる一部の医師に限られると思います)

ところでヨーグルト全盛ですけれど、個人的にはヨーグルトを沢山食べている人の大腸は粘膜の洗浄が大変だったりしてあんまり好きではないのです。なんだかベタベタしていてそれを剥がすのが大変です。ビオスリー飲んでいるときれいなのだから、乳酸菌が悪いわけではないんでしょう。乳成分が悪さするのかどうか、わかりませんが、やはり乳成分のせいだと思っています。あくまで個人的な印象を述べただけですから責めないで下さいね。そういう印象を持つ人は500gとか平気で食べるんですから。そんなに山ほど沢山ヨーグルトを食べて大腸が健康になった気でいるのはどうかな、と思っています。牛乳を沢山飲んでいる方の腸はそういう印象はないので発酵産物の多糖類が大腸の粘膜に付着するとは思っています。それが健康に実は良いのかどうかはわからないのですが検査がしにくいのは事実なので、自分にあう整腸剤があったらそれを飲んでいる方が良いのでは?などと思ったりはします。

適当にいろいろな細菌が口から入れば良いと思います。(自然の中で生活をすると、土埃が口から入り、その中の土壌に含まれる真菌や細菌のLPSなどが腸を刺激して元気な体を作るんじゃないか説、も聞いたことがあります。LPSーリポポリサッカライドは、多すぎると非常に強い痛みを生じる刺激成分、あるいは毒にもなり、実験では白血球刺激に使うスーパー抗原なのですが、今は自然に触れない皆さんのためにLPSというサプリメントがあるほどです。なんとかキノコ、とか言ってるのは大抵これ系。でもLPSを売っている人はそんな背景は知らないで売っている、という印象があります。いつか大きな健康被害が起きるんじゃないかとハラハラします)

過度な発酵が起きないようにするのは咀嚼が最も重要だとは思っています。(食べ物を噛まないとガスが非常に多くなり不快の原因となります)あとは胃酸も大切で、胃酸である程度殺菌される事は腸内細菌の恒常性を保つには大切なのではなかろうかとも考えています。PPI(プロトンポンプ阻害薬という胃酸分泌抑制薬)を飲んでいる患者さんは胃酸が抑制され、腸の病気にかかりやすくなります。PPIが特に悪さをしやすい胃粘膜の萎縮が高度な患者さんではしたがって、便通の事をよく聞いていますけれど私の意図はわかっていただけていないと思います。(胃粘膜がO-3の時にはPPIを使ったときの副作用が多くなります。貧血、感染症など、そして非常に腸が張る、という主訴の方もおられます)

ヨーグルトは胃酸と混ざると相当失活すると考えられるので、例えば胃の通過時間が早いだろう飲むヨーグルトを勧めたりしていますし、食べるヨーグルトの場合も空腹だと胃内pHが低いから、少し食べてpHを上げてから召し上がってはどうか、と申し上げます。

乳酸菌は微好気性だからぬか漬けの場合、表面ではなく素材の中に染み込んでいるでしょう。だったら胃酸には簡単に触れず、死なずに腸に届きやすくてなおさら素晴らしいじゃないか。糠に付ける前に野菜を冷凍にして細胞壁破壊しておいたりするとどうなんでしょうか。もっと良いぬか漬けになる気がするのは私だけでしょうか。塩分は相当多いので万人向けではないのは確かです。
ぬか漬けには、混ぜる人の手に付いている常在菌が供給されますが、毎日ぬかに空気を混ぜて、塩分を濃くして、微好気状態にしておくと大腸菌とかウェルシュ菌は増えずに抑制されていて、うまく乳酸菌が増えてくる。おそらく混ぜる人のうんちの乳酸菌と同じ組成なわけでして、できることならばいいうんちを作っている人のぬか漬けが良いんじゃないかと思ったりします。

という話をしましたら、頭脳明晰で一番尊敬しているある先生が、「ああ、うちの商店街でめっちゃ売れてる八百屋さんのぬか漬けはたぶんそれだわ」と仰っておられました。

便の移植、っていうのはコアラがもともとやってまして親が子供に自分の糞をたべさせますし、C. difficileの治療のためにやりますが(Nature Medicineって雑誌にも出たみたい)、日本じゃもともと糠漬けを使ってやってたという事で、それと引き換えに高血圧になってしまったってことでしょうか。

ヨーグルトは自作するとどうかっていうと、どんどんコンタミネーションが起きて、素人さんが作っているとやがて大腸菌が増えてしまいます。まだカスピ海ヨーグルトの種菌が売っていなかった頃に、何年も継代した結果とんでもない状態になった自作ヨーグルトを飲んでおられた方がおられてびっくりしたことがあります。全くとろみがないそれはカスピ海ヨーグルトではないよ。大腸の中も偽膜のような物質だらけで大変でした。大腸検査の前には自作ヨーグルトはかなり長い期間禁止、としてやめていただいています。

納豆は大豆が原料、の発酵食品ですが、これもなかなかのもので、大豆が原料だから食物繊維の供給元にもなる。これも大発明ではないか、と思います。ちょっと理解が難しいのだけれど、通常はネバネバ成分(ムコ多糖類)っていうのはメタン産生菌なんかも出します。ネバネバが健康にいいとか嘘ばっかりなので注意したほうが良いです。納豆のネバネバは悪くはないと思うけれど、通常は腸内細菌のネバネバってのは悪玉菌が増えている証拠と解釈しています。お尻を拭いた時にネバつきがあったらそれは正常の細菌叢ではない、と。

あるジャングルハンターが納豆をそのまま熱帯雨林に持っていき、発酵しすぎてもはや納豆とは言えない腐臭を放つそれを少しだけ食べることで、感染症を予防しているという話をテレビでしていましたが、うーん、気付きはすごいけれど真似はできない、と思いました。

ヨーグルトをdisっているわけではないですが、なんでも食べ過ぎは良くないわけでして。
もちろんぬか漬けもその塩分量から敬遠されがちで、私も積極的には勧めません。
結局指導するのはなかなか大変で、「整腸剤出しときますねー」になってしまう。

だいたい清潔なものばかり食べ過ぎて、細菌が供給されていないというような問題もありまして、現代ではいかに腸内細菌の恒常性を保つかというのはなかなか重大な問題であるように思っておりますが、なかなか複雑で、またノーベル賞がもらえるわけでも儲かるわけでもない基礎研究にお金が回らないからそんなに進歩しているわけでもない。(お金がまわりはじめたので、そこそこいい加減な研究がめちゃくちゃでてきた2016年追記)そこにいい加減な連中がつけこみ易い隙が生まれています。

私も腸内細菌ネタは自分の飯の種であることは事実で、そういういい加減な連中の一人かもしれない。

あなたの街の商店街に、おなかのめっちゃ強い八百屋さんがおられて、その方がぬか漬けを作って売ってくれれば良いですね、という話です。

0 件のコメント:

コメントを投稿