エコーを勉強するときに、この肝臓の内部構造は均一だ、これは不均一だ、と例を示されるのですが、では実際の臨床ではどうか?というとこれが私の診断がGPTの数字と一致してくれない。
長年自分の観察眼はおかしいのではないか、と思っていたのですがある日「自分が正しいとしたらHBsAb、HBcAbが上昇しているかを見れば良いのではないか」と思い測定してみるとかなりの確率で陽性でした。HBsAgは陰性とされ今までの検査では引っかかっていなかったのです。この発想は化学療法中に再燃するB型肝炎にはHBsAg陰性で今までは既往とされていたものが含まれるので注意せよ、という警告が出た数年前に出てきたものです。私の目で見てこの肝臓はおかしい、肝炎後じゃないか、と感じた場合その中には相当数のB型肝炎の既往の方がいるという事がわかって長年の疑問は氷解しました。自分の目がおかしいわけではなかった。従来Chilaiditi症候群と名付けていた人の中にもそういう事例がありそうな印象がある。
それでも半数以上原因不明の不均一さ、萎縮の理由がわかりません。過去のアルコール摂取、薬剤性肝障害、A型肝炎、CMV肝炎なども考えられますが、ここで昨今の豚生ブームで話題になったE型肝炎を思い出しました。奇しくも海外の論文においても増加が指摘され注目されています。
生の肉はウイルスや原虫だらけと言ってよく、例えば妊娠中の女性が食べると深刻な影響を胎児に及ぼします。火が通っていれば安全かというと、調理場で清潔操作を知らない人が生肉を扱えば容易に野菜なども汚染されるわけで、教育がとても大切なのは言うまでもありません。
少なくとも過去の食文化的にはE型肝炎は堂々と調理場をすり抜けて相当数が感染している可能性があると考えました。トキソプラズマ抗体の陽性率と同じぐらい、と見積もって良いのかもしれません。(5.4%、という報告があります)
見過ごされていたE型肝炎ですが、全世界で見ると年間10万人が死亡し、肝炎中でもっとも死者が多い。特に妊婦は死亡率が高いのです。(参考文献)
<E型肝炎>(参考リンク:厚生労働省)
ジェノタイプ1、2:中国および極東に存在し、ヒトーヒトに感染する。
ジェノタイプ3,4:人畜共通感染症で多くの動物、特にブタに感染している。フランスでは肝臓を使ったソーセージで多くの感染者を出した事例があります。(参考)
感染経路は糞口感染でありA型肝炎と類似しています。野生のイノシシ、シカにも多いので山の川の水も安全とは言えないのです。東南アジアでは雨季に増加するとされます。(調査によればシカ、イノシシ、ウマ、ラット、マングース、牛、山羊、ネコから検出されています)
潜伏期間は14-50日とされます。経過はA型肝炎に類似。気づかない人も多いはずです。先ほどの日本の5.4%という報告の他に、アメリカの献血用の血液で抗体検査をすると陽性率が5-20%と、やはり高いことが示されています。畜産の盛んな中西部のいくつかの地域で高い陽性率を示しているとのこと。
日本では摂氏63度30分で失活とされ、アメリカでは60度1時間で1%のウイルスは感染能を有したままであり71度20分で失活する(Appl Environ Microbiol. 2012;78:5153-5159.)、とされており細かい表現の差が見られますが参考にして下さい。アメリカで売られる肝臓ソーセージの10%はE型肝炎ウイルスが検出されるとのこと。日本での豚生レバーも数%が陽性です。
また薬剤による肝障害として報告があった症例を検討するとその6分の1がE型肝炎であった、という報告もあることは注目すべきでしょう。(Gastroenterology. 2011;141:1665-1672)
E型肝炎は臓器移植において注目されます。ドナーの5%以上がE型肝炎ウイルスを肝臓、腎臓、膵臓に有する可能性があるほど広く行き渡ったウイルスですからそれがレシピエントへの感染の一経路となり得るからです。アメリカでは臓器移植後、あるいは免疫不全(非ホジキンリンパ腫でリツキシマブ投与中、あるいはHIV)の患者に慢性肝障害でのE型肝炎の報告があるそうです。
日本で出来る検査としてはIgA-HEV抗体(210点)があります。急性のNANBNC肝炎の39%がE型とされ、発症から5か月ほどは陽性になるはずなのでその診断補助に有効です。過去のE型肝炎感染を見るIgG-HEV抗体は保険での測定は出来ないようで残念です。しかし薬剤性肝障害とされる中にE型肝炎の再燃もある、との報告がありますのでIgG-HEV抗体も測定できるようになれば良いなと思います。ある程度高齢の特に男性では、生レバー食の経験があると考えて、その肝障害の原因のひとつとして考えておいたほうが良いかもしれません。
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