2015/03/08

大腸がん死は9割減らせる

便潜血検査がどうして寿命を延ばすかというと、

癌を診断しているからではなくて、ついでに見つかる大腸ポリープを切除して大腸がんを予防しているからだ、

とされています。むろんある程度の進行がんで見つかっても遅くはありませんが、知らずに予防されているという事です。

だったら便潜血検査の結果にかかわらず大腸内視鏡検査をすれば良いじゃないか、という話があるのは当然です。ところが面白いことに、大腸検査は受けたい人と受けたくない人が両極端で、医者としても困るのですね。そこでクリーブランドクリニックにおける大腸内視鏡検査を勧める文章を日本風にしてみました。


題して、

「大腸がん、七つの嘘」



1)「私は大腸がんにはならないと思う」


残念ながら大腸がんになる人のほとんどは明確なリスク因子のない人々です。大腸がある限り、あなたには大腸がんになる可能性があるのです。

2)「私はうんちで困ったことはないし、大腸がんではないと思う」


大腸がんのほとんどは大腸ポリープが成長したもので、大腸ポリープが症状を呈することはありません。ポリープは女性の15%、男性の25%に見つかります。大腸ポリープの切除は大腸がんを予防できることが証明されています。

3)「あの下剤はとても飲めない」


あなたが仰っている下剤が何のことかはわかりませんが、ご友人や世間から良くない、しかし根拠のない噂を聞いているのだとすれば残念です。下剤は極めてたくさんの種類がある上に進歩しており、また楽に飲める方法がたくさん開発されています。

4)「検査は信頼できないと聞いたことがある」


大腸検査は特に優れた医師に検査してもらわねばなりません。具体的には内視鏡専門医に受けるべきです。検査のQC(品質管理)を絶えず行っている医師を選ぶことです。(内視鏡専門医や、大腸肛門病学会専門医、あるいは自分の実績を公表している医師を選ぶ)

5)「大腸検査は痛いんでしょう?」


意識下鎮静により、99%の患者さんは痛みを感じません。むろんもっと深い鎮静を専門機関ではかけることすら可能です。日本は人口当たり、検査が上手な先生の数が圧倒的に世界一です。意識下鎮静をしない先生や、二酸化炭素内視鏡を導入していない先生がまだ多い事は残念ではあります。

6)「大腸検査は危険だ、穿孔が起きることもあるんでしょう?」


きちんとした医師の検査であれば穿孔は0.1%以下であり、出血は0.2%以下です。まずは上手な医師を探すことから、です。

7)「どうして私が大腸がんに?」


大腸がんが診断された患者さんの多くは、それが最初の大腸内視鏡検査です。だからまず最初の検査を勧めているのです。
50歳になったら大腸内視鏡検査をお受けになるのがよろしい。(異常なければその後は5ないし10年毎)
野菜やフルーツを食べ、太らないようにし、運動をし、喫煙しないことも大切です。





番外編

1)「私は定期的に大腸検査を受けていたのに大腸がんになってしまって悲しい」

残念ながら大腸がんの10%は大腸内視鏡検査で予防が出来ていません。現在は見落としが少なくなるような機器の開発が行われており、それらの人々をゼロに近づけるべく我々も努力しています。ただし十分な前処置が行われていない場合には1年後に再検査を受けるべきです。時折、前処置がおざなりな方(不真面目に検査を受ける患者さん)がおられますが、それは自分の体をいじめているのと同じことです。

2)「毎年検査を受けなさいと言われました」

特別な事情がない限りはもっと検査の間隔は開けて、ほかの患者さんが検査を受けられるようにしてあげるべきだと考えます。ところが日本では患者さんが上記のような例外を許さない、という風潮もあり医師側も例外に深く傷つく人が多いので欧米よりは頻回に検査が行われているというのが実情です。

3)「ポリープを残されてしまいました」

基本的に5mm以下のポリープは放置で構わないので安心してください。ただし欧米では検査間隔が5年10年、という事もあって、日本で行う検査の10倍ぐらいの値段ですが見つけたポリープを全部取る、という傾向があるのは事実です。しかし日本の医師のほうがはるかに沢山ポリープを見つけるのでどっちが良いとは言えません。日本でもそうした「トータルポリペクトミー」という考え方をする先生はおられます。

4)「大腸検査は儲かって良いですね」

わかってませんね。(溜息)アメリカの10分の1の費用で受けられるので海外からの患者さんも多いですし、風邪の診療の方が時間当たり稼げるってのが日本の保険診療の料金体系です。逆に高いとやぶ医者が増えると思うので、今安いのはしょうがないと思って上手い先生方はやってます。やむなく自由診療に移行してる先生も多いです。あるいは内視鏡しかしないセンター化です。何でも診られる医者なんてのは夢物語になりつつありますね。当院では採算性が悪い検査の一つです。

5)「鵜川医院は大腸検査をしないんですか?」

鵜川医院には鵜川医院の検査の限界があり、例えばポリペクトミー後の出血に対応できない場合があるなどの問題があります。(当院の患者は医者に気軽に相談する癖があるので出血していなくても結構電話がかかってきます。そういう対応に限界を感じているのは事実です)したがって当院で検査をして有益とは言えない患者さんには検査を上手な先生に紹介していますが、本来はその評価をし、適切な医療機関に紹介するべきは私の役目ではなくて、それぞれの患者さんの近所の主治医だというのが本音です。

6)「検査を受けてる受けてないで不公平じゃないですか」

その通り。アメリカでは例えば黒人に大腸がんが非常に多いわけですが、彼らが適切に大腸内視鏡検査を受けられないという社会的な問題があります。日本では40歳以上が本来は便潜血検査の対象者であるにも関わらず極めて受診率が低く、「見せかけの受診率を上げるため」に高齢者に集中的に便潜血検査を勧めたりする世代間の不平等が存在します。アメリカは受けたくても受けられない、日本は受けられるのに毛嫌いをする、そういう違いはありますがこの不平等を是正しないといけません。私も検査を人生で初めて受ける、という適齢期の患者さんには積極的に関与するようにしていますが、それは医療を平等にしたい、という思いからです。

7)「私は75を過ぎているからもう良いです」

そうした考えは尊重したいと考えます。むしろ75を過ぎているのに検査・検査と危険をかえりみずに検査を受けようとするほうが違和感を感じます。大腸内視鏡検査は抗凝固療法などがはじまって治療をするのに危険が伴うようになる「前」に終わらせておくべきじゃないか、とは思います。

8)「大腸内視鏡検査をしているのに、便潜血が引っかかったり、アミノインデックスで引っかかったり、腫瘍マーカーで引っかかったりする」

精密検査のあとにそういう精度の低い検査をお受けになるのは日本特有の問題で、その解決は学会などで行われるべきなんです。無駄な検査が増えるだけですので、本来は一律に健康診断が行われるべきではないと思います。将来の課題です。

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