診断学で最初に学ぶことは、頻度の高い疾患(common disease)から考えよ、決定樹(decision tree)を構成せよ、という事です。
例えば「お腹が痛い」「脇腹がいたい」といった患者さんの訴えがあるとします。
一番頻度が高い病気はなんなのでしょうか。
それは、
1)筋肉の痛み
2)軟骨の痛み
3)細い神経の痛み
それに匹敵するぐらい多いのは
4)内臓の筋肉の痛み
でしょうか。(当院調べ)
筋肉の痛みならばリンラキサーか何かを処方され、「一週間で治るでしょう」と説明されます。軟骨ならば、「あまり動かさなければ三週間かなあ」と説明されます。細い神経の痛みならば、「う〜ん、出たり出なかったりするかなあ。冷やさないでね。皮膚の発疹は見ておいてください」と説明されるのです。
内臓の筋肉っていうのは臓器も原因も多岐に渡るのですが、少なくともブスコパンは当院の薬局にはないのですよ。その原因を治療するからブスコパンはない。(ずるいんですが、チアトンはある)
これらのcommon diseaseの診断に、レントゲンは使えません、CTも使えません、MRIも使えません、エコーは多少役に立ちますけれども、血液では異常が出ないことが多い。common diseaseではなさそうだ、というときにレントゲン、CT、MRIなどが必要です。
うちに来る患者さんで多いストーリーは、
1)腹痛で受診し、レントゲンを撮った。
2)レントゲンで異常がないのでCTを撮った。
3)CT撮ればなんかおかしい所があったりするので、更に造影CT、MRIにまわされている。
4)それでもお腹の痛みが良くならない。胃と大腸は鵜川医院で受けたいので来ました。
ちょっと待て、と。common diseaseすっ飛ばしてるじゃない?
途中からどんどんぶれているので、また最初に戻って話を聞き始める。
だって、この方々は胃や腸の検査を受けて幸せになれるのでしょうか。
私はテレビは見ないのですが、世の中には色々な番組があって、ありふれた主訴からずいぶん珍しい病気を名医が当てるらしいじゃないですか。
私は珍しい病気は見つけられませんから、嫉妬でテレビは見ません。
でも危惧します。患者さんが心配性になったら困るじゃないですか。
(出来たらテレビ見ている人は来て欲しくないと思いますけれども無理ですし)
ですから、こんな話を必ず患者さんには最初にするのです。
「いいですか?あなたの症状を説明できる状態(あえて病気とは言いません。だって軟骨の痛みなんて、教科書にも載らないレベルの異常ですから)としては、筋肉の痛み、それから肋軟骨の痛み、あとは神経痛なんかがとても多いんですけれど、実はこういうのは色々な検査では写らないんです。CTとかMRIの分解能はせいぜい数mmですけれど、それ以下の小さな異常はわからないでしょう?蚊に刺された部分をCTで見つけられます?無理でしょう?細かくお話を聞くことと、診察でだいたい当たりをつけたら、エコーで確かめなくちゃいけないことを見ておいて、あとは症状経過を追ってみて、私の見立てがあってるかどうかを評価します。これがまず最初です。もちろんそうじゃない病気も私の頭の中では考えておきますが、特にあなたが心配している病気が今あるとすれば教えて下さい」
エコーは痛くないし、軟骨の異常は良くわかったりすることと、あとはフリーエアーとか腹腔内出血とか腹膜炎とか、これ誤診したら終わりだな〜っていう病気を除外するには最適なモダリティ(検査)で、私のdecision treeでは診察・尿検査の次に存在します。従って行う場合はありますが、それは病院などで行うエコーとは目的が全く別質だと思っています。「あ、エコーならドックで受けて異常がありません」などという患者さんは多いのですが、(ああ、私とはあわないなあ)と思います。
私が医者になってから「これは習わなかった」と思っている腹痛の原因として多いのは、
1)女性の肋軟骨の痛み:肋軟骨が石灰化してくる時期に痛むことが多いようです。
2)腸腰筋の筋肉痛。
3)筋肉が腸骨と付着している部分の痛み。
です。
珍しいけれど、静脈炎、なんていう病気もありますよ。
え?お腹に?と思うけれど、あります。
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