「胸焼け」が狭心症の一症状でもあるというお話だったと思います。
これは以前にも書いた(「復習とはメタデータ化」)のですが、メタデータが一人歩きするのがいかに良くないかという事を示した一例であろうと思いました。
みなさん、「胸焼け」という言葉を聞いてわかった気になってしまいませんか?
ある人が、「私、胸焼けがあるんです」と言ったとき、
「ああ、胸焼けね」と思ってしまうと思います。
特に最近では、アステラス、タケダ、エーザイが「逆流性食道炎」に関して熾烈なSEO対策を行っていて、毎週Google検索で一位が違うというほどです。広告に「胸焼け」という言葉があふれ、みなさんは「胸焼けってどういう感じ?」と理解出来ないまま一人歩きしている状態です。
例えば「胸焼け」をGoogle検索して2位になるこのサイトを見てみましょう。→こちらを参照
すると回答者も何もわかっていないのがわかるのです。
胸焼けは胃酸(塩酸)が食道に逆流してくるので炎症でそう感じます.
「胸焼け」とは、胸がジリジリ焼ける感じですかね。
「胸焼け」とは「通常、おなかの中央部辺りからのどの方に突き上げるような、焼ける感じを言います。人によっては、食道の下の辺りがジリジリする、圧迫感がある、胸がつかえる、などと訴えることもあります。こうした症状は、胃酸や、胆汁、膵(すい)液といった消化液の逆流によって起こるのです」
胸焼けは気持ちが悪くなって吐きそう(時には吐いてしまう)状態ですね胃の異常から起こるみたいです。
これらは2番目の答えをのぞけば症状と疾患とが結びついています。「症状と疾患は結びつけるべきでない」というのは医学の基本ですから、解答としては不正解です。
胸焼けは経験していない人にはわからないかもしれない抽象的な概念です。~でも、疾患と結びつけられればなんだか理解できたような感じ・・・それをメタ化と呼ぶならば、「胸焼け」という症状はすでに逆流性食道炎と結びついて完全に一人歩きしているように思います。
「胸焼け」と言った瞬間に誤診へと向かう可能性があるのです。
これには警告が必要です。症状と疾患を結びつけるべからず(メタデータにはするな)、という重要な問題を提起されたと理解しました。
さて、ここからは「胸焼けとは何か」について私なりに考えます。
ある研究で、すでに逆流性食道炎があると診断されている患者さんがどういうときに「胸焼け」(全員逆流性食道炎があるので、この胸焼けの中身はともかく全員に共通して理解されている概念と言える)と訴えるのだろうと調べました。
すると、
1)胃酸が逆流したときに感じた。
これは当たり前なのですが、
2)食道の筋肉が強く痙攣したときに感じた。
という事がわかりました。
その理由ですが、1)の胃酸を感じるのも、2)の筋収縮を感じるのも筋肉近傍に存在する同じカプサイシン受容体なのです。カプサイシン受容体は「痛みを頭に伝える」働きを持つのですが、どうもそれを「胸焼け」と人間は表現するらしい。
つまり、「胸焼け」と「痛み」とは同じ感覚らしいという事です。
狭心症は心筋に痛みを感じる病気なのですが、もしも胸部の痛みを「胸焼け」と感じてしまう人ならば、心臓が痛いという症状が「胸焼け」と表現されても矛盾はしないのです。
逆に狭心症と診断されていて、本当は胃酸の逆流であるという患者さんもいらっしゃるのでしょう。
私は病気について、特にコマーシャルを目的に情報が流布されるのを好みません。
それはメタ化であり、患者さんの真の症状をマスクし、時には有害であるからです。