メーカーさんがキャンペーンしてくれているせいで、混乱しています。
タケダ
エーザイ
アステラス
(以上、グーグルでの表示順)
何が混乱の元かというと、自分で検索して上記のサイトをきちんと読むならまだしも、テレビを見ただけの知識で友人に「あなた、それは逆流性食道炎よ」という人が多いからです。その結果不適切な医院へのかかり方をし、不適切な治療を受ける人が多い事。
もう一つは、治療を受けても患者満足度が案外低いこと。
当院は患者数が多いので、本当は癌なのに逆流性食道炎の薬を飲んで調子が良くなったから検査を受けず発見が遅れただとか、胃癌の手術後の2次性の逆流なのに胃酸分泌抑制薬しか処方されていなくてびっくり(あくまで消化剤、整腸剤が基本)、などという経験はいくらでもありますが、そもそもメーカーが売りたいほど薬は必要なの?と疑念を抱いているわけです。
正しく患者さんを誘導しているとはどうも思えません。
私は患者さんには二つのゴールを設定しています。(最初から当院にしかおかかりでない方にはこの説明はしません)
①胃の内容物(酸とは言いません)の逆流が少なくなる、あるいは無くなる事をゴールとする。
これにより、患者さんの言う逆流の症状は消えるはずです。本当のゴール。
②食道の炎症を無くす事をゴールとする。
医療者は食道狭窄、稀ですが食道癌を抑制するため、炎症をコントロールしたい場合がある。
上記にあげた3つのサイトはすべて胃酸分泌を抑制する薬品を作るメーカーです。
そして彼らの商品はそもそも②を目指したものです。ところが②を目指すと①の患者さんの多くは満足する場合が多い。その方が患者母集団は多いですからチャンスです。従ってコマーシャルでは①への効果を宣伝します。
でも、①の治療は本来は胃酸分泌抑制薬ではありませんよね。
例えばお母様の介護をしている方が患者さんとしていらしたのですが、この薬では症状が取れないと言います。なぜ取れないのでしょう。胃酸はコントロールされているのに、胃の内容物は逆流するからなのです。そして他院では治らないと言われたそうなのですが、果たして治らないのでしょうか。介護の場面ではぐっとお腹に力を入れて、身体を持ち上げたりすることが良くありますがそういう瞬間に逆流する事はありませんか?と聞いてみました。するとその通りだと仰るのです。従って、私は、「力を入れるときには息を必ず吐いてみて下さい」と指導したのです。
余談ですが、胃の内容物を逆流させなければ良い、という発想でガスモチン®というお薬を多用する先生がおられますがこれも患者満足度が非常に低い。便秘を考えていただくとわかりますが、便秘に対してコーラック®を使って満足する人はどのくらいいるでしょうか?一つの症状に対してやり方を一つしか用意していないのであればそれは未熟というものです。科学的な考え方の医師は、一つの症状、しかし病態が完全に明らかではないもの、に対して2-3の薬をランダムに投薬する、あるいは投与量を変化させる、という事を良く行います。その効果から実際の病態はなにか、を追求していくのです。一つの症状に対して一つの投薬を行う医師には成長はない。機能性疾患の治療のツボはまさにこの点にあると考えます。
もう一つ余談ですが、呼吸器専門医が胃を見もせずに「咳」の治療にPPIを投与している例が散見されますがこれも困ります。食道のpHを推測することもなしにPPIを投与し、その結果として胃の中で雑菌が繁殖して病態を悪化させる、あるいは鉄欠乏となり消耗する、あるいはタンパク漏出のような強い炎症が起きてしまう、という事を観察します。PPIには肺炎を少なくする、というデータと共に多くする、というデータもあるのです。食道pHモニタが面倒で、内視鏡もやりたくない、あるいは全身状態が悪すぎて内視鏡が出来ないならば医師が自腹を切りペプシノーゲン検査をする選択肢もあって病態が推測できます。I/II比が5以下でPPIをファーストチョイスとするのはちょっとまって欲しい、と思います。(しかし萎縮があってピロリ陽性でも平気でPPIを処方する消化器内科医はまだ多いと思う)
患者さんの問診では基本的なライフスタイルを必ず聞きますが、介護、などというキーワードは大変に重要です。おしゃべりかどうか、などというのも大変重要です。
そうしたライフスタイルに少し介入して、気の利いた指導が出来るかどうか臨床医は試されています。
私にとって基本的なゴールは②です。Los Angeles 分類で Grade B, C, Dに関しては症状がなくてもコントロールしておかないと10年後には悪化していく事実を多数経験しています。(狭窄やバレット食道、あるいは癌)
まだまだわからない事が多いこの病気ですが、老犬の食道などを拝見する(日大獣医学部の亘敏広教授に見学させていただきました)と人間よりもはるかに炎症が強く、「ああ、人間はまだましだね」と思うので、そんなに焦らずやっていこうと思います。
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