2010/05/13

がん告知の時に、開業医として気をつけている事

当院では年間100例程度のがん(大腸・胃・食道・甲状腺・乳・膵臓・肝臓・胆管・胆嚢・腎臓・膀胱など種々の)を診断しますが、全員に告知するわけではなく、病院の先生にお任せすることも多くあります。がんと確定できない場合が多いからです。
ただ、告知しない場合でもその後を考えて配慮をせねばならないと考えています。

国立がんセンターには、がん告知マニュアルが公開されています。<参照リンク>

当たり前すぎるのか、<がんの告知の目的>が漠然としているように思います。
私が理解するがんの告知とはすなわち、患者さんが種々の先入観を乗り越えて正しい知識を獲得し、病気を理解する第一歩を手助けするものであり、極論すればノイローゼにならぬように上手に病気の事を伝える行為、です。

ここで、がん告知マニュアルに対応して、我々開業医ができることは何か、を書いておこうと思います。

まず、マニュアルには「初診から治療開始までできるだけ同じ医師が担当」と書いてあります。
我々開業医は、病院に紹介するときにおそらくこの先生が治療して下さるだろうという予測をして紹介状を書くべきです。
大変困るのは、病院がそういうシステムではなく、大学病院に多いのですが初診医だけが違うという場合がかなりあることです。そこで患者さんには、(紹介先の病院によって説明は変えますが)二回目に受診なさるのが専門の先生だと思いますよ、と伝える事も多くあります。時々病院の初診医の意見に患者さんが戸惑うこともあります。その時には我々がサポートにまわり、患者さんが持つあらゆる疑問を適確に次の医師に伝えられるように援助したり、あるいは直接我々が疑問に答えたりします。

「初対面の時から一貫して真実を述べることを心がける」と書いてあります。失敗例を述べます。例えばあるがん専門病院で、我々が「胃がんのうたがい」と紹介したのを、写真を一見して「悪性リンパ腫」と患者さんには説明したという事がありました。組織検査の結果、それは大変珍しいタイプの胃がんで悪性リンパ腫ではなかったのです。それがきっかけで患者さんとの信頼関係が崩れてしまい転院してしまったという事がありました。経験が豊富な専門医であるほど推測を事実として話してしまいかねない、自分でも陥る可能性がる失敗で気を引き締めたという事がありました。先入観でものを言ってはなりません。また患者さんの受け取り方はそれぞれです。事実を伝えるにせよ、患者さんの性格、知識、状態を考慮すべきであることは言うまでもありません。その点で開業医はできることが多くあります。背景をよく知っているからこそ、できる配慮があるからです。

他院での告知でショックを受ける場合もあるでしょうから、紹介状を書いたらそれで終わりではなく、「何かあったら相談するように」と伝えるようにしています。患者さんが受けたショックが単に勘違いであることもよくあります。開業医の役割は大きいと感じています。

「患者は医師に対して遠慮があり、場合によっては恐れを抱くこともある」とあるのはその通りだと思います。だからこそ我々開業医の活躍の場があります。友達の友達はみな友達だ、とタモリさんも仰ってます。我々のところに親しい先生方から紹介された患者さん達は、非常にリラックスされています。私が紹介する先生方も、なるべく普段から知っている先生方を紹介するようにしています。むろん何度も紹介しているうちにお知り合いになった先生方も多くおられます。治療方針がつかめている、腕がわかっている、そうと知ってか患者さんも安心しています。ご近所の先生方におかかりの患者さん達の診断をすることも多いわけですけれど、こうしたときにも患者さんと医師とが確実に結びついているという安心感からか、非常にコミュニケーションがスムーズに行えます。つながりは、いつもとても大切です。ただし、患者さんの中にはリラックスしすぎているか、勘違いして自分の状態を報告せず、「わかってくれているはずだ」などと言ってふんぞりかえっている人がおりますが、これはコミュニケーション力が足りません。あくまでもつながりは心理的な事でありまして、実際の病状や情報に関してはご本人が理解していないことには始まりません。

さて、今日の本題なのですけれど、これが極めて重要なことであります。

「症状とがん」ということについてです。
実は、進行がんの一部を除けば、がんには症状はありません。

症状があって我々の医院を受診し、あるいは紹介されて受診した場合に検査をして、がんらしきものが見つかったとします。この時に、「症状があって受診して、がんらしきものが見つかったのだけれどこれは全くの偶然であり、実は症状とがんは関係ないことなのだ」という事を上手に説明すべきです。

「胃がチクチクした」と言って受診され、幸い早期がんがあった。その時、上の説明がなければどうでしょう。
治療でせっかく治ったのに、あとになって「胃がチクチクしたので再発したのではないか」と心配するのです。

100%治るがんの時は告知は適当でいいのか?いいえ、そんなことは絶対にありません。
100%治るからこそ、がんノイローゼになったときにご本人は大変不幸です。

告知というと、進行がんの告知ばかりイメージするかもしれません。実際がん専門病院で行われる告知は治療を前向きに行っていくための大切な第一歩だと思います。しかし、世の中には大して治療が必要ないがんも相当数あるわけで、その時に「症状とがんは関係ないよ」と説明するだけでずいぶんとノイローゼの人が減るように思うのですが、どうでしょう。

当院はがんサバイバーの方が多く受診なさっておられ、みなさんの普段の心配事を拝聴する機会が多いのですが、こういう感想を持っています。前回ののどの違和感の話もそうですが、「どうして痛みなどの症状が出たのか」を上手に説明すると、このような迷いは減るように思います。むろんおまじない的な説明も多いわけですが、おまじないが切れたらまた受診すればいいのです。これも開業医だから出来ること、だと思います。


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