2009/02/09

ウルトラCの処方

肝血管腫が消えてしまった話を書こうと思いましたが、思い出したことがあるのでウルトラCだと思った処方の事を書きます。

逆流性食道炎があるのに主治医からブスコパンを処方されている患者さんが居たのです。当然逆に増悪するだろうと考えて質問すると患者さんは「効果はある」と言います。この時に思い出したのは東海大学の元教授である三輪剛先生が以前仰っていた話です。(三輪先生じゃないかもしれません。間違えていたらごめんなさい)
「あの、ブスコパンっていう薬はあんまり効かないんですよ」
「ブスコパンは、注射は良いんだけど、経口だと非常に吸収が悪いので、蠕動は全く止まらない。でもね、なんか良い感じに胃の幽門が開くんですよ。だから胃の痛みが取れるんじゃないかな」

なるほどなあとこの時は納得していたのです。しかしその後さらにこんな事実を知ったのです。
「胸焼け症状は下部食道括約筋の痙攣である」という論文がある事を兵庫医大教授であるもうひとりの三輪先生、三輪洋人先生が講演で仰っておられたのです。

これを聞いたときに私は逆流性食道炎を完全に理解したと思いました。つじつまが合う症例を沢山経験していたからです。

痙攣を抑制する事が実はブスコパンが効く理由なのでしょうか。しかし先程経口ではあまりブスコパンは吸収されないと聞いたばかりです。

ブスコパンがLESの痙攣に対して効果がある、あるいは幽門を開くことによって逆流を防ぐ、果たしてどちらが本当なのでしょう。(ブスコパン同様の効果があるハーブとしてミントがあります。ミントは胸焼け、腹痛、下痢などに効果があります。平滑筋のカルシウムチャンネルを直接阻害するようです。故黒坂先生からいただいたペパーミントオイルを胃の蠕動抑制に使っていたことは以前に書いたかもしれません。これについての論文は癌研病院の比企先生がお書きになっています)

一方、内視鏡の時にブスコパンやアトロピンを投与すると、下部食道括約筋(LES)はどうなるでしょうか。どうも単純にLES圧が低下するわけではないような印象を得ています。(単純にブスコパンでLESが弛緩するわけではない)

矛盾するようないくつかの事象が存在しますが、少なくともその患者さんにとってブスコパンが効く事は真実です。常識をうち破るウルトラCの処方だと感動した覚えがあります。

以来、逆流性食道炎にはPPIという古くさい考えは捨てました。
逆流性食道炎らしい患者さんを拝見したときに、それこそ何百通りもの処方が可能ですが、イマジネーションを働かせて働かせて、自分なりの知恵をふり絞ります。

それでもまだ、ブスコパンを処方する勇気は私にはありません。

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