2009/02/04

内視鏡時の反射抑制に鎮咳剤は使えるか

ツムラ麦門冬湯の添付文書を読んでいたところ、サブスタンスPに基づく咳反射を抑制と書いてあった。

誤嚥しやすい患者さんに、唐がらしのカプサイシンを含んだ飴であるとか、胡椒を口に含んでいただくとサブスタンスPが増加し咽頭反射が出やすくなる。そのことにより誤嚥性肺炎を予防できるという。

降圧薬であるACE阻害薬はサブスタンスPを増加させるため咳反射が出現することが良く知られているがこれも却って誤嚥性肺炎の予防になるので投与を推奨する先生もおられる。私も好きだ。

ACE阻害薬発売当初、麦門冬湯を一緒に処方したこともあった事を思い出した。



内視鏡検査のときに、日本人は非常に受容性が高くほとんど反射が出ないことと、誤嚥性肺炎が起きやすいこととは恐らく関係があろう。

反射が強い人は記録を取っているけれど、以下のような特徴があろうか。

1) 萎縮がない(GERDやDUもそう)>萎縮がある
2) 香辛料を使う>香辛料は使わない
 (ただし香辛料は全くだめ、苦手、という人は反射が強い)
3) 年齢が低い>年齢が高い

1)は酸がカプサイシン受容体を経由してサブスタンスPを増加させたり、炎症により過敏になっている可能性を考える。
2)は興味深く、最初中国人や韓国人の患者さんが非常に多くの鎮静剤を必要とすることから気付いたもの。香辛料を料理に使わない人ほど、受容性が高いような印象を持つ。
これはもともとサブスタンスPが高いため香辛料の刺激を許容できないと考える。
同じアジア人でも韓国や中国など香辛料を使う国の人ほど反射が強いのは、サブスタンスPが多く発現しているからではなかろうか。ただし全く香辛料を受付ないという人々はサブスタンスPが多いらしくて反射は強いようだ。
3)これは当然か。

関係ないがシンメトレルもドパミン経由でサブスタンスPを上昇させるから、反射が強くなるのだろうか。

喫煙者では反射が低下し、肺炎が重篤になることが多い。非メンソール系のタバコを吸っている人々は内視鏡の受容性が高い。

一方咳反射のため普通のタバコは吸えない人がいる。ところが彼らはメンソールのタバコを吸う事はできる。これが大いに問題で、風邪をひいていてもタバコをやめないものだから気管支炎や肺炎となり重篤化する症例を、当院は消化器科であるにもかかわらず毎年数例経験する。メンソールのタバコを吸っている人は真に要注意なのである。メンソール系のタバコを吸っている人々は内視鏡の受容性は低い可能性があるし、実際低い印象だ。



さて内視鏡検査の話。
当院は内視鏡の際に鎮静剤を使ってしまうからもともと反射とはあまり縁がない。一方経鼻内視鏡はひたすら反射を抑制するニーズから導入されているものである。しかし経鼻内視鏡にも限界がある事は間違いがなく、例えば表面麻酔薬であるキシロカインにも使用には許容量が定められているし、8%キシロカインスプレーにはアルコールが含まれているから禁忌となる人もいるだろう。大体味が良くないし。内視鏡の苦痛を抑える方法は他にないのか。

内視鏡が苦しい、という人々は「若い」「萎縮が少ない」など胃癌低リスクな人が多いのだけれど例外的に萎縮性胃炎が強いのに、あるいは喫煙者なのに、あるいは老人なのに反射が強い人々がいて難渋する場合がある。こうした背景を持つ人々は本来反射がなくて、鎮静剤を使わない内視鏡への受容性が高い。これらはイコール胃癌ハイリスクグループなのであるけれど、内視鏡を大抵は嫌がらずに受ける。だからこそ胃癌はちゃんと早期発見されてきたし、日本で鎮静剤を使わない内視鏡が問題視されなかった理由の一つだろうと思う。しかし例外的に反射が強い人々がいて内視鏡をどうしても受けられないために胃癌を見つけるチャンスを逃したり、反射が強いために噴門部の癌が見つからなかったりするのは気の毒だ。この人々は鎮静剤さえ使わなければ楽なのではないかと当院に訪れるわけだけれどももともと呼吸状態が悪かったり肥満が極端だったりあまりに高齢だったりして遠慮なく鎮静剤が使えるというわけではないのだ。「しょうがない」のではあるけれども、誰も解決しようとはおそらくしない取り残された人々に何かアプローチ出来ないだろうか。そうでないと自分の精神も安定しないわけである。



さてそこでやっと本題なのだけれど、このサブスタンスPを低下させる鎮咳剤を内視鏡の際に前処置として使うことは許容されるかどうかと言う事である。具体的な方法としては麦門冬湯でうがいをしてもらうとか、麦門冬湯を固めた氷をなめてもらうとか、のどあめも良いのかもしれないし、龍角散はどうかはわからないけれど効く可能性だってある。コデインだって効くのだろう、使う気はしないけれど。キシロカインに替わる麦門冬湯ゼリーなんてものが発売される事だって、将来ありえるかもしれない。

ベンゾジアゼピンだけでは反射が強い患者にオピオイドを臨床医は使うでしょう?あれはまさにこの原理の応用である。

そもそもなぜ麦門冬湯の添付文書を読んだのかと言うと、パーキンソニズムの人に使っても良いのかどうかを確認したかったからだ。サブスタンスPは抑制しても、ドーパミンを抑制するわけじゃなさそうなので使っても良いのだろうと言うのが結論だ。

2 件のコメント:

  1. アプレピタントは咳反射など運動系には影響しないのか
    今更なのか気になりました.

    返信削除
  2. アプレピタントは、そういえば誤嚥性肺炎が増加する可能性はあると思いますけれど、患者さんのQOLが優先なのでしょうね・・・。コメントありがとうございます。

    返信削除