2015/03/17

胃弱

自分は胃弱という言葉が好きではないし、
消化の良いものが胃に良い、という考え方も好きではない。

患者さんには申し訳ないが、

ピロリ菌がいないきれいな粘膜で、びらんも何もない、
そういう人が「自分、胃が弱いんですよ」とアピールしていることが多分にあって、

その時に、「強いか弱いかで言ったら、あなたの胃はうんと強い」と否定してしまう。




胃弱、という言葉の捉え方、理解の仕方は人により違う。
まずはそれを聞き出すことが最初だ。




「どうして胃が弱いと表現するのか」と聞いてみる。

すると、
・脂っこいものを受け付けない
・すぐにお腹がいっぱいになる
・食べるとお腹が痛くなる
・食べたら下痢をする
・食欲が出ない

というような答えがあって多様だという事がわかる。



それらは
・胃酸が出すぎたり胃の動きが悪い
・胃の受け入れ反射が出にくい
・食べた直後に過蠕動が生じている
・食べた後の胃-結腸反射が過剰に起きている
・空腹感がない

などをそれぞれ示している。ピロリ菌がいない人は一様に胃酸が多いので、これは症状に修飾を加えている。




さて、我々(父と私)は、これに対して「消化の良いものを食べる」ことを絶対に推奨しない。


なぜならば、足が疲れた、と言って休んでいる人に、ず~~~~っと一生休んでいただいたらそのまま歩けなくなるからだ。しっかりと食べる、を基本としています。



ただし、「胃弱」と訴える人、特に私にではなく友人に自分が「胃弱」だと訴える人はそれがアイデンティティになっている事があるから、そっとしておきます。




胃弱だ胃弱だと言っている人の中には、クローン、ベーチェット、サルコイドーシス、アミロイドーシス、消化性潰瘍、セリアック・スプルー、microscopic colitis、食物アレルギー、慢性膵炎、胆道ディスキネジア、膵胆管合流異常症、胃癌などが隠れている場合が当然あって、内視鏡だけじゃわかりませんから、むしろ内視鏡だけじゃないクリニックにかかって欲しいです。

「専門医マニア」は長生きするのだろうか

患者さんが医者を選んで自由に受診することが本当に患者さんのためになっているのだろうかと疑問に感じることが毎日何度もあります。


頭はここ、甲状腺はここ、心臓はここで、胃腸は鵜川医院。


(じゃあ例えば風邪がひどくなったらどこに相談するの?近所に)


こんな受診あり得ないと自分なら思います。


考えてみてください。


クァルテットという演奏形態がありますが、あれは演奏者全員の息の合わせ方も大切でしょうし、暗にリーダーが決まっているのではないかと思います。全く知らない者同士が即興で演奏するのは楽しいでしょうが、医療が楽しいだけで良いのでしょうか?


患者さん自身が優れた指揮者であるならいざ知らず(見たことありません)、てんでばらばらの一流の演奏家を集めて一体何をしたいのか。


どうしても全体を見渡す指揮者、あるいはマネージャーのような働きをする人が必要じゃないでしょうか。


そもそも「専門医マニア」というのは、要求が高すぎる事が多いのです。なにか幻想を追い求めている。なのでそういう方々のマネジメントの担い手というのは実はなかなか現れないでしょう。結局のところ、幸せな最後を迎えられないのではないか、と危惧する。


お前は内視鏡だけやってりゃいいんだ的な事をはっきり仰る患者さんもおられるのですが、それならば内視鏡センターに勤めていると思います。患者さんによりよく介入したいわけで。


このブログの読者はGoogleさんによるとお若くて20-30歳代が多いから先に申し上げておきますが、「専門医マニア」は損をするだけですからやめておいた方が良い。なにか体調が不良だ、という場合には「プライマリケア」という考えがしっかりできて、それを実践している医師にかかるのが良いのです。ちょっとマニアックな医者の調べ方ですが、例えばプライマリケア学会の会員の先生を選ぶなどすると良いのではないでしょうか。


以下妄想


未来には、かかりつけ医という考え方も早々に消える可能性があります。今後日本のシステムはかなり変わっていくでしょう。自由に医師を選ぶことが出来なくなるかもしれません。しかしそれを嘆く必要はありません。
自分はICTに体調管理をある程度任せる時代になる準備がはじまっていると思います。体重、体温、加速度、脈拍、血圧、呼吸数、発汗、尿、場合によっては微弱な電流(心電図、脳波、筋電図など)、飲食したもの、アルコール、たばこ、こうしたログで精神疾患を含むほとんどの体の異変はチェックする事が可能です。


今までは医者にはかかる、という考えだったと思いますが、「必要時に介入してくる」という役割に変化してくる可能性があると思います。インターネットにおけるpush技術と似ています。


push技術が疎まれているのと同様に、そこには「管理される」という自由のなさがあって、代わりに危険ドラッグだとか、アルコール多飲やたばこのない未来があって、まるでSFみたいなのですが、おそらく「特区」みたいに、希望する人しない人が分かれていくのかもしれません。良く分かりませんが。

2015/03/15

SPICY TUNA ROLL SAKURA STYLE

唐突にレシピを書きますが、アカウントを乗っ取られたわけではありません。自分にとっては大切で当たり前な味がインターネットを探しても見当たらないという事が良くありますが、同意してくれる人を探そうというささやかな試みです。


アメリカと寿司

アメリカ人は「黒い食べ物」を忌避する傾向があります。キャビアやトリュフ、イカ墨スパゲティは非常に特殊な例外でそもそもほとんど食べません。日本では非常に一般的な海苔、すなわち Seaweed を食べる事に非常に抵抗を感じる人が多いのです。日本の子供は概して海苔が大好きで、おやつにも食べたりしますがそれを見ると「うへえ、まじかよ」とアメリカ人は必ず言います。アメリカの寿司が裏巻きになっていてご飯が表になっているのはそういう意味があります。黒を見せないためです。
しかし宗教が混ぜこぜになっているアメリカではシーフードはおもてなしの料理として大変便利であり、いろいろ食べ物に関する戒律の厳しいユダヤ人も気にせず食べられる寿司は逆に相当値段が張るだけに接待に使えるしヘルシーだし、という事で現在に至っています。
アメリカにはアメリカの食材を使った多様な寿司があり、楽しみがあります。ニューヨークロールというのは日本ではまず手に入らないキングサーモンの皮を香ばしく炙ってきゅうりやいりごまと共に巻いたものでそれはそれは美味しいものですが、食べられるお店は多くはないようです。

Spicy Tuna Roll Recipe
スパイシーツナロールは、カリフォルニアロールと同じぐらいポピュラーなアメリカンスタイル寿司のひとつです。甘い、辛い、酸っぱい、が一体となった味です。生の魚と調味料を直接混ぜてしまう手法は日本では「たたき」「なめろう」というような料理に見られますが、辛み成分として生姜と山葵は使われていても唐辛子は使われません。アメリカでは唐辛子のほうがむしろポピュラーな調味料ですからそのレシピの誕生も不思議ではありません。お店によって主に油脂(マヨネーズを含む)の量が違い、それが少なければ冷たく冴えた、多ければマイルドな味わいになります。一般に油脂を少なくする方が味の調節は難しく、高級な寿司店に行くほどごまかしの効かない冴えた味のそれが供されると考えると良いでしょう。
ミシガン州NOVIにあった桜レストランのレシピが好きで、それを今日はご紹介します。少し油は多めにしています。

Prep time(調理時間)
15 mins

Ingredients(材料)
まぐろ300g程度
シラチャーソース 大さじ2
マヨネーズ 大さじ1-2
とびこ 大さじ4
のり
ごはん
註:とびこの代わりにゴマ、ゴマ油、ネギを入れるレシピが一般的ですが、絶対とびこの方が美味しいです。

Instructions(作り方)
1)シラチャーソースを買います。なかなか売っていないのです。タイでもアメリカでも割合ポピュラーな調味料で、コチュジャンと味が似ています。もう少し軽快でピリッと辛みが効いた味です。ケチャップと混ぜるとシーフードのカクテルのソースになります。


2)キューピーマヨネーズを買います。アメリカにもキューピーマヨネーズのファンが一定数いるのですが、酸味が効いているからなのでしょうか。(日本では逆にアメリカのクリーミーなマヨネーズを懐かしむ人がいます。アメリカのマヨネーズはバターのかわりにサンドイッチによく使います)これは2015年バージョンの瓶です。未です。かわいいです。


3)とびこを用意します。非常に立派なとびこです。もっと粒が小さいほうがアメリカっぽいのですが。


4)まぐろはさいの目に切ります。妊婦の方は水銀の摂りすぎに注意が必要です。また最近養殖マグロで、養殖ヒラメ同様にクドアによる食中毒が発生しています。避けようがないので、妊婦さんは生の食材は肉も魚も避けなければならない、という事です。


5)材料をあわせます。


6)のりで巻いて完成です。ちょっとマヨネーズが多かったか。





アメリカンスタイルの寿司ではとびこが活躍します。アメリカでは今グルテンフリーの食事も流行しています。グルテンフリーとなると醤油もだめなのです。したがってこのような醤油を使わない寿司のレシピは非常に受けが良いのではないかと思います。(ただしとびこは醤油漬けになっているものがあって注意が必要だと思います

(キューピーマヨネーズが完全にグルテンフリーなのかどうかは調べられませんでした。他の多くのマヨネーズはグルテンフリーです)

たまり醤油は小麦を使っていないため、アメリカではかなりブームになっていると聞いています。

2015/03/08

大腸がん死は9割減らせる

便潜血検査がどうして寿命を延ばすかというと、

癌を診断しているからではなくて、ついでに見つかる大腸ポリープを切除して大腸がんを予防しているからだ、

とされています。むろんある程度の進行がんで見つかっても遅くはありませんが、知らずに予防されているという事です。

だったら便潜血検査の結果にかかわらず大腸内視鏡検査をすれば良いじゃないか、という話があるのは当然です。ところが面白いことに、大腸検査は受けたい人と受けたくない人が両極端で、医者としても困るのですね。そこでクリーブランドクリニックにおける大腸内視鏡検査を勧める文章を日本風にしてみました。


題して、

「大腸がん、七つの嘘」



1)「私は大腸がんにはならないと思う」


残念ながら大腸がんになる人のほとんどは明確なリスク因子のない人々です。大腸がある限り、あなたには大腸がんになる可能性があるのです。

2)「私はうんちで困ったことはないし、大腸がんではないと思う」


大腸がんのほとんどは大腸ポリープが成長したもので、大腸ポリープが症状を呈することはありません。ポリープは女性の15%、男性の25%に見つかります。大腸ポリープの切除は大腸がんを予防できることが証明されています。

3)「あの下剤はとても飲めない」


あなたが仰っている下剤が何のことかはわかりませんが、ご友人や世間から良くない、しかし根拠のない噂を聞いているのだとすれば残念です。下剤は極めてたくさんの種類がある上に進歩しており、また楽に飲める方法がたくさん開発されています。

4)「検査は信頼できないと聞いたことがある」


大腸検査は特に優れた医師に検査してもらわねばなりません。具体的には内視鏡専門医に受けるべきです。検査のQC(品質管理)を絶えず行っている医師を選ぶことです。(内視鏡専門医や、大腸肛門病学会専門医、あるいは自分の実績を公表している医師を選ぶ)

5)「大腸検査は痛いんでしょう?」


意識下鎮静により、99%の患者さんは痛みを感じません。むろんもっと深い鎮静を専門機関ではかけることすら可能です。日本は人口当たり、検査が上手な先生の数が圧倒的に世界一です。意識下鎮静をしない先生や、二酸化炭素内視鏡を導入していない先生がまだ多い事は残念ではあります。

6)「大腸検査は危険だ、穿孔が起きることもあるんでしょう?」


きちんとした医師の検査であれば穿孔は0.1%以下であり、出血は0.2%以下です。まずは上手な医師を探すことから、です。

7)「どうして私が大腸がんに?」


大腸がんが診断された患者さんの多くは、それが最初の大腸内視鏡検査です。だからまず最初の検査を勧めているのです。
50歳になったら大腸内視鏡検査をお受けになるのがよろしい。(異常なければその後は5ないし10年毎)
野菜やフルーツを食べ、太らないようにし、運動をし、喫煙しないことも大切です。





番外編

1)「私は定期的に大腸検査を受けていたのに大腸がんになってしまって悲しい」

残念ながら大腸がんの10%は大腸内視鏡検査で予防が出来ていません。現在は見落としが少なくなるような機器の開発が行われており、それらの人々をゼロに近づけるべく我々も努力しています。ただし十分な前処置が行われていない場合には1年後に再検査を受けるべきです。時折、前処置がおざなりな方(不真面目に検査を受ける患者さん)がおられますが、それは自分の体をいじめているのと同じことです。

2)「毎年検査を受けなさいと言われました」

特別な事情がない限りはもっと検査の間隔は開けて、ほかの患者さんが検査を受けられるようにしてあげるべきだと考えます。ところが日本では患者さんが上記のような例外を許さない、という風潮もあり医師側も例外に深く傷つく人が多いので欧米よりは頻回に検査が行われているというのが実情です。

3)「ポリープを残されてしまいました」

基本的に5mm以下のポリープは放置で構わないので安心してください。ただし欧米では検査間隔が5年10年、という事もあって、日本で行う検査の10倍ぐらいの値段ですが見つけたポリープを全部取る、という傾向があるのは事実です。しかし日本の医師のほうがはるかに沢山ポリープを見つけるのでどっちが良いとは言えません。日本でもそうした「トータルポリペクトミー」という考え方をする先生はおられます。

4)「大腸検査は儲かって良いですね」

わかってませんね。(溜息)アメリカの10分の1の費用で受けられるので海外からの患者さんも多いですし、風邪の診療の方が時間当たり稼げるってのが日本の保険診療の料金体系です。逆に高いとやぶ医者が増えると思うので、今安いのはしょうがないと思って上手い先生方はやってます。やむなく自由診療に移行してる先生も多いです。あるいは内視鏡しかしないセンター化です。何でも診られる医者なんてのは夢物語になりつつありますね。当院では採算性が悪い検査の一つです。

5)「鵜川医院は大腸検査をしないんですか?」

鵜川医院には鵜川医院の検査の限界があり、例えばポリペクトミー後の出血に対応できない場合があるなどの問題があります。(当院の患者は医者に気軽に相談する癖があるので出血していなくても結構電話がかかってきます。そういう対応に限界を感じているのは事実です)したがって当院で検査をして有益とは言えない患者さんには検査を上手な先生に紹介していますが、本来はその評価をし、適切な医療機関に紹介するべきは私の役目ではなくて、それぞれの患者さんの近所の主治医だというのが本音です。

6)「検査を受けてる受けてないで不公平じゃないですか」

その通り。アメリカでは例えば黒人に大腸がんが非常に多いわけですが、彼らが適切に大腸内視鏡検査を受けられないという社会的な問題があります。日本では40歳以上が本来は便潜血検査の対象者であるにも関わらず極めて受診率が低く、「見せかけの受診率を上げるため」に高齢者に集中的に便潜血検査を勧めたりする世代間の不平等が存在します。アメリカは受けたくても受けられない、日本は受けられるのに毛嫌いをする、そういう違いはありますがこの不平等を是正しないといけません。私も検査を人生で初めて受ける、という適齢期の患者さんには積極的に関与するようにしていますが、それは医療を平等にしたい、という思いからです。

7)「私は75を過ぎているからもう良いです」

そうした考えは尊重したいと考えます。むしろ75を過ぎているのに検査・検査と危険をかえりみずに検査を受けようとするほうが違和感を感じます。大腸内視鏡検査は抗凝固療法などがはじまって治療をするのに危険が伴うようになる「前」に終わらせておくべきじゃないか、とは思います。

8)「大腸内視鏡検査をしているのに、便潜血が引っかかったり、アミノインデックスで引っかかったり、腫瘍マーカーで引っかかったりする」

精密検査のあとにそういう精度の低い検査をお受けになるのは日本特有の問題で、その解決は学会などで行われるべきなんです。無駄な検査が増えるだけですので、本来は一律に健康診断が行われるべきではないと思います。将来の課題です。