2014/04/08

機能性ディスペプシア fuctional dyspepsia 周辺の情報収集

主観的な検査(内視鏡とエコー)を利用して機能を見る、という点で10年20年の蓄積がある当方は、所謂「機能性ディスペプシア」の多様性と病態を多少は良く理解しているつもりでおりますが、だからこそブログには書いたことはありません。理解されるどころかますます混乱させるからです。しかし、議論が最近まとまってきた(つまり自分たちが持っていたアイディアもほぼ海外で認識されるようになってきた)と思うので少しまとめてみようと思いました。


定義:Rome III参照

疫学:西洋社会の20-25%の人々はディスペプシア様症状を訴える。そのうち25%(55歳以上)には何らかの疾患が見つかり、75%には異常がなく機能性ディスペプシアと言われる。海外では55歳未満の場合にはいろいろな検査はあんまりしないのが日本とは違う。

病態の理解:1)運動の異常、2)神経の過敏性、3)感染症、4)精神疾患の存在

検査:検査で器質的疾患を除外する。

治療:古典的にはPPI、H2RA、三環系抗うつ薬、メトクロプラミド

さて……こういう命に関わらない分野で、しかも患者数が莫大に多いわけで、一攫千金を狙いたいのはわかる。花粉症とか高脂血症とか逆流性食道炎のように当てたいことでしょう。便秘もだけれど。ブレイクスルーはありませんが、それでもなお、一発当てようとする企業が後を絶たないのはしょうがない事ですね。しかし今のところは万能薬というのはない。ないのはどういうことかよく考えてみよう。病態の理解が間違っているか、病態が多彩か、どちらかしかないでしょう。

Recognizing Comorbid Functional GI Disorders

消化管機能異常は併存する場合が多いという記事(当たり前なんだけど)
便秘型過敏性腸症候群の人はGERD(25-50%)とFD(30-60%)を併存しやすい。
慢性便秘の人はGERD(30-40%)とFD(40-50%)を併存しやすい。
では逆にGERDの人はどうかというと、10-20%が便秘型過敏性腸症候群、30-40%が慢性便秘を併発している。これ臨床やってる自分からすると当たり前な事なんですが、日本でちゃんとこういう指導している先生が実に少ないと嘆いている部分。いいぞもっとやれ。

Dietary Proteins and Functional Gastrointestinal Disorders

蛋白質と機能性ディスペプシア、という議論。

グルテンと牛乳に関する過敏性、という視点です。腹が張る、腹が張る、という人の中には過敏性が原因という方が少数いるはずです。(欧米では数%ぐらいだそう)しかし小麦、グルテンのようにすでに原因の検索方法が確立されているならともかく、未知の食材に対してアプローチしていくのは大変医療側が支払うコストが高くて放置されているのが現状なのかもしれません。スプルーにまでなっても日本では診断されていないケースがあります。

Can Pancreatic Enzymes Be Used to Treat Indigestion?

膵酵素は治療薬として使えるのか、という議論。

酵素薬の歴史は古く、2005年~2010年にかけてFDAでは再評価がすすみ、認可されたものはアメリカではCreon®, Pancreaze®, Pertzye™, Ultresa™, Viokace™, Zenpep®, and Pancrelipase™ 5000の7種類。

当方もまとめています。至適pHを考えているという点ではまだ私の方にアドバンテージがあるようです。Viokace以外はすべて腸溶錠なんですね。しかもViokaceはPPIと使わないといけないという罠。これらはむしろIBS向きの治療薬ですし、酵素剤はスピードが命なのでこいつら何にもわかってない、という印象があります。フリーズドライ大根おろしでも作って西洋で売ればバカ売れしますよ。その方が効きますからね。


なるほどこの論文があるからモサプリドを使うのか。
胃が痛い人に他院でモサプリドを使うともっと痛くなる人がいるわけです。で、当院の患者が増えて私が過労になり辛いです。内視鏡をすると前庭部びらんがひどいわけです。本郷先生は先に胃にはびらんがないよ、ってのをちゃんと見ているわけですからね?使うなら先にびらんがないのは確認するか、使って増悪するならすぐやめてください。(製薬会社の売り方がまずいと思う)ノロウイルス感染症に出すなんかもっての外で、吐き気止め代わりにモサプリド使わないでくださいと声を大にして言いたい。(びらんが無い方では確かにモサプリドは効きますし、精神疾患のある方でも有効だと思っています)テプレノンは不思議な薬です。免疫を調節する作用があるのか(肺がんの化学療法時の間質性肺炎に予防的に働くとか)一部の患者さんに極めて効くというか、依存的になっている人すらおられて興味を持っています。IgG関連の腸管アレルギーをテプレノンが調節するのであればつじつまが合うのですよね。ディスペプシアの原因の一部にはアレルギーが関与すると言われているのですから、無視してはならない薬剤でしょう。あるいは胃の粘液分泌能に影響を与え、過敏性を調節するとかでしょうか。


ディスペプシアが寿命に影響を与えるか。答えはNo。
QOLは下げる、QOLは下げる、と良く言うのですけれどね。明らかに寿命に影響するQOLの低さというのを臨床では経験しますが、なかなか難しい指標です。


機能性ディスペプシアでの精神科的アプローチ。
誘因として身体的精神的ストレス、犯罪被害がある、うつなど精神病の併存、過敏性の存在、向精神薬は効果が認められている事。
認知行動療法っていうのでしょうか、消化器内科医が自然に行っているカウンセリング的なものはごく一部で、こうしてまとまると、なかなか長大で大変なものですね。精神科すごいわ。



集め出すときりがないわけですが、これがおまんまの種であります。
で、つきつめていくと、最大公約数的な治療では有効なものがない、というのが今までの結論で、そして器質的な疾患がないとされている中にも実はアレルギーや神経伝達物質の異常などが関与するケースがありそうだという事がわかりますね。それをどう評価していくか、背景をどう分類していくか、この煩雑で膨大な仕事は自動化せねばなりませんから、結局みなさんのライフログをどうとるか、が鍵になります。
じゃあ、それをどうする、ということを日夜考えているわけですね。




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