嘔吐をしたときに、運悪く胃の入り口の粘膜が裂けてかなり出血することがあり、それをマロリーワイス症候群と言います。ものすごくたくさん出血することが稀にあって、その場合は頻脈になって血圧が下がりますが、たいてい酒を飲んでいる患者さんが多いために酒のために頻脈になって血圧が下がっているのか良く分からない場合も。
多くの患者さんはちょろっと出血しただけでびっくりして来院されますが、幸いほとんどは血がにじみ出ただけで、粘膜が裂けてはいません。とはいえ、ブールハーヴェ症候群(突発性食道破裂)という怖い病気になることもたまにありますから、出血したらやはり来院して下さい。(黒色便が出た場合もです:ついでにいうと黒色便は必ず柔らかいです)
叔父のDr. Choichi Sugawa (Wayne State University)から教わったのが、
「マロリーワイスも、嘔吐によるgastric congestion(胃粘膜のうっ血・・・これが出血の原因になります)も、ほぼ必ず前壁側に出来る」
という事で、これは目から鱗でした。
以後、ずっと観察していますが例外がほとんどありません。必ず前壁側、あるいは小彎前壁側です。例外があったらむしろ原因を突き止めて症例報告すべきです。Dr. Sugawaの気付きは、Urban hospital(都会の病院)のER(救命センター)で緊急内視鏡を長年行っている豊富な経験によるものなのでしょう。感心します。
検査中、稀に患者さんに嘔吐反射が起こると急いで食道胃接合部を観察しますと確かに前壁が食道内に入り込む様子が観察され、なるほどこうしてマロリーワイス症候群が形成されるのだと納得します。(これをmushroomingと呼ぶのだそうです。形がマッシュルームみたいだから)
その教示は以下のような結論も当然私に与えてくれます。
患者さんでいわゆる「吐き癖」がある人もつまり簡単にわかるのです。
穹窿部前壁にgastric congestionがあれば、その人は嘔吐が癖になっているのです。
摂食障害などでこうした所見は無視してはなりません。あるいはアルコール依存などで。
これは教科書には書いていないかも知れないので、覚えておきましょう。
嘔吐と似た生理に反芻(はんすう)があります。反芻はしかし、機序が全く違うようです。(前回書きましたっけ?)
最近示唆を与えてくれる症例があり、勉強になりました。
いっしょにしてはなりません。
マロリーワイス症候群から話が横にずれてしまいました。
ちょっとした病気から、胃の生理を学ぶたくさんのヒントがある。
経験豊富な名手のヒントには沢山の宝が隠されている。という話です。
話を元に戻しますが、マロリーワイス症候群が疑われた場合に、患者さんに嘔吐反射を起こしてしまうような挿入をするのはナンセンスです。鎮静剤を使えば良いと言うものではありません。治療にクリップを使用する可能性がありますし、もともと出血している場合、経鼻内視鏡の適応はありません。結局は鎮静剤を使った上に丁寧で安楽な挿入をしなければならないという事です。
鎮静剤を使えば良いや、ではなく普段からそういうつもり(絶対に反射を起こさない)で精進しなさいね、という話を研修の先生にはしています。
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