2010/02/16

和訳は難しい

例:Taking the Campaign to Primary Care Practices in the United States

案:キャンペーンをプライマリ・ケア・プラクティスにつれていくこと、米国内で。

アメリカにはプライマリ・ケアというのがあります。プライマリ・ケアというのは医療費抑制のために考えられたひとつの方法で、人々すべてがかかりつけ医を持って、何か病気になったときにプライマリ・ケア医が振り分けるというシステムです。これにより、気軽に高度な医療は受けられなくなるので医療費が抑制出来るのです。これは時々不評です。プライマリ・ケア医は収入が相対的に低いという理由で、なり手が少ないので減少傾向にあります。一般的になり手が少ない市場ではその実力について標準偏差が大きくなります。実力がピンからキリなのでそれに対する人々の文句が出やすいと言う特徴があります。また、本当に迅速な対応が必要な場合でも医療に時間がかかってしまうと言う欠点があります。それらの因子を差し引いてもなお、プライマリ・ケアが医療費抑制に果たす役割は大きいだろうと米国医療は考えていると思います。これは一般医療のトリアージのようなものですが、米国は近い将来それを機械化するだろうと思います。同じ方法をとると日本の開業医は壊滅的な打撃を受けると反応する人がいるかもしれません。しかし現在先進国の現状を見ていると予防医療に医師が関わるほど余裕がなくなってきているのが実情です。将来の機械化に向けて今は情報を収集すべき時期、つまりプライマリ・ケアを実践する数十年を機械化のための本格的な研究にあてるつもりなのではないかと私は考えています。

という背景を考えて、この見出しを翻訳します。
practiceは、ここでは医療と翻訳するのが良いだろうと思います。アメリカの医療でprivate practiceと言いますと「開業」を表します。「(医師)個人の医療」だから「開業」です。ただ、アメリカではオフィスは固定じゃないのです。大きな病院内でも患者さんを個人的に診るので、開業という訳語を当てるのは時によりおかしいかもしれません。primary care practiceは、プライマリ・ケア医療という翻訳とします。primary careは、日本のかかりつけ医療とはそもそもの発想が違います。日本では内科以外の開業医も乱立しているのですが、時々患者を異なる科同士で奪いあうことが許されます。そういうシステムではそもそもかかりつけという発想自体機能しません。それからアメリカの場合、医者余りと言うのがかつて深刻だったという背景があります。食うに困った医者がプライマリ・ケアに従事して~というピラミッドが形成しやすかったわけです。今日本では開業医はなんと勤務医よりも収入があると言います。全然ピラミッドじゃありません。それでプライマリ・ケアをせよというと、医療費はどんどん膨らむことになりかねません。したがって、primary careはプライマリ・ケアであり、日本のかかりつけ医療とは、医療内容は同じでも区別せねばならないと考えました。日本ではprimary careに相当する医療の一部を自治体の健康管理課が行ったり保健所が行ったりします。これらが本当に効率的かどうかはさておき、アメリカのプライマリ・ケアの発想とオーバーラップする部分があり、日本の低い医療費に貢献してきたのでしょう。さて次、campainという英語に、適当な日本語訳はあるのでしょうか。これが非常に困ってしまいます。プライマリ・ケアをカタカナにしてしまったので、これをキャンペーンと翻訳するのは頭が悪いと思われかねません。おそらく学者さんがいつも行っている政治的な動きの事をキャンペーンと言っているのだと理解は出来るのですが、うまい日本語が浮かばないのです。take campain toですから、そのキャンペーンをプライマリ・ケアに持っていくとか、それに向けさせるというような意味なのだと思います。これは見出しだからしょうがなく逐語翻訳は諦めることにします。それでも日本語が浮かばない時に、堀口大學ってすごいなあと思うわけです。自分が記者ならどういう見出しにしようかと考えます。the United Statesは合衆国だけれど、これは米国で良いとして、「米国のプライマリ・ケアに向けたキャンペーン」とかいう翻訳しか思い浮かびません。これだけ考えてこんな日本語訳かよ、と自分にがっかりするわけです。

米国のプライマリ・ケア医療にテコ入れ、とか、そういう意味なんだとは思うのですが。専門家よりtakingを提起すると翻訳すれば良いのではとアドバイスをいただきました。「米国のプライマリ・ケア医療強化を提起」とかそういう翻訳ですと内容と合致するし、堅さもちょうど良いでしょうか。





At the conference, proponents of colonoscopy and its virtual counterpart, computed tomography (CT) colonography, promoted these two options, despite the fact that achieving high rates of screening solely with colonoscopy or CT colonography appears unlikely given the current lack of capacity and number of trained providers.

なんて全然英語がわかりません。
これ、なんとなく大腸内視鏡とCTコロノグラフィーを否定したいんだとはわかるのです。
大腸内視鏡は米国内で急速に普及してるのですが、メディケア(高齢者医療)でこうした高額(日本じゃ1万6千円ですが、アメリカでは15万~30万円ぐらいかかる)な検査を気軽にされてはたまったものじゃないのです。むろんメディケアだって病院と交渉して値切ってはいるはずですが。それに高齢者に検査を行うと合併症も多くなります。癌を予防できたとして平均寿命まであとわずかです。対費用効果だけを考えても確かに微妙なのです。日本の大腸内視鏡のように激安ではないからです。患者さんへのメリットという面でも微妙です。むろん彼らは二重盲検による比較試験がないから、という理由で現在は、そして将来も否定をします。ただ背景には普及が不可能な検査をスクリーニングとして認めることに対する危惧があるのは事実でしょう。それを考えて翻訳をしてみます。
At the conference, は「同会議では」と訳しました。theは「同」としました。前の文章を受けているから。proponentsは日本でいうと、「内視鏡派」とか「バリウム派」とか、それを応援する先生方の事だと思います。ここでは「支持者」とか「推薦者」あたりにしようかと。colonoscopy and its virtual counterpartは、どうでしょう。CT colonographyは日本ではバーチャル内視鏡とかバーチャルコロノスコピーとも呼ばれていて、検査の内容としては大腸の内腔を見ると言う意味で同義の検査です。counterpartはよく似たものという意味だから、its virtual counterpartはやっぱりバーチャルコロノスコピーをちょっと華麗に言い表してみたって感じなんでしょうね。じゃあ和訳も華麗に言い表さなくちゃって事になります。でも堀口大學ではないので、「バーチャルな同等手段である」とかいう日本語しか思い浮かびません。
proponents promoted these two options, despite --ということなので、「なんか不利な条件」をものともしないでこの連中はこの検査をぐいぐい宣伝した~っていう意味なのだとはわかります。じゃあその不利な条件ってなんでしょう。
despite the fact that achieving high rates of screening solely with colonoscopy or CT colonography appears unlikely given the current lack of capacity and number of trained providers.
これがよくわかんないので、
the fact that___ appears unlikely given the ___
とする。
だいたいgivenの品詞はなんなのか、高校のときによく勉強すりゃわかったんでしょうが、今じゃ「英文法精解」も絶版になっちゃって売ってないわけです。あと、アメリカ人はlikelyとunlikelyが好きですね。未だにピンと来ない英語です。しょうがないから、the current lack of capacity and number of trained providers.を先に訳すとします。lack of はcapacity とnumberにかかると思います。で、trained providersは専門医とか翻訳したいところですがそれは控えて「訓練された医療提供者」とします。専門医とか他の専門資格は扱いが微妙です。the current lackなんですから、アメリカではこれらの欠如がすでに既知の問題なんでしょう。「キャパシティと訓練された医療提供者の不足」と暫定的にしておきます。
次にgivenなんですが、これ、わかんない。だから取り敢えず訳さない。先に___ appears unlikely ___を考える。appearsは自動詞だからここで先に achieving high rates of screening solely with colonoscopy or CT colonography を翻訳すると、「大腸内視鏡あるいはCTコロノグラフィーそれぞれの検診率が高くなっている事」となります。これは現在のアメリカの現状だと思います。それがappearしてきたと。でそれらはthatに内包されるわけで、それがthe factになるのでしょう。すると文章の構造は、the fact unlikely given ___みたいになる。「大腸内視鏡あるいはCTコロノグラフィーそれぞれの検診率が高くなってきた事実」は、unlikely given 「施設と訓練された医療提供者の不足」って事になります。要するに二つの事実は矛盾するって事はわかります。でも、givenがまだわからない。しょうがないから、ここで私は一瞬気を失う事にして、この訳語が出てきました。考えてもわからないもん。
「同会議では、大腸内視鏡検査と、バーチャルな同等手段であるCTコロノグラフィの支持者は内視鏡あるいはCTコロノグラフィーそれぞれの検診の高受診率の達成が訓練された医療提供者の数や容量の現状での欠如をとうてい説明するものではないと言う事実もかかわらず、両選択肢を推奨した」
まあこれなら日本語として通るかなあと。

これも専門家から助言があって、会議では大腸内視鏡検査と、CTコロノグラフィー(バーチャル内視鏡)の専門家達が、実際には施設の容量や専門家の不足にもかかわらずそれらの受診率の成績がすでに上がっている事実をよそに、さらに積極的にこれら二つのオプションを奨励したという方が流れが良いかも知れないと言うことで、私もそう思いました。(2010/2/19追記しました)

despite the fact ___ unlikely given the lack ___
否定的な意味が二つ重なると流れがとても難しくなってこんがらがるのですが、聞いてなるほどなあと思った次第。


そういう苦労をしながら、NCI Cancer Bulletinは翻訳されています。
英文法精解を高校時代に買っておけば良かったと、本当に後悔しています。

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