2009/02/06

絶食と胆泥

胆泥の出来ている人があまり食べないと思われる食べ物の一例
素人さん向けに注釈:「胆汁」という消化液を濃縮して溜めておく「胆嚢」という臓器がある。胆嚢が長時間収縮する機会がないと胆汁がどんどん濃縮され、結晶化してしまう。これが胆泥である)

親戚が急性膵炎になってしまい、一週間程度の絶食が必要であった。そして退院した後も厳しく脂肪が制限された。軽い膵炎だったようで、CTやエコーでは変化はなかったようだが、退院後のチェックアップの意味もあり腹部超音波検査をしてみると胆嚢が緊満し、胆泥で満たされていたため驚くと同時に妙に納得してしまった。ずっと胆嚢が収縮する機会がなかったのであれば、当然の事であろう。(「お、言われた通りまじめに治療していたな?」と思ったのである)

そういえば、胆泥/胆石が出来る患者さんといえば、
1) 胃の術後・・・胆嚢が動かないから胆石が出来る
2) 糖尿病・・・自律神経障害+食事制限で胆嚢が動かないから胆石が出来る
3) やせた人・・・きっと食事を抜くのだろうし、脂肪も食べないのだろう。だから胆嚢が動かず胆石が出来る。
4) 太った人・・・古典的にはコレステロールリッチな食事をしている人には胆石が出来やすいとされている。(胆汁内のコレステロールもリッチになり結晶になりやすいから?)
と相場が決まっている。
家族歴も重要である。

このうち3)は胆嚢ポリープにも関わっているような気がする。胆嚢ポリープが出来ている人も、胆泥がある人も、たいていは「朝食を食べない」「食事を抜いても平気」「すぐ飽きるけどダイエットが好き」などのライフスタイルが共通するような印象を持っているし、肺炎をして2週間入院していた、などの病歴が直前にある事も多い。胆泥はコレステロールの細かい結晶で、これが壁面に付着しそれが核となって結晶が大きくなってくると胆嚢ポリープと呼ばれるのだろう。

だいたい、私自身が食事は抜いても全然平気、やせていて、でもコレステロールリッチな食事も好きと来ているから、胆嚢ポリープが出来るのも当然なのである。

胆泥はうまく胆嚢が収縮すれば自然に消える場合もあるけれど、そのまま結晶が成長して胆石になってしまうこともある。こうした細かい胆石がある時に、リンゴを毎日一個食べて2週間ぐらいしたらオリーブオイルを250ccほど飲めば全部消えてしまうと、昔ランセットで読んだことがある。リンゴに入っているリンゴ酸はウルソデオキシコール酸(UDCA)の様にふるまい、コレステロールの結晶を溶かしてくれるのだろう。素人が浅はかな知識で考案したダイエットは嫌いだけれど、リンゴダイエットが流行したときには、少なくとも胆石が出来ないダイエットだから、だまっていた。他のダイエットは胆泥やら胆石が出来る可能性がゼロではないので、実際プロスペクティブに観察してみたいものである。
胆石を溶かすといえば、細胞保存にも用いるDMSOをカテラン針で直接胆嚢に注射、というような論文を見たことがある。あっという間に溶けるのだろうけれど・・・自分には出来ません。

そういえば某高齢医師は粗食を勧めているが、なぜオリーブオイル30ccを毎朝飲むのか、「健康に良い」というだけで根拠を説明していなかったはずである。むろん必須脂肪酸の補給という意味もあろう。ご本人は気づいているのか知らないが、これは胆嚢を収縮させるためでもある。粗食には胆石が合併症としてつきものだけれど、それを予防するのである。30ccはなんとなく飲むのがはばかられると、それを嫌がってオリーブオイル以外を真似する素人がいるが、それは問題だと思う。

繰り返すけれど、多くのダイエットプログラムは種々の健康障害を生む。胆石は代表選手のひとつであるので留意しておいたほうが良い。

ちなみに親戚にはUDCA(商品名はウルソ)を投与したところ胆泥は溶解した。
膵炎で食事制限をするのは良いが、病態生理をよく考慮したほうが良い。もともと胆石性の膵炎だった場合にはそれほど変化をしない場合もあるし、人によっては急に胆石を形成し逆にこれが新たな膵炎のきっかけとなることさえあるのだ。

(2015/12/04追記)
抗生物質のセフトリアキソン(商品名ロセフィン)の副作用で偽胆石、というのが報告されていると教えていただきました。胆汁排泄されたセフトリアキソンがカルシウム塩を作るのだそうです。(胆汁中にカルシウムが多いのはイヌの胆石についてコメント欄において読者の方とのメッセージのやりとりがありますからなんとなくわかると思います)初期にしっかり胆嚢を収縮させれば可逆的だろうと思われます。
他に薬剤で胆石のリスクを上昇させるのはピル(可能性のみで疫学的には証明されていない)、クロフィブラート、オクトレオチド。肝動注化学療法は胆のう炎のリスク。エリスロマイシンとアンピシリンも胆のう炎を起こすことがあるようです。(Drug-Induced Gallbladder Disease, Drug Safety, January 1992, Volume 7, Issue 1, pp 32-45

(201/02/23追記)
リバーフラッシュというのがあるらしいけれど、あれは本当に胆石を排出させているわけではない一種のまやかしだということは化学がわかる人なら理解はできますね?^^
むしろ憩室がある人には危険なのでは?

19 件のコメント:

  1. こんにちは。
    胆嚢摘出してから約2年、胆泥ができて悩んでいる者です。
    リンゴ情報はとてもうれしかったです。
    ウルソを飲み始めてから、1か所だった胆泥がもう1か所に出来ていて、ショックを受けました。
    近々、実践してみたいと思います。
    かな

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  2. かなさま
    胆嚢摘出すると胆泥がたまらないと思うのですが、まだ少し胆嚢が残っているのでしょうか。ウルソを飲んでも胆嚢内に循環せねば効果はないと思いますが、逆にそのような機能不全の胆嚢では胆石発作は出にくいので、心配しなくても良いのでは?とも思います。

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  3. 失礼ながら・・・
    我が家のわんこの胆泥を調べていたら
    ヒットしました( ̄▽ ̄;)
    人間とは違うかもですが。。。
    ウルソを内服してます。
    胆泥が減った⇒ALP、肝機能の値は上昇
    胆泥が増えた⇒上記項目が下降・・・
    比例してくれないので??になってたところです。
    ごはんも病院から勧められた低脂肪食。
    間食は、野菜のゆでたやつ。1日1回です。
    この低脂肪のごはんが怪しいのか。。。と思い
    自分で作ろうかなぁ。。。と思ってたところなのです。
    【りんご】
    試してみようかなぁと思います。

    ほんと、わんこのことで失礼しました・・・

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  4. minaさま、
    胆泥が減る=胆泥が排出された=総胆管の中を胆泥が通って排泄される=詰まりが一時的に発生する=総胆管内の圧力上昇=ALP上昇=ALPは半減期が長いのでゆっくり低下=次に胆泥がたまる時期まで持続的に下がり続ける
    の繰り返しだろうと思います。
    低脂肪すぎますと、当然胆泥はたまるのですが、次の発作が怖いから…と尻込みする場合がほとんどではないかと。ただ、ウルソを飲み続けている場合には脂肪制限はそのメリットを消すのではないかとも思っております。細かい観察の繰り返しによって方針を決定していきます。

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  5. 以前コメントさせていただきました。
    その後、りんごとオリーブオイルチャレンジしていますが
    効果がみられません。。。残念。
    最近は、わんこの胆泥や胆石が多いらしく
    以前に比べてググるといろいろ情報は出てくるのですが
    治療方針についてはこれといって進化したものがありません。
    そこで、新しい情報で
    人間の場合の胆泥や胆石は、コレステロールが結晶化したものが多いのに比べて
    犬の場合、ほとんどがカルシウム塩だという情報がありました。
    ウルソを内服することや低脂肪のごはんにすること
    このカルシウム塩にも効果があるのかなぁ。。。と疑問に思いまして・・・
    だから、ウルソ内服してても効果が現れないのかなぁって。
    じつは、先日の超音波の検査で胆泥から胆石に移行してたんです。
    お薬きちんと飲ませてたし、ごはんも指導された療養食なのに
    ちょっとショックで・・・
    なにかいい方法はないかなぁ。。。とまたお邪魔しちゃいました。
    アドバイス、ありましたらよろしくお願いします。

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  6. minaさま

    おつかれさまでございます。ちょっと調べてみました。
    http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC423302/
    犬の胆石は胆汁が炭酸カルシウムで過飽和状態になっている
    とあって、なるほどと思いました。

    治療方針としては内服で溶かすというのは無理だという印象です。ウルソはあまり意味がないのでは。ただ、コレステロール成分自体は溶けていて、胆泥からカルシウム塩に変化してきたのでしょう。
    コレステロールならば、上にかいたDMSOの注射で溶けますが、カルシウムですと無理でしょう。

    人間の場合、私はウルソは1ヶ月で効果がなければやめます。そして発作が起きた既往があれば基本的には胆嚢摘出術、ハイリスクで無理であり、しかも発作が起きそうな…という場合にはコスパノン処方です。

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    1. おつかれさまです!
      わざわざ調べていただき恐縮です。
      やっぱりウルソ効果ないと思いますか?
      ってことは、りんごとオリーブオイルの効果も
      期待できないってことですよねぇ・・・
      まだ動物の方では治療が確立されていないって
      感じなんでしょうか。。。
      獣医さんは、ほとんどウルソ内服させて低脂肪の食事指導です。

      うちの場合、ウルソを内服して1ヶ月どころじゃなく
      効果がないんじゃないかっていうのは最初の2ヶ月めくらいに
      担当医に話して1度やめたいと言ったこともありましたが
      勧められて内服してる状態です。
      小さな反抗で、勧められた低脂肪のごはんをやめて
      【胆汁のうっ滞の仔におすすめ】
      という療養食に変えて様子をみています(笑)

      摘出術も視野に入れたいところですが
      弁膜閉鎖不全の疾患があり、ちょっとおじいちゃんです(笑)
      麻酔に耐えられるかが微妙な年頃でもあり躊躇しています。

      胆嚢の発作は今のところみられてません。

      【コスパノン】も試してみたいですよね・・・
      『ほかに薬ないですか?』
      って聞いてみようかなぁ。。。

      ありがとうございました。

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    2. 人間でもそうですが、ウルソが効く状況は限定されていると思います。ウルソは現在ではPBCという病気の治療に不可欠な存在ですし大切な薬ではありますけれども、胆石に対する治療薬としてはどうかなー、と思います。
      手術が難しいからウルソなのだろうとはお話の流れからわかるわけですが、それでしたら胆嚢が収縮しないようにコスパノンでしのいでおく、というのが人間でするべき方法だと思います。(ブスコパンとかチアトンではだめです。人間ではコスパノンが選択性が高いからこれオンリー)

      動物と人間との医療、というのはかなり哲学が異なるかもしれません。
      獣医さんと良好なコミュニケーションをとっていただくことも大切ですよね。
      獣医さんを僕からみるとスーパー人間です。なんでも良く知っておられる。
      なにを優先するかで、また治療法がかわってくるかもしれません。

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    3. お忙しい中、わんこのことなのにありがとうございます。
      もちろん!かかりつけ医とは密に相談もし言いたいことは
      言い合ってるつもりです。
      獣医さんは、内科外科とか専門ではなく全体に看てくれるので
      大変だと思います。
      人間とも微妙に違うところもあり・・・(貧血はヘマトクリットで判断するのです!人間はヘモグロビンですよね)
      勉強にもなります。

      が、うちのドクターはりんご作戦で胆泥や胆石を崩し
      そのあとオリーブオイルで流し出すのを信じてやみません。
      油(オリーブオイル)が入ると胆嚢は収縮するとかで
      それで流れれば・・・
      って先日話してました。。。うーん・・・
      いちばんいいのはカルシウム塩を溶かしてくれるのがあれば
      いいんですけどねぇ・・・

      【なにを優先するか・・・】
      その通りですね。
      胆泥と胆石を排除することばっかり考えてて大切なことを
      忘れてました。
      この部分を次回の診察の時に話し合ってみたいと思います。
      いちばん大切なことですよね。
      気づかせていただきありがとうございます。

      こんな発見も第三者に相談してこそですね・・・
      感謝です!!

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    4. 手術はされない、というストーリーのようでしたから老犬ではあるまいか、と想像していたわけです。
      であれば、よりよい人生が送れるようにサポートしてあげたい、と考えますよね。したがって人間の場合で言えば食事制限よりはコスパノン、と考えて投与するわけです。犬と人間で薬理作用がどう違うかなど、当方は存じ上げないので申し訳ありません。

      炭酸カルシウムを溶かすアイディアについては、胆汁を酸性に傾けるような薬があるのかどうかを探さねばなりませんね。胆汁排泄で、無害で、なおかつ酸性。見つかったら、Lancet(超有名医学誌)ぐらいには載るのではないかと思いますが大変興味深いテーマだと思います。胆嚢に二酸化炭素を送り込んで水酸化カルシウムにして溶かす、などという妄想もしましたが、全身麻酔を強いるのでやはり無理、と思いました。

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    5. お疲れさまです。
      本日、診察日だったので担当医と話し合いしてきました。
      やっぱりカルシウム塩に効果がある薬はないというこで
      でも、ウルソを内服するという目的は・・・
      コレステロールとカルシウムの2層になってた場合
      コレステロールだけでも除去できれば大きさも少し
      変わってくるかもということで。
      1ヶ月に1回超音波で胆泥&胆石の様子をみてるので
      これは、もう摘出しなきゃヤバイとわかるというので
      その状態になったら、心臓の方の担当医に手術が耐えられるか
      聞いてみてみようということでした。
      とりあえず、来週心臓の方の診察日なので今現在は
      耐えられるのかどうかを聞いてくるということになりました。
      うまく、カルシウムのたまり具合いが遅くなってくれれば
      いいのですが・・・といったところでしょうか。
      なるべくなら、開腹せず人生(犬生)を終わらせてあげたいな
      って言うのが飼い主の本音です。
      胆汁排泄で、無害で、なおかつ酸性・・・
      できるといいなぁ・・・

      いろいろとアドバイス、ありがとうございました。

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    6. minaさま

      私も開腹せずに、、、という意見に同意します。
      人間の場合ですが、小さくならずとも私は落ち込みません。「大きくなってしまえば、はまりこまないんじゃないか?」という発想をするのです。
      なんでも前向きにとらえることは可能です。

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  7. はじめまして。いきなりで申し訳ないのですが、先日、がんドックで、胆嚢に軽度の異常が見つかり胆嚢腺筋腫症という疾患名がつきました。経過観察になりましたが不安です。自分は痩せ型であり朝食はコーヒーのみの食生活を長年続けてきたため、このブログを読んでハッとさせられたのですが自分の場合、三食しっかり食べた方がいいのでしょうか?またりんごとオリーブオイルをやる方がいいのでしょうか?

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    1. 胆嚢腺筋腫症は上記のエントリーでは取り扱っておりませんが、どのような点が不安なのか、もう一度整理してみることをおすすめいたします。あまり不安に思われて相談されたということがないのです。

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    2. ご返事ありがとうございます。自分は39歳の男なのですが初めてのガンドックで軽度でも異常があって胆嚢腺筋腫症ということでネットで調べると胆石と合併しやすいとか胆嚢摘出したなど書き込みを読んで不安になりました。改善できることがあるのなら教えていただけないでしょうか?お願いします。

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  8. 3年位前に胆泥と診断され、セカンドオピニオンで胆汁が濃くなっているだけです、と言われ、そのままにしていて、特に問題なく過ごしていたのですが、ここ10日くらい、右肋骨の下あたりがチクチクして、わき腹にはアザができていました。クリニックにいっても、アザは白癬です、と言われ、腹部エコーを取ってもらいたかったのに、胆石はその診断されたところでみてもらってください、と言われ、白癬の処方箋を頂きましたが、処方してもらわず、帰宅しました。こちらのブログを参考に、毎日リンゴを食べました。知り合いの方が、ハイビスカスティーで胆石が流れたとお話しされていたのを思い出し、ハイビスカスティーを飲むようにしていたら、昨日の夜、食後のウォーキングをしていたら右肋骨下のチクチクが徐々に下に下がっていき、盲腸のあたりに落ちてそのうち消えていきました。胆泥が流れていったのです!今日は頻繁にあったチクチクがなくなり、快適に過ごすことができました。朝食を抜いた生活をしていましたので、今後は朝食を取りたいと思います。リンゴのアドバイス、心から感謝します。

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  9. 記事読ませていただきました!
    医師様でらっしゃいますでしょうか?
    私自身が昨年10月に急性胆嚢炎で胃腸科内科を受診いたしました。
    妊娠2ヶ月ということもあり、抗生剤と頓服を処方されました。発作翌日には痛みもなくなり、その後ウルソを処方されました。
    診断は胆嚢に泥状の石が詰まっている、切った方がいいとのこと。
    5月に出産し現在授乳中です。一昨日、再び胃のあたりの痛みで朝方早い時間に目が覚めました。とりあえず、取っておいたブスコパンを飲みました。痛みが時間とともに下に移動し消えて行きました。元々便秘もあり、便意はありませんでした。
    私として切りたくないです。胆石を自分でどうにか排出したいのですが、どうしたらいいでしょうか?

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    2. ベイズの定理、という概念をご存知でしょうか。
      自体は刻々と変化し、それに応じて危険率は変化する事を数式化したものです。

      切りたくない、のは医師も同じだという事をまず理解すべきです。
      私は患者に痛みがあるときには来院してエコーと採血をさせて下さいと言います。薬を飲んで良くなったから来なかった、というような繰り返しは情報を不足させ正常な判断ができなくなりますので避けてほしいです。そのような情報を収集することで「これは手術がよい」と判断した患者さんはみなさん納得してくれます。そのような医師とのコミュニケーションが必要です。

      先に「手術はいやだ」「自然に治らないか」と思ってしまうと判断を間違うのでまずはきちんと消化器科で経過観察、痛みがあるときに受診、医師と十分に相談、が良いでしょう。

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