2017/08/28

ミントの効果に感心した話


唐突に料理の写真を出して申し訳ないと思いますが、伊勢原にあるリストランテ・アルベロベッロを紹介します。

プーリア州は赤枠
伊勢原駅から伊勢原総合運動公園や日向薬師方面に向かう途中、アルベロベッロのトゥルッリ(世界遺産になっているイタリア・プーリア州アルベロベッロにある三角屋根の可愛らしい建物)が左側に唐突に登場します。ポポロ広場という名前がついていて美味しいケーキなどがいただけるのですが、その一角にあるリストランテです。

アルベロベッロのトゥルッリ(世界遺産)

もともと伊勢原という土地は北の果物、南の果物両方が交差する場所である、という事を以前に書きましたけれど、野菜についても同様で様々な種類のものが出来る。農家のみなさんが工夫して色々なお野菜やきのこ類を作っていらっしゃいます。そしてそれらは地産地消されてしまうのでみなさんが召し上がるチャンスはほとんどないのです。東名高速道路の海老名SA(上り)には伊勢原の珍しい野菜が時々売っていますのでご覧になることをお勧めします。鶏卵は有名で、お肉も本当は美味しいのですけれど安定供給が難しいようでなかなか手には入りません。

唐突ですが伊勢原のふるさと納税でのおすすめを書きます。


そういう土地ですので、ときおり足がリストランテ・アルベロベッロへ向かう(予約は必要)のです。その理由は、
1)美味しい地元の野菜が食べられる。
2)湘南小麦が食べられる。
3)その時の美味しいお肉やお魚が食べられる。


湘南小麦については有名なので書く必要はないかもしれませんが、伝説のブーランジェ・故高橋幸夫さんの遺したプロジェクト。
そのストーリーに興味があるかたは検索してみたり→こちらのブログをご覧いただくことをお勧めします。今はその遺志を継いだみなさんが美味しいパンを焼いてらっしゃいます。

さて前置きが長くなりましたが、写真の料理について解説します。(勝手に想像しています)

ショートパスタで、カヴァテッリ(Cavatelli)といいます。これは湘南小麦と水で作られています。カファテッリは小麦の味がしっかりするショートパスタなので非常に湘南小麦と相性がいい、と思います。プーリア州のショートパスタと言えばオレキエッテが有名でソースとよく絡んで好きですが、カヴァテッリ(プーリア州はじめ各地で食べられるらしい)のほうがより小麦の味を楽しめるパスタです。


オリーブオイルもたぶんプーリア州のものです。南部のオリーブオイルは比較的スパイシー(オリーブの香りが強い)とされていますが、それほど癖の強い香りがしないものをいつも選んでおられるように思います。
野菜は伊勢原産のナスです。今年の長雨で出来はどうですか?と農家さんに聞いているのですが、「?全然いつもと変わらないよ?よく出来てる」と仰っていた方が印象的で、その方は日焼けして真っ黒でした。ほんの少し離れただけでも日照時間は違うのだなあという印象。「今年は少し小さいね」と仰った方は日焼けの度合いが例年ほどではなかった気がします。葱などとよく煮込まれていて、ニンニクはたぶん入っていません。
私はアルベロベッロで野菜のスープがあると必ず頼んでしまいますが、野菜の出汁がしっかりとききつつも優しいお味で癒やされます。そのお味。ちなみに、この日のスープは伊勢原産バターナッツ(かぼちゃの一種)でした。
アカザエビは学名を Metanephrops japonicus といい、日本の固有種です。太平洋側に広く分布します。通常旬は冬〜春とされていて、今は産卵前だから禁漁になっているところが多いと思います。冷凍出荷されたものか、たまたま網にかかっちゃって少量だけ売っていたかどちらかだろうと思います。美味しければ同じです。
ところで甘い、記憶にあまりない香りがして、付け合せにミントがのっていたのでその香り?と思ったのですがそういう強烈さもなくて、でも不思議と美味しく感じ、少し量が多かったのですが平らげてしまいました。この日一番注文されたメニューだそうです。

普段食べる量があまり多くない方なので、後半はややきつくなるのですが、この日は最後まで食べられて少し不思議でした。しかし食後にシェフとお話していて「あの甘い香りはミントなんですよ」と種明かししていただいたので納得がいきました。

ミントには不思議な作用があります。それについては過去にペパーミントオイルの話として書いたのですが、簡単に言いますと胃をふくらませる作用があるのです。おそらくデザートにミントが好まれるのは「ミントが作り出す別腹」を期待してだろうと思いますが、それをパスタで実行されたとすれば、その日沢山食べられたことにも納得行くのです。

少し不思議だったのはミントの成分は加熱すると失われると思っていたのに、きちんと薬効があったこと。考えてみれば漢方薬である防風通聖散や加味逍遥散、荊芥連翹湯にも使われますから、グツグツ煮込んでも大丈夫なのだろうと自分を納得させた次第です。残念ながら防風通聖散も加味逍遥散も荊芥連翹湯も山梔子配合(5年以上服用すると腸間膜静脈硬化症という非可逆的な副作用が生じる事があるので基本的には使いません)ですから、消化器内科の私があえて出すことはありません。山梔子配合ではなくハッカが入っている漢方のエキス剤として風邪に使う川きゅう茶調散、慢性の咳に使う滋陰至宝湯がありますが、清上防風湯や柴胡清肝湯など山梔子と薄荷がセットになっているものが多く、驚きました。

プーリア州x伊勢原とが見事にミックスした、良い料理だったと思います。薬効も感じましたので尚更です。

2017/08/14

特にフランスとは関係ない話

人生の一時期、フレンチクルーラーが好きになる、というのは誰にでも起きえる事象だろうか。みなさんはどうでしょうか。私にはそういう時期がありました。
もちろんその原体験はミスタードーナツ(ミスド)です。

昨今コンビニエンスストアがドーナツ業界に参入し、あまりうまく行っていないように思います。そもそもドーナツはハイカロリーなのでブームになりにくく、ドーナツ専門店ですら他のメニューを充実させようとしていたご時世です。なぜコンビニが今更参入?マーケティングしたの?と疑問を持ちつつもしっかりとケースは覗いてみます。

しかしながら組み立てに見事に失敗しちゃったよ、みたいな形も表面の質感もおかしなフレンチクルーラーが其処にはありました。となるとオリジナルが食べたくなるものです。その足でミスドに行き、買って食べてみるとやはり美味しいし、「あれ?これって生ドーナツの原点なんですか?」というまた別の疑問が湧きだした。

その新たな疑問は捨て、
「なぜコンビニのフレンチクルーラーの形は無残だったのか」
について調べる事にしました。

もちろん使うのはGoogle検索。例のごとく、検索すると役に立たないサイトが沢山出てくるので日本語(フレンチクルーラー)での検索はやめる。あらためて(french cruller cutter/shape)などで検索。アメリカのレシピサイトに飛んで、まずは伝統的なツイストの仕方を見ると、星型の金具で生地をツイストさせながら絞り出し最後は手で接着、という方法がとられている。これはこれでむろん良い。US 2041432 A として1933年に出願された特許だ。


ダンキンドーナツがオリジナルレシピであるDD Crullerから撤退した理由である「手作業が必要になる」は、この接着を自動で出来ない機械を買ったからだという事らしい。(参照)(今は違うクルーラーがある)



なるほど手作業では大変だろう。では機械では具体的にどういう仕組みで?という事になる。ミスドの確認は取れなかったが、クリスピークリームのフレンチクルーラーは全自動だという。そこでeBayで検索してみた。フレンチクルーラーを作る機械の部品だよ、というのが売っていた。Belshawという会社だ。どうも調べるとドーナツを作る機械を作っている専門業者のようだ。その会社が作ったビデオがこれ。

( https://www.youtube.com/watch?v=t9ZqOHtV0Ss )

ちゃんとフレンチクルーラーらしき形が出てくるのが驚きだ。

Belshawのパテントを検索すると、US 2921541 AとかUS 3396677 Aあたりがそうなのかなあと言う感じ。細い斜めのスリットから生地を絞り出しつつ回転を加えると確かにあの形になることが理解できる。



実は20年以上前からフレンチクルーラーの作り方は疑問だったので、ひとつ解決出来てよかったように思う。

ではなぜコンビニのフレンチクルーラーは不格好だったのか、という答えだけれどおそらく機械に起因するものではない。生地の配合が良くなくてきちんとまとまらなかったから、という結論になりそうだ。(自作でドーナツを作ろうとすると、きれいな表面にならず毛羽立つ事が多いが、まさにあの状態だろうと想像できる)

2017/08/05

何をしているか、ではなく、何をしていないか、が見たい。

「検診の結果はお持ちになりましたか?」
「ありません、が、すべて正常です」
「その答えでは意味がないです」

日常の光景です。

診断がなかなかつかない、と受診してくる患者では、誤診よりはむしろ前医が「考えなかった」「除外しなかった」病気を考えるし、検診やドックでは「その検診が見なかった部分」に異常があることのほうが検診で引っかかった部分を精査するよりはるかに多く病気を見つけられる。

例を挙げれば人間ドックで胃の異常、と言われて来院された患者さんの結果を拝見すると、むしろ抜けている検査として乳腺、子宮が重要であったりする。

毎年胃の検診を受けているとして癌が見つかる可能性は最大で0.3%程度と見込まれる。検診で異常とされて胃癌が見つかる確率は多く見積もっても1%以下である。
しかし例えば乳腺の検査を全く受けていないとすれば、60歳時点で乳がんが見つかる確率はそれを遥かに超える。(生涯で11人に1人と言われるから)
リスクを考慮しない場合でさえ当院ではコンスタントに0.2%の割合で乳がんは見つかり、大腸がんよりは少ないが胃癌(除菌後は0.1%以下)より遥かに多いので、胃の検査をしてほしいと来院する人全員の乳腺を見ていればそちらのほうが打率が良いという事になる。エコーが得意で良かったと思う。

このように、異常だと言われた部分ではなく、検診やドックの盲点に異常がある確率が高い場合にはそこを精査したほうが疾患が見つかる期待値が高い。むやみやたらに検査をするのではない、非常に医療費を安く効率よく癌を見つけていると自負がある我々の秘密は「患者が持つ脆弱性探し」である。だから人間ドックや検診の結果を持ってくるように言うのだ。

何をしているか、ではなく、何をしていないか、を見たいから。

我々のお節介のせいで突然患者さんの運命が突然変わる可能性があるがゆえに、予め患者がショックを受けぬようにする必要はある。

乳がんや子宮がんの検診がドックや検診に含まれていなかった場合、「どうしてそれらが受けられなかったか?」という理由を聞いたりすると時間がなくて一斉に行われる検診にのみ頼っていることや、途中で転居などがあって、検診の受け方がわからない場合が多いので、「では今年からはきちんとした検診の受け方をお教えしましょうね」などと検査の前に話しておくと良いだろう。

すると偶然癌が見つかった場合に「たまたま今回見つかってしまいましたので方針を変更して、信頼出来る先生をご紹介します」と説明してしまえばなんとなく患者さんは、少なくともその場では後悔する暇がないように思われる。

日本はプライマリ・ケア後進国なのでこのようなやり方は非常に有効である。