従ってやりようによっては筋肉の断裂、筋膜の損傷、内出血、浮腫、腱の損傷など種々の合併症を生じる事があり、たまには骨折が生じる事もあり、簡単にできる治療ではないなと感じます。もしもそれらの合併症が起きても整形外科に見せる患者さんは少ないようで、拝見するのは主治医の我々である事が多いのかもしれません。
ただここ数年、そのようなマッサージは陰をひそめつつあって、ソフトマッサージと呼ばれるような、筋肉にそれほど干渉しない(?)手技が広まりつつあるようです。それは合併症とそれに伴うトラブルを嫌うからでありましょう。
本来、医学的にマッサージが必要とされるのは、麻痺による筋肉の拘縮、疼痛を予防する目的が多いと思います。当然筋肉に働きかけるべきものです。したがって、ソフトマッサージと呼ばれるような手技の目的や効果については単なる「一時的な気持ちの良さ」なのだと理解します。治療か、と言われると微妙です。
一方例えば癌によるリンパ浮腫を予防・治療するための特殊なマッサージがあります。子宮癌の手術後や乳癌の手術後には、複数あるリンパ管の一部、あるいは全部を取り去るがために、リンパ液が足や手にたまってしまい非常につらい浮腫が生じる場合があります。その浮腫を、ほんの少し残ったリンパ管を通して体幹部に戻してあげる手技で、根気のいる仕事です。
ところで患者さんに伺っていると、いわゆるリンパマッサージには他にもいくつかあるようです。一つは全身のツボをマッサージによって刺激して行くようなものです。恐らく交感神経と副交感神経を交互に刺激するような印象で、大量の発汗があったり、下痢があったりすると患者さんは言います。それは厳密にはリンパ流には影響を与えないかもしれませんが、体液の出入りがある(発汗や下痢)ために、「淋巴」という名称を与えたのではないかと想像しています。普段あまり運動をする機会もない方には、そんなマッサージも新鮮なのかもしれません。
もうひとつは、これはインターネットでリンパマッサージを調べて行くとだんだん「そうじゃないかな?」と思い始め、確信を持っている事ですが、「ソフトマッサージ」のさらに弱いものを「リンパマッサージ」と呼んでいるらしいということ。テレビで顔のリンパマッサージなどと言っているものは同じです。この「リンパマッサージ」はデタラメ用語なので、あまり使って欲しい言葉ではありません。真皮ていどまでしか刺激しない弱い圧力で皮膚を「さする」ものは確かに全く合併症はなさそうで、患者さんからの文句は少ないに違いありません。しかも重要な点は、免許が要らない事です。マッサージの到達点(皮肉です)なのかもしれないと思った訳です。実際には、皮膚をなでてもリンパの流れが良くなるかどうかはわかりません。むしろ均一で弱い圧力をかけた方がよほど流れは良くなりそうです。とはいえ、馬鹿に出来ないなと思うのは、赤ちゃんにオイルマッサージをすると気持ち良さそうにしていますから、何らかのスキンシップ効果はあるんだろうということです。従って、この(偽)リンパマッサージも顧客のニーズを満たす可能性は十分あるのです。
問題は用語の混乱があることで、患者さんがリンパマッサージを受けたと言っても、私には皆目どのマッサージを受けたかどうかがわからないのです。
さて糖尿病の患者さんが例えば副交感神経を刺激するようなマッサージを受けてしまうと、低血糖が起きるリスクがあります。環境によっては皮膚疾患が増悪する可能性があります。あるいはお金のない患者さんがお金を搾り取られているのを拝見して心を痛める事があります。非常に扱いはデリケートですけれど、ときに私が介入したとしても気分を害さないでほしいと思います。
ところで乳腺炎の予防のマッサージはまた違います。これは最初に見たときに「!」と思いました。柔軟性のあるゴムチューブの中に脂肪のかすが詰まっている。そのかすをどうやって取りますか?という問題です。押し出しますか?いえ、皮膚ってのは押すと必ずその部分は浮腫が起きるんですよ。
私が上の「マッサージ」の項でなんとなく良い事を書かなかったのは、マッサージをすれば多かれ少なかれその部分にはまた浮腫が生じてしまうという事実です。
なので、乳腺を押してかすを絞り出すのは不正解です。周囲の浮腫で管が細くなり、ますますかすが詰まりやすくなるからです。正解はゴムチューブをうんと伸ばしてぱっと離す、です。ゴムチューブを伸ばすと内腔が狭くなってかすが細く長くなる。そこで元に瞬時に戻したら内腔の方が太くなりますからかすが移動しやすくなりますね。さらにそこに振動が生じますからこれで皮膚を圧迫する事なしにかすを乳頭方向へ移動させる事が可能になりますね。乳腺のマッサージはなにやら難しい事が書いてあったりしますが、この原理を理解しておけば大丈夫です。
話がいろいろ飛びましたけれど、マッサージと言ってもいろいろあるようで、ヒポクラテスの言う通り、なかなか奥が深いんじゃないかなあと。私なんて、良く腹部のエコーをしますけれど、調子が良くなってしまいまたエコーをやってくれなんていう患者さんが多くて閉口します。たぶんマッサージ効果なんでしょうね。ゼリー塗りますしね。エコーは集中力を要する検査で自分が消耗するので、患者さんから頼まれてもやりませんのでご了承ください。だいたい検査ってものは、こちらから患者さんに「必要なのでしてもよろしいですか?」ってお伺いをたてるものだと思っているので、患者さんからあれこれやるよう言われるのは元々好きではありません。
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