2009/09/05

検診で「胃ポリープ」と言われました

胃のバリウム検査などで「胃ポリープ」という病名が書いてある場合、絶対に心配してはなりません。なぜか。

今、胃ポリープとされる病変のほとんどは「胃底腺ポリープ」だからですし、その他のポリープであっても慌てることがないからです。


■胃底腺ポリープはピロリ菌がいない人にみられるポリープで、一番頻度が高い。

胃の前庭部(出口近傍)で作られているガストリンというホルモンがあります。ピロリ菌がいる人といない人で比較しますと、ピロリ菌がいない人では前庭部に炎症が起きないのでガストリンがよりたくさん産生される事が観察されています。
若い人々の多くはピロリ菌がいません。ピロリ菌がいなければ組織内ガストリンが上昇します。ガストリンが多ければ胃底部の粘膜が刺激されて増殖する。この増殖が粘膜のぷくりした膨れとして観察されます。まるで風船のように中に胃液を含んだ嚢胞状の膨らみが同時多発的に出現します。この膨らみを「胃底腺ポリープ」(fundic gland polyp: FGP)と呼んでいるのです。

ピロリ菌が感染していないとすでにわかっている場合、あるいは背景の粘膜に萎縮がない場合、胃にポリープがあると指摘されたらほとんど胃底腺ポリープです。(例外あり)

ピロリ菌が感染していても、ガストリンが高い場合や、同じく胃粘膜の増殖を刺激する女性ホルモン(Estrogen)が多い場合、あるいは増殖にかかわるβカテニンという遺伝子の異常がある場合も同じく胃底腺ポリープを認めることがあります。

私の個人的なデータでは、ピロリ菌の非感染者、女性に限ると55%以上にこの「胃底腺ポリープ」を認めています。男性は45%です。さらに色素を使用して1mm程度の大きさのポリープを頑張って探すともっと見つかります。ピロリ菌非感染者のほぼ全員にもともと「胃底腺ポリープ」があるのではないかと思うほどありふれた所見です。

■その他のポリープも一刻を争うものはないが、正確な診断が大切だ

一般にピロリ菌が感染している場合に見られるポリープは、幽門腺が増殖した「過形成性ポリープ」が多く、背景粘膜や位置、形状などからバリウム検査で鑑別するのは難しい事ではありません。従って「胃ポリープ」などという曖昧な呼び方は止めて欲しいと思っています。(さすがに遠慮があるのか、最近は「胃隆起性病変」というさらに曖昧な呼び方をしています)

さて、胃ポリープとされてしまう疾患には、鑑別が容易な「過形成性ポリープ」の他にどんなものがあるのでしょう。粘膜下腫瘍というものがあります。これは1cm以下ではあまり問題にはならず、しかも形態的に鑑別も可能で、胃ポリープと呼んではいけません。「腺腫」(この場合腸型腺腫)も診断は極めて容易です。もちろんも診断は容易で、わざわざポリープとは表現しないはずです。

カルチノイド胃型腺腫といった、医者を悩ませる病変がない事はないのですが、頻度としては医者が一生かかってカルチノイドが数例、胃型腺腫は見つかるかどうかという少なさからすると、素人のみなさんが「胃ポリープだ」と言われてそれを連想する事は合理的ではありません。

従って、「胃ポリープ」と表現されるような疾患に心配なものはなく、安心して良いですよ、と説明するのです。ただし、必ず一度は正確な診断を受けて欲しいと思います。正確な診断とは、美麗な写真を記録し、その写真を専門医が見れば誰もが納得するような、そういう診断の事です。

■こんな記事もあります。

胃底腺ポリープ:より詳しく知りたい方へ
胃底腺ポリープへの先入観と実際:そんなに男女差があるわけではないよ、という記事
ピロリ除菌で胃ポリープは消えるか:一般的に過形成性ポリープは消失します
確定診断:この言葉が一人歩きしているようなので

■今後こんな事を書きたい

ピロリ菌陰性者に多い、胃体上部~噴門部の過形成性ポリープについて
胃底腺ポリープが増えるようなPPIの使い方は美しくない




16 件のコメント:

  1. なんで大腸のポリープは癌化率が高く,胃ポリープは癌化しないのみか調べたことがありませんでした。。患者さんには,日本の有名な病理学者がそう云ってますって。。でもその方は胃癌でs亡くなられましたがって付け足すと,不安そうになる患者さんもおりますが。。

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  2. 今,思うと
    最近は学会にも出ず,
    専門誌も読まず,
    この有名な病理学者の意見が
    今も正しいのかも
    確かめていない,不勉強者だ。。

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  3. kema先生
    お役に立てば幸いです。
    私としてはこの知識が検診の常識になっていない事に危惧を抱いております。

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  4. 郵送で検診結果(豊島区指定の検診施設で受診)が届き、「胃ポリープ(前庭部)」と診断されました。ポリープの種類は不明です。コメントは「軽度の変化を認めます。心配の程ではありません。心配の方は医療機関の医師に相談ください」でした。
    43、女、出産経験なし。特に運動はしていませんが、去年まで毎年受けていた健康診断(高輪のけんぽセンター、こちらは胃を止める筋肉注射あり。検査の精度があがるのでしょうか。)では、胃以外でも異常ありませんでした。(偏食ぎみ、花粉症あり)

    ピロリ菌の検査をしてみようと思っています。もしピロリ菌に感染していなければ、胃カメラ?の検査を受けなくて良いでしょうか。隔年で、ふつうの健康診断の検査(バリウムを飲む検査)で良いでしょうか。(毎年、が良いですか。)

    ピロリに感染していたら、胃の検査を受けるべきですか。ピロリ菌除去に必要な胃の検査は、胃ポリープの二次検査(胃カメラ?)と同じものですか。写真をもらえるのでしょうか。(何をもらったら良いですか。)
    もし、検査が別もので、ピロリ感染していたら、胃の検査とピロリ菌除去のどちらを先にした方が良いですか。ピロリ菌除去で胃の検査ができなくなったりしますか。また、胃ポリープでもピロリ菌除去できますか。(できるとしたら、保険は利きますか。「胃ポリープ」と「胃炎」は条件が違うのですか。)

    たくさん質問してごめんなさい。
    先生の病院は、紹介がなくても検査できますか。(ピロリ菌除去前の検査or胃カメラの検査)

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  5. 匿名様
    前庭部に「胃ポリープ」と書かれていると、情報が少し多くなるので助かります。多いのは、1)ただの襞、2)異所性膵(問題ない変化)、3)タコいぼ(炎症の一種)、4)過形成性ポリープです。胃の動きを止める筋肉注射をしていない時には1)、3)がやや多く診断されると思います。腺腫があることは本当に稀で、「心配ないのでまた来年」と書くのは至極妥当なのです。

    ここまではご理解いただけますか?

    豊島区はもともと癌研大塚病院があった場所ですね。当時の経験からバリウム検診のレベルが相当高いなあと感じておりました。ですからまずは安心すべきでしょう。

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  6. 一方、「ピロリ菌の検査を受けようと思っている」という前提ですと以後の質問のお答えはしにくいです。まず前提として、「胃の検査を受けたくない」という感情があるように見受けます。

    リスクが低い方には胃の検査をなるべくしないようにする。
    やらざるを得ない場合でも胃の検査の侵襲を最小にすべく努める。

    そういう判断をするにはより多くの情報が必要ですから「心配な場合は」医療機関に相談を、と書いてあるのです。おわかりいただけるでしょうか。
    当院は普通の内科で、近所の患者さんだけ拝見しております。

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    1. 早速の返信ありがとうございます。
      豊島区の検診は病院ではなく、区の清掃工場も同居するビルの健診のみのフロアで受診しました。レベルは高いのでしょうか。。。
      はい。胃の内視鏡検査は辛そうですし、費用が……?
      検診のコメントは、本人が心配しておらず症状もなければ、ほうっておいても良いと解釈できますが、そのとおりでしょうか。
      医療機関で受診するかしないかの問題が、心配か心配でないかというだけの問題なら、できれば胃カメラは避けて、他の方法で心配しないですむ方法を試そうと思ったのです。

      ピロリ菌の内視鏡検査では、その有無がわかるだけで、「前庭部胃ポリープ」の診断(ポリープの種類等)をして欲しい場合は、また別に胃がんの内視鏡検査別検査が必要ということになるのでしょうか。
      その際も「心配なら検査しましょうか」で終わってしまう可能性があるのでしょうか。もし検査するとピロリ菌の有無も教えてもらえるのでしょうか。

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    2. 1)検診のレベルはは場所とは無関係で、読影は医師が行いますし複数医師で再チェックも行われますから一定していると考えます。
      2)仮に内視鏡検査をお受けになる場合には、前庭部胃ポリープの他にピロリ菌に関しても興味を持っていたり、胃がんのリスクを知りたいことを事前に医師に伝える事が大切です。検査の苦痛についても十分な説明をお受けになると不安が解消されると思います。
      3)前庭部胃ポリープの件とは別に胃がんのリスクを知りたい場合、下の三木先生のリンクをご参照下さい。

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  7. 基本知識としては、三木先生の
    http://www.gastro-health-now.org/
    を是非お読み下さい。

    まずは安心すること、
    そして基本的な知識を理解したうえで、
    もっとも良い検診方法は何かをご自身で考えること、
    あとはお財布と相談しつつ、
    身体全体をバランスよくメンテナンスするのが、
    賢い方法かなあと思っております。

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    1. 結局なんやかやと気になってしまうので、内視鏡検査を受けることにしました。最初の検査で良性かどうかはっきり判るようなものが将来開発されることを期待したいです。。。
      今後も健康診断(バリウムの検査)の度に指摘されるようでは、面倒だな…とは思いますが、少なくとも今は、ちょうど時間的に余裕のある時期でしたので…。
      ピロリ菌は、呼気検査の方が精度が高いような印象がありますが、胃ポリープと同時に生検することになりそうです。
      ポリープについては、二次検査で何もでなかった時の今後の健診の頻度など、悩ましいですが、その点も、結果を診ていただく先生に直接相談してみようと思います。ありがとうございました。

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    2. 内視鏡検査については、とにかく辛い、という先入観がありました。
      ピロリ除菌も含めたもろもろの検査の保険適用の件など、説明を受けたのですが、それでも、やはり少し抵抗しました。
      ほんとうに知りたいことは、自分が胃がんになりやすい状態なのか、そうでないのか、ということでした。
      結局、「麻酔をするから眠くなっているうちに終わるし、生検後に痛むことはない」という話をきいて、決めました。さらに、私は健診の血液検査でも採血しにくいと言われることが度々あり、刺した後に腕を替えたり刺したまま数分おかれることがあるのですが、それについても腕の静脈を見て大丈夫と言われましたので、かなり落ち着きました。

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  8. 鵜川先生


    はじめまして。
    1つご意見をお聞かせください。

    41歳、女性です。
    本日、胃内視鏡検査を受けました。
    (5年前に逆流性食道炎と診断され、年1回の定期検査をしています)

    逆流性は元々軽度で、今回もほぼ所見なしでしたが、初めて「胃にポリープがあり生検に回します」と言われました。
    胃の上部1/3辺りの真ん中に1つ、胃の中間部分の粘膜状の部分に1つ、計2つ、共に3mmとのことでした。

    先生によると「形などから見ると心配はないのでは」とのことでしたが、それでも検査に出すというのはどういうことなのでしょうか。
    疑わしい確率が結構あるということなのか、あくまでも生検で白黒はっきりさせようということなのでしょうか。

    こちらの鵜川先生のご意見を拝見したり、他のwebを読むと、ある程度確定できるなら生検には回さないなどの意見が多いようです。

    現在は逆流性の治療で、ネキシウム5mm、ガスモチン、ビオフェルミンを毎日、婦人科でデュファストンという薬を月に7~10日程度飲んでいます。

    よろしくお願いいたします。

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    1. いずれにせよ良性なのですが、FGP(胃底腺ポリープ)にもなかなか深い議論がありまして、 http://blog.goo.ne.jp/gastrictypeadenocarcinoma/e/aa88e2ee61e08d1f91838b3d874ba61b などを見て理解できるかどうかはわかりませんが、生検したら生検したなりの情報が得られるわけですよ!本当に医学って奥深いですからね。
      そういうマニアックな理由で生検をした、というのが妥当かなと思いますがいかがでしょうか。

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  9. はじめまして。胃ポリープを指摘されいろいろ調べてこちらのページにたどり着きました。ネットで調べた過程で、こちらのページの内容をそっくり転用していると思われる医院のサイトがありましたので、念のためおしらせいたします。もし既知でしたら失礼いたしました。本来でしたら直接のメールかメッセージにてお知らせしようかと思いましたが、方法がわからなかったためコメントにてお知らせいたしました。このコメントは不適切でしたら削除して下さい。
    http://heart-clinic.jp/index.php?%E5%86%85%E8%A6%96%E9%8F%A1%E6%89%80%E8%A6%8B

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    1. 匿名様ご親切にありがとうございます。
      胃のポリープに関する、良い説明の仕方はどういう説明なんだろうとずっと考えています。
      私がこれを書いてから内視鏡学会において胃ポリープのまとめが出来ました。中村先生がお書きになりました、
      http://www.jges.net/faq/faq_answer04.html
      には大切なことがしっかり書いてあると思います。
      これを書いた2009年頃、ポリープに関する正しい知識は全くWeb上で探すことは出来ませんでした。ですから私のページが長い間ずっと検索トップだったんです。むろんSEO狙いの人達も馬鹿ではないですから、私の意見を取り入れざるを得ないでしょう。そして胃底腺ポリープは大丈夫だ、という流れになってきました。それは私にとっては嬉しい事です。むろん胃ポリープにはもっともっと深く追求すべき問題が残ってはいるのです。
      今はコレステロールに関して間違った知識が蔓延していて、BMI22以下の人々に出鱈目な指導が行われています。それを徐々に変えていく、というプロジェクトを行っていますのでどうぞ注目をお願いします。
      ところで上記にお示し下さった先生のページですけれど、私の意見に賛成してくださったんだろうなと思って嬉しく拝見しておりました。ですのでこのままで良いのではないかと思っています。

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  10. 鵜川先生 余計な指摘だったにもかかわらず丁寧なご返信ありがとうございました。こちらのページはとても参考になりました。今後の記事も楽しみにチェックさせていただきたいと思います。

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