さて、Mean Corpuscular Volume (MCV) とは、平均赤血球容積の事です。
手抜きの健康診断では結果に書いていない事が多いのですが、血算を測定してあれば計算できます。ヘマトクリット値を赤血球数で何となく割り、「高いな」とか「低いな」とかを見るようにしています。細かい数字にこだわる必要はなく、大体で良いのです。
例えばヘマトクリットが40%で、赤血球数が400万個/μℓであったらMCVは100fl(フェムトリットル)です。感覚的にわかれば良く、100以上だったらMCVが大きいと判断しています。
例えば水風船を作る工場があって、でも風船が足りないや、という時にどうやって誤魔化すかというと、ちょっとずつ沢山の水を風船に詰めてしまい10tトラックで出荷してしまえば相手にはわかりませんよね。
ここで言う水とはヘモグロビンという酸素を運ぶたんぱく質の事ですが、ヘモグロビンは足りているのに他の材料(風船)が足りない場合にはMCVが大きくなるという事です。このたとえ話、わかりやすいでしょうか。
ここで言う他の材料とはビタミンB群の事で、造血にはきわめて重要な栄養素です。
私は皆さんのMCVを必ず見ます。検診の結果が「正常・異常」という報告を口頭でする事なく必ず結果票を持ってきなさいと口を酸っぱくして皆さんにいうのはMCVは高くても低くても検診では無視されるからです。さて、MCVからは例えば以下のような事を考えます。(あくまで私の妄想ですから、あまり真に受けないように)
- お酒を飲みすぎている人はビタミンB群をアルコールを解毒するために消費してしまい、相対的にビタミン不足になる。この時にMCVが大きくなる。お酒を飲みすぎている人は食道癌や胃癌になりやすいので、MCVが大きい人は上部内視鏡を受ける適応がある。その前にお酒をやめてくれると助かります。
- ピロリ菌が居て萎縮性胃炎が高度になると、胃から分泌されるビタミンB12を吸収するための内因子という物質が不足し、結果としてビタミンB12が吸収されなくなるためMCVが大きくなる。萎縮性胃炎が高度になった状態では胃癌が増加するため、MCVが大きい人は上部内視鏡を受ける適応がある。
- 手術のあとで胃がない場合には同じく内因子が分泌されないのでビタミンB12が吸収できず、(内因子なんか要らないと発表している先生もおられると小耳にははさみますが、でも圧倒的に吸収量は違う)MCVが大きくなります。これはビタミンB12の注射をするための指標として大切です。(胃がない人にビタミンB12を内服で処方する事がどれだけ意味があるのかは知りませんが、結構世の中では気にせず処方されている様子です)
いずれにせよ、MCVが大きい場合には上部内視鏡を受ける適応があるのか判断する必要が出てきます。ところがMCVが大きくても、胃にピロリ菌はいないし、萎縮はないし、お酒も飲まない、ましてやA型胃炎(特殊な胃炎です)も何もないという中年以後の女性がいたりします。そういう方は大抵ベジタリアンであるとか、そこまでいかなくてもお肉を食べないという人です。ビタミンB12が不足しているのです。それはそれで、栄養障害の一つですからきちんと栄養を取りましょうと指導する事になるのです。ビタミンBの不足は、うつ状態の原因となったり、脂質代謝異常の原因となったりもするのです。
さて、血算を取りますとMCVの他に、MCH、MCHCという数字も計算できます。しかし、どうもMCVばかり見てしまうと言うのは依怙贔屓の一種です。Hb、Hct、RBCという指標があると、何となくHbという指標が依怙贔屓されるのと似ていると思います。
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